それは神にも言えること。
神綺の言葉はさとりにかつてない恐怖を与えた。
(何故心を読もうとしていた事が分かったの!?それに私の名前まで…。)
「何故心を読もうとしていた事が分かったの!?それに私の名前まで…。って思っているわね。」
さとりの顔色がどんどん青くなる。さとりは震える声で尋ねた。
「な、何で私の心が読めるんですか?」
神綺は不気味にも思える笑顔で言った。
「う〜ん、ちょっと説明が難しいかな〜。まぁ一定の力を持つものに与えられるオプションとでも思ってもらえればいいわ。それより貴女、これから飯綱丸のところまで援軍を頼みに行くところのようだけど、地底ならもうとっくに制圧されてるから今から援軍を頼んでも無駄よ。」
神綺の言葉を聞いた途端さとりは目を見開き怒りの表情で怒鳴った。
「何で貴女にそんな事が分かるんですか!地底には勇儀さんをはじめとした多くの猛者の方々がいらっしゃいます。そんな地底がこんなに早く制圧されるはずがありません!いい加減なことを言わないで下さい!」
さとりの剣幕にも怯まずに神綺はにこにこしながら言った。
「いい加減じゃないわよ。そんなに信じられないなら今すぐ見に行きましょうか。」
「は…?今すぐ見に行くってどういう…?」
困惑しているさとりの手を神綺が握ると二人は光に包まれその場から一瞬で消えた。二人がいた場所は風と葉の擦れる音だけが残った。
ーーーーーーーーーーーーーー
その頃、霊夢達はにとりからスマホを受け取り簡単な使い方を教えてもらった。
「……とまあ一通りの使い方はこんな感じだ。君達のスマホの中に全員分の電話番号を登録してあるから全員の電話番号を覚える必要は無いよ。まぁ…自分の分の番号は覚えておいてほしいがね。電話以外にも文字をこれに打ち込んで手紙のように相手に送ったりカメラのように写真を撮ることも出来るよ。あとは近いうちに不特定多数とのコミュニティの場を設けたりする予定さ。」
にとりが説明し終わると霊夢は早速魔理沙に電話をかけた。魔理沙のスマホは小刻みに震えながら画面に霊夢の電話番号『318-8901-016』と表示されていた。
「おお、ちゃんと霊夢から電話がかかってきたのぜ!これで離れてても話せるのか、なんか新鮮な気分だな。」
魔理沙が声を上げてはしゃいだ。レミリアは苦笑して魔理沙に言った。
「あら、そんなにはしゃいだらみっともないわよ。いい歳何だからもう少し大人っぽく落ち着きを身に着けなさいな。」
「別に良いじゃねえか、お前らに比べりゃまだ私は子供だ。それに感情は抑えるより押し出した方が人生楽しいのぜ!」
「……ふふ、それもそうね。」
その後も霊夢達はスマホで電話を掛けてみたり写真を撮ってみたりして遊んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーー
彼女達がスマホで遊んでいる頃、霊長園にて。広場には今まで袿姫が寄生させてきた妖怪達が集まっていた。
「時は来た。今こそ幻想郷を我が手に収める時。」
袿姫は妖怪達の前に立ち静かに、そして力強く言った。
袿姫の隣には紫が佇んでいる。袿姫は妖怪達の顔を見回して続けた。
「私が幻想郷を手中に収めた暁には、争わなくても生きていける世界へと…誰も大切なモノを失わなくても済む世界へと変えていくと約束しよう!」
袿姫は紫に合図した。紫は無言でスキマを開く。袿姫はそれを見ながら呟いた。
「それじゃあ…行くとしようか。最後の戦いに。磨弓、もう少し待っていてね。呪いなんて守矢神社を根絶やしにして直ぐに解くから…。」
スキマを通って妖怪達は次々と地上へ向かった。袿姫は皆通ったのを確認すると紫を通してから自分も通った。
ーーーーーーーーーーーーーー
スキマは妖怪の山から少し離れた人間の里の上空に開いた。その中から幾千もの妖怪が現れ四方八方に飛び去ってゆく。その異様な光景は人間の里からはもちろん妖怪の山や紅魔館、竹林の永遠亭からも見えるほど大きかった。
〜竹林〜
「ねえ、永琳。あれは何かしら?」
「あれは、八雲紫のスキマに見えますが…いったいなぜあんなところに…?。最近起こっている寄生霊の異変と何か関係があるのでしょうか。」
「へぇ…なかなか面白そうな事が起こっているわね。」
「…姫様、もしかして見に行かれるおつもりですか?」
「そりゃあそうよ。最近は妹紅との殺し合いにも飽きてきたところだったしちょうどよかったわ。永琳も準備して行くわよ!ついでに妹紅も引きずって行きましょう。」
「姫様…はぁ、わかりました。只今準備してまいりますので少々お待ちを。」
〜紅魔館〜
「パチュリー様〜人間の里の方にでっかいスキマが空いてそこからとんでもない量の妖怪が出てきてます〜!」
「……こあ、一体何を言ってるのよ。エイプリルフールはまだ先よ。」
「嘘みたいな話なのはわかってますよ、とにかく魔法で外を見てみて下さいよ〜!」
「はぁ、全く…。って、あら?ほんとにスキマが開いてるじゃないの。」
「だから言ったじゃないですか〜!」
「ごめんごめん、う〜ん…これ妖怪こっちにも来てるわね。」
「それヤバいじゃないですか!?」
「うん、ヤバいわね。それじゃあ結界張るから貴女も手伝いなさい。」
「何でそんな冷静なんですか~!?」
「なになに〜?何があったの〜?」
「あらフランちょうどよかったわ。今人間の里の上空にスキマが開いてるのよ。そこからいっぱい妖怪が出てきてるから少し遊んできたら?」
「うんわかった〜、遊んでくるね〜!」
「パチュリー様、妹様外に出しちゃって良かったんですか?妖怪の量激減しちゃうんじゃないですか…?」
「フランが居たら十中八九余計なことして最悪結界が壊されるわ。それに妖怪が激減する心配はしなくていいわよ。咲夜。」
「はい、パチュリー様なんですか?」
「貴女もフランを追いかけてあの娘がやり過ぎないように程よいところで止めてあげてね。そうしないと幻想郷の過疎化が進んでしまうから。」
「わかりました。それでは。」
「それじゃあこあ、二人が外に出たのを確認したら結界を張るわよ。」
「は〜い!」
〜妖怪の山〜
「なぁ霊夢…あれ紫のスキマじゃないか?」
「あら、ほんとじゃない。今まであいつどこ行ってたのかしら紅魔館で会ったのを最後に音沙汰なかったし…そもそも何であんな大きなスキマを…?」
「れ、霊夢さん!あれ、スキマからすんごいいっぱい妖怪出てきてあちこちで暴れてますよ!あれやばくないですか?」
「早苗何を言って…ってほんとじゃない!?紫はいったい何を考えてんのよ!?」
「そういえばうちの地下図書館で会ったのを最後に見てなかったわね。もしかしたら紫も寄生霊に操られてるのかもしれないわね。」
「なぁ霊夢…それって結構やばくないのぜ?」
「……確認しに行くわよ。にとりはこの事を飯綱丸に伝えておきなさい。」
「ひゅい!?わ、分かったよ…。天狗は苦手なんだよなあ…。」
「いいから伝えておきなさい!ほら私達も急ぐわよ!」
「あ、おい!待つのぜ霊夢!」
「あ、霊夢さん!魔理沙さん!…仕方ないですね~レミリアさん、私達も行きましょう!」
「えぇ、そうね。」
ーーーーーーーーーーーーーー
静まり帰った地底に二人の人影が現れた。神綺とさとりだ。さとりは破壊され尽くした地底を目の前に言葉が出なかった。神綺は呆然とするさとりの肩に手を置き言った。
「酷い有様でしょう…?貴女がいない間にあいつらがやったのよ。」
「…大勢の地上の妖怪達が…私達の居場所を…!それに地底の住民たちは一体どこへ…?まさか全員…。」
さとりは凄まじい怒りを込めた声で呟く。
「おそらく地底の住民たちは全員生きてると思うわよ。こんなのを見たことないかしら?」
神綺はそう言いながら寄生霊の破片をいくつか取り出して見せた。さとりはハッとした顔で言った。
「これは…!確か奴らが攻めてきた時に一緒に来てた人型!」
「そう…これは埴安神が作った埴輪に自らの神の気、『神気』を纏わせたものよ。」
「……神気ってなんですか?」
さとりは震える声で尋ねた。神綺は穏やかな声で答える。
「神気というのは、神なら誰もが持っている特別な気。神としての格はこの気の量によって変わってくるのよ。そしてこの気が他の気と違うのは他者に神気を宿す事で操れるということ。」
「操れる…?」
「そう。埴安神が従えてる妖怪達もおそらく彼女の神気によって操られている、そして地底の住民たちもおそらく埴安神に操られているだけと思う。」
「それじゃあ皆さんは…!」
さとりは目を輝かせ言った。神綺は深く頷いた。
「おそらく全員無事、皆生きてると思うわ。」
「それなら直ぐ助けに行きましょう!埴安神はどこに居るんですか!?」
さとりは神綺にグイグイ近づきながら言った。神綺はさとりの勢いに押され気味になりながら答える。
「少し落ち着きなさい。埴安神は畜生界の霊長園に拠点を構えていたはずよ。おそらく操られた者達もそこにいるでしょうね。」
「じゃあ今すぐ行きましょう!ほら、さっきみたいに瞬間移動してください!」
さとりはそう言いながら神綺の手を握った。その小さな手からは想像もつかないほど強い力だった。
「ちょ、痛い痛い!強く握りすぎよ、もう少し弱めて。」
「あぁすいません、ついうっかり…。」
「まったく…。じゃあ行くわよ。」
神綺がそう言うと二人の姿は消えた。地底は再び静かな空間へと戻った。
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霊夢達は迫りくる妖怪達の中の寄生霊を退治しながらスキマへと向かった。しかし数が多いので倒しても倒してもなかなか進めずキリがない。霊夢達の体力もじわじわと削り取られていた。
「はあ、はあ、このままじゃスキマにたどり着く前に私たちが倒れるわよ。なんとかしてスキマまでの道を切り開かないと….。」
レミリアはグングニルを振り回しながら呟いた。確かにスキマまでの距離はまだまだあるのに比べ彼女達の体力はだいぶ減っていた。このままではレミリアの言う通りスキマにたどり着く前に倒れてしまうだろう。もうダメかと思われていたその時、二人の人影がこちらに近づいてきた。
「おーい、お姉さまー!」
「お嬢様、ご無事でしたか!」
人影の正体はフランと咲夜だった。一同、特にレミリアは目を丸くして驚いた。
「フラン!?それに咲夜も!?どうしてここに…?」
「えへへーパチュリーからこっちの方に遊び相手がいっぱいいるって聞いたから遊びに来たの〜!」
「私は妹様の付き添いを頼まれたので。」
レミリアは頷き言った。
「なるほどね…。それならちょいど良かったわ。フラン、貴女妖怪達の中に寄生霊が入ってるのは分かる?」
「うん。」
「なら話が早いわね。今からあのスキマまでのルートを塞いでいる妖怪達の寄生霊”だけ“を破壊することは出来る?」
フランは少し不満そうな顔で言った。
「出来ないことはないけれど…そんな一瞬で終わらせたらつまんないじゃない。」
レミリアはフランに優しく微笑みながら言った。
「何も全員をそうしろって言っているわけじゃないわ。それに寄生霊だけの破壊はとても緻密で正確な技術が必要になると思うわ。でもフランならきっと出来ると信じてるから頼んでいるの。なんたってフランは破壊のプロだものね。やってくれるかしら?」
レミリアの言葉にフランは少し照れ笑いしながら頷いた。
「えへぇ〜そうかな?まあそこまで言うなら…私がスキマまでの道を切り開いてあげなくもないわよ。」
「ふふっありがとうね。出来のいい妹を持って私は幸せだわ。」
レミリアはフランに向かってそう言うと周りで戦っていた霊夢達にも声をかけた。
「皆!今からフランがスキマまでの道を作ってくれるわ!フランが妖怪達の寄生霊を破壊したと同時に全速力でスキマまで向かうわよ!」
早苗は息切れしながら言った。
「はぁ…はぁ…ようやく話がつきましたか…。もう私達…ヘトヘトですよ…。」
それもそのはず、レミリア達が話している間も霊夢達は
次々と襲ってくる妖怪達に対応していたのだ。
「あら、少し時間かかりすぎたからしら。でももうすぐでスキマまで行けるから皆もう少し頑張ってちょうだい。それじゃフラン、お願いね!」
「はーい!」
フランは元気よく返事すると掌を空に向け、右手を自分の前に出した。その手には何も見えないがそこには確かに“ナニカ”があった。フランはその手をゆっくり閉じ始めた。
「きゅっとして…。」
そして閉じた手を思い切り握りしめた。
「ドッカーン!!!!!!!!!!!!!!」
フランの手の中で目に見えないモノが握り潰された。するとスキマまでの直前上に居た妖怪達は次々と下に下がっていった。どうやらもう操られてはいないようだ。
「今よ!また道が塞がる前に早く!」
レミリアが叫ぶと霊夢達はスキマに向かって全力で飛んでいった。フラン達は飛んでいくレミリア達の背中に向かって手を振った。
「いってらっしゃーい、皆頑張ってね〜!…さてと、じゃあ私達は残りの妖怪達と遊びましょうか。準備はいい?咲夜。」
「はい、いつでも。」
フランは満面の笑みでレーヴァテインを構え、咲夜はナイフを服の中から取り出した。
「うふふ、久しぶりに楽しめそうね。」
ーーーーーーーーーーーーーー
スキマの前には三人の人影が見えた。寄生霊によって操られた勇儀と紫そして今回の異変の首謀者の袿姫だ。袿姫は霊夢達に気づくとゆっくりと喋り出した。
「ようやくきたか、守矢の巫女。霊長園をお前が率いていた動物霊に襲われ、私の可愛い埴輪達が無惨に壊された挙句謎の呪いをかけられてからこの時をずっっと待ち侘びていたんだよ。」
言いながら霊夢達に弾幕を放った。霊夢は皆の前に結界を張り弾幕を防ぐ。
「危ないわね…。それより早苗、あんた袿姫に何してあんな怒らせたのよ!」
霊夢は結界を張りながら早苗に怒鳴った。早苗はよく分からないという顔で答えた。
「私にも何であんなに怒っているのか分かんないですよ!心あたりをあげるとしたら、う〜ん…畜生界に信仰を広めようとしたことくらいですかね…?」
早苗はそう言って畜生界の動物霊に守矢神社への入信を勧めたこと、そしてその流れで動物霊が「邪教徒の巣窟」と呼んでいる霊長園に攻め入る手伝いをしたことを話した。
「……はぁ、早苗原因120%それじゃないの。とにかく袿姫にさっさと謝ってきなさいよ!もう私の結界も限界よ。」
「ちょっといいかしら?」
レミリアは霊夢と早苗の間に割って入り尋ねた。
「袿姫は『霊長園をお前が率いた動物霊に襲われた。』と言っていたわ。それはさっきの話で納得がいくけど問題はその後の『謎の呪いをかけられた。』早苗はこの呪いに心当たりがあるかしら?」
「ん?えぇと…心当たりない…ですね。私がやったことと言ったら弾幕を放ったり奇跡の力で動物霊に一時的に実体を与えたことくらいです!」
霊夢は首を傾げながら言った。
「ということは早苗の他にもう一人『呪い』をかけた奴がいるということ…?」
「そうなるわね…。とにかく今は埴安神達を何とかするわよ!」
レミリアはそう叫ぶとグングニルを構えた、がレミリアの身体からはガクンと力が抜けた。レミリアは慌てて霊夢達を見た。どうやら二人も力が抜けたらしくお祓い棒を持つ手に力が入っていなかった。
「一体…何が起こったの…?」
レミリアは辺りを見回した。すると霊夢と早苗の背中に目立たないように引っ付いている寄生霊を見つけた。レミリアはハッとした顔で自分の背中を探ってみるとやはり自分の背中にも寄生霊が付いていた。
「霊夢、早苗、魔理沙、アリス!貴女達の背中にも寄生霊が付いているわ!早く取りなさい!」
「な…!?本当だわ、まさか寄生霊が…?」
霊夢はそう言いながら寄生霊を千切った。しかしもう結界を維持する力も残っておらず霊夢達を守っていた結界は消え去った。袿姫は不敵な笑みを浮かべて言った。
「ふふっ寄生霊は操ることしか出来ない…そう思っていたのかしら?でも残念ね、相手の力を吸い取り私に転送することくらいは容易なのよ。…うん?一人だけ歪な魔力を持つ者がいるわね。それこそ…魔族のようだわ。」
そう言いながらアリスの方を見た。アリスは黙って袿姫を睨みつけている。
「まあいいわ。それじゃあ、力を失ったお前達の肉を滅して土と水で美しく造りかえてやろう…と言いたいところだが。」
袿姫は怒りのこもった目で早苗を睨んだ。
「お前達はどんなに美しく造りかえようとしても心が汚れきっている。というわけで…。」
ゆっくりと彫刻刀を構え、早苗達に突きつける。
「この大地から美しく往ね!!!!!!!!!」
袿姫は叫ぶと同時に彫刻刀を投げつけた。まず狙われたのは早苗だ。早苗は防ごうにも避けようにも力が抜けてどうしようもない。
「誰か…助け…!」
早苗はギュッと目をつぶった。その時。
「はぁぁぁ!」
誰かの雄叫びと同時に早苗の目の前で誰かが炎の壁を作り出し彫刻刀を防いだ。勿論彫刻刀は灰になって落ちていった。
「あ、貴女は…!」
早苗は一瞬何が起こったのかわからなかったがハッと我に返り目の前の人に声を掛ける。早苗を庇ったその人は長く美しい白い髪をたなびかせ右手を突き出し掌からは炎が噴き出していた。
彼女の名は『藤原 妹紅』不死鳥の炎を操る蓬莱人だ。
妹紅は炎を止めると早苗に振り返り言った。
「状況はいまいち飲み込めねーけどあいつらを倒せばいいのか?」
妹紅はそう言いながら親指で袿姫達を指した。早苗はかすれる声で答えた。
「はい…。勇儀さんと紫さんは操られているだけなので本命は袿姫さんだけですが…。」
妹紅は早苗達が弱っていることに気付くと後ろの方に向かって叫んだ。
「うん?お前らだいぶ体力持ってかれてるな…。永琳!確かお前、力が全快する薬作ったとか言ってたな?こいつらに飲ませてやってくれ!輝夜!私らはその間こいつらを全力で食い止めるぞ!」
「分かったわよ〜妹紅。うふふっ、妹紅以外との殺し合いなんて何百年ぶりかしら?うふふっ♪」
「……姫様、くれぐれも殺さないで下さいよ?それじゃあ霊夢達はこっちに。」
永琳は霊夢達を戦闘から一時離脱させると持ってきた薬の小瓶を全員に手渡した。蓋を開けると中は液体で満たされておりあまり美味しそうではなかったが体力を回復させる為にも五人は一気に飲み干した。それはあまりにも苦くアリスは思わず口を押さえた。
「うっ…何よこれ、苦すぎじゃないの?」
「良薬は口に苦しって言うでしょ?それより身体の具合はどうかしら?」
霊夢達は腕や武器を振り回してみて驚きの声を上げた。
「あら!本当に身体が軽くなってるわ!」
レミリアはグングニルを振り回しながら声を上げた。魔理沙も満面の笑みで楽しげな声を出した。
「おお、これならあいつらにもよゆーで勝てるのぜ!よっしゃ行くぞ!」
「あ、待ちなさい魔理沙。まだ飲んでもらいたい薬があるのよ。」
永琳は今にも飛んでいきそうな魔理沙を慌てて止めるともう一つの小瓶を取り出した。
「これは簡単に言えば寄生霊から身を守る薬、原理としてはこの薬を体内に取り入れることで体から出る汗や呼吸にこの薬が混ざり体に目に見えない膜ができるの。この薬の成分には土の組織を崩す効果があるから寄生霊が浴びることで勝手に崩れていくという寸法よ。」
「へえ〜じゃあ飲んでおいたほうがいいですね。苦いのは苦手ですけど…。」
早苗達は嫌そうな顔をしながら薬を一気飲みした。途端に全員の顔が苦痛に歪んだ。
「うく…やっぱり苦いわね。ねえ永琳、これ味もどうにかならないの?」
「さっきも言ったけれど『良薬は口に苦し』、なのよ。ほら、飲み終えたなら姫様達に加勢しにいくわよ。」
そう言いながら永琳は霊夢達を再び最後の戦いの場へと送り込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
さとり達は霊長園に着くと操られた地底の住民たちや袿姫を探し始めた。しかし見つかったのは何人かの人間霊と広場に開かれた巨大なスキマだけだった。
「う〜ん、操られた人達の姿も埴安神の姿も見当たらないわね。それにこのスキマ…八雲紫のものよね。これは紫も操られた可能性が高いわ。これは私の考えている以上に厄介なことになってるわね…。それにこの荒れ具合、一回誰かに襲われたのかしら?ところどころ壊れてるしここに住んでいるはずの人間霊の姿も見当たらない。それに見つけたとしてもこちらを警戒してすぐ逃げてしまうから対話も出来ないから詳しい情報も分からな…。」
「神綺さん!ちょっと来てください!」
神綺が独り言を言いながら歩いているとさとりが叫んでいるのが聞こえた。
「さとりちゃんどうしたのかしら〜?」
神綺はそう言いながら声のした方に向かうとさとりはとある家の前で手を振っていた。
「し、神綺さん。こ、この中で人が倒れてたんです!揺すっても起きないし…もしかして、もう…!」
さとりは震えながら家の中を指差した。神綺は家に上がり倒れている人を調べて言った。
「さとりちゃん安心しなさい。これは袿姫の作った埴輪よ。人じゃないわ。それにしてもおかしいわね…。」
神綺は埴輪を調べながら独り言を話し始めた。
「この埴輪は確か埴安神のお気に入りの子だったはず。それが何でこんなところに横たわらせてあるのかしら…?うん?この傷の色…まさか!」
神綺の視線の先にはいくつかの傷があった。その傷は全てぼんやりと緑に光っていた。神綺はポケットからぼんやりと緑に光る宝玉を取り出し傷の色と見比べた。二つの色は呼応するかのようにぼんやりと光っていた。
「やっぱり…でも一体誰が?並の人間妖怪に使えるような代物じゃないはず…。」
「…神綺さん。そういえばその宝玉って結局何なんですか?」
さとりは神綺の手元を覗き込んで尋ねた。神綺はいつになく真剣な表情で答えた。
「これは、魔界に昔から…それこそ神話の時代から伝わる、言うなれば魔界全体にとっての家宝みたいなものね。そしてこの宝玉が持つ力。それは、この宝玉に力を注ぐ事で『敵の傷を回復させなくなる』というものよ。」
「回復させなくなる…?」
「ええ。この宝玉を発動させた状態で相手に傷をつけることでその傷は緑に光るの。そしてその傷は絶対に塞がる事は無いのよ。絶対にね。」
「もしかしてそこに倒れている方も…?」
さとりは恐る恐る尋ねた。神綺は重々しく頷いた。
「おそらくね…。しかも問題はこれだけじゃあないわ。この宝玉はある程度の力を注ぎ込まないと発動しないの。それこそ神気でも注ぎ込まない限りね。なのに発動しているということはここを襲ったのは神、もしくはそれに匹敵するレベルの力の持ち主ね。どちらにしろ好意的な相手である可能性は限りなく0に近いでしょう。…とにかく今は袿姫を追いかけることの方を優先しましょう。貴女も地底の方達が心配でしょう?」
「…!そうですね。それに私は埴安神に直接聞きたいことが山ほどありますから。」
「それじゃあ…行きましょうか。さっき広場の方でスキマを見つけたわ。おそらく埴安神たちはその先にいるはずよ。」
「分かりました。では私達も急いで向かいましょう。」
さとりと神綺は家を一旦後にして広場に向かっていった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「おおらあああ!」
妹紅は勇義に炎を纏わせた拳で殴りかかった。しかし勇義はひらりと身をかわし逆に妹紅に向かって黒いオーラを纏わせた拳で殴り飛ばした。妹紅は慌てて攻撃を受け止めようとしたが受けきれずに吹っ飛ばされた。
ドスッ
「目には目を、歯には歯を、鬼には同じ鬼…いえ、それ以上に強力で高貴な存在である吸血鬼を、というわけで後の勇義の相手は私に任せなさい。」
レミリアは妹紅を受け止めて言った。レミリアの後ろからも続々と回復した仲間達がやってきた。
「ははっやっときたか…。おせえよ全く。」
妹紅はそう言いながらも嬉しそうに微笑んだ。しかし話している間にも輝夜達の方から弾幕の流れ弾が飛んでくる。
「おっとっと。これはゆっくりしている暇はなさそうなのぜ。勇義はこのままレミリアと妹紅に任せるとして…アリス、お前は輝夜と一緒に紫を抑えててくれ!」
「分かったわ!」
アリスはいくつかの人形を従えて少し離れたところで戦っている輝夜たちの元へと向かった。
「妹紅、私達もいくわよ。」
レミリアもグングニルを構えると勇義に立ち向かっていった。
「霊夢、早苗!私達は主犯を叩くぞ!」
魔理沙はそう言いながらミニ八卦炉を構えた。霊夢たちもそれに応えるかのようにお祓い棒を構える。袿姫は自分とも戦おうとしていることに気づくと組んでいた腕を解いて言った。
「私は勇義と紫の戦いを傍観しているつもりだったんだけどねえ…でもまあそんなに私の手で倒されたいんだったら。」
袿姫も彫刻刀を再び構える。
「守矢の巫女共々チリすら残さずに滅してくれよう!!」
袿姫はそう叫ぶといきなり弾幕攻撃を仕掛けてきた。霊夢達は全て避けきるとお札弾や星型弾を飛ばして応戦した。もちろん紫や勇義と戦っている方からも弾幕が飛んでくるので片時も気の休まる時間はない。幻想郷の命運をかけた大混戦の開幕である。
ーーーーーーーーーーーー
神綺とさとりはスキマの前までやってきた。その先からは微かに誰かが戦っているような音が聞こえる。
「この先に袿姫が…!神綺さん、早く行きましょう!」
「待ちなさいさとりちゃん。」
今にもスキマに入ろうとしているさとりを神綺は慌てて止めた。
「なんで止めるんですか!?」
「貴女戦う力はあるの?この先はおそらく貴女が考えている以上に激しい戦い…それこそ殺し合いと言っても差し支えないほどの激しさだと思うわ。そんな中に貴女が入り込んだら間違いなくやられるわよ。」
「そんな…ここまで来て指をくわえて待ってろって言うんですか!?私は地底の皆さんを取り返すため…そして埴安神に話を聞くためにここまで来たんです。たとえ危険だとしても、私は…私は!」
いきりたつさとりを宥めて神綺は続けた。
「まあ話は最後まで聞いてちょうだい。私が言いたいのは戦う力を持たずにこの先に行くのは危険ということであってこの先に絶対行くな、ということではないのよ。要は戦う力さえあればいいのよ。つまり…。」
「つまり?」
神綺は右手から白いオーラを出して言った。
「戦う力…欲しくないかしら?」
Next Phantasm
おまけ
〜紅魔館の素敵な住民達〜
吸血鬼達のチョコ作りの巻
A.M5:00、朝早くから紅魔館の大きなキッチンでは楽しそうな声が聞こえた。
「ふふっチョコ作りなんて私初めてだから楽しみだわ!ねーお姉さま!」
フランははしゃぎながら言った。レミリアははしゃぐフランを見て嬉しそうな笑顔で返した。
「そうね、フラン。貴女ならきっと美味しく作れるわよ。それじゃあ咲夜、今日はよろしくね。」
「かしこまりました。それでは早速エプロンに着替えましょうか。お二人のエプロンはこちらで準備しましたのでこれをどうぞ。」
咲夜はそう言いながら二人にエプロンを手渡した。フリルの付いた白の可愛らしいお揃いのエプロンは二人の身長にぴったりだった。
「わぁーかわいい!ありがとう咲夜!」
フランは飛び跳ねて喜んだ。レミリアと咲夜は顔を見合わせて微笑んだ。二人が着替え、手も洗い終わると早速チョコ作りが始まった。
「それでは市販の板チョコを溶かすところから始めましょう。まずは…。」
「チョコを溶かすなら私に任せて!いくよ〜!レーヴァテイ…。」
レーヴァテインを振り回そうとするフランを咲夜は静かに止めた。
「お待ち下さい妹様。レーヴァテインの火力ではチョコが全て焦げてしまいます。それに火力にもムラが出来てしまうのでここはチョコ全体を温めながらゆっくり溶かすことの出来る湯煎で溶かします。」
咲夜は話しながらテキパキとボールを二人分用意した。「ここに熱湯を注ぎ、その中に板チョコを耐熱容器に入れてボールに入れてその熱で溶かしていきます。熱湯はそこのポットで沸かしているので順番に取りに来てください。」
レミリア達はボールを持って咲夜からお湯をもらった。「どうぞ。とても熱いので火傷に気を付けて下さい。」
「えぇ分かったわ。ありがとうね。」
「それじゃあ早速チョコを溶かしましょう!」
フランはそう言うと耐熱容器に入れたチョコをお湯に沈めた。
「咲夜ーこの後はどうするの〜?」
「少ししたらチョコが溶け始めるのでそしたらこれでかき混ぜて下さい。」
咲夜はそう言うとフラン達にヘラを渡した。
「これで混ぜればいいのね。それじゃあ早速!」
レミリアはヘラでかき混ぜ始めた。それをみたフランも自分のチョコを混ぜ始める。キッチンはチョコの甘い香りで満たされていった。溶かすこと数分、二人のボールの中はとろとろに溶けたチョコでいっぱいだった。
「それでは最後に好きな型に溶かしたチョコを注いで冷蔵庫で冷やして固めましょう。」
咲夜はそう言いながら二人の前に星やハート等の型を置いていった。フランは目を輝かせて型を選び出した。
「うわあ!かわいい型がいっぱいで迷っちゃうわ〜。う〜む。どれがいいかな〜…。」
「あら、これなんて私にぴったりじゃない。」
レミリアはそう言って一つの型を手に取った。それはコウモリの形の型だった。
「あ、いいな〜お姉さま。私も私らしい型を見つけるわよ〜!…うん?これなんて私にぴったりじゃない!」
フランが手に取ったのは自分の羽根に付いている宝石のような形の型だった。
「あら、可愛らしい型を見つけたわね。」
「えへへ〜いいでしょ〜。」
(お二人共とても可愛らしい笑顔…わざわざ香霖堂まで足を運んだ甲斐があったわね。)
その後も二人は順調に型を選んでいった。型を選び終わるとチョコを型に流し込み冷蔵庫に入れた。
「これでチョコを数時間冷やして固めたら完成です。お二人共、お疲れ様でした。」
「ふぅやっと完成ね。思ってた以上に楽しかったわ!」
「そうね、フラン。咲夜もありがとうね。」
レミリアがそう言うと咲夜は手を洗いながら答えた。
「いえいえ、私も楽しかったですよ。…そういえば何故いきなりチョコ作りがしたいなどと言い出したのですか?」
そう、何故今こうして咲夜にチョコ作りを教えてもらっているのかと言うとレミリアとフランが揃って教えて欲しいと頼んだのが始まりだった。レミリアは優しく微笑んで答えた。
「そんなの決まってるじゃない、紅魔館の皆に配るためよ。」
「え、私達の為に…?」
「決まってるじゃない。なんたって今日は…。」
レミリアは咲夜に向き直り屈託のない笑顔で顔を見あげて言った。
「バレンタインなのだからね。」
咲夜は噴き出しそうになった鼻血を咄嗟に抑えながら言った。
「あ、ありがとう御座います、お嬢様!それでは私からもとっておきのチョコをホワイトデーにお返ししますね!もちろん妹様にも!」
「え!?私にもくれるの!?やった〜!」
その後チョコの甘い香りは紅魔館全体にあふれた。
おわり