「私の見た限りだと確かこの辺に…。」
そう呟きながら椛が木々の隙間から顔を出した。
「最近は変なことばかり起きますね…。この前も妖怪の山が何者かに襲撃されたし、今日はいきなり空に紫さんのスキマが開いたと思ったら空からは弾幕が降ってくるやら色んなとこの妖怪が降ってくるやら、挙句の果てにはこの辺に紅い流星が落ちてくるし…。これが世紀末ってやつなのかな…?」
椛はぶつぶつ呟きながら進んで行くと少し拓けた場所…というより辺り一帯が燃え尽きたクレーターを見つけた。
「うわぁ…これはひどいですね。一体空で何が起こってたんでしょう…?」
椛はそう言いながら被害状況を確認しようとクレーターの中に降りた。
「これは、後で飯綱丸様に報告しないとな〜。これを整備するのも私達なんだろうからやめてほしいですね。…うん?」
椛はクレーターの中心に少し埋もれた人影と突き刺さったグングニルを見つけた。どちらも椛にとって見覚えの無い顔だった。
「この方達は…?うわ酷い怪我ですね!見た感じ片方は小悪魔さんに似てますし…紅魔館の方々でしょうか…?」
「あー!いたのぜ!」
椛が独り言を言いながら歩いていると魔理沙の声が響き渡り彼女が椛達のところに降り立った。
「ま、魔理沙さん!どうしてここに!?」
椛は驚き目を丸くした。魔理沙はスカートをパンパンはたくと椛に向き直った。
「おう椛、久しぶりだな!お~い皆、こっちなのぜ!」
魔理沙は空に向かって叫んだ。少しして夕陽の方角から霊夢達の飛んでくる影が見えた。霊夢はアリスを見るなり直ぐに駆け寄り抱き起こした。
「アリス、大丈夫!?」
「大丈夫ですよ霊夢さん。怪我はしてますがお二人共命に別状は無さそうですよ。」
椛の言葉に霊夢はほっと胸を撫で下ろした。
「それで…この小悪魔さんみたいなのがアリスさん…なんですか?それに…このもう一人の方は誰なんですか?」
椛は不思議そうな表情で尋ねた。
「あ〜話せば長くなるんだがな…。」
魔理沙が説明しようとした瞬間袿姫がうめきながらふらふらしながら立ち上がった。
「うぅ……。」
「!?」
袿姫に気づいた魔理沙達は慌てて武器を構える。袿姫は
片腕を抑えながら言った。
「私が立ったくらいで大袈裟ね…。」
霊夢は右手にお祓い棒、左手に御札を構えながら言った。
「当たり前でしょ。あんた自分のしてきた事を思い出しなさいよ。」
「それもそうね。」
袿姫は少し微笑み続けた。
「でも、私にはもう貴女達と戦う力も意志も残ってないわよ。」
袿姫はそう言いながら霊夢達によろよろとにじり寄る。「なら何故私達の方に来るのかしら?戦わないならそこで横になってればいいじゃない。」
レミリアはグングニルを構えながら言った。袿姫は立ち止まると顔を上げ呟くような声で言った。
「…貴女達と戦う気は、もう無い。けれどね…。」
袿姫は彫刻刀を懐から取り出す。彼女の表情はもはや正気とは思えないほど崩れていた。
「そこの守矢の巫女だけは私の手で仕留める!」
そう叫ぶと袿姫はレミリアの横をすり抜け早苗目掛けて彫刻刀を振りかざす。霊夢達は咄嗟の出来事に身体が動かなかった。
「!?」
早苗は迫る彫刻刀を前に身体が固まってしまった。彫刻刀が眼前に来たその時、早苗の顔と彫刻刀の間に誰かの手が差し込まれた。彫刻刀はその手に阻まれ早苗の顔には傷一つ付かなかった。
「造形神が破壊神を差し置いて壊そうとするなんていい度胸ね。」
「はぁ…。私には些細な復讐すらさせてくれないのね。フランドール。」
袿姫はそう呟くとまた地面に倒れた。手の主、フランは刺さった彫刻刀を抜き取り捨てた。彫刻刀は地面に着く前に粉々に崩れ去った。フランは手の傷が塞がるのを見ながら言った。
「復讐も何も…早苗は貴女が思ってるような悪い事は何もしてないって話じゃないの。そうよね、早苗?」
フランはそう言いながら早苗の方を向いた。早苗はぶんぶん首を縦に振って言った。
「勿論ですよ!分社を作るために畜生界辺りを少し開拓しただけで袿姫さんには多分迷惑かけてないですよ!」
魔理沙は怪訝な表情を浮かべ言った。
「お前の言う『開拓』がどの程度のものかは知らんが…もしかしたらお前の方が悪いかも…な?」
早苗は泣きそうな顔で反論した。
「魔理沙さんなんてことを言うんですか!?私はただ守矢神社を広めようとして…!」
「いや、早苗が開拓途中で袿姫の埴輪達に無意識の内に変な術かけた可能性もあるわよ。なんせ守矢神社は幻想郷に来て早々、私に喧嘩売ったくらいだしね。」
「れ、霊夢さんまで〜!うぅ…誰か〜私の事信じてくれる人は居ないんですか〜?」
「私は信じてあげるわよ〜早苗ちゃん?」
早苗が必死に弁明しようとした時何処からか声が聴こえた。霊夢達は辺りを見回す。すると空からふわりと神綺が降り立ち袿姫に近づいた。
「…!神綺じゃない…。」
袿姫はそう呟くと半身を起こした。神綺は袿姫の前まで行くと目線を袿姫に合わせる為にしゃがんだ。
「あらあら、こんなにボロボロになっちゃって…。」
神綺はそう言いながら袿姫の頭を撫でた。袿姫は下を向き消え入りそうな声で言った。
「私は…。とうとう磨弓達の仇を倒せなかった。」
「仇…ねぇ。それじゃあ聞くけれど、具体的に早苗ちゃんに何をされたのかしら?」
神綺が優しく尋ねると袿姫は顔を上げ、溜まった鬱憤を吐き出すように叫んだ。
「そんなの決まってるわよ!まずあいつは、私の聖域にあろうことか自分の神社の分社を建てようとしたのよ!でもそれだけなら別に私もここまでしなかったわよ。あいつは…あいつは…!」
「うんうん。落ち着いて話してご覧?」
神綺は優しく相槌を打つ。袿姫はより声を張り上げた。
「あいつは、私の埴輪達の…磨弓達の修復能力を奪ったのよ!!私から土地や信仰だけでなく…磨弓達を奪ったの!」
「だから違いますって〜!」
早苗は手を振り回しながら抗議する。しかし袿姫は無視して続けた。
「磨弓達を治す為には掛けられた呪いを解かないといけない…。その為にも守矢の巫女、早苗を仕留めないといけないの!分かったら邪魔しないで!お願いだから…。」
神綺はふぅとため息をつくと懐から淡く緑に光る宝玉を取り出して見せた。
「早苗ちゃん、この宝玉に見覚えは無い?」
「いいえ?それ何ですか?」
早苗が首を振ると神綺は少しの間早苗をじっと見つめやがて口を開いた。
「この宝玉はとある力が込められててね。それはこの宝玉の力を纏った状態で相手に切り傷なんか付けるとその傷が一生塞がらなくなるというものよ。元々は私のところで保管してたのだけど最近誰かに盗まれてね…。本当に全ての元凶が早苗ちゃんならこの宝玉に見覚えないはずはないのだけど見たことないって言うんだから袿姫の言う『仇』は他に居るはずよ。」
「ちょっと待って。それって今回の異変を意図的に仕組んだ奴が他に居るってこと!?」
今まで黙って聞いていた霊夢が声を上げた。神綺は静かに頷き続けた。
「ええ、そうなるわね。それが誰なのかも何処の人なのかも分からないけど少なくとも私達にとっても幻想郷にとっても好意的で良い存在とは思えないわ。」
神綺はいつもの笑顔ではなく重々しく真剣な表情で言った。神綺の言葉に袿姫はショックを受けたように言った。
「私はそいつの掌の上で踊らされてたってこと…!?私の神としての力も霊長園を護る埴輪兵団も良いように利用されたってこと…!?」
神綺は静かに頷いた。袿姫は悔しげに地面を殴った。
「…私から磨弓達だけじゃなく、時間も奪った事…後悔させてくれるわ。」
袿姫は唇を噛み締めながら立ち上がろうとした。しかしこれまで受けたダメージに加え早苗に襲いかかった時に受けた反動で既に彼女の身体はボロボロだった。
「うぅ…く…。」
袿姫の全身を激しい痛みが襲い袿姫はその場に再びしゃがみ込んだ。神綺は袿姫の背中をさすりながら言った。
「その身体じゃたとえ元凶が分かっていたとしても無茶よ。」
袿姫の言葉にレミリアも頷き言った。
「神綺の言う通りね。あの一撃を叩き込んだアリスが反動だけで今も気絶したままなのだからそれを直撃した貴女は生きてるだけでも奇跡に近いのよ?今は大人しくしてなさい。」
魔理沙はレミリアの言葉にピクリと反応し、早苗にさり気なく近づき肩を叩いた。
「なぁ早苗。お前もしかして…?」
早苗は魔理沙の顔を見つめて少し微笑み答えた。
「だってあのまま何もしなかったらあの人は本当に消滅したかもしれないじゃないですか。私は現人神様ですからね。例え敵でも見捨てたら守矢の名が廃るってもんですよ。」
そう言いながら早苗はニカッと笑った。
「神様の懐は広いねぇ。」
魔理沙も早苗に釣られて微笑んだ。神綺はニヤニヤ笑っている早苗達を不思議に思いながら袿姫に尋ねた。
「何でそこまでして今すぐ倒そうとするの?まだ相手がどこの誰なのかも分かってないのだから傷だらけの貴女は大人しく療養すべきじゃ無いのかしら?」
「そんな悠長にしてる暇はないわよ!」
袿姫は再び地面を殴りつけ叫んだ。
「磨弓達の呪いを解くためには…掛けた黒幕を倒すしかない。だからこそ!一秒でも早く元凶を…!」
袿姫はそこまで言うとケホケホ咳をした。神綺は袿姫の背中をさすりながら優しい声で言った。
「そういうことなら、掛けた本人を倒さなくても宝玉の呪いは解く方法はあるわよ。」
「…!そうなの?」
袿姫は目を輝かせて聞いた。神綺は静かに頷き続けた。
「えぇそうよ。やる事は至って単純。」
そう言いながら袿姫の前に宝玉を差し出した。
「これを壊すだけよ。」
「そうなのね。それじゃ早速…。」
神綺は宝玉を受け取ろうとした袿姫からさっと宝玉を遠ざけ言った。
「誰が貴女に壊せるなんて言ったのよ。これは並大抵の力じゃ壊す事は出来ない代物なのよ。」
神綺がそう言うと霊夢がお祓い棒を構えながら言った。
「なら私が壊してあげるわよ!私の夢想封印で一撃…!」
「その程度の威力じゃ到底壊せないわよ。」
神綺は霊夢の言葉をピシャリと遮る。霊夢はしょぼんとした顔になった。神綺はそんな霊夢をよそに淡々と続けた。
「この宝玉は私達神の力でも壊せないほどの耐久性を兼ね備えてるのよ。だから力技で破壊するのは到底不可能なのだけど…。」
神綺はそう言いながら宝玉をフランの右手に乗せた。
「貴女の破壊の能力ならきっと壊せるわ。やってくれるかしら?」
「うん!」
フランは元気良く返事をすると宝玉を左手に持ち替えると右手にモノを持ってる様に握り始めた。
「…うん。『破壊の目』は握れたわね。それじゃ…。」
フランは独り言を呟きながら拳を軽く閉じた。
「きゅっとして…。」
思い切り拳を握りしめる。
「どっかーん!!」
その瞬間宝玉は砕け散った。宝玉のあった場所には緑の光がほのかに光っていたがやがてその光も消えた。フランは両手をパンパンはたきながら言った。
「はい、いっちょ完了〜!」
「うんうん、フランちゃんお疲れ様〜。ありがとうね!」
神綺はそう言いながらフランの頭を撫でた。フランは撫でられながら得意気に笑った。
「これで…また磨弓達を治せるの?」
袿姫はフランを撫でている神綺に尋ねた。神綺は撫でている手を止め振り返り答えた。
「えぇ、そうよ。それじゃ行きましょうか。」
神綺はそう言いながら手を差し出した。
「え…行くって…どこに?」
袿姫は戸惑いながら尋ねた。神綺はにこりと微笑みながら袿姫の手を握り言った。
「決まってるでしょ。磨弓ちゃん達のところ…霊長園よ。貴女はもう移動する力も無いだろうから私が連れてってあげるわよ!」
「え、えぇそうね!」
袿姫も釣られて微笑み手を強く握り返した。神綺は霊夢達の方を振り返り言った。
「それじゃあ私達はここでお別れね。また機会が会ったらどこかで会うかもしれないからその時はいっぱいお話ししましょ〜!それまではバイバイ!」
「え、あ、ちょっと待っ…!」
霊夢は突然の出来事に慌てて引き留めようとしたが時すでに遅し。神綺達はあっという間に姿を消した。霊夢は拳を力いっぱい握り締めながら叫んだ。
「…袿姫の野郎〜荒らすだけ荒らして逃げやがったわね!!」
「はは、まあ落ち着け霊夢。話聞く限りだとあいつも被害者っぽいしここは一つ寛大な心でな…。」
魔理沙はそう言いながら霊夢をなだめようとしたが霊夢の怒りは収まらない。
「〜〜あーもう!!こうなったのも元はと言えば早苗のせいよ!責任取って私に大人しくぶっ飛ばされなさい!」
頭を掻きむしりながら怒りの矛先を早苗に向けた。
「え〜何で私なんですか!?意味分かんないですよ!ひどいですよ!」
「結構妥当な判断だよな?」
「えぇ全くその通りね。」
魔理沙とレミリアは周りに聞こえない程度の声で話した。その間にも霊夢は早苗に向かってお祓い棒を振り回しながら追いかける。その影響で辺りの木々はなぎ倒された。
「霊夢さん早苗さんを追い回すのはやめてください!これ以上地形を変えて私達の仕事を増やさないでください!ちょっと魔理沙さん達も見てないで一緒に止めてくださいよ〜!」
椛は叫びながら霊夢を止めようとした。魔理沙達は顔を見合わせてため息をつくと霊夢の足元に箒を入れ込んだ。霊夢はバランスを崩してべしゃっと倒れ込んだ。
「な〜に〜すんのよー!!!」
霊夢は顔に付いた土を払いながら魔理沙を睨みつけた。普通の人なら恐怖のあまり腰を抜かしてしまうだろうがそこは流石の怖い物知らず。怯むどころか逆に霊夢に近づきながら言った。
「もうその辺にしとけ霊夢。早苗も十分反省しただろうし…なによりこんな山の中で暴れてたらあいつらが…。」
「お前達ー!山の中で暴れるな!!」
「あややー派手にやりましたね〜。」
魔理沙が言いかけると二つの影がそれぞれ青い髪と黒い髪をなびかせ降り立った。
「噂をすれば早速お出ましだな。」
魔理沙は笑いながら言った。青髪の大天狗、飯綱丸は霊夢達を指差しながら怒鳴った。
「全く、お前達はもう少し周りの事も考えないか!上空で袿姫とお前達が戦ってると聞いたから少し嫌な予感がして様子見してたが…案の定山にも弾幕飛ばしまくって山の妖怪達を危険にさらした挙句こんなでっかいクレーター空けて!大体お前達はいつもいつも…。」
飯綱丸の大説教をよそに文は荒らされた一帯の写真を撮って回った。
「あや〜これはこれは派手にやりましたねぇ霊夢さん達も。これは片付けるの大変そうですね。」
文は写真を撮るだけ撮ると翼を広げた。
「まぁ片付けるのは椛達ですし私は帰って明日の朝刊を作るとしますか!」
「待ってください。」
飛び去ろうとする文の翼を椛が鷲掴んだ。椛は文の肩に素早く手をまわすと恐ろしい笑顔で言った。
「もちろん、文様にも手伝って頂きますよ?」
「…ハイ。」
椛に引きずられて行く文を横目にレミリアは飯綱丸の説教を遮り言った。
「はいはい。なにはともあれ今回の異変は一旦は解決したのだからやる事があるんじゃないの?」
「やる事?」
レミリアの言葉に一同は首を傾げた。ピンとこない彼女らを見回し、レミリアはため息をついて続けた。
「毎度の事なのにわからないのかしら?異変解決を祝う宴…大宴会よ。」
「おぉそうか!」
レミリアの言葉に魔理沙は手を打って叫んだ。霊夢も目を輝かせ叫んだ。
「そうと決まれば早速準備しないとね!早苗、あんたのとこの神社でやるからお酒と食べ物をありったけ準備しときなさい!」
「え、えぇ〜!何で家なんですか!?」
早苗は目を見開いて声を上げた。霊夢はお祓い棒で早苗を指しながら言った。
「当たり前よ!あんたが原因でこんな事になったんだから!これでも足りないくらいよ!」
霊夢の怒号が飛び交う中レミリアが間に入り言った。
「まあ霊夢もそこまでにしなさい。早苗だって悪気は無かったでしょうしね。それに今守矢神社は永琳が居るとは言え怪我した妖怪やらの面倒見るので手一杯のはずよ。宴会の準備までさせたら早苗だけじゃなく諏訪子や神奈子にも迷惑よ。」
レミリアが優しく諭すと霊夢は不服そうに言った。
「じゃー宴会はどこでやるのよ。家は無理よ?お酒を用意する気力もお金も無いもの。」
霊夢が腰に手を当てながら言うとレミリアはくすりと笑い答えた。
「それなら心配要らないわよ?もう咲夜に宴会の準備は頼んであるわ。今頃はメイド達がつまみやワインの用意をしてくれてるはずよ。」
「そういやさっきまで居たのに咲夜居ねえな。時間止めて帰ってたのか…。ん?居ないと言えば輝夜達も何処いった?」
「輝夜達は眠いって言ってたから今頃永遠亭で寝てるんじゃないの?」
霊夢は少し呆れたように言った。魔理沙は苦笑しながら頭をかいた。
「なるほどな…。もう少し長く居れば宴会に来れたのに残念な奴らだ。あ〜私も時間まで家でだらだらするか〜。」
魔理沙は呑気な声で言った。つまらなそうに話を聞いていたフランも嬉しそうにはしゃいだ。
「わ〜い!ねえねえお姉さま、咲夜プリンも作ってくれるかな!?」
「フランが食べたいだろうし頼んでおいたわよ。バケツサイズのを作ってくれるらしいわよ。」
「やったーー!」
フランは跳ねながら喜んだ。その隣で霊夢もフランに負けず劣らずの声で尋ねた。
「ねぇレミリア!その宴会にはもちろん日本酒もあるんでしょうね!?」
「もちろんよ。」
「いよっしゃあ!!」
霊夢は思い切り拳を掲げガッツポーズをした。大はしゃぎの霊夢達を見ながらレミリアは付け加えた。
「それじゃあ皆暗くなったら紅魔館にいらっしゃい。今夜は飲んで食べて楽しみましょう!飯綱丸達も来るかしら?」
そう言いながら飯綱丸達の方に向き直った。
「ふむ…そうだな、私もお邪魔させてもらうとしよう。最近忙しくてろくに酒を飲めてなかったことだし、この機会に楽しませてもらうよ。」
飯綱丸はそう言って笑った。それを聞いた文も目を輝かせ言った。
「あやややーそれなら私も飯綱丸様の護衛という名目でお邪魔させてもらいましょうかね〜!」
「ちょ、文様!私達はまだ片付けが…。」
椛はそう言って文を睨んだ。椛の言葉を聞いた文は椛の顔の前で指を振りながら返した。
「いやいや椛。これも立派な、なんなら片付けより大切なお仕事ですよ?それに…本当は貴女も行きたいんじゃないですかぁ?」
そう言いながら椛の肩に手を回した。椛は少し顔を赤くしながらため息をついた。
「…紅魔館まで文様の背中に乗せてってくれるなら…行ってもいいですよ。」
「ふふっ決まりですね。後で飯綱丸様の屋敷前に集合ですよ!」
文はそう言うと翼を広げて一足先に家へ帰っていった。椛も飯綱丸達に一礼すると文に続くように自分の家の方へ駆け出した。
「…私の家勝手に集合場所にされた。まぁ良いか。それじゃ私も一旦家に帰るとするよ。典に夕飯は要らないと伝えないとだしな。また暗くなったら紅魔館で会おう。」
飯綱丸もそう言うと翼を広げ山頂の方へと飛んでいった。霊夢はお祓い棒を腰に差すとあくびまじりに言った。
「それじゃあ私も神社に戻るわ。ずっと弾幕打ちっぱなしだったから眠いわ〜…。少し寝るから魔理沙紅魔館行く時起こしに来なさいよ。」
「え〜めんどくせぇな…。自分で起きろよ。」
「良いから起こしに来なさい!」
「へぇへぇわかりましたよっと…。それじゃ私も一旦帰るとするかな。」
魔理沙は箒にまたがったところでふと何かを思い出したように後ろを振り返った。
「そうだそうだ忘れてたのぜ。お〜いアリス。いつまでもそこで伸びてないで帰るぞ〜。」
魔理沙はそう言いながらアリスの事を揺すって起こそうとした。しかしアリスは一向に起きる気配がない。
「これは、まだまた起きそうにないな…。どうしたものか。」
魔理沙が困り顔で言うとレミリアが口を挟んだ。
「それなら私が抱えて紅魔館まで運んで休ませましょうか?幸いベッドならたくさん空いてるし…。」
「いや、こいつは私が家まで箒で運ぶよ。どうせ方向は同じだしな!」
そう言いながら魔理沙はアリスを抱えて箒にまたがった。霊夢は見ながら心配そうに言った。
「ちょっと魔理沙、アリス落とさないように気をつけてよ!?ただでさえアリスも反動でダメージ負ってるんだから…。」
「大丈夫大丈夫任せとくのぜ!それじゃ、また後で。」
魔理沙はそう言うと全速力で飛び去った。
「あのバカ…あんな早く飛んだらアリス落っことすわよ!ちょっと魔理沙待ちなさい!私も心配だから付いてくわよ!」
霊夢も叫びながら全速力で飛び去った。二人の風圧で辺りには木の葉が舞い散った。
「ふふっ、あの二人はいつも元気ね。アリスを落とす運命も見えないし大丈夫そうね。それじゃフラン、私達もパチェの日焼け止めが落ちる前に帰りましょうか。」
「はーい!」
フランは元気よく返事をしてレミリアの元へ駆け寄った。二人は羽を広げると紅魔館に向かって飛び立った。
「ねえねえお姉さま、お家に帰ったら久しぶりに一緒にお風呂入りましょ!また昔みたいに背中流しっこして!」
「それじゃあ帰ったらお風呂沸かさないとね。」
そんな会話をしながら二人は夕陽の中に吸い込まれていった。
ーーーーーーーーーーー
妖怪の山から月が顔を出したころ紅魔館では着々と宴会の準備が進められていた。
「その長机はそっちの方に置いてその上にテーブルクロスを掛けなさい。あ、椅子は長机一つにつき4つずつ向かい合わせで置いといてね。え?ローストビーフどのくらい作るか?とりあえず5kg作っときなさい。余った料理は白玉楼に持ってくから全部多めに作っていいってお嬢様から言われてるからね。」
咲夜の指揮のもと妖精メイド達がせっせと料理や設営をしていた。紅魔館からは美味しそうな料理の香りが辺り一帯に漂っており近くに居たチルノがつまみ食いしようとジワジワと近づいた。
「ふっふっふ…。美味しそうなご飯がいっぱいあるな。どれどれこのサイキョーでパーフェクトなアタイが直々に味見してやろうじゃないか。」
「チ、チルノちゃんやめたほうが良いよ〜…。絶対怒られるよ。」
チルノの後ろで大妖精が心配そうに呟いた。チルノは後ろを振り向き親指を立てて言った。
「心配無いよ大ちゃん!ほんのすこーし味見するだけだからさ!へへっそれじゃ早速…。」
チルノは静かに手を伸ばした。
ヒュッ
その瞬間チルノの足元に銀色に輝くナイフが刺さった。
「おわあっと!!」
チルノはびっくりして大妖精に寄りかかった。大妖精はチルノを受け止めナイフの飛んできた方に目をやった。そこには指をポキポキ鳴らしながら笑っている咲夜がこちらを見ていた。
「今ウィスキー用の氷切らしちゃってたからちょうど良かったわ〜!その背中に着いてる氷…6つとも貰うわよ。」
咲夜は笑顔で近づいてくる。チルノは恐怖の表情を浮かべて後ずさった。
「ひっ…く、来るなー!ア、アタイの氷を使ったって美味しくならない…こともないかもしれないけどやめろ!」
叫びながら弾幕を飛ばしたが咲夜はひらりひらりと避けながらじわじわ近づく。
「さぁ、寄越しなさい?」
咲夜はそう言いながらナイフを構えた。
「う、うわぁぁぁ!?」
「チルノちゃんー!」
チルノはぎゅっと目をつぶり手を前に出した。大妖精も目を手で覆った。銀のナイフがチルノを襲うかと思われたその時、咲夜の腕を誰かが掴み言った。
「はーいストップ。」
「お嬢様…!」
咲夜は驚き振り返った。そこにはお風呂上がりのレミリアとその後ろですでにつまみ食いしているフランが居た。
「怖がらせるのはその辺にしときなさい。チルノの事だからただ匂いに釣られちゃったんでしょ。許してあげなさい。」
「…はぁ。全くお嬢様は甘いですね。まぁ…今回はお嬢様の顔に免じて見逃しますけど。」
咲夜はそう言いながらナイフをスカートの下にしまった。チルノと大妖精は額の汗を拭い立ち上がった。
「フランのねーちゃん助かったぞ!」
「ふふっ礼には及ばないわ。これからはちゃんと許可とってからつまみ食いしなさいよ?」
「おうっ!それじゃ大ちゃん行くぞ〜!」
チルノは叫ぶと空高く飛んでいった。
「あ、レミリアさん助けてもらってありがとうございました!待ってよ〜チルノちゃん!」
大妖精はぺこりと頭を下げるとチルノを追いかけて飛んでいった。
「あの子達はいつでも元気ね〜。」
「元気過ぎるのも困りものですけどね…。この前も庭で妖精メイド達と鬼ごっこしてましたし。」
咲夜は眉間にしわを寄せて言った。
「ふふっそれは困ったものね。さ、それじゃあ残りの準備も終わらせちゃいましょうか。私も手伝うわ。」
そう言いながらレミリアは腕まくりをした。
「…良いのですか?」
「えぇ、このままだと退屈だしね。」
「そういう事ならあちらの方がまだ椅子や食器を並べ終わってないのでお願いします。」
「なになに〜?私も手伝う〜!」
そう言ってレミリアの腕にフランが飛びついた。その光景を見て咲夜は微笑みながら言った。
「それなら妹様には私と一緒に料理を並べるのを手伝っていただきましょうか。」
「はーい!」
フランは元気よく返事すると咲夜の後ろをてくてくついて行った。
「…あの子も引きこもってた頃に比べていい笑顔をするようになったわね。やっぱり幻想郷(こっち)に来て正解だったわ。さてと、私もやる事やっちゃいますか。」
ーーーーーーーーーー
宴会の準備が終わった頃遠くの方に二つの影がこちらに向かってくるのが見えた。
「魔理沙さん御一行の到着なのぜっと。」
「御一行って…二人しかいないでしょ。」
そう言いながら紅魔館に降り立ったのは霊夢と魔理沙だった。
「いらっしゃい霊夢に魔理沙。まだ皆到着してないから先に飲んで待ってて良いわよ?」
レミリアはワインを片手に言った。
「あらそう?それじゃ私は日本酒でも頂こうかしら。」
「私はあっちの美味そうな肉食べてくるのぜ!」
そう言って二人は違う方向に歩いていった。その後も続々と到着し遂に大宴会が始まった。
「ほぅ…この白米は家の麦飯と違った味わいがあって美味しいな。今度紫殿に頼んで取り寄せてみるか…。」
飯綱丸はそう言いながら米粒一つ残さずかきこんだ。その後ろで文はメモ帳を片手に持ち霊夢達に取材をしていた。
「あやややー今回の異変はどのような経緯で起こったんですか?話を聞く限り造形神の怒りに触れて幻想郷に攻め入ってきたとか…。」
霊夢は持っていた日本酒を一気飲みすると険しい表情で答えた。
「ぜんっっぶ早苗のせいよ!!あいつ今回の異変は起こしたようなものよ!」
霊夢が言うと早苗は慌てて弁明を始めた。
「いやいや人聞きが悪いですよ!私は畜生界にも守矢教を布教しようとしただけで…。」
「ふむふむ…『東風谷早苗の強引な布教活動により造形神の怒りに触れたのが異変の始まり』と。」
文は二人の話を聞きながらさらさらとメモ帳に書いた。
「なるほどなるほど。それではどうやって追い返したんですか?やっぱり霊夢さんの力ですかね?」
「え?あ〜…それは…。」
「ほとんどはアリスのおかげなのぜ。私達だけじゃ歯が立たなかった。」
霊夢がバツが悪そうに口ごもっていると魔理沙がズバッと言った。文は意外そうな表情でメモを取りながら言った。
「へぇ〜今回はアリスさんの活躍で異変解決出来たと…。あの人が表立って戦うイメージがないのでちょっとびっくりですね〜。これは是非本人にも取材しなくては!」
文は興奮気味に言うとアリスの方に走っていった。アリスは少し離れたところでケーキを選んでいたが近づいてくる文に気付き顔をあげた。
「あら文じゃない。取材はもう終わり?」
「いえいえ、今度はアリスさんに取材させて頂こうと思いましてね。なんでも今回の異変解決はほとんどアリスさんの活躍によるものなんだとか。」
アリスは少し驚いたような表情で聞いた。
「そんな事…誰が言ったのよ。別に私一人の力で解決した訳でもないのに…。」
「いやいや私はアリスのおかげだと思うのぜ。現に袿姫にとどめさしたのもアリスだしな!」
文の後ろから魔理沙が叫んだ。
「おや、魔理沙さんも来たんですか。…とそんな事より造形神にとどめをさしたのもアリスさんだったんですね!ぜひその時の様子を教えてくださいよ!」
文の勢いにアリスは困った様に言った。
「教えてって言われても…そんな面白い話でもないと思うし覚えてない部分もあるのよねぇ。」
「あや〜そうですか…。覚えてる範囲で良いので教えてもらえませんかね?」
文はメモ帳片手にアリスの顔を覗き込んで言った。アリスはため息をつくと渋々承諾した。
「しょうがないわね〜。それじゃ教えてあげるわよ。」
「アリスが覚えてない部分は私が補填してあげるのぜ!」
「お二人ともありがとうございます!!では早速…。」
それからしばらく文は目を輝かせながら二人を質問攻めにした。二人は文に知られると面倒くさいのでアリスが魔族ということは伏せつつ答えた。聞きたいことを聞き終えた文は満足そうに言った。
「あやや〜取材協力ありがとうございます。これで明日の朝刊はいい記事が書けそうです!それではお二人とも、宴会楽しんでくださいね〜。」
文はそう言って離れようとしたがふと立ち止まり振り返って言った。
「そういえばもう一つ個人的に気になっていたことがあるのですが…。」
「あら、何かしら?」
アリスはケーキを頬張りながら言った。文は一呼吸置いて尋ねた。
「アリスさんが『魔界の神の娘』という話を耳に挟んだのですが…それは本当ですか?」
アリスは唐突な質問に驚き喉にケーキを詰まらせた。アリスは咳き込みながら尋ねた。
「ケホッケホッ…。そんなのデマに決まってるでしょ!一体誰がそんな事言ってたの!?」
文は胸ポケットにメモ帳をしまいながら言った。
「やっぱりデマ情報でしたか。実は家に帰る途中で白髪で長髪の方にお会いしましてその方から言われたんですが…幻想郷では見たことのない方だったので本当かどうか確認しておこうと思ったんですよ。いやー記事にしなくてよかったですよ〜!もしデマを記事にしたら文々。新聞の信頼はガタ落ちですからね!」
「文様いつまで取材してるんですかー?早く来てくださいよ〜このお肉美味しいですよ!」
文達が話していると遠くの方から椛の声が響いた。
「今行きますよ~。それではまた!」
「あ、ちょっとまだ話は…!」
アリスは走り出した文を止めようとしたが一瞬で姿を消してしまい間に合わなかった。
「はぁ…。まあどうせ文に教えたのもママのいたずらだろうし別にそんな気にすることも無いか…。魔理沙、私達ももっと食べるわよ!」
アリスはそう言うとケーキの乗ったお皿を魔理沙に渡して自分は新しいお皿を取って歩き出した。
「おいおいアリスまだ食べるのか?そんな食べたら次の日動けなくなるぞ。」
「良いのよ!今日はもうハメを外すって決めたのよ〜♪」
「はぁ仕方ないやつだな。私も今日はとことん付き合うのぜ!」
魔理沙はそう言うとアリスの後ろを楽しそうについて行った。その後も宴会は愉快な笑い声と美味しそうな料理の香りに包まれるのだった。
ーーーーーーーーーーーー
幻想郷上空、ちょうど袿姫達が戦っていた辺りに女性が一人浮かんでいた。彼女は長く白っぽい髪をなびかせながら下を見下ろし呟いた。
「“核”を崩すのは一筋縄ではいかないわね。…やっぱりこの世界を壊すには“特異点”を幻想郷にぶつけるしかないか。」
そう言うとポケットから白いネズミのような生物を取り出し妖怪の山の中に投げ捨てた。その生物は高所から落とされたのにも関わらず無傷で着地すると沢の方へと駆けていった。
「これだけでこの世界が壊れるとは思わないけれど…外の世界でも特異点中の特異点を持ってきたのだから多少の亀裂は与える事でしょう。」
女性は髪を耳にかけると不敵に微笑みを浮かべた。
「ふふっ。抗えるものなら抗ってみなさい博麗の巫女!そして幻想郷の住民達!貴女達の運命は私が破滅に導いてあげる!!」
高らかに宣言すると次の瞬間には姿を消していた。その夜幻想郷中に不穏な風が吹き乱れた。
Next Phantasm
…ふう。ようやく第一部書き終わったわ。本当だったら去年の間に終わらせようと思ったのだけどね。やっぱり初めての挑戦は何事も時間がかかるものなのかしらね。
「失礼しますお嬢様。紅茶をお持ちしました。もう小説は書き上がりましたか?」
あら、ありがとう。ええ、もう第一部は書き上げたわ。
「それは良かったです。…と、そういえばお嬢様。今にとりが面白そうなイベントを企画してるらしいですね〜。」
らしいわね。確か動画配信サイトを始めたからチャンネルを増やすために始めたのだったかしら。
「それですそれです!チャンネル登録者に応じて豪華景品を贈呈するってやつです!」
…もしかして貴女、投稿したいとか言い出さないわよね?
「流石お嬢様!長い間一緒に居るだけあって私の考えてる事なんか手に取るように分かるんですね!てことで一緒にやりましょうお嬢様!」
はぁ全く。貴女は言い出したら聞かないんだから…仕方ない。手伝ってあげるわよ。
「そうこなくては!それじゃあ早速動画の企画考えましょう!何が良いかな〜♪」
これから小説書きながら動画撮って編集…なかなかハードスケジュールね。…“動画配信サイト“を小説に登場させるのも面白いかもしれないわね。そうと決まれば少し書き足さないとね。
白いねずみは沢の近くにある建物の中に入り込んだ。その中ではにとりがパソコンと睨めっこしていた。
「…最終確認終了っと。ふぅーようやく出来上がったよ。」
にとりは目をこすりながら椅子の背もたれに寄りかかった。画面には不思議な文字列がいくつも並んでいた。
「とりあえずプログラムにはバグは見つからなかったし後はこれを皆のスマホに説明文といっしょにダウンロードするだけだね。ふふっ一体どんな動画が見れるのか…楽ひみはへぇ…。」
にとりはあくび混じりに言うと身体を伸ばした。
「んーあぁ駄目だ!徹夜で作り上げたから眠くてしょうがないや…。後は起きてからやるとしようかな。」
にとりは立ち上がり寝室へと向かった。その時にとりは気が付かなかったようだが足元を白いねずみが駆け抜け部屋に入りこんでいた。白いねずみはパソコンに映し出されたプログラムをじっと眺めるとねずみは怪しい光に包まれなんとパソコンの画面に吸い込まれた。画面は一瞬砂嵐のようなものが起こったが直ぐに元のプログラム画面に戻った。
…よし、こんな感じかしらね。次のお話ではこの動画サイトを中心に話を広げてみましょう。そうだ、このねずみっぽい奴にも名前付けておかないとね。う〜ん何が良いかしらね。インパクトが強くて何故か皆の頭の中に残り続けるような…そうだ!!
“純白の天使ラフレシア”
これならインパクトバッチリね。
「お嬢様〜!撮影始めますよー!」
…っとそろそろ行かなきゃね。それじゃあ…今度こそ。
Next Phantasm
おまけ
〜紅魔の素敵な住民たち〜
吸血鬼達の過去の巻
「これは、紅魔館から多くの吸血鬼達が一夜にして姿を消したそれはそれは怖いお話。」
ー約100年前、ヨーロッパのとある森の奥にそびえ立つ館の廊下を一人の赤い髪の少女が黒い羽を揺らしながら走っていた。少女は扉の前で止まると勢いよく開け放ち叫んだ。
「おいレミリア!パチュリーからの伝言でまたヴァンパイアハンターが攻めてきたらしいぞ!」
赤髪の少女はそう言いながら部屋の中に入った。部屋の中ではレミリアと呼ばれた少女が紅茶を飲んでいるところだった。レミリアはティーカップを置くと面倒くさそうな顔をして言った。
「また来たのね…。全く毎度毎度懲りない奴らね。どうせ返り討ちにされるのがオチなのに。まあ今回も貴女達に…。」
レミリアは言いかけて少し表情が曇った。しかし赤髪の少女は気づかずに続けた。
「まあそう言ってやるなよ。あいつらだって私達の首を取るのに一生懸命なんだろうからさ。今度も私と美鈴で対処してきてやるからレミリアはここで紅茶の続きでも飲んでな!」
赤髪の少女はそう言って笑った。レミリアは少し悩んだ末首を横に振った。
「今回は私もついて行くわ。なんだか…嫌な予感がするのよ。」
赤髪の少女は一瞬呆気にとられた顔をしたが直ぐに笑い飛ばした。
「嫌な予感?あははっ!何を心配してんだよレミリア。私達は最強の種族吸血鬼だぞ?しかも私はお前を除けば紅魔館最強の吸血鬼だぞ?何を心配する事があるんだよ!」
赤髪の少女はそう言ってレミリアの肩を叩いたがそれでも心配そうに言った。
「…見えたのよ。貴女が負けてしまいこの紅魔館が攻め入れられる運命が!」
レミリアがそう言うと赤髪の少女も少し顔を曇らせた。
「運命、か。レミリアは昔から運命が見えると言っては近い未来を言い当ててたな。」
「ええ、だから今回ももしかしたら…。」
レミリアが言いかけたのを遮り赤髪の少女は声を張り上げた。
「いや、それなら私自身の手でそんな運命壊してやるよ!私は最強種族なんだからな!」
「………そう。なら対処は頼んだわ。気を付けてね?」
「任せといてくれ!」
「彼女は自信たっぷりにそう言ったのよ。私も少し不安に思いながらも心の底では負けるわけない、そう思っていたの。今思えばその考えが、おごりが、全ての元凶だったのね…。」
「美鈴、門番お疲れ様。お前も気づいてるか?」
赤髪の少女はそう言いながら館から出てきた。美鈴は腕組みを解いて振り返った。
「おやまた貴女ですか、毎度ご苦労さまです。まもなく到着ってところですかね。」
赤髪の少女は右手を前に突き出し掌を下に向けた。すると地面の一部が赤く円形に光りその中から一本の剣が出てきた。赤髪の少女は中から剣を取り出すと峰を肩に乗せた。
「いつ見てもカッコいいですね〜その剣。肩に刃乗せてもケガしないんですか?」
「ん、ああこれ両刃っぽく見えるだろ?実は肩に乗せてる方は峰なんだ。」
そう言って赤髪の少女は肩に乗せていた方を指でなぞった。美鈴は目を丸くして感嘆の声を漏らした。
「へぇ~。何だか不思議な剣ですね。私は基本素手なのでそういう武器は扱えないので少し羨ましいです。」
「なら今度簡単な剣技を教えてやるよ。美鈴、運動神経良いしすぐ使えるようにはなるさ。…っとお出ましだな。」
二人の視線の先には一人の人影が銀の剣を構えてゆっくりこちらに向かって来ている。身長は子供ほどしかなかったが大人顔負けの殺気を放っていた。赤髪の少女は呆気に取られて言った。
「こ、子供…?こいつが奴らの送り込んだ刺客なのか…?」
「おそらくそうでしょう。しかし子供を送り込んで来るとは奴らもよっぽど人手不足なんですかね?」
美鈴は戦いの構えをとりながら言った。赤髪の少女は剣を構え直して答えた。
「そうかもしれないな。まあたとえ迷子だったとしても向こうが敵意剥き出しなんだから私は迎え討つまでだ。私たち二人なら余裕だろ!」
「そうですね。それじゃ行きましょう…。」
美鈴が言いかけた瞬間隣に居た赤髪の少女の服が裂け、血が吹き出し美鈴の頬に付着した。銀の剣を持った少女が一瞬で間を詰め、赤髪の少女を斬りつけたのだった。
「…は?」
美鈴達は最初何が起こったのか理解できなかった。その間にも子供は攻撃を仕掛けてきた。
「くっ…!」
赤髪の少女は二撃目は剣で弾いたが先程の傷が痛み追撃までは出来なかった。子供は銀の剣を構え直し再び斬りつけてきた。やはり見えない速さで間合いを詰められる。赤髪の少女は攻撃を受け流し何とか蹴りを一発入れて吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ。あいつ速すぎだろ。美鈴はあいつの動き見えたか?」
「いえ…全く見えませんでした。それこそ時間を止めて動いているとしか…。」
それを聞いた赤髪の少女は剣を持ち直し言った。
「…何としてでもここで食い止めるぞ美鈴。」
「ええ、もちろんです!」
二人は同時に攻撃を仕掛けた。剣の刃先と美鈴の拳が両側から子供に入りそうになった瞬間子供は忽然と姿を消した。
「この辺りは後で美鈴から聞いたのだけれどとにかく動きが素早かったらしいわ。彼女曰く貴女と同じように、時を操る能力を使っていたのではないかと言っていたけれど真相は今でも闇の中。そして…あの子達が恐れていたことが遂に起こったわ。」
「あいつ…!今度はどこから…。」
赤髪の少女はそう言って辺りを見渡した。しかしあの子供はどこにも見当たらない。美鈴は構えながら言った。
「見当たり…ませんね。一体どこに…?」
「きゃああああ!!」
美鈴が呟いた瞬間紅魔館の方から悲鳴が轟いた。二人は慌てて門の方を振り返ると館の扉が僅かに開いていた。
「まさか…!」
赤髪の少女は美鈴と目を合わせると急いで紅魔館内に戻った。二人が中に入ると辺りには血の匂いが充満しており何人もの吸血鬼達が倒れていた。赤髪の少女は倒れていた吸血鬼を抱き起こし叫んだ。
「おいお前ら!…くそっ!」
「…まずはこの方達を端に移動させて、その後奴を探して仕留めましょう。」
美鈴は言いながら吸血鬼を背負った。赤髪の少女も無言で頷き背負おうと力を込めた胸の傷が痛んだ。
「うくっ…。あいついい剣持ってるな~。傷が塞がらねえよ…。」
そう言いながら胸の傷を撫でる。本来吸血鬼の治癒能力ならこのぐらいの傷は直ぐに塞がるはず…。しかし銀の剣によって受けた傷だけは極端に治癒速度が遅くなっていた。美鈴はサッと駆け寄り言った。
「その傷ではこれ以上戦うのは無理です。後は私とお嬢様達に任せて貴女は妹様と一緒に地下に隠れていてください。さあ肩を貸しますからあいつが戻ってくる前に早く!」
美鈴は赤髪の少女を担ごうとしたが赤髪の少女は手を払うと剣を床に刺しそれを支えに自力で立ち上がった。
「いやこのまま最後まで戦うさ。」
「でもその傷では…。」
「私は大丈夫だ。それに…もう向こうは私と戦う気満々だぞ?」
そう言って指差す先には月明かりに照らされた子供が銀の剣を構えて立っていた。先ほどは暗くて分からなかったが髪は銀色に輝き背中あたりまで伸びていた。
「この時私はちょうどフランの部屋にご飯を運びに行っていたからヴァンパイアハンターが紅魔館内に侵入していることに気づくのが遅れてしまったのよ。今でもあの時いち早く気づけていたら…そう思っているわ。考えるだけ無駄かもしれないけどね。その後パチュリーが知らせに来て初めて現状を知った私は急いであの子達の元に向かったわ。」
子供は一瞬懐中時計を確認する動作をした後、一瞬で間合いを詰め斬りかかった。
「く…う…。」
赤髪の少女はギリギリ剣で受け止めたが勢いを殺しきれず後ろに吹き飛ばされた。
「危ない!」
美鈴は急いで回り込み赤髪の少女を受け止めた。
「大丈夫ですか!?やはりお嬢様が到着するまで貴女はここで休んでいてください。お嬢様が来ればあいつなんて直ぐに倒してくださるはずですから。」
美鈴は笑顔で言うと銀髪の子供に向かって攻撃を仕掛けた。赤髪の少女は少し微笑みそのまま気絶してしまった。
「はあああああ!!」
美鈴は身体を捻り勢いをつけて蹴り掛かる。しかし銀髪の子供は軽々避けると美鈴に斬り掛かった。美鈴は左腕で剣を受け止めると同時に右手に気弾を作り出した。
「はぁぁ!」
美鈴は銀髪の子供の腹に右手を押し当て気弾を放った。
「…!」
銀髪の子供は少し驚いた表情を浮かべたまま吹き飛ばされ壁に激突した。並のヴァンパイアハンターならこれだけで気絶していただろう。しかし銀髪の子供はむくりと立ち上がり再び銀の剣を構えた。
「まさかそれを喰らっても立ち上がるとは…本格的にやばいかもですね。」
美鈴は驚き呟いた。銀髪の子供はまた懐中時計を一瞬確認する動作を見せると瞬時に美鈴の前まで移動し足を斬り飛ばそうとした。美鈴は咄嗟に避けたが右脚の太ももがざっくり切れてしまった。
「くっ…う…。」
美鈴は太ももを押さえうめき声を漏らした。銀髪の子供は間髪入れずに二撃目を叩き込んだ。美鈴は左脚に力を込め飛び退いたが着地点で体勢を崩してしまった。
「しまっ…!」
銀髪の子供は勝ち誇った笑みを浮かべ美鈴に斬り掛かった。美鈴は目をつぶり腕で顔の前を覆った。剣先が美鈴に当たりそうになったその時、何者かが二人の間に割り込んだ。鋭い金属音を辺りに響かせ火花が散る。美鈴は恐る恐る目を開けてみるとそこには見慣れた黒いコウモリのような翼を持った少女が右手に構えた神槍グングニルで剣を受け止めていた。
「レミリア…お嬢様!」
レミリアは銀髪の子供を軽々弾き飛ばすと顔を少し振り向かせて言った。
「貴女達、よくここまで耐えてくれたわね。」
レミリアは地下室に行く方の道を指差しながら続けた。
「動けるならあの子を担いでパチェの元へ行ってくれるかしら?」
美鈴は足を押さえながら返した。
「でも…お嬢様だけでは…!」
「そんなことが言えるくらい元気なら担いでいけるわね。私なら大丈夫だから安心じていいわよ。それにその傷では足手纏いになることくらいは戦い慣れている貴女が一番よくわかってるわよね?」
レミリアがそう言うと美鈴は下唇を噛みながら静かに頷いた。レミリアは満足げに微笑む。
「ふふっありがとうね。後は私に任せて貴女もゆっくり療養しなさい。」
「わかりました。健闘を祈ります…。」
美鈴はそう言い残し赤髪の少女を抱えて地下室の方へ急いだ。レミリアは美鈴が離れたのを確認すると首を鳴らした。銀髪の子供は少しよろけながらも再び銀の剣を構えていた。
「流石に美鈴達を相手に圧勝していただけあってしぶといわね。でもしぶとさなら私の方が上ってことを見せてあげるわ。さぁ、最終ラウンドを始めましょう。」
レミリアはそう言うとグングニルを一直線に投げた。しかしグングニルは軽々と避けられ壁に突き刺さった。銀髪の子供は少し前かがみになると次の瞬間にはレミリアの背後に回り込み首を斬り飛ばそうとした。
「やっぱりそう来るか。」
レミリアはそう呟くと即座にしゃがみ銀の剣を避けた。銀髪の子供は攻撃の勢いで半回転してしまいレミリアに背を向けてしまった。レミリアはこの瞬間を待ってましたと言わんばかりに後ろから抱きかかえて動きを封じた。
「私ごと貫きなさい、『神槍 スピア・ザ・グングニル』!!」
レミリアの叫びに呼応するようにグングニルは壁から抜けるとレミリアの腹ごと銀髪の子供の心臓を貫いた。銀髪の子供は声も上げることもできずにただ腕をだらりと降ろした。その手からは血まみれの銀の剣と懐中時計が零れ落ちた。
「……!くっ。」
レミリアは少しうめき声を漏らしながらグングニルを腹から抜き取った。するとたちまちレミリアの傷は塞がった。
「はぁ…はぁ…。この戦い方をさせた人間は貴女が初めてよ。誇りに思うと良いわ、名前も知らないヴァンパイアハンター。…って言ってももう私の声なんか届かないか。」
レミリアはそう呟くと床に落ちた懐中時計を拾い何気なく眺めた。時計の針は短針が三、長針が九、秒針が八のところで止まっていた。
「それから私は直ぐにあの子達の元へ戻ってから館内の片付けを始めたの。生々しい話になるから詳しくは話さないけれど、それはもう…悲惨な状況だったわ。辺りには悪臭が立ち込めていたのよ…思い出しただけでも吐き気がするくらいにね。」
レミリアはクッキーを一口かじり続けた。
「これが、紅魔館から一夜にして吸血鬼達が姿を消した事件の全貌よ。…私の判断力不足によって招き起こされた事件の…ね。」
レミリアはそう言うと残りのクッキーを口の中に放り込んだ。咲夜は何とも言えない悲しげな表情で尋ねた。
「私の来る前にそんな事が…。それで…赤髪の方はその後どうなった…んですか?」
咲夜の問いにレミリアは意外にも軽く答えた。
「あぁ、あの子なら今も元気にやってるんじゃないかしら?」
「え、元気なんですか?」
レミリアがあまりにも軽いノリで咲夜は答えるので咲夜は思わず聞き返してしまった。レミリアはくすりと笑い言った。
「そりゃあ私と肩を並べるほど強い吸血鬼なのよ。そう簡単には死なないわよ。まぁ…死にかけてはいたけど。パチェの魔法もあって一命は取り留めたわ。」
咲夜は吸血鬼の常識に驚きつつ言った。
「へぇ〜そういうものなんですね。…あれ、じゃあなんで今紅魔館に居ないんですか?」
咲夜の問いにレミリアは少し呆れた表情で言った。
「あぁ…それはね。」
「なぁレミリア。私一人旅に出ようと思うんだ。」
赤髪の少女はミルクティーに角砂糖を入れながら言った。レミリアは呆気にとられたような表情でティーカップを置いて尋ねた。
「旅って…一体どうして?」
赤髪の少女は背もたれに寄りかかり足を組んで返した。
「主に理由は二つある。まず一つ目は、今回の騒動で私はどうしても油断してしまう、そしてその原因は私は強いというおごりと仲間が居るという安心感から来ているということが分かったから。そして二つ目はこの世界からヴァンパイアハンターを根絶するため。」
「…全く意味が分からないわ。百歩譲ってヴァンパイアハンター根絶するためはまだ分かるけど何故自分から一人になって隙を晒すような真似をするのかしら?」
レミリアがため息混じりに尋ねると赤髪の少女は少し得意気に言った。
「逆だよ逆。二人以上で居るから隙を晒すんだよ。例えば二人で旅してたらたとえ敵に襲われそうになっていてもどちらかが気づくだろうという安心感が生まれるだろ?でも一人で居ると自分しか頼ることは出来ない…必然的に油断がなくなるってわけさ。それに…。」
赤髪の少女は真剣な眼差しで座り直し言った。
「今回の事件は全部私のせいで起きたようなもんなんだ。少なくとも私はそう思ってる。だから…これでチャラってわけじゃねーけど私なりのけじめの付け方なんだ。」
「…そう。」
レミリアはそう呟くと紅茶を一口飲んで続けた。
「それが貴女の決めた道なら私は止めないわ。でも、私たちもいつまでもここに居るわけではないのは知ってるわよね?」
「ああ、それならパチュリーから聞いたよ。紅魔館ごと異世界に移動するんだってな。確か…幻想郷だっけか。」
赤髪の少女は再び足を組み直して言った。レミリアは軽く頷いて続けた。
「ええ、その通りよ。つまり私が言いたいのは、貴女が目的を果たしてここに戻ってきたとしてもここにはもう紅魔館は無いかもしれないのだけれど貴女はそれでも一人旅をするのかしら?」
「ああ、そのことなら心配しなくていいぞ…ほら!」
赤髪の少女はそう言いながらポケットから小さな紙切れを取り出した。レミリアはその紙切れを受け取り一番上に書いてあった文字を読んだ。そこにはこう書いてある。
『幻想郷に行く方法。』
赤髪の少女はぽかんとしているレミリアを見ながら説明を始めた。
「パチュリーが幻想郷に館ごと行く方法を調べる過程で見つけた方法らしいぞ。どうだレミリア、このメモがあればたとえお前らが幻想郷に引っ越したとしても帰れるだろ?」
レミリアはメモに目を通しながら微笑み、返した。
「えぇ…そうね。はぁ~全く私が色々心配しちゃったのがバカらしいわ。」
「お、そんなに心配してくれたのか〜優しいねぇ。」
赤髪の少女はそう言いながらレミリアのほっぺをツンツンした。レミリアはその手を払い除けながら返した。
「うるさいわね〜。ま、貴女も頑張りなさいよ。十年でも二十年でも…百年後でも私達は待っているからね。」
「そんなには掛かんないだろ〜。まあ目標はお前らが幻想郷に行く前には、ヴァンパイアハンター根絶して帰ってくることかな。遅くても百年後には帰れるだろ。」
赤髪の少女はそう言ってニッカリ笑った。レミリアも釣られて笑い言った。
「ふふっいい度胸ね。まあ間に合わなかったら容赦なく置いてくからその時はそのメモ使って帰ってきなさい。」
「おうっ!」
「それからあの子は荷造りして次の日早々に出かけていったわ。まあお察しの通り移動の準備が終わってもまだ帰って来なかったから置いてきたのよ。だから今はまだ紅魔館には居ないの。」
話し終えたレミリアは今度はドーナツに手を伸ばした。咲夜は驚いたような呆れているような複雑な表情で言った。
「ほぇ〜その方なかなか自由人ですね~。会ってみたいですけどその様子じゃ私が生きてる間に帰って来るのかしら…。」
「ふふっ。まあ確かに自由な奴だけど言ったことは必ず守るから多分もうそろそろ帰って来るんじゃないかしら?遅くても百年後には帰るって言ってたしね。もしかしたら明日かも?」
咲夜は立ち上がりながら言った。
「そんなタイミング良く帰って来ますかね。まあ帰って来たその時は盛大にパーティーでも開きますか!」
「ふふっその時はよろしくね。」
「ええ!腕によりをかけて作らせて頂きますよ!…っともうこんな時間ですか。それじゃ夕飯の準備をしてきますね!」
咲夜は懐中時計を取り出して言った。
「あら、すっかり引き留めてしまったのね。」
「いえいえ…それではまたご飯が出来たらお呼びしますね〜。」
咲夜はそう言いながら廊下に出ようとした。しかし数歩歩いたところでふと足を止めて振り返り言った。
「そういえば、赤髪の方のお名前って何ですか?一回も話の中に出てきませんでしたけど。」
咲夜が尋ねるとレミリアは少し困ったような表情で答えた。
「あ〜名前ね…。実は私も教えられてないのよね〜。あの子の名前。」
「え、そんなことあります?」
咲夜は驚いて聞き返した。レミリアは静かに頷き続けた。
「えぇ…あの子曰く名前は秘密の方がミステリアスでカッコいいかららしいわ。」
「えぇ…それって何かと不便じゃないんですか…?」
咲夜は少し顔を引きつらせながら尋ねた。しかしレミリアはニヤリと笑って言った。
「ところがどっこい意外にも不便さは無かったのよね。というのも紅魔館の住民で赤髪って他は美鈴くらいしか居なかったから『赤髪の吸血鬼』って言えば大体伝わるのよね。」
「あ〜そうなんですね。でもやっぱり名前気にならないですか?」
レミリアは足を組み直して言った。
「そりゃ私も気になって聞いたわよ。でも何回聞いても秘密の一点張りだったのよねー。」
「そうですか…。なんか私も気になってきちゃいましたよ〜。図書館に名前の記録とか残ってたりしないですかね。」
「多分無いわね~。あ、でもあの子が旅立つ時に…。」
「それじゃなレミリア。長くても百年後にはまた会おうな。」
「ええ、また今度ね。」
赤髪の少女は一言そう言うと紅魔館を背に歩き出した。レミリアも手を振って見送ろうとしていたが居ても立ってもいられないという感じで叫んだ。
「やっぱりちょっと待って!」
赤髪の少女は不思議そうに振り返り言った。
「ん?どうしたレミリア。もしかして寂しくなっちゃったか?」
赤髪の少女はそう言って意地悪そうに笑った。レミリアは少し頬を赤くしながら言った。
「そんなんじゃないわよ。ただ、どうしても別れる前に一つだけ。」
「なんだ?」
レミリアは少し溜めて言った。
「貴女の名前を教えて欲しいのよ。万が一、万が一よ。貴女が帰ってこれなかった時に後悔しないためにも聞いておきたいのよ。」
レミリアがそう言うと赤髪の少女はふっと微笑みながら返した。
「そんな気になるものなのか…。そうだなそれじゃ。」
赤髪の少女はレミリアに顔を近づけ囁いた。
「今度会った時に必ず教えてやるよ。」
レミリアは今度は耳まで赤く染めながら赤髪の少女を遠ざけながら言った。
「顔が近いわよもう。…その言葉信じていいのね?」
「それは運命の見えるお前が一番よくわかってるんじゃないか?それじゃまた今度な。」
赤髪の少女はそう言いながら再び歩き出した。
「…というわけで、あの子が帰ってきたら名前は判明するわね。」
「それは楽しみですね!いつ帰ってくるとかの運命見えないんですか?」
咲夜は身を乗り出して尋ねた。しかしレミリアは首を横に振った。
「残念だけれどそこまでは詳しく分からないわね。まあ…あの約束してからそろそろ百年経つしそのうち帰ってくるんじゃないかしら。」
「あ~早く会いたいですよ!」
「多分紅魔館の中であの子の帰りを一番楽しみに待ってるの貴女でしょうね。」
「えーそうですかね〜!」
二人はそう言いながら笑い合った。
一方その頃博麗神社付近。
「ここが幻想郷か〜。レミリア達元気かな〜。」
赤い髪をなびかせた少女がしわくちゃの紙切れを片手に呟いていた。
終わり?
近日中に第二部公開予定です!
↑第二部公開済みです。そちらもぜひご覧ください!