悪の力? でもそれをどう使うかは私の勝手ですよね!? 作:蒼天 極
それからも厳しい練習をして万全の状態で放送当日を迎えた私達は、ステージの裏から観覧席を見ていた。
「あらぁ、千客万来やねぇ……」
「そ、そうね。が、がが……がんばらないと……」
「肩の力抜いてアズール。今で緊張しちゃってたら本番で疲れちゃうよ」
……あ、お母さんとこりすちゃん、あとうてなも発見。
……ていうかうてなったらアイドルうちわだったり、サイリウムだったりフル装備で出陣してますねぇ。ガチ勢すぎて周りの人ちょっとヒいてますよ?
「そう言えば今日もう一人ゲストさんがいるんだったよね?」
「歌星ぱあるですね。彼女のデビュー曲の宣誓センシティヴがSNSでトレンド入りしてたから、試しに聞いてみましたがとてもいい曲でしたよ。歌詞はド三流でしたけど」
「コラ、そんなこと言っちゃダメだよ!」
いやだってあの歌詞何を伝えたいのか分からないんですもん。ぶっちゃけぱあるの歌声が素晴らしいからあれだけ大人気を博しているのであって、ちゃんとした人に作詞作曲してもらったらもっと化けますよ。
「……そのぱあるさんに挨拶行った方がいいかなぁ? よろしくお願いしますって」
「せやねぇ。ウチら歌手もアイドルも本業やないさかい、お手柔らかにお願いしますってお願いしに行きましょか」
「……いえ、そろそろ開始時刻ですし時間ないですね。挨拶は終わってからの方がいいかと」
直前で挨拶しては、歌星さんの心を落ち着ける時間がないですしね。
◇
その後すぐに開始時刻となり、スタッフさんにゲストシートに案内された私達。
その際に歌星さんと初顔合わせとなったが、彼女はアズール並みにガチガチに固まっていた。……と言うか歌星さんってどこかで見たことあるような顔してますよねぇ?
「さぁ〜、今週も始まりましたぁ。うたBANBANのお時間ですぅ。今回のゲストはぁ……こちらの方々ですぅ」
「よろしくおねがいしま〜す!!」
「よ"……おネ"がいしまスっ!」
「わぁ〜、ぱちぱちぱちぃ〜」
なんともやる気のない司会さんに紹介され、代表のマゼンタと歌星さんが返事をする。
いやぁ、こんな場面でも元気よく返事できるマゼンタは流石ですね。
アズールや歌星さんみたいにガッチガチに固まって返事も満足に出来なくなってしまうのが普通でしょうに……。
「お二組ともテレビ出演は初めてとのことでぇ」
「「ハヒ!」」
「そうなんですぅ! とっても楽しみで〜!! ね、みんな!!」
え、このタイミングで振って来ます?
いやまぁ、リーダーひとりに任せて私たちの存在感なくなっても意味ないですしそう言う意味ではしっかり答えた方が良さそうですが。
「そ、そうネ! せイいっぱい頑張ルわ!!」
「アズールはん、緊張しすぎて声が裏返ってるで? ……練習の成果、存分に発揮できたらええなって思います」
「全力で輝ける絶好の舞台……これをきっかけにトレスマジアの事をもっと多くの人に知っていただきたいですねぇ。ぱあるさんも本日はよろしくお願いいたしますね」
「ひゃ、ひゃイぃ!!」
歌星さんメチャクチャ緊張してますね。彼女、緊張しすぎて凡ミスとかしそうですが……相手も曲がりなりにもプロ……素人の私が心配せずとも大丈夫ですかね。
「それでは皆さまぁ、ステージの方へ移動しましょぉ」
「は〜いっ!! がんばりまーす!!」
最初は私達トレスマジアから歌うため、真っ暗なライブ会場を移動してステージで待機する。
さ〜て、こりすちゃんやうてなも見てるんです。カッコいい所、見せて差し上げないといけませんね。
◇
(うてな視点)
えりすちゃんの好意でライブ会場に招待された私は、女神のように慈悲深いえりすちゃんに心から感謝しながら、こりすちゃんとこりすちゃんのお母さんと一緒にライブの瞬間を待っていた。
「…………」グイグイ
「どうしたのこりすちゃ……こ、これは…………マジアカーネリアンと歌星ぱあるのアイドルうちわ…………!!」
「……」フンス
いつの間にこんなクオリティの高いものを……。
こりすちゃんはキウィちゃん達と一緒に歌星ぱある……真珠ちゃんのプロデュースをしていたから初めはプロデューサーとして見届けられない事を残念がっていたけど、真珠ちゃんとえりすちゃんの初ライブは楽しみにしてたみたいだね。
「こりすトレスマジアには興味ないと思ってたけど、カーネリアンがお気に入りだったのね。でも確かに分かるわ、ニュースで見たりするけどなんだかあの子の立ち振る舞いってえりすにそっくりなのよねぇ」
「!?」
「き、気のせいじゃないですかねぇ!?」
「ど、どうしたの二人とも?」
ま、まさかバレかけてる!?
親に正体がバレるって言うのはお約束ではあるけど、今はまだ時期が早すぎるよ! バレるにしてもマゼンタとカーネリアンが真化を習得して、私と最後の戦いをする直前くらいじゃないと……!!
ライブが終わったらえりすちゃんに注意しておこうと考えていると、会場の電気が消えて辺りが暗闇に包まれる。
「あ、もうすぐ始まるみたいだね。夢にまで見たトレスマジアの初ライブ……」
「……」ワクワク
サイリウムとアイドルうちわを構えて、いつでも準備万端にしていると会場に放送が響き渡る。
『悪の組織エノルミータから町を守る正義のヒロイン、トレスマジアァ。新たにマジアカーネリアンが加わり四人体制になった彼女らの初ライブはいかがなものでしょうぅ。聞いてくださいぃ。トレスマジアで、フォース・プリンセスゥ』
〜♪ 〜♪
こ、これは…………。
マゼンタの見た目と性格に違わない元気な歌声、アズールの少し落ち着いた歌声、サルファのはんなりとしながらもカッコ良さもある歌声……それをカーネリアンの優しく包容力のある歌声が包み込む事で、性質の違う声がお互いを高め合いながら一つになって…………!!
「しゅ、しゅごい♡ 生トレスマジアさいこぉ……♡」
「〜!!」キラキラ
「本当に凄いわねぇ……あの子達アイドルが本業じゃないんでしょ? なのにあのクオリティって、相当努力したのね……」
こりすママさんの言葉にハッとする。
た、確かに音楽の授業でえりすちゃんの歌声を聞くけど、先生に褒められるぐらい上手ではあったけどここまでのクオリティではなかった。
私があんな事やこんな事をされた後なんかも毎日毎日練習を積み重ねて来てたんだ……!!
そんなの……そんなの……
「ヤバい、すっごい推せる……」
これは本当に変身アイテムを持って来なくて良かった……。もし持って来てたら興奮のあまり変身してたかも……。
その後楽しい時間というのは本当にあっという間で、気がつくと曲はあっという間に終盤に差し掛かり、まもなくして曲そのものが終了する。
「ありがとーっ!!」
そして最後のマゼンタの掛け声と同時に観覧席から大歓声が巻き起こる。
「〜〜!!!!」パチパチ
「トレスマジア、サイコォオオオオオオッッッッ!!!! あ、いたたたたた…………」
「大丈夫うてなちゃん?」
「は、はい大丈夫です……」
興奮しすぎて怪我したところが痛んでしまったけど後悔はない。
それにしてもこの曲、近々発売されるCDに収録されてるんだね。これは毎日聞かなきゃダメだね。
『トレスマジアの皆さんありがとうございましたぁ。いやぁ、素敵な曲でしたねぇ。ではお次は歌星ぱあるさんでぇ、宣誓センシティヴですぅ』
「!!」
「今度はロコちゃんだね……」
トレスマジアの歌声は贔屓目を無しに聴いても凄まじいクオリティだった。
でもロコちゃんがキウィちゃん達と一緒に凄く努力していたのを私は知ってる。……ロコちゃんならトレスマジアに勝つ。勝てなくても引き分けに持ち込む事が出来るはずだよ。
「頑張って、ロコちゃん…………!!」
◇
(えりす視点)
〜♪ 〜♪
あの一曲に私達の全てを出し切り、ステージの裏で一息ついたのも束の間、すぐに歌星さんの代表曲が始まる。
「きれいな歌声ね……」
「せやねぇ……」
「この声どっかで……気のせいかな?」
「どうしました?」
「え、うぅん。なんでもないよ!」
マゼンタが首を横に振るので、改めて歌星さんの曲を聴くのに集中する。
歌声、ダンス……その全てを私達と同等以上に仕上げて来ていますね。私達も結構努力をした自信がありましたけど、彼女もそれと同じくらいの特訓を積んできたんですね。
「あれ? あたし達よりも上手かもしれないのにお客さんの盛り上がりが足りない……?」
「うちらはトレスマジアやさかい、既にファンもおって期待値が高かったんやろなぁ」
「そんな、こんなに上手なのに……!」
「まぁまぁ、これは勝負ではないし大丈夫ですよ」
「そうね。それでも素敵な歌であるのには変わらないわ。後でサインもらいに行こうかしら……っ!!」
〜〜♪♪ 〜〜♪♪
直後、歌星さんは本気を出したのか、先ほどよりも凄まじい歌唱力を見せてくる。それは私達とはあまりにも次元が違う……聴いてるだけで無条件に感動して、涙が出てくるレベルの…………。
「……いや、これ絶対ロコでしょ」
全裸ライブに居合わせた私だから分かる。あれはロコで間違いない。
プロデューサーもよく見たらレオですし、ルベルは……どうせロコの服の中に隠れてるんでしょ。
服の中であれやこれやをしてると考えたら、急な歌唱力の向上も納得ができます。
なるほど、今回チケットを渡した際にこりすちゃんが乗り気でなかったのは、ロコの企みに乗っていたからでしたか。
そしてうてなも……いえ、怪我してる上にチケットを渡したときの喜び様からして、今回ベーゼは蚊帳の外でしょうね。
「全く……せっかくのテレビ出演というときに、出張って来やがるだなんてムカつきますね……もう一回ノワールサンクチュアリに閉じ込めて硫酸でもかけて差し上げましょうか…………」
〜〜♪♪
「……ありがとぉおおっ!!」
『ワァアアアアアアアアアアッッッッ!!!!』
「……いえ、やめておきましょう」
ロコの事だから邪魔してやろうとかではなく、純粋にアイドル活動がしたかったからでしょうし、テレビに出演したのもMV製作で成功した……ある意味真っ当な方法で出演してるみたいですからね。
「さっきからブツブツ言っとるけど、どないしてん?」
「すみません、素晴らしすぎるから彼女はどういう特訓をしたのかなって考え込んでしまってました」
悪さをするつもりがならばそれでいいです。
ロコも相応に努力をしてここに挑んだんでしょうし、今日はロコではなく歌星ぱあるとしてアイドルとして歓声を受け取る権利がありますよね。
流石に変身を解除して正体なんかを晒したら無視する事は出来ないんで戦うしかないですけど、ロコもバカではないですか「「あ」」……あ。
この場で戦うのはやめようと警戒を解いた瞬間、セクシー系アイドルの歌星ぱあるがロコとルベルになる。どう言うわけか変身が解けてしまった様だ。
……………………。
「アウトォォオオオオオオオッ!!!!」
「っ! に、逃げるわよルベル!!」
「お、おう!!」
「こら〜っ! 待ちなさいエノルミータ〜ッ!!」
「い〜や〜っ!!」
ダッシュでステージから逃げ始めたロコ達をトレスマジアとして追う私達であった。
一体どうして変身が解けてしまったのかは分かりませんが、取り敢えず一言ロコに伝えておきますか。
「素晴らしい曲でしたし、ここで変身解除しなければ最高でしたよ! なんと言うか……運が悪かったですね!!」
「本当よ! ヴェナのバカ〜っ!!」
〜おまけ〜
『なんと歌星ぱあるの正体はロコムジカでしたぁ。ビックリですぅ』
「あの子、エノルミータだったのね。……流石に戦闘になったら車椅子のうてなちゃんは危険よね。急いで避難しましょう! 車椅子押すわね!!」
「は、はい! ありがとうございます…………まさか変装が解けちゃうなんて……せっかくいいステージだったのにね…………」
「……」プクー
「……でもあの歌は好きだったな。今ならまだSNSで配信してるわよね……車に戻ったら大急ぎでダウンロードしておきましょ」ボソリ
「……最後はバレちゃったけど、最高のライブだったよね」
「ん!」コクリ