超長いです。
「戦う…力…?」
神綺の言葉にさとりは困惑を隠しきれなかった。
「そう、戦う力。私なら貴女に一時的に与えられるわ。もちろん普段出せないような力を与えるわけだから当然身体の負担も大きくなる。命に関わる、とまではいかないと思うけれどそれなりに苦しい思いはするわよ。それでも…力、欲しいかしら?」
「………。」
さとりは再び神綺の心を読もうとした。今までも誰かと交渉する時に「相手の本音」を判断材料にしてきたからだ。しかしやはり神綺の心は黒いモヤがかかっており神綺の「本音」は分からない。さとりにとって判断材料なしに判断をくだすのはこれが初めてだったので様々な憶測が飛び交う。もしかしたら力を与えた後に自分を操って良からぬことをするのかもしれない。それとも力を与えるふりをして逆に力を奪われるかもしれない。そんな疑念もありなかなか首を縦に振る気になれない。
(罠の可能性は十分ある。そもそもこの人の種族もよく分からない。私のこの判断一つで周りに多大な迷惑をかけるかもしれない。…だとしても、お燐やお空、そして地底の皆を助けに行けるのなら!)
「神綺さん。私に…戦う力を下さい!」
神綺は優しく微笑んだ。
「分かったわ。それじゃあ、力を与えましょう。」
神綺はそう言うと右手をさとりに向かって突き出した。彼女の右手からは白いオーラがどんどん湧き出ていきさとりに吸い込まれていく。みるみるうちにさとりの身体は白いオーラを纏った。
「この力は…?」
さとりの問いかけに神綺は静かに答えた。
「このオーラこそが『神気』、神の纏う気よ。」
「ということは…もしかして神綺さんって…!」
言いかけたさとりの口に指を当てて神綺は続けた。
「この話の続きは全部終わってからにしましょう?それじゃあ…行きましょうか。」
「はい!」
返事をするとさとりはスキマに飛び込んだ。その後に続いて神綺もスキマに入ろうとしてふと強い魔力を感じて立ち止まった。
「あらこの魔力は…。ふふっあの娘も強くなったのね。」
嬉しそうに呟きさとりの後を追いかけた。
ーーーーーーーーー
さとりに神気が与えられる少し前。輝夜とアリスは紅いオーラを纏った紫と対峙していた。紫は日傘の先から紫色の弾幕を次々と打ちこんだ。あまりの激しさにアリス達は避けるので精一杯なうえ袿姫や勇儀の方からも流れ弾がくるので攻撃する暇もなかった。たとえ攻撃してもスキマで全て防がれてしまった。
「う〜ん、なかなか攻撃が当たらないわね〜。いつも妹紅と殺りあってるから腕には自信があったのだけどね。」
輝夜は弾幕を避けながら言った。アリスも結界を張りながらうめいた。
「くっ、結界を張るのが忙しすぎる!これじゃ集中して人形を操れない!」
「危ない!避けるのぜ!」
戦場に突然鳴り響いた魔理沙の声。アリスと輝夜は咄嗟にその場から離れた。瞬間アリス達の目の前を極大光線が通り過ぎた。あまりにも突然の出来事だった為か紫はスキマで防ぐ事も出来ずに直撃した。アリスは呆然としたがハッと我に返り魔理沙に向かって怒鳴った。
「あ、危ないじゃないの魔理沙!!何私達巻き込みそうになってんのよ!殺す気なの!?」
「私は死なないけどね〜。」
アリスの剣幕に魔理沙はたじろぎながら言った。
「悪い悪い…袿姫の奴が自分の手で戦うとか言いながら操った妖怪達を大量にけしかけてくるもんだからまとめて倒そうとしたんだよ。要は事故だ事故!でも結果的に紫巻き込めたしいいだろ?な?」
魔理沙はカラカラ笑って言った。
「よそ見している暇があるのかい!?」
その後ろから袿姫が弾幕を放つ。魔理沙は慌てて弾幕を避け反撃をした。アリスは呆れ顔で言った。
「全くもう…輝夜、紫はもう倒せただろうし魔理沙達の応援に行くわよ!」
「いいえ、まだよ。」
「…え?」
輝夜は紫のいた方向を指差した。そこは煙が上がっておりよく見えなかったが確かに人影が見える。
「嘘でしょ…魔理沙のマスパは山一つ消し飛ばす威力があるのよ…?」
次第に煙が晴れていき姿を現したのは紅いオーラを放つ紫だった。
「まだまだ楽しめそうね〜良かったわ〜。」
輝夜は呑気に言った。
ーーーーーーーーーー
「はぁぁぁ!」
レミリアは弾幕の嵐をかいくぐり勇儀に攻撃を仕掛ける。しかし攻撃は弾かれ逆に殴り飛ばされた。
「ぐっ、全然攻撃が当たらない…。妹紅、勇儀の動きを止めることは出来るかしら!?」
レミリアが叫ぶと妹紅は弾幕を防ぎながら答えた。
「一応やれないことはないが…何か大技を放つのか?」
「えぇちょっとね…。それじゃあお願いするわよ!」
「おう!」
妹紅は返事をすると勇儀の周りを囲むように炎の壁を作り出した。
「対輝夜用に研究してた甲斐があったな。これなら出られないだろ?」
「ふふっ上出来よ。はぁぁぁぁ!」
レミリアは満足気に頷くと矛先を上に向け、グングニルに力を溜め始めた。その間にも勇儀は外に出ようと炎の中で暴れ回る。
「おい!まだ時間がかかりそうか!?そろそろ限界だ!」
「あと…もう少し…。」
レミリアは呟き力を溜め続けた。そしてー
「妹紅そのまま“的”を動かさないようにね。」
レミリアは矛先を勇儀に向ける。
「これは私のスペルカード、『スカーレット·ディスティニー』の魔力をそのままグングニルに注ぎ込んだもの。正直上手くいくか分からない賭けだったけれど……無事賭けには勝てたようで何よりだわ。行くわよ!」
「ディスティニー·オブ·グングニル!」
(運命の神槍)
レミリアの放ったグングニルは真っ直ぐ突き進み勇儀ごと中の黒寄生霊を貫いた。勇儀の纏っていた黒いオーラは瞬く間に消えた。
「おおお!凄いなレミリア!………ところで勇儀からまあまあな量の血出てるしさっきから動かないんだが…大丈夫なのか?」
妹紅の問いかけにレミリアは一呼吸おいて答えた。
「…す〜、妹紅。思ったよりあれ威力あったわ!今すぐ永琳のとこに勇儀運ばないと洒落にならないわよ!」
「だよな!?早く連れてくぞ!」
レミリアと妹紅は大慌てで勇儀を担いでいった。
ーーーーーーーーー
「レミリア達のやつ勇儀担いで何やってるんだ?っとそんなこと気にしてる余裕はなさそうだな…。」
魔理沙は袿姫を睨んだ。心なしか袿姫のスピードや弾幕の威力が上がっている気がする。
「霊夢さん、魔理沙さん。袿姫のやつなんかどんどん強くなってませんかね?それも…操られた妖怪達が倒されるにつれて。」
早苗は霊夢と魔理沙に囁いた。二人は静かに頷いた。その様子を見た袿姫は弾幕を撃とうとした手を止めて言った。
「守矢の巫女の考察は正しいわよ。私の軍隊が倒される度に私は強くなるわ。」
「……!」「……!」「……!」
霊夢達は背筋がゾッとした。何故なら袿姫とはかなり離れている上に早苗の声は耳を澄まさないと聞こえないくらいにはひそひそ声だった。なのに袿姫にはこちらの会話がまるで筒抜けのようだった。
「あー、うん。じゃまずは何で会話が筒抜けなのか教えてあげるわよ。神様、まあ神気をある程度持っている者は心が読めるのよ。まあさとり妖怪みたく鮮明に見えるのはごく僅か、それこそ世界を管理するレベルの神だけだけどね。要は心の中がある程度読めたから会話内容が筒抜けだったのよ。」
「あんた、そんなの卑怯じゃない…!」
霊夢は苦々しい顔で吐き捨てた。
「心が読めるのは私だけじゃないしそんな戦いながら正確に読めるわけじゃないわよ。それじゃあ次にどうして私の力が増しているのか。それはね…。」
「今まで寄生霊に割いていた神気が寄生霊が倒されることによって貴女に戻ってきている。そしてその分だけ神としての本来の力を取り戻しているから。そうですよね?」
袿姫達は驚き声のした方を振り返った。そこには白いオーラ、神気を纏ったさとりが怒りをあらわにした表情をしていた。袿姫は最初は驚いたもののすぐ我に帰って言った。
「あら、お前は確か…地底を収めていたさとり妖怪じゃない。何で妖怪である貴女が神の力である神気を…。一体誰が与えたの…?」
「さとりちゃんに神気を与えたのは私よ。」
さとりの後ろから神綺も顔を出した。その瞬間輝夜と共に紫と戦っていたアリスはばっと神綺の方を向きつぶやいた。
「……!何でママがここに…!?」
神綺はこちらを見ているアリスに気づくと優しく微笑み手を振った。アリスは神綺が手を振るとすぐに顔を背けて戦いに集中した。神綺は少し寂しい気持ちになったがそれ以上に娘の成長を心から嬉しく思った。
「あらあら、ふふっでも本当強くなったのね。魔力量だけだったら魔界でも1、2を争えるんじゃないかしら。」
「神綺、貴女一体何しにきたの?しかも妖怪なんかに神気を与えちゃって…もしかして私の邪魔?」
袿姫は怒りのこもった声で言った。神綺は笑って言った。
「別に邪魔なんかしないわよ。ちょっと探し物があってここまできたらたまたま貴女が幻想郷支配する為に妖怪かき集めてるって風の噂で聞いてね〜。これは面白そうだと探し物しながら色々調べて回ってたらさとりちゃんと出会ってね。そっからなんやかんやあって今に至るのよ。」
「そのなんやかんやの中身を知りたかったのだけどね。…それでそこのさとり妖怪は私になんの用?」
袿姫はさとりを睨みながら言った。しかしさとりは怖気づく事なく答えた。
「私は、ただ貴女に幻想郷の支配なんて馬鹿げた行いをやめてほしいだけです。」
「…嫌だ、と言ったら?」
「なら言葉は不要ですね。霊夢さん、魔理沙さん、早苗さん、私も一緒に戦わせていただきます!」
さとりはそう言いながら袿姫に向かって弾幕を撃った。霊夢達はあまりにも急展開すぎて顔を見合わせて戸惑った。
「これ、一体どういう状況なのかわかるやついる?」
「私にもよくわかりませんが…まあ一緒に戦ってくれるというのですし何かの奇跡と思えばいいんじゃないですか?私たちだけじゃ勝てそうにもなかったですし。」
「それもそうね!じゃ、私達もいくわよ!」
霊夢達は深く考えることを止め、戦いに戻った。さとりは袿姫によける隙間が見当たらないほどの密度の弾幕を放つ。本来の力が戻ってきているとはいえ神の力を手にしたさとりの弾幕はスピード、威力共に袿姫を上回っていた。袿姫は必死に避けたがそのうちの一発が少しかすった。
「くっ想像以上の強さね…さとり妖怪に加えて巫女が2に魔法使いが1…流石に分が悪いわね。仕方ないか、このまま使わずに行けると思ってたけれど勇義がやられた今、博麗の巫女に使うしかないわね。」
袿姫はそう呟くと懐から紅寄生霊を取り出した。さとりは様子のおかしい袿姫を不審に思いサードアイで心を読んだ。神としての力を取り戻した袿姫の心は若干黒いモヤがかかっており読みにくかったが神の力を一時的に宿したさとりは部分的に読めた。
「う〜ん…分が悪い、仕方ない、博麗の巫女に…。まさか!霊夢さん、避けて…!」
「…え?」
さとりは袿姫のやろうとしていることを見抜き霊夢に叫んだ。が、少し遅かった。袿姫は霊夢の前に一瞬で移動した。
「ふふっ少し気づくのが遅かったわね。」
袿姫はにやりと笑うと霊夢の身体に直接寄生霊を押し込んだ。
「な、ぐ…。」
霊夢はうめき声をあげてたじろいだ。その身体からは紅いオーラが噴き出た。
「おい!霊夢!大丈夫なのぜ!?霊夢!」
魔理沙は霊夢の肩に手を置いて叫んだ。しかし彼女の必死の呼びかけも虚しく霊夢の耳には届かなかった。
「うぅ……。…。」
霊夢はゆっくりと目を開けた。そのうつろな瞳は紅く染まっていた。霊夢は右手から弾幕を一つ出し魔理沙の懐に撃ち込んだ。
「ぐは!」
魔理沙は避けることも出来ずにふっ飛ばされた。
「魔理沙さん!大丈夫ですか!?今奇跡の力で回復を…!」
早苗は慌てて魔理沙の元に駆け寄り傷を癒した。霊夢は冷たい目で魔理沙達を見つめている。さとりは袿姫を睨みつけ言った。
「地底の住民たちだけでは飽き足らず霊夢さんも操るとは…貴女は自分の目的が達成出来れば誰を犠牲にしても良いって言うんですか!?貴女…本当に神なんですか!?」
「うるさああい!!!」
袿姫は幻想郷中に届く程の声で怒鳴った。思わずさとりや神綺がたじろいでしまうほどの声で。袿姫は目に涙を浮かべて続けた。
「私だって本当は戦わずに生きていけるならそうしたかった。なのに!博麗の巫女といい守矢の巫女といいことごとく私の聖域を荒らしていったんだよ!その上そこの守矢の巫女は磨弓に…私の埴輪兵団に回復無効の効果だかなんだか知らないけど、何かしらの呪いを掛けていったのよ!」
「だからそんな呪い知りませんって!」
早苗は慌てて反論したがもはや袿姫は聞く耳を持たなかった。
「うるさい!お前ら守矢神社が自身の信者獲得の為に、動物霊を率いて霊長園を襲った時に掛けられていた。お前以外に誰がいるの!?」
「埴安神、落ち着いてください。早苗さんの心を奥底まで読んでみましたが彼女の言っていることは本当です。」
さとりは冷静に伝えたがこの言葉もやはり袿姫には届いていなかった。
「うるさいうるさいうるさい!!!!!!!そんな言葉信じられるわけないじゃない!…だから私は決めたのよ。もう誰も私のように大切なものを奪われないように幻想郷を私の支配下に置こうと。そして幻想郷を手中に収め私の聖域を荒らし、大切なものを奪った巫女を追い出して安心安全な環境を整えたら磨弓達に掛けられた呪いを解いて今度こそ平和に暮らそうと…そう思っていたのよ。そんな私の夢を邪魔するなら誰であろうと滅するまでよ!」
袿姫はそう言い放つと今までとは比べ物にならない量の弾幕を撃ち出した。それに加えて操られた霊夢も紅いオーラを放つ御札を撃ち出した。早苗は慌てて結界を張り二人を守った。
「早苗さん、魔理沙さん!今の埴安神は本来の力をほとんど取り戻している上怒りでより力が増しています!私も力を貸すので何とか落ち着いていただきましょう!」
「わかりました!回復と結界は任せて下さい!」
「おう!それじゃあ行くのぜ!霊夢は私に任せとけ!」
魔理沙達は一斉に飛び出した。魔理沙は箒の後ろにミニ八卦炉を取り付けると進行方向を霊夢の方に定めた。
「向きよし、ミニ八卦炉よし、行くぞ霊夢!」
魔理沙は叫ぶとミニ八卦炉からマスタースパークを撃ち出した。
「恋符『ブレイジングスター』!!!!」
しかし霊夢には間一髪で避けられてしまった。
「くそっ、流石にただ突撃するだけじゃ当たらないか…でも魔力はまだまだある!ここからは私の魔力が尽きるのが先か霊夢の体力が尽きるのが先か勝負なのぜ!」
魔理沙は再び狙いを定めるとマスタースパークをぶっ放して突撃した。
「魔理沙さん早速飛ばしてますね〜よし私も!」
早苗はお祓い棒を構えて攻撃を仕掛ける。
「奇跡『神の風』!!!!!!」
早苗の周りに渦を描くように弾幕がゆっくり回りながら現れたと思ったら全方位に花開くように撃ち出した。
「だいぶこの力も身体に馴染んで来ましたね。少しこの状態でしか出せないような技でも編み出してみますか。」さとりはそう呟くとサードアイを掌に乗せそこに神気を集中させた。サードアイの視線の先には袿姫がいた。
「狙いよし、神気も充分…行きます!アイ·マシンガン!」
サードアイから神気を纏わせた弾幕が次々と撃ち出される。袿姫は慌てて弾幕を避けていったが弾幕一つ一つが
的確に袿姫を狙っている上早苗のスペルカードによる全方位弾幕もある為全てを避けきることはできなかった。
「くっ!」
袿姫はほとんどは避け切れたがさとりの追尾弾のうちの一つが被弾した。
「ヤッター!さとりさん、この調子ですよ!袿姫の体力を削り切りましょう!」
早苗は歓声をあげてさとりに言った。それを見た袿姫はますます怒りを滲ませた表情で言った。
「調子に乗るなよ…!そんなに私の本気を見たいなら…見せてあげるわ!」
袿姫は叫ぶと右手を突き上げた。その掌の上には魔法陣が広がっていた。
ーーーーーーーーーー
「きゃははは!楽しい、楽しいわ♪こんなに壊してもまだまだ湧いて…あれ?」
フランはレーヴァテインを振り回す手を止めて首をかしげた。今まで襲ってきていた妖怪達は全員動きを止める。
「ねぇねぇ咲夜。まだ壊してないのも皆動かなくなっちゃったわ。一体何が起こったの?」
「私にも原因は何とも…あら?」
咲夜は言いかけて周りを見渡した。すると妖怪達の身体から次々と寄生霊が抜け出していき袿姫の元に還っていく。
「ねぇ咲夜、これお姉さま達の方で何かしらあったんじゃないかしら?」
「そのようですね。…何か嫌な予感がします。お嬢様の元に行きましょう!」
咲夜はフランの手を握ると時間を止めてレミリア達の元へ急いだ。
ーーーーーーーーーーー
「調子はどうかしら?勇儀。」
永琳は勇儀の顔を覗き込んで尋ねた。
「ここは…?アタシは、何でここにいるんだ…?」
勇儀は目をしぱしぱさせながら呟く。レミリア達はホッと胸を撫で下ろした。
「あ〜よかったわ、いや結構ほんとによかったわ。永琳の医療技術の凄さを改めて感じさせられたわ〜。」
「いや〜そうでしょうよ。勇儀がグングニル刺さったまんま運ばれてきた時はお燐呼ぼうか迷ったわよ。」
「待て待て、本当にアタシの身に何が起こったんだよ!?アタシグングニル刺さったまんま搬送されたのか!?」
勇儀は困惑しながら言うと妹紅は苦笑いしながらなだめた。
「はは…まあ順番に説明してやるよ。」
妹紅は勇儀が袿姫に操られていたこと、レミリアと一緒に勇儀の相手をしたこと、そして明らかなオーバーキルをしてしまったことを話した。
「生半可な攻撃で倒せないからとはいえグングニル刺しちゃって申し訳なかったわね。」
レミリアが言うと勇儀は豪快に笑いながら返した。
「あっはっは!別に構わないさ。鬼は丈夫な身体と怪力が取り柄だからね!あと二、三本刺さったって平気さ!」
「いやあと少し遅かったら手遅れだったわよ。貴女達妖怪は私達と違って不死じゃないのだからもう少し自分達の身体の限界を知りなさい。」
永琳が冷静に言い放つと勇儀は少し気まずそうな顔をしたがそれでもなお豪快に笑い飛ばす。
「はは…そうか。まぁそれでも私の身体は丈夫だからちょっとやそっとで死なないのもまた事実だ。気にすんな!……ん?何だあれ?」
勇儀はそう言って空を指差した。レミリア達も顔を上げて見ると寄生霊が次々と妖怪達の中から抜け出し袿姫の元へ集まっていく。
「寄生霊達が袿姫のところに集まっている…?一体どうして…。」
永琳が呟くとレミリアが答えた。
「恐らく袿姫は本来の力を取り戻しそうとしているのよ。寄生霊はもともと袿姫の力を分け与えたもの、そいつらを吸収して今一度一つになろうとしているのよ!そんなことになったら霊夢達だけじゃ絶対敵わないわ…とにかく私達も行くわよ!」
「あぁそうだな!早速行くぞ!」
「アタシも行くよ。」
妹紅達が向かおうとすると勇儀も立ち上がり言った。永琳は静かに勇儀の事を止めた。
「待ちなさい、貴女さっきまで生死の境を彷徨っていたのよ?傷は治ったとはいえ無理は禁物、貴女にはここで怪我人が出た時の手伝いをしてもらうわよ。」
「でも…!」
「でもじゃない。医者の言う事には素直に従っておきなさい。寿命を縮めたくないなら、ね?」
永琳が言うと勇儀は渋々引き下がった。
「それじゃあ私達も行きましょう!」
レミリアがそう言うと二人は袿姫達の元へ急いだ。
ーーーーーーーーーー
紫は弾幕を撃とうとして動きを止めた。その直後紫の身体から紅い寄生霊が抜け出した。
「あら、紫の動きが止まった…というより操られていたのが治ったのかしら…?」
アリスは結界を解き言った。輝夜は寄生霊を目で追いながら弾幕を一つ寄生霊にぶつけてみた。しかし寄生霊は傷一つつかずに袿姫の居る方へ飛んでいった。
「あの寄生霊…やっぱり他の個体よりも大きい力を持っているみたいね。あいつ袿姫のところに戻ろうとしているのかしら…?どちらにせよ向こうの方で何かしら起こったのは間違いなさそうだし私達も向かいましょうか。」
「そうね。それじゃあ行きま…。」
「あっちはさとりちゃん達に任せて、私達は少しお話をしましょうよ。ねぇ?アリスちゃん?」
声が聞こえると同時にアリスの肩に手が置かれる。アリスは誰か分かると同時に金縛りにあったように身体が動かなくなった。アリスは震える声で尋ねた。
「何で幻想郷(ここ)に居るの…?ママ。」
ーーーーーーーーーー
寄生霊は袿姫の右手に掲げられた魔法陣に次々と吸い込まれた。比例して袿姫の力がどんどん増してゆく。
「さとりさん!これ止めないとマズイやつですかね!?」
「マズイと思いますよ、現に埴安神の力がどんどん上がってますからね…。とにかく弾幕撃って止めましょう!」
さとりはそう言うと弾幕を連射した。早苗もそれに続き弾幕を撃ちまくる。しかし袿姫は自身を結界で覆い弾幕は届かなかった。その間にも寄生霊は袿姫の元へと集まる。それに合わせるように霊夢の身体から紅い寄生霊が抜け出した。最後に霊夢と紫そして勇儀を操っていた二体の紅い寄生霊と一体の黒い寄生霊が魔法陣に吸い込まれると魔法陣と結界は消え去った。代わりに袿姫の身体を赤黒い不気味なオーラが纏う。袿姫は満足そうに微笑んで言った。
「久しぶりに私の身体に力が満ちているのを感じるわ。まさか寄生霊を回収しないと勝てないとは思っていなかったけれど…ふふっまあ良いわ。貴女達をねじ伏せた後でまた一から私の信者を集めれば良いのだから。それじゃあ…お互い最後の戦いとしようか。もう博麗の巫女の力も幻想郷の賢者の力も借りない。私自身の力を見せてあげるよ!!」
袿姫はそう叫ぶと彫刻刀をしまい代わりに土と水で剣を創り出した。その剣も禍々しいオーラに覆われていた。ちょうどその時レミリアと妹紅、そして霊夢と魔理沙が到着した。
「まさか私が操られるとは思ってなかったから油断したわ…。みんな迷惑かけたわね。」
霊夢は苦々しげに呟くと魔理沙が笑って言った。
「ははっまあ久しぶりに本気でやりあえたんだしいい機会だって思えばいいさ!」
魔理沙の言葉に早苗も頷く。
「そうですよ!それに紫さんの方がよっぽど迷惑かけてましたよ!あの人に比べりゃ霊夢さんなんて可愛いもんですよ!」
「私が何だって???」
早苗達の後ろから声が聞こえた。そこには正気を取り戻した紫が輝夜を連れてスキマで移動してきていた。紫は扇子で扇ぎながらこめかみを少しピクピクと動いており確実にキレている。
「あわわ…い、いやなんでもないですはい!ほんと何でもないんです!」
早苗は慌てて言った。そんな様子を桂姫はぽかんと眺めていたがハッと我に返り創り出した剣を弾幕のように撃ち出した。紫は剣を全てスキマで飲み込み言った。
「あら、アイツのことすっかり忘れてたわ。早苗は後で説教するとして…。」
「え!?」
紫は扇子をパチンと閉じる。
「あの邪神を退治してこの異変に終止符を打ちましょう!」
紫がそう言うと霊夢達は一斉に攻撃を仕掛けた。
「よくも私も操ったわね!さっさとくたばっちゃいなさい!霊符『夢想封印』!!」
袿姫の周りにはカラフルな弾幕が数え切れないほど現れ全て袿姫に向かっていった。袿姫は咄嗟に土を周りに張り巡らせ弾幕を防いだ。
「危ない危ない…最初から飛ばすわね〜それじゃ私も本気で相手しようか!出でよ、我が偶像達!!」
袿姫が叫ぶと周りにいくつもの魔法陣が現れそこから弓や剣を持ったり馬に乗ったりしている多種多様な埴輪が召喚された。埴輪達は一斉に攻撃を開始した。
「くっ、一体一体はそんなに強くないけれど流石に数が多すぎるわね…はぁ!」
レミリアは汗を拭いながらグングニルで埴輪達を薙ぎ払う。しかし倒しても倒しても埴輪達は身体を修復し、再度襲いかかってきた。
「うわ、こいつら自分達で身体直すのかよ!」
魔理沙は身体を直す埴輪を見て悲鳴をあげる。袿姫は自信満々に言った。
「ふふっこの子たちは貴女達がどんなに壊しても自分達で身体を修復出来る。要するに不死身よ。この子たちがいる限り私が負けることは無いわ!!」
「不死身…ねぇ。そこまで言うならば、私達の力を見せてあげましょうよ妹紅。本当の不死身ならこのくらいの攻撃乗り切れるはずだものね。」
輝夜が言うと妹紅もふっと笑って返した。
「あぁそうだな。それじゃあ私から行かせてもらうぞ。」
妹紅は両手に不死鳥の炎を纏わせ叫んだ。
「紫!!輝夜以外を少し離れたところに移動させてくれ!!今すぐだ!!」
「…?分かったわ。」
紫はそう言うとスキマで輝夜以外全員を少し離れた場所に移動させた。
「よし…それじゃあ輝夜、自分の役割はわかるな?」
「分かるわよ。伊達に永い間殺し合いをしてないもの。貴女のやりそうな事は大抵想像がつくわよ。私だから出来る芸当ね。」
輝夜が答えると妹紅は満足そうに笑うと輝夜もろとも辺り一帯を焼き払った。
袿姫は慌てて避けたが埴輪達は全て巻き込まれた。埴輪はたちまち水分が全て飛びカピカピになり固まった。
「まさかとは思ったけど…本当に焼き払うとは思わなかったよ。それに味方を巻き込んで一体何を考えているのかしら…?ん?あの人影は…!」
袿姫が呟いた瞬間舞い上がる炎を二手に割り中から輝夜が現れた。
「やっぱり妹紅の炎は高火力ね〜。それじゃあ後始末後始末♪」
輝夜はそう言うと固まった埴輪を一体一体弾幕で砕いていった。
「おお、凄いですねあの人たち。長い付き合いなだけあって息ぴったりですよ!」
さとりは感嘆の声をあげた。紫も頷き言った。
「あの人達は少なくとも幻想郷が出来る前から居るからね。相当長い付き合いなのでしょうね。私も霊夢とあれくらい凄い連携してみたいわ〜。」
「全くそんな事言ってないで私達も戻るわよ!」
霊夢はそう言って戦いに戻っていった。魔理沙はニヤニヤしながら紫に言った。
「ははっ紫振られちまったな。まあ霊夢には紫みたいな年寄りも私みたいな若い女子が似合うってもんだぜ!」
「……魔理沙本気でビンタするわよ?」
「……すんません。」
レミリアは二人のやり取りを見て呆れて言った。
「全く、今は幻想郷が一大事なのよ?もう少し緊張感を持ちなさい。」
レミリアは言い終えるとグングニルを抱えて羽根を広げた。
「じゃ、じゃあ私達も行きましょうか!」
「そ、そうですね!」
さとりと早苗はそう言ってレミリアの後を追いかける。その後ろを紫と魔理沙もついていった。
「まさかとは思っていたけれど貴女達やっぱり蓬莱人だったのね。だからこんな常人だったら骨も残らないような炎の中でも生きていられた。それにしてもまた全部壊されちゃったか〜…。」
袿姫は埴輪達のいた場所を見つめながら言った。その声は落ち着いていたが激しい怒りを感じさせた。ピリつく空気が漂う中にレミリアが到着した。
「あら、てっきり二、三体は残ってるかと思ったのだけれど全部壊したの…。」
グングニルを抱えたレミリアは言いかけて口をつぐんだ。輝夜は少し微笑んでレミリアに言った。
「あら、やっぱり紅魔館の主といえど神の怒り前だと流石に気圧されて口が回らなくなるかしら?」
「別にそんなことないわよ。…ただこの…何て言えば良いのかしらね。上手く言葉では表せないけれど理性を無くし暴れ出す寸前のような雰囲気を感じるとどうしても嫌な気分になるのよね。」
「私は分かりますよ、レミリアさんの気持ち。」
背後からさとりが声をかける。レミリアが振り向くとさとり達も追いついていた。レミリアは優しく微笑んだ。
「あら、貴女には伝わるかしらこの気持ち。ふふっ立場が似ているからかしらね。」
「そうかもしれませんね。この異変を終えたら一緒にお茶会でもいかがですか?…もちろん妹達を見守れるところで。」
「良いわねぇ~。じゃ、早く終わらせましょうか!」
レミリアはそう言うと袿姫のように魔法陣をいくつも作り出した。
「出でよ!我が眷属たち!!」
レミリアが叫ぶと魔法陣の中から次々とこうもりが召喚された。それらは一斉に袿姫に向かっていった。
「このくらい私の敵じゃないよ!」
袿姫はそう叫び創り出した剣でこうもりをどんどん貫きあっという間に全て倒した。
「私の埴輪に比べたら随分と頼りない眷属ね。…ま、私の頼りになる埴輪はもう全部壊されちゃったけどね!!」
袿姫はそう言うとレミリアに弾幕を放つ。禍々しいオーラを纏ういくつもの剣がレミリアを襲った。
「こんな弾幕じゃ私には当てられないわよ!」
レミリアはグングニルで剣を次々と打ち払う。しかしレミリアは弾幕を打ち払うのに夢中で剣を片手に襲いかかってくる袿姫に気づいていなかった。
「まずは一人。」
袿姫はそう呟くとレミリアに斬り掛かった。
「…!!」
レミリアは咄嗟に腕で剣を受け止めた。幸い袿姫は剣を使い慣れていなかったのか腕が斬り落とされることはなかった。それでもレミリアの腕からは大量の血が噴き出す。
「くっ、高貴な私の血液を無駄にするな!!」
レミリアはそう叫びグングニルを薙ぎ払う。グングニルは袿姫の脇腹に当たったが傷がつくどころか吹き飛ばすことすらできなかった。
「なっ…!」
レミリアは絶句した。袿姫はにやりと笑うとレミリアの腹に弾幕を撃ち込んだ。レミリアは咄嗟に構えてダメージを軽減したがそれでも派手にふっ飛ばされた。
「それじゃあ…次は誰にしようかな?」
袿姫はそう言い周囲に剣の弾幕を出現させた。
ーーーーーーーーーー
「何でここにいるの?ママ…!」
アリスは震える声で言った。神綺はいつもと変わらぬ笑顔で答えた。
「ちょっと魔界でいくつかアイテムが盗まれちゃってね。それを探しにはるばる幻想郷まできたのよ。最初はアリスちゃんに顔を見せる気はなかったのだけれどね〜。色々あってアリスちゃんのことを見たらもう一個目的が出来ちゃったのよ。」
「…目的って?」
アリスはドギマギした声で尋ねる。神綺は表情を一切変えず答えた。
「決まってるじゃない!貴女と一緒にお家へ帰るのよ〜!またみんなで暮らしましょうよ、ね?」
アリスはやっぱりかという顔をして返した。
「嫌よ。今更あそこへ戻る気はさらさらないわ!それにママにもっと強くなれ強くなれって言われる日々もうんざりよ。私はもっと私自身のペースで暮らしたいのよ!それに私はもう幻想郷の住人よ。この充実した生活を捨てる気もないわ。」
アリスがキッパリ言い放つと神綺はここへきて初めて悲しげな表情をした。
「ああん…アリスちゃんそんなこと言わないでちょうだいよ。私もあれから随分反省したから。もう強くなれとか急かさないから、ね?アリスちゃんには強さ以外にも素敵なところがいっぱいあるのママ知ってるから。」
「本当かしら。」
「本当よ〜。それにアリスちゃんにはいずれ私のあとを継いでほしいとも考えてるのよ!」
アリスは怪訝な顔で言った。
「ママ寿命あって無いようなもんなんだから私があと継ぐことないじゃん。」
「ずっと生き続けるからってずっと仕事したいわけないじゃない。私だってむこう千年くらい休みたいのよ!だからやってちょうだいよ〜。」
「別に私がやんなくても夢子達がいるじゃない。それにあっちの方が私より年上なんだしあいつら差し置いて私が魔界のトップになったら怒るんじゃないの?」
アリスがめんどくさそうな表情をしながら聞くと神綺は自信たっぷりに答えた。
「それなら大丈夫よ!夢子ちゃん達に聞いたら『アリスなら安心して任せられる。すぐに連れてきて。』って言ってたから!」
「くっそあいつら…面倒事だと思って私に押し付けたのね…。とにかく!私は家出をしたの!だから家にも帰らないしママのあとを継ぐ気もないの!」
「そんな…。」
神綺はアリスに縋ろうとしたがアリスは冷たくあしらって言った。
「それじゃ、私は霊夢達に加勢しにいくから…って、え?」
アリスは絶句した。その視線の先では霊夢達が満身創痍だった。袿姫の本気は霊夢達、そしてアリスの想像を遥かに上回っていたのだ。
(私がママを無視してさっさと一緒に戦っていればこんなことに…!)
そんな思いがアリスの全身を駆け巡る。しかしそれと同時にこのまま行ったら自分もやられてしまうのではないか。助けに行きたいけれど怖い。でも行かないと。そんなアリスの葛藤をよそに袿姫は不敵な笑みを浮かべて霊夢の首を右手で掴み締め上げていた。
「博麗の巫女…大層な肩書きの割にはあっけなくやられたねえ。」
霊夢は袿姫を睨みつけ言った。
「あんた…こんな姿を磨弓や埴輪、人間霊達に見せられるの…!?」
「見せられないさ…。見せられるわけがないし私自身も見たくない。」
袿姫はポツリポツリと言った。右手にはより力が込められる。
「だけど私がやらなくてもいずれは誰かがやるさ。今回霊長園が襲われたみたいに幻想郷の誰かが幻想郷の誰かを傷つけるかもしれない。そんなところを見たくもないし私の子達に見せたくもない。ならば私が支配して管理をするしかないのよ!!」
袿姫はそう叫び霊夢を宙に放り投げた。魔理沙は慌てて霊夢を受け止めて箒の後ろに乗せた。その様子を見たアリスは激しい怒りを覚えた。アリスは弾かれたように袿姫の方へ向かう。しかしアリスの前にはなんと神綺が立ち塞がった。
「ママ!何やってんの!?今はそれどころじゃなくないのわかるでしょ!?」
「…わかるわよ。」
「なら早く…!」
「わかるからこそ、この状況を利用することに決めたのよ。本当はこんな手段親としては取りたくない。だけどアリスちゃんの帰らない意思がそこまで固いならば私もそれ相応の覚悟を示す行動をしないといけないと思ったのよ。」
神綺はいつになく真剣な眼差しでアリスを見つめる。
「アリスちゃん。貴女が家に帰ると言うまでここをどかないわ!」
「は、はああああ!?何言ってんのよ!いいから早くどいて。」
アリスは叫んだ。しかし神綺は頑なに退こうとしない。
「ごめんね…でももう私にはこれくらいしかアリスちゃんが帰ってきてくれそうな手段が思いつかなかったの。だからお願い、帰ると言って?」
「…さっきも言ったけど私は今の生活を捨てる気はない。だけど魔理沙達を見捨てる気もない。なら残された手段はたった一つ。」
アリスの体が紫のオーラに包まれる。
「力尽くでママをどかすわ!!!!」
アリスが叫ぶとアリスの身体は妖しげな光に包まれる。そしてアリスの髪は紅く染まり目の色は金になり背中からはこあのような翼が生えた。
「あらアリスちゃん、その魔族の姿嫌ってなかった?」
「嫌いなのは今も同じよ。でもね、この姿をかっこいいって言ってくれたバカもいるのよ。そんな人たちを助けるためなら別に吹っ切れるわ。」
「ふーん、でもその姿になったって私には勝てな…」
神綺がそこまで言いかけた時にはアリスは神綺の懐に潜り込んでいた。アリスは右手に魔力を込めながら言った。
「勝てなくても退かすくらいの威力はあるわよ。」
その瞬間アリスの右手からは紫の光線が放たれた。
「きゃああ!?」
神綺はいきなりの出来事に対処ができずに呆気なく吹き飛ばされた。
「…ごめんね、ママ。」
アリスは呟くと全速力で霊夢達の方に向かった。神綺は腹を抱えながらも嬉しそうに呟く。
「まさか私が吹き飛ばされるなんてね…。本当に強くなったのね、アリスちゃん。」
ーーーーーーーーーー
「次はお前だ。神様気取りのさとり妖怪。」
袿姫はそう言うとさとりに向かって剣の弾幕を放つ。さとりが剣を避けようとしたその時。
「くっ。」
さとりの身体に激痛が走る。神と等しい力をただの妖怪の身体で使った反動が今来たのだ。さとりはあまりの激痛に動けなくなった。
「…!危ない!」
紫は叫び咄嗟にスキマで剣を全て吸い込み妹紅は落ちていくさとりを受け止めた。それを見た袿姫はにやっと笑った。
「ついに神気を使い続けた反動がきたようだね。私の勝利が目前に迫ってきたよ。それじゃ、そろそろ終わりにするか。」
袿姫は満身創痍の面々を見回しながら言うと一際大きな魔法陣を作り出した。
「フィナーレよ!『トランスヒューマナイズ』!!」
袿姫が片手を挙げると魔法陣の中から何体もの埴輪が突撃してきた。
「危ない!」「危ない!」
霊夢と早苗は同時に飛び出し二人で結界を張った。しかし一つ一つ破られる。
「どうしましょう霊夢さん…。このままじゃ…!」
「口を動かす元気があるならもっと結界張りなさい!」
霊夢は叫んだはいいものの心の中は早苗と同じ不安でいっぱいだった。結界はどんどん破られ残り三枚、二枚、一枚…最後の結界が破られそうになったその時。
「私の親友に何すんのよおおおお!!!」
叫び声と共に紫の光線が放たれた。その光線は埴輪たちを次々焼き払う。
「なっ…!」
袿姫は焦りと怒りの混在する表情で光線の撃たれた方を見た。光線の発射元には紅い髪をなびかせる金色の瞳の少女がいた。
「霊夢、魔理沙、みんな…お待たせ!」
霊夢達は声のした方を一斉に見た。
「アリス!?」「アリス!?」「アリスさん!?」
アリスはふっと笑うとグングニルによく似た槍を魔力で顕現した。やはり色は禍々しい紫のオーラを放っているがどこか明るくも見えた。
「さぁ、行くわよ袿姫!」
アリスは槍を構えて袿姫に突進する。
「そんな見え見えの攻撃当たるわけないだろう!!」
袿姫はそう言うと土で壁を作り出す。それを見たアリスは空中で身体を捻り回転力を生みだすとその勢いで土の壁に槍を振り下ろす。
「はああああああああ!!!!」
アリスはそのまま土の壁を縦に一刀両断した。
「!?」
袿姫は咄嗟に剣で受け止めた。槍と剣はぶつかり合い互いに火花を散らす。袿姫は少し余裕の表情を浮かべた。
「おや、魔界育ちの割には力が弱いのね。それに神の娘なのに神気もまだ宿ってないのねぇ…。それじゃあ人間となんら変わりはないし私に勝てないわよ!」
袿姫はそう言いながら槍を弾く。アリスは槍を構え直し笑って言った。
「人間となんら変わりはない…か。ふふっありがとう袿姫。今の私にとって最高の褒め言葉よ!」
アリスは袿姫に向かって槍を投げた。槍は一直線に袿姫に向かっていく。袿姫は再び土の壁を作り出し槍は土の壁に突き刺さった。槍は刺さったまま溶けるように消えた。と同時に袿姫の上からアリスの声が聞こえた。
「これで終わりよ!!」
アリスは叫ぶと掌から光線を撃った。
「……!」
袿姫は土の壁を作り出そうとしたが間に合わない。その光線は真っ直ぐ突き進み袿姫を飲み込んだ。
「す、すげぇのぜ…。」
魔理沙達はあまりにも次元の違いすぎる戦いを前に言葉を失った。
「あれだけの威力なら流石に袿姫も倒せたかしら…?」
霊夢は袿姫のいた場所を見ながら言った。そこにはもうもうと土ぼこりが舞っておりよく見えなかった。紫は霊夢達とともに土ぼこりを見守っていたが何かに気づいたのか声をあげる。
「いいえ!まだよ!!」
「…え?」
その時突然土ぼこりの中から交差した斬撃波が飛んできた。それは土ぼこりを晴らすと共に妖怪の山の一部を砕いた。土ぼこりの中からは禍々しいオーラを全開にした袿姫が両手に剣を携え現れた。身体からは煙が上がっている。
「はぁ…はぁ…だから言ったじゃないの。人間となんら変わりはない貴女に神である私は倒せないのよ!」
袿姫は不敵な笑みを浮かべながら言うと一瞬でアリスの元に近づいた。
「なっ…!」
アリスは慌てて槍を構えようとしたが時すでに遅し。袿姫の剣はアリスの肩に振り下ろされる。今のアリスはいつもより防御力は高いので腕が斬り落とされることはなかったもののそれでも肩から血が噴き出す。
「ぐぅぁ…!」
袿姫はその勢いでアリスを下に叩き落とした。
「アリス!!!」
魔理沙はアリスの下に箒を滑りこませ受け止めた。
「これで終わりよ!!」
袿姫はアリス達に向かって斬りかかる。
「させないわ!」
レミリアが間に入りグングニルで受け止めた。ちょうどその時フランと咲夜も到着した。
「お嬢様大丈夫ですか!?」
咲夜は叫び袿姫の手にナイフを投げた。ナイフは袿姫の手の甲に刺さった。
「くっ!」
袿姫は小さくうめき声をあげると剣を握る手の力が抜けた。
「はぁぁぁぁ!!」
レミリアはその一瞬の隙を逃さず袿姫の剣を弾き飛ばした。袿姫の剣は宙を舞いながら土となり崩れ去った。
「だいじょーぶ、お姉さま?」
フランは相変わらずどこか呑気な声でレミリアに尋ねた。妹の顔を見たレミリアは少し表情が緩んだがすぐに気を引き締め言った。
「大丈夫よ。それじゃ、フランに咲夜。来て早々で悪いのだけれどあいつの相手をしてもらうわよ。」
レミリアはそう言いながら袿姫を指差した。袿姫はナイフを抜き手の甲に土を塗り込んだ。たちまち土は袿姫の傷を塞いだ。彼女はふっと笑い言った。
「人間と吸血鬼が一人増えたくらいじゃ私は倒せないわよ。頼みの綱らしき魔族ももうまともに戦える状態じゃないわ。それでもまだ醜く足掻くのか?」
「別に私は醜く足掻くつもりもないし私達だけで貴女を倒せるとも思ってないわよ。」
「…どういうつもり?」
レミリアの意味深な発言に袿姫は怪訝な表情で聞いた。レミリアは不敵な笑みを浮かべ続けた。
「こんな状況ならこんな状況なりの戦い方があるという事よ。早苗!!今すぐアリスの治療をして!奇跡の力なら出来るでしょう?それと霊夢と魔理沙はこの戦いからアリスを守って!あと妹紅!貴女はさとりと場合によってはアリスも連れて隙を見て永琳のところに戻って彼女達とともに守矢神社に向かいなさい!残りは私と一緒に袿姫を抑えるわよ!」
レミリアの号令でそれぞれは持ち場に向かった。
「大人しく回復などさせるものか!!」
袿姫は叫び剣の弾幕を撃ち出す。しかしアリス達の前にはスキマが立ちはだかり弾幕を全て飲み込んだ。スキマは袿姫の背後にも現れると飲み込んだ弾幕を袿姫目掛けて撃ち出した。
「…!」
袿姫は慌てて土の壁を作り出し自身の弾幕を防いだ。紫は扇を口元に当てながら言った。
「私も幻想郷の賢者と呼ばれた大妖怪…。たとえ神に勝つことが出来なくとも、時間稼ぎくらいなら余裕よ。」
フランもレーヴァテインを振り回しながら楽しげに言った。
「わーい!時間稼ぎ時間稼ぎ〜♪もしかしたら勢い余って貴女のこと、壊しちゃうかもね?あははははー!!」
レミリア達も各々武器を構えた。その様子を見た袿姫は忌々しげな顔をして剣を構える。
「この期に及んでまだ神の邪魔をしたこと…後悔しても遅いからね。」
ーーーーーーーーーーーー
「うぅ……。」
アリスは肩を抑え呻いている。肩の傷は致命傷というほどではないがそれでも出血が止まらない。
「アリスさん大丈夫ですか!?今治療をしますから!」
早苗はそう言い奇跡の力で傷を癒した。アリスは魔理沙の腕の中で小さな声でうめいていた。
(あぁ、もしこの場に居るのが私じゃなくてママだったらとっくに決着ついてたのかしらね…。もし私にもママの神気があればもしかしたら…。)
そんな事を考えながら奇跡の力の治療を受けているところにさとりも妹紅に支えられながら近寄ってきた。
「アリス…さん。大丈夫…ですか?」
アリスはうっすらと目を開けてさとりを見た。と、同時に何か懐かしい気にもなった。
「さとり、その力はもしかしてママ…神綺からもらった…?」
アリスはさとりに尋ねた。さとりは震える声で答える。
「はい…でも私の身体はもうこの力に耐えきれないみたいです…。身体中が痛すぎてもう満足に戦うことも出来ません。」
アリスの表情はみるみる明るくなる。まるで雨雲の切れ間から次々と光が差し込むように。
「さとり、その力私にちょうだい。私なら…その力を最大限に活かしてこの戦いを終わらせられる。」
「え…でもアリスさんも既にボロボロじゃないですか…その状態じゃこの力に耐えきれないんじゃ…?」
「大丈夫。私なら絶対に大丈夫だから、ね?」
アリスは真っ直ぐな眼差しでさとりを見つめる。さとりもアリスの目を見ながら頷いた。
「…わかりました。それでは手を。」
さとりはそう言いながら右手を差し出す。アリスがその手を握るとさとりの身体から互いの手を通じてアリスの身体へと神気が流れ込む。
(あぁ…やっぱり身体によく馴染むわね。小さかった頃を思い出すわ。)
さとりから全ての神気がアリスに渡り終えるとアリスの身体は白いオーラに包まれた。
「うん…うん…やっぱりよく馴染むわ。」
アリスは手を握ったり開いたりしながら呟いた。
「それじゃあ…後は任せました。どうか…どうか地底の皆の敵を討って下さい…!」
さとりは目を潤ませて言った。
「それじゃ私はこいつを連れて永琳のところに行くよ。後は頼んだぞ!」
妹紅はそう言うとさとりを抱え永琳の元へと向かっていった。
「アリス、そろそろ一人で飛べそうか?」
「ええ、もう大丈夫よ。ありがとうね魔理沙、それに早苗も。」
アリスはそう言い魔理沙から離れた。早苗は心配そうにアリスを覗き込み言った。
「一応出来る限りの応急処置を施しましたが完全に治せるというわけではないので無理は禁物ですよ。」
「分かってるわ。」
アリスはそう言うと魔力で再び槍を顕現させる。霊夢はお祓い棒を構え言った。
「それじゃあ皆準備はいい?」
「当たり前なのぜ!」
魔理沙もミニ八卦炉を構え答えた。
「これ終わったら例によってまた宴会開きましょうね~!」
早苗は呑気な声で言う。霊夢は呆れた顔で言った。
「全く、元はと言えばあんたが霊長園に乗り込んだのが原因なんだからもっと緊張感持ちなさいよね。」
半ギレ霊夢をアリスは苦笑いしながらなだめる。
「まあいいじゃないの霊夢。このくらい呑気な方がこっちの緊張もほぐれるわ。それじゃあ、行くわよ!」
ーーーーーーーーーーーーー
「禁忌『レーヴァテイン』!!」
フランが得意武器を手に袿姫に攻撃を仕掛ける。しかし袿姫はそれをひらりとかわし弾幕を撃ち出す。
「これならどうかしら? 神宝『蓬莱の玉の枝-夢色の郷-』!!」
輝夜は袿姫に向かって七色の弾幕を撃ち出す。しかしそれもひらりひらりとかわされてしまう。紫は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
「袿姫の力が戻って反射神経も動体視力も上がってるわね…。それに…。」
紫はそう呟くと扇を一振りした。すると袿姫の周りにいくつものスキマが開き袿姫目掛けて大量の弾幕が撃ち出された。常人なら避けきることはまず不可能だろう。しかし袿姫はそんな弾幕の嵐すら華麗に避けきってみせた。
「やっぱりスピードも天狗並に上がってる…。この速さじゃ攻撃の当てようがないわね…。」
「なら、動きを止められれば良いのね?」
紫が呟いた後ろでレミリアが言った。紫は後ろを振り返り怪訝な顔をして言った。
「確かに動きを止められれば攻撃が当てられるけれど…貴女にできるのかしら?」
紫の問いかけにレミリアはふっと笑って返した。
「動きを止めるのは私じゃなくて咲夜よ。」
レミリアが言うと紫はまたも怪訝な顔をしてレミリアに言った。
「でもあの子の能力は特定の誰かだけの時間を止めることはできないはずでしょう?一体どうやって…」
「そんなの見ればわかるわよ。と言うわけで咲夜、いらっしゃい。」
レミリアが呼ぶと咲夜は一瞬でレミリアの真横に現れた。
「はいお嬢様。ご用件は何でございましょうか?」
「相変わらず早くて助かるわ。ちょっと袿姫の動きを止めて欲しいのよ。」
「承知いたしました。」
咲夜はそう言うとまた一瞬で姿を消した。こそこそ話す様子を見ていた袿姫は不敵に笑って言った。
「ははっ何を企んでいるのか知らないけど、貴女達がどんな小細工を仕掛けても私には勝て…。」
言いかけた袿姫の周りには幾千ものナイフが袿姫を狙っていた。
「なっ…!?」
袿姫は一瞬の出来事に絶句した。どのように動いてもナイフに刺さってしまう。それを見たレミリアは満足気に頷き自分も袿姫に向けてグングニルを放つ。ナイフに囲まれた袿姫はグングニルを避けることが出来ずに直撃した。その後にナイフも次々と袿姫に刺さる。紫は少し驚いた表情で言った。
「確かにこれなら動きようがないわね…。しかし、まさかただの人間がここまでやるとはね…。」
それを聞いたレミリアはまるで自分のことのように嬉しそうに言った。
「ウチの咲夜は完璧で瀟洒なメイド長だからね。そこらの人間と一緒に考えてもらったら困るわ。まぁ…これなら致命傷とまではいかなくてもそれなりの手傷は…」
「負わせられたと思った?」
レミリアの背後から袿姫は言った。その手には袿姫の作り出した剣が握られている。レミリア達は驚愕の表情で振り返る。
「なっ、じゃああそこにいるのは!?」
レミリアは慌てて袿姫のいた方に視線を送る。しかしそこにはグングニルとナイフの刺さった土が浮いてるだけだった。
「これでようやく一人目ね!!」
袿姫はそう叫びレミリアの首目掛けて切り掛かる。レミリアは攻撃を防ごうにもグングニルが手元にないので防げない。
「お嬢様!!!」
咲夜は叫び時間を止めて助けに行こうとしたが間に合わない。刃先がレミリアの首に当たるその時鋭い音と共に袿姫の剣が弾かれた。
「はぁぁ!?」
袿姫は怒りの声を上げレミリアを睨む。レミリア自身も何が起こったかわからないと言う顔をして首を触った。レミリアの首元には小さな結界が張ってある。その時どこからか霊夢の声が響いた。
「みんな待たせたわね!!」
袿姫達は声のした方を見ると霊夢達が全速力で飛んできていた。袿姫は目を血走らせ叫ぶ。
「また…お前達かぁぁぁ!!」
禍々しい剣の弾幕を彼女達に向けて撃ち出す。しかしアリスが素早く飛び出すと槍を構え全ての弾幕を叩き落とした。袿姫は間髪入れずに全方位に剣弾幕を放つ。あまりの攻撃の激しさにアリス達は攻撃を防ぐので精一杯だった。
「くっまずは袿姫の攻撃を止めない事にはこちらから攻撃も出来そうに無いわね。」
レミリアはそう呟くとコウモリを召喚した。コウモリは袿姫の顔の周りを飛び回り視界を奪った。
「何よ、こいつらは!!」
袿姫はコウモリを追い払うのに必死で攻撃がやんだ。
「皆、今よ!」
レミリアは叫びながらグングニルを構えて突撃した。袿姫は視界の端で突撃してくるレミリアを見ると咄嗟に土の壁を作り出した。その壁も禍々しい神気のオーラを纏っていた。
(また、土の壁…。これくらいの厚さなら容易く貫ける!)
レミリアは勢いをつけてグングニルを土の壁に突き立てる。しかしグングニルは刺さるどころか傷一つつけられなかった。
「…!?」
レミリアは絶句した様子を見て袿姫はコウモリを追い払いにやりと笑った。
「忘れたのかい?高密度の神気を纏わせた物は傷を付けられない。」
土の壁はどろりと溶けるとレミリアの腕に絡みつく。
「あっ…。」
レミリアは腕を振り何とか土を断ち切ろうとするが粘り気のある土が余計に絡みついてくる。袿姫は両手に携えた剣を自身の前で重ね合わせた。すると剣もどろりと溶けた。双剣は粘土で工作をする具合に混ざり合い一つの大剣となった。
「そして武器を高密度の神気で纏ったらどんな盾でも防げないのよ!」
袿姫は高らかに叫び大剣をレミリアに振り下ろした。絶体絶命と思われたその時、アリスはレミリアと大剣の間に一本の槍を割り込こませた。白いオーラを纏ったその槍は大剣を弾き返し同時にレミリアに絡みついていた土も全て断ち切った。アリスは槍に付いた土を一振りで払い飛ばした。アリスは神気の力を強めながら言った。
「高密度の神気を纏わせた物はどんな武器でも傷付けられない。高密度の神気を纏わせた武器はどんな盾でも防げない。なら高密度の神気を纏わせたこの槍で高密度の神気を纏わせた物を攻撃したらどうなるのかしらね?」
「試してみるかい?」
そう言うと袿姫は大剣に今まで以上に力を込めだした。と同時に袿姫の周りのオーラもうねりだし、それはまるで竜のように見えた。
「それじゃあ行くよ!!」
袿姫は大剣を構えアリスに斬り掛かった。アリスは槍で大剣を防ぐ。辺りには火花が散り空には金属音が鳴り響いた。霊夢達はあまりにも大きな力のぶつかり合いに近づく事すら出来そうになかった。
「凄い…これが神の気と神の気を持つ者同士の戦い。」
紫は戦いを眺めながら呟いた。霊夢もあまりの迫力にぼんやりと眺めていたがハッと我に返り皆の方を向き言った。
「皆!私達もあれを始めるわよ!」
「おう、やるのぜ!」
魔理沙の返事を合図に一斉に持ち場に飛んでいった。霊夢の言った“あれ”とは何なのか。それは数分前、霊夢達が袿姫の元へと向かっている途中にアリスの言葉がきっかけだった。
ー数分前。
「ねぇ、皆ちょっと待って。」
アリスの呼びかけに霊夢達は振り向き止まった。
「どうしたんですかアリスさん?早く皆さんのところに行かないと…。」
「そうなんだけど、その前に少し作戦を立てたほうがいいと思うの。」
アリスが言葉に霊夢も頷いた。
「確かにそうね。それで作戦って何か考えがあるの?」
「えぇ、まずは…。」
アリスはそう言うと説明を始めた。
ー「なるほどな。私達の役目は大体分かったのぜ!」
「それならよかったわ。じゃあ行きましょうか。」
ー霊夢と早苗はアリスと袿姫の戦う周りを紫のスキマで移動しながら御札で囲っていった。
(まずは、アリスが袿姫の気をいい感じに引いてる間に私達で結界を作るための下ごしらえをする。)
霊夢達は武器のぶつかり合う音が響く中せっせと御札を設置していった。やがて設置し終わったのを確認した魔理沙はミニ八卦炉を空に向けた。
「恋符『マスタースパーク!!』」
マスタースパークは雲を突き抜け離散した。
(設置し終わった合図!時間稼ぎもここまでね!)
アリスは袿姫の攻撃を受け止めると腹に一発蹴りを入れ大剣を弾き返した。
「かはっ…!」
袿姫は腹を抑えて少しよろけた。アリスは間髪入れずに槍を振り下ろし袿姫の片手を切り飛ばす。袿姫は切り飛ばされた部位を抑えながら呻いた。
「ぐぅ…あ…!はぁ…はぁ…こんな事しても無駄な事くらい…知ってるでしょ…!?このくらいの傷ならいくらでも治せるのよ。」
袿姫はそう言いながら失った手を土で作り始めた。その様子を見ながらアリスは微笑んで言った。
「それくらいの傷なら治せる事くらいよく分かってるわよ。その傷はこれからすぐ治せないレベルの傷を与える前準備よ。」
「貴女何を言って…?」
「そんなの今に分かるわよ。霊夢達!頼んだわよ!」
袿姫が困惑した表情を浮かべた瞬間アリスの背後にスキマが開いた。それはアリスを飲み込むと瞬く間に消えた。袿姫はますます困惑する。するとだいぶ離れたところからアリスの声が響いた。
「袿姫!これは私からのアドバイス、戦闘中は常に周りにも気を配ることね!」
「…!」
袿姫はハッとした顔で周りを見渡した。周囲には先ほど霊夢達が設置した御札同士が袿姫を白玉楼の庭程の広さで囲うように霊力で結ばれている。それはまるで大きな結界のようだった。
「こんな結界ごとき…直ぐに壊せるよ!」
袿姫はそう言いながら剣の弾幕を結界の一部に向けて放つ。しかし弾幕は全て結界に弾かれた。というより当たった事実すら無いようにも感じた。
「せっかく霊夢達が頑張って作った結界だもの。そんな簡単に壊されちゃったら困るわよ~。」
輝夜は扇をひらひらさせながら笑った。袿姫は輝夜を睨み言った。
「貴女まさか…この結界に永遠の魔法を掛けたのね?」
「あら、よくわかったわね。流石に長生きの神様ってところかしら、博識ね。まさかこの魔法を知っている者が永琳以外で居るとは思っていなかったわ〜。」
輝夜は扇をひらひら仰ぎながら笑って言った。輝夜の言葉に紫以外はぽかんとした表情になった。
「永遠の魔法…って何よ。一体私達の結界に何したの?」
霊夢が尋ねたが輝夜はクスクス笑うだけで答えようとはしなかった。
「まあいいじゃないの。そんな事を話すために袿姫を閉じ込めた訳ではないのでしょう?早く倒すわよ。」
霊夢はあまり納得いかなかったが輝夜の言う事ももっともなので渋々袿姫に向き直った。
「こんなところに閉じ込めたくらいで勝った気になるのは少し早いんじゃないのかい?第一結界というのは本来敵の攻撃から自分の身を護るもの…これで私を閉じ込めている限り攻撃を当てられないわよ。」
袿姫がそう言うと紫はくすりと笑い言った。
「あら、そんな事無いわよ?」
紫は扇をパチンと閉じ扇で宙を裂くような動きをした。すると大きめのスキマが結界の内外に一つずつ開いた。
「これなら、結界の外からでも攻撃を当てられるわよ。さあ、これで本当にラストスペルにするわよ!」
紫の言葉を合図に魔理沙が先陣を切り攻撃を始めた。
「恋符『マスタースパーク!!』」
白い光が袿姫に向かって襲いかかる。
「そんな攻撃当たらないと何度試せば分かるの!?」
袿姫はそう言いながら自身の前に大きな土の壁を作り出した。白熱光線は壁に阻まれ袿姫には届かない。袿姫は高らかに笑いながら言った。
「ほらご覧。どんな攻撃も私のこの土の絶対防御の前では無力なのよ!」
「そんなの分かってる!アリス頼んだのぜ!」
「任せなさい!」
魔理沙が叫ぶと後ろからアリスが槍を土の壁目掛けて投げた。白いオーラを纏った槍はマスタースパークを裂きながら土の壁に突き刺さった。壁にはヒビが入り少しずつ広がっていき遂には砕け散った。壁を突き抜けた槍は真っ直ぐ袿姫に向かっていく。袿姫は槍を避け苦々しく言った。
「まさか…私の神気を纏わせた壁を破るとはね。でも壁で防げないなら避けるだけ…うん?」
袿姫は周りを見て少し違和感を覚えた。先程袿姫が避けたはずの槍がどこにも見当たらない。
「一体…どこに…?」
「お探しのモノは…これかしら?」
レミリアの声が聴こえたと同時に袿姫は既に槍で貫かれていた。
「…!?」
それは先程袿姫が避けた槍だった。
「なっ…。何でお前が…ここに。それにその槍はあいつの…。」
「貴女、聞いたことないかしら?鬼の力に天狗の速さを持つ種族…吸血鬼について。油断している貴女に気づかれず槍を回収して貴女を貫くなんて容易い事よ。それにこの槍、グングニルに似てるから凄く使いやすいのよ。」
「く…そ…でもお前くらいどうにでも出来…。」
袿姫が言いかけた瞬間彼女をレーヴァテインが貫いた。
「私一人だけで戦っているわけじゃないのは、最初から分かっていたことでしょう?よくやったわ、フラン。」
そう言いながらレミリアはレーヴァテインを持つ手に自分の手をそっと添えた。
「今回の異変はなかなか楽しめたわ。これでもう終わりかと思うと少し寂しいけれど…ま、どうせすぐにまた異変は起きるだろうし貴女の異変はここで終わらせちゃいましょ!」
フランは楽しげに言うとレーヴァテインを握る手に力を込めた。
「そうね。早く帰って咲夜の淹れた紅茶を飲みながら羽を休めるとしましょうか。」
レミリアも微笑みながら言うと槍を握る手に力を込める。袿姫は歯を食いしばりながらレミリアの手を掴み言った。
「勝った気になるのは…まだ早いんじゃないの…?」
「あら、そう言う貴女は早く負けを認めたら?」
「うる…さい!」
袿姫はレミリアの手を掴んだまま右手に剣を顕現させレミリアの首目掛けて斬り掛かった。しかし剣は首に当たった衝撃で砕け散った。
「ほらご覧なさい。もう貴女にはその剣を維持するだけの魔力も私の首を刎ねるだけの力も残ってないわよ。」
「そんなの…私が一番…分かってるわよ。それでも最後まで戦ったあの子達の…磨弓達の為にも諦めるわけにはいかないのよ…!」
袿姫はそう言いもう一度剣を顕現し今度はフランの腕に突き刺した。しかし剣は砕け散った。
「ん〜?貴女理解力が無いのね。そんな事したって無駄な事くらい…。」
フランは言いかけてふと自分の腕に目をやった。その細く白い腕に一筋の紅い液体が滴っていた。
「へぇ…。私の腕に傷を付けるなんてね。前言撤回よ。この世界に無意味な事は無いわ。貴女のその行動も最後の醜く無意味な足掻きに見えたけれど…。」
フランは紅い液体を指ですくい取り一口舐めて続けた。
「結果として貴女の行動は私に流血をもたらした。場合によってはこれが勝利への糸口になったかもしれないわね。でも今回は…。」
フランは右手を静かに握り手の中にある「ナニカ」を潰すように力強く握りしめた。すると袿姫の右腕は弾け飛んだ。袿姫は声を上げる力すら残って無いのか辛そうに肩を抑えた。レミリアはフランをたしなめるように言った。
「それくらいにしなさい。彼女を倒す運命にあるのは私のグングニルだけよ。」
レミリアの言葉にフランはつまらなそうにそっぽを向いた。
「グングニル…だと?」
袿姫はレミリアの言葉に力を振り絞って反応した。
「お前の今持っているのは…グングニルじゃないじゃないの…。」
「ええ、それがどうしたの?」
「なら、どうやってグングニルで…?」
袿姫の言葉にレミリアはため息をついて言った。
「まさか私達の攻撃がトドメだとでも思ってたの?これはあの娘達の最後の一撃の為の時間稼ぎに過ぎないわ。」
レミリアはそう言って上を指差した。その指の先にはグングニルの槍先を上に向け神気を込めるアリスと自身の魔力や霊力をグングニルに注ぎ込んでいる面々が居た。
「あれは…!」
袿姫は目を見開き呟いた。レミリアは袿姫の呟きを無視してポケットからスマホを取り出し霊夢に電話をかけた。
「そろそろ…準備出来たかしら?」
「えぇ、こっちはいつでも大丈夫よ。」
霊夢もスマホを口元に当てながら言った。レミリアは満足気に頷いて続けた。
「思っていたよりは早かったわね。巻き添えを食らわないように私達は離れるから、そしたらグングニルを叩き込みなさい。」
「分かったわ。それじゃあまた後で。」
霊夢がそう言うと電話は切れた。レミリアはスマホをポケットに仕舞うとフランにも声をかけた。
「そういう事だから、私達はスキマを通って外に出るわよ。」
「は〜い!」
フランはレーヴァテインを放し一足先に外に出た。レミリアも外に出ようとしたがふと思い出したように袿姫の方を向いた。
「貴女の運命の先が、明るいものであることを願ってるわ。」
それだけ言いフランの後を追って外に出た。
レミリアとフランが外に出たのを確認したアリスは槍先を袿姫に合わせた。
「それじゃあ、あの結界はもう要らないわね〜。」
輝夜は扇子をひらひらさせながら言うと結界にかけられた永遠の魔法を解いた。結界のせき止められていた時間が一気に流れ出し結界は瞬く間に砕け散った。アリスは羽を広げ叫んだ。
「これを本当に最後の一撃にするわよ!!」
アリスは皆の想いと力をグングニルに乗せ袿姫に突進した。グングニルは紅く輝いており、まるで一筋の流星のようだった。
「…ごめんね、磨弓。」
紅い閃光は袿姫を貫き幻想郷中を明るく照らした。
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おまけ
〜紅魔の素敵な住民たち〜
長生きの秘訣の巻
「お嬢様達って、弱点結構ありますよね?」
咲夜が紅茶を注ぎながらレミリアに尋ねる。レミリアは紅茶に映る月を眺めながら答えた。
「確かに流水や銀のナイフ、それに日光とか色々あるけど…いきなりどうしたの?もしかして、咲夜も紅魔館の主の座に君臨してみたくなったのかしら?」
そう言って肘掛けをぽんぽん叩いた。咲夜は慌てて手を振りながら答えた。
「い、いえそういうわけでは…。ただ、少し気になったんです。」
「ふむ、というと?」
レミリアは紅茶を口元に運びながら興味深そうに尋ねた。
「あまりこういう言い方は良くないですが、そんな弱点だらけでなぜ今まで生き残ってこれたのですか?」
「なんだ、そんなことが気になってたのね。いいわ、教えてあげる。」
レミリアはティーカップを置くと咲夜に向き直った。
「と言っても私達がここまで生き残った理由の大半は身体能力や生命力がそこらの妖怪と比べて桁外れに強い、これに尽きるわね。」
「身体能力や生命力…ですか。」
「そう、鬼の強さに天狗の疾さを併せ持つ吸血鬼は殺したって死なない。昔はそう言われて恐れられたものよ。」
レミリアはそう言ってお茶菓子のクッキーをつまんだ。
「確かに吸血鬼という種族の異常なまでの身体能力や生命力ならどんなに弱点があっても勝てる人はそうそう現れませんね。」
「そう。貴女達人間が目が見えないで生まれたのなら聴力や触覚が超人的に進化し”目が見えない“という弱点を補うように、これも私達吸血鬼という種族があらゆる弱点を補う為に進化の過程で手に入れた力よ。」
話を聞いた咲夜は頷きながら言った。
「だからここまで生き残ってこれたのですね。…。」
レミリアは咲夜の顔を覗き込み優しく微笑み尋ねた。
「まだ、何か聞きたいことがありそうね?」
「…!ふふっお嬢様に隠し事は無理ですね。…。」
咲夜はハッとした顔でレミリアを見つめ、少し言いづらそうに続けた。
「確かにお嬢様がここまで生き残ってこれたのは紛れもなくその身体能力や生命力が大きいのでしょう。…だからこそ不思議なのです。何故それ程までに強い吸血鬼がこの幻想郷には貴女方お二人しかいらっしゃらないのですか?」
咲夜はレミリアの目を見つめながら恐る恐る尋ねた。レミリアは一瞬目を逸らしたがすぐに咲夜に目を合わせ直し答えた。
「確かにこれだけ強ければ弱点が多いとは言えもう少し多く幻想郷に居ても良いはず、そう思うわよね。貴女の予想通りここに来る前…そして咲夜と出会う前にはもっと多くの吸血鬼がこの館には住んでいたのよ。ならば何故幻想郷には私達しか居ないのか…。それは吸血鬼は最強の種族であるという『自信』が仇となったのよ。」
レミリアはティーカップに入った紅茶を飲み干すと自分の対面の席を指差した。
「そこに座りなさい。少し長くなるけれど昔話をしてあげる。我々吸血鬼がどのように生き、そして…どのように散っていったのか。」
咲夜はレミリアに促されるまま椅子に腰掛けた。今宵も永くなりそうだ。