悪の力? でもそれをどう使うかは私の勝手ですよね!? 作:蒼天 極
「と言うわけで私は抜けられそうにないみたい…………」
「マジですか……。クソ、やっぱりあの時握り潰しておけばよかった……」
朝のホームルーム前、昨日と同じくらいに落ち込んでいたうてなに話しかけたところ、どうやらあの黒い妖精……ヴェナリータはしっかりデータのバックアップを取っていたらしくうてなは抜けられないんだと。
「で、でももう私をネタにえりすちゃんを勧誘しないって約束だから大丈夫だよ!」
「あのですねうてな、ああ言うやつは見てない所でやるもんですよ?」
「……だ、大丈夫だよ。多分……」
いや、自信ないんかい。
でもよくよく考えてみれば、うてなの動画は本来うてなをエノルミータに従わせるためのもの。
ということはネットに上げて仕舞えば最後、うてなの脅迫材料が無くなってうてなの離反につながるはず。
……つまりヴェナリータがうてなをネタに脅迫して来てもあいつはネットに上げられないじゃん。
「……昨日私が変身した意味は…………はぁ、私ってほんとバカ」
「それを言ったら私もだよ……。私のせいでえりすちゃんまで巻き込んじゃって……」
「……もうやめましょう。この話題は暗くなるだけです」
「そうだね、もっと有意義な会話をしよう。正確には昨日の闇堕ちに対する解釈の違いについて。……昨日じっくり考えてみたけどやっぱり闇堕ちは魔法少女ものでは断固として認めるわけにはいかない。悪の組織に屈服するなんてもってのほかだよ」
「何言ってるんですか。まだ思春期の魔法少女が弱みにつけ込まれ、自らが引いていた一線を踏み越える瞬間が最高なんじゃないですか。あ、私は洗脳とか脳クチュからの悪堕ちも大好物ですよ。尊厳が踏み躙られるのってなんと言うか……うん、興奮しますよね♡」
「は? それぶっちぎりでアウトなやつでしょうが!? なんて野蛮なの、丁寧なのは言葉遣いだけ!?」
「はぁああああ!? あくまで趣味を話しただけで野蛮扱いするって、どんだけ別意見を受け入れる気ないんですかねうてなは!? やりますか? 肉体言語でO☆HA☆NA☆SHIしますか!?」
「いいよ、やる!? この際えりすちゃんの変身見せてもらおうかなぁ!?」
「上等ですよ。一日早く覚醒したからと調子に乗ったその鼻っ柱、へし折ってやろうじゃありませんか!!」
「ちょ、ちょっと喧嘩はダメだよ!!」
丁度変身アイテムもこりすちゃんがイタズラして変身しないように持って来ていたため、お互い校舎裏で悪の女幹部モードでやり合おうかと話していると、ツインテールの女子……花菱はるかさんが私とうてなの間に割って入る。
「は、はるかちゃん!? わ、私たちは別に喧嘩してたわけじゃ……」
「えぇ、主張し合ってただけですよ?」
「でも今にも殴り合いそうな雰囲気になってたよね?」
「「…………」」
第三者が介入して来てしまった以上は今日の喧嘩はここまでか。
ホームルームも近づいていたため、お互い決着は次の機会にと言う事で今回はお開きとなった。
「ところで変身とか覚醒って聞こえたんだけどなんのこと?」
「え? ……あ!! えええええっとそれはああああああ……そのおおおお……!!」
「うてな、焦りすぎではありませんか? 変身と覚醒と言うのは一昨日発売した新作の超乱闘マジアシスターズってテレビゲームに出てくる用語ですね。丁度私もうてなも買ってたので、今回の喧嘩でどっちが悪いかは帰ってから対戦で決めようかって話してたんです」
「あ、そうだったんだ」
「やってみましたがなかなか奥が深く面白いですよ。お小遣いに余裕があるなら買ってみてはいかがでしょう?」
「そうだね。小夜ちゃんと薫子ちゃん誘って遊んでみるよ!!」
「教えてくれてありがとね〜」っと満面の笑みで席に戻って行ったはるかさん。
……へ、チョロイですね。(ゲス顔)
「えりすちゃん凄い悪い顔してるよ? と言うかなんでそんなにすぐ言い訳が思いつくの?」
その後途中でぼーっとしていたうてなが先生に名指しで注意されると言う事件があったものの、後は問題なく授業は進みあっという間に放課後になった。
「あ、えりすちゃーん」
「おやはるかさんに薫子さん。どうしました?」
「これからえりすちゃんが紹介してくれたゲーム買いに行くんだ!」
「せっかくやからえりすはんも誘いたいってはるかが行ったんや。一緒にどうどす?」
本当はうてなと小夜さんも誘いたかったけど、うてなはホームルーム終わったらフラフラと帰って行ったし、小夜さんは今日は実家のお手伝いで先に帰ってしまったようだ。
「すみません。今日は大切な用事があるため遠慮させていただきます。また次の機会に誘っていただければ」
「用事? それならしゃあないなぁ」
「分かったよ、それじゃあね」
そう、今日こそはメイプルシロップと生クリームたっぷりのパンケーキを食べに行くと言う大切な用事があるのだ。
せっかく誘ってもらって申し訳ないが、ゲームの件は本当だから買って二人で楽しんで下さい。
◇
「フフフ〜ン、フフ〜ン♪」
昨日はヴェナリータとか言うクソ妖精とトレスマジアにスイーツタイムを邪魔されてしまったが、スマホを潰した直後だからうてなの動画をネタにした脅迫もしてこないだろうし、今日は昨日の分まで楽しむぞ〜!!
「あ、今日お昼少なめにしてお腹空いてしまいましたし、パンケーキの他に贅沢にパフェも食べちゃいましょうかね〜♪」
そんな中公園に差し掛かるとそこではたくさんの子どもたちが遊んでいる。
そう言えばここの公園でこりすちゃんも遊んでるはずだよね?
「……今日はいないみたいですね〜。と言うかあの子甘いの嫌いだからそもそも一緒に行こうとしませんよね……」
いないならばもう今日は家に帰ってるのかもしれない。
ならば早く帰ったほうがいいだろう。
「仕方ありません、スイーツよりもこりすちゃん。今日はパンケーキだけで我慢して急いで帰りましょ「あ、待ってさくらー!!」ん?」
公園を後にして足早に喫茶店に向かおうとすると、公園の方から叫び声が聞こえる。
咄嗟に後ろを向いてみると、道路の方に飛んで行ってしまったボールを拾おうと飛び出した小さな女の子の姿。
そしてそんな女の子にトラックが迫っている光景。
…………。
「って流石にそれは笑えませんって!!」
咄嗟に走って女の子の元に行こうとするけど、彼女を捕まえることはできても安全圏に避難させることはできない!!
こうなれば仕方がない!!
「使いたくはありませんでしたけど……
一応持っていた十字星のエンブレムで変身しながら、女の子を突き飛ばしてトラックの車線上から追い出すと、今度は私の身を守るために巨大なクッションを具現化。
「くぅうううう!!」
これでぶつかった際の衝撃をある程度は殺す事は出来たが、ブレーキをかけて速度を落としていたとはいえトラックはかなりの重量。
私の華奢な身体はぶっ飛ばされてしまうが、鈍い痛みが走る身体に顔を顰めながらもなんとか地面に追加のクッションを具現化してなんとか地面に叩きつけられないようにする。
「イタタ……変身した事である程度防御力も上がっていてくれたみたいですね。一歩間違えてたら異世界転生してましたよ私……」
おっとそうだ。女の子の方は大丈夫だろうか……
女の子の方に視線を向けてみると、倒れた女の子に母親らしき人が駆け寄っていた。
どうやら無事のようで、突き飛ばした事で怪我をしてしまったようだがこの怪我は飛び出しが危険だという教訓にでもしてもらおう。
やがて女の子を抱いた母親が私の方にやってくる。
「あ、あの……ウチのさくらを助けていただいてありがとうご……ざ…………」
母親は私の姿を見るなりなんだか顔を恐怖に染め上げていく。
「え、え、エ……エノルミータ!?」
「あ、本当だ悪の組織、エノルミータだ!」
「逃げろぉおおおおお!!」
「あのちょっと!? 流石に助けておいてそれはあんまりだと思うんですが!?」
身の危険を顧みずに助けてやったと言うのになんてやつらだ!!
こんな事ならあの女の子を見捨てれば……見捨てれば…………うん、流石にこりすちゃん程の子を見捨てるなんて私には無理ですね。
「はぁ、まぁ悪の組織なんてそんなもんですかね。……身体の方も打撲程度で済みそうですし、変身を解いてスイーツやけ食いでも「そこまでだよ!!」……うわぁ」
「魔法少女トレスマジア参上! 悪の組織は許さな……なんでそんな嫌そうな顔してるの!?」
「と言うかなんでそんな道のど真ん中にクッション敷いてお昼寝だなんて随分余裕そうどすな」
あーうん。確かに事故の現場を見てなければそんな風に見えちゃうよね?
トラックに轢かれそうな女の子を助けただなんて悪の女幹部じゃ絶対に有り得ない事だもんね。
「……はぁ。あ、あんなところにUFOが!!」
「え、ほんと!? どこどこ!?」
「いやそんなわけないやろ。ほらまた尻尾巻いて逃げたから追うで!!」
「あ、ほんとだ。待てぇええええ!!」
「本っ当に勘弁してくださいよぉおおおおおお!!!!」
私のスイーツタイムはまだまだ遠いようだ。
うてなとの関係:クラスメイトであり趣味が合うためよく話す。ただしよく解釈が分かれてよく喧嘩をする。