つづくかどうかはわかりません。
それは、幼き日の淡い思い出。
『ほら〜
『もう、あすみも隠れないの。ごめんなさい、
お互いが人見知りだったせいもあると思う。
両親の足に隠れて、チラリと様子を見て、目が合ってまた隠れる。
それを繰り返した後に、意を決して僕から話しかけた。
時たま旅から帰ってくるお父さんが、「男にはひいてはならない時がある……!」と言っていたのを思い出したからだ。
お父さんの言葉はよく分からない事が多かったけど、その言葉の意味だけは、幼いながらにも何となく分かっていた気がする。
『えっ…と…ぼく、ふゆつきひさめ。その……よろしく、おねがいしま…す?』
首を傾げながらそう言った。
お母さんは困ったように笑って、僕の頭をワシャワシャと撫でてくれた。
それが妙に恥ずかしくて、またお母さんの足にしがみつくように隠れた。
『ぁ……ぅぅ……』
『ほら、頑張って、あすみ』
僕が挨拶をしたからか、
『……にしきあすみ…です』
それから錦あすみ……“すみちゃん”との交流が始まった。
すみちゃんのご両親は、音楽に携わる人だ。
それも、世界的に有名な。
そんなすみちゃんのママパパは海外出張というものをすることがある。
そんな時は、すみちゃんを僕の家で預かるのだ。
いつの間にかそれが恒例になっていた。
最初の方は別々に遊んでいたり、あんまり会話がなかったっけ?
自分で言うのも何だけど、僕は人見知りだったし、すみちゃんも人見知りだったからね。
お互い意識しても、中々自分から話しかけるっていう事ができなかった。
けど、いつだったか、お母さんが出かけて肉まんを買ってきてくれた事があった。
それはもうすみちゃんは満面の笑みで美味しい美味しいって言って食べるものだから、僕とお母さんは思わず聞いたよ。
『肉まん好きなの?』って。
そしたらすみちゃんは目をパチクリさせて、やっぱり満面の笑みでこう言ったんだ。
『大好きっ!』って。
それで僕も『肉まん美味しいよね』って言った。
そこからかな?
あんまり喋んなかったすみちゃんと遊ぶようになったのは。
『あすみちゃん、きょうは何してあそぶ?』
『えーっと……じゃあ、おうたをうたいたい』
『いいよ。じゃあ、何をうたおっか』
『それじゃあ、かえるのうた!』
『ふふっ……仲が良いわね〜』
すみちゃんの歌声はすっごい綺麗だったし、きっと成長したらもっと上手くなるんだろうな…なんて漠然とした感想を抱きながら、一緒に歌った。
『あすみちゃん、きょうはゲームしてあそぼ?』
『ゲーム…?する!』
『ふふん〜♪二人して何か面白い事するの〜?お母さんも混ぜて欲しいな〜』
『うん、じゃあ、お母さんもやろうよ人生ゲーム』
『じんせいゲーム……?』
テーブルゲームで何かと盛り上がって、大体お母さんが負ける。
でも、大体そういう運が関わるゲームでは僕が一位。
たまーに、すみちゃんが一位になって、ちょっとドヤッとした顔で胸を張っていたすみちゃんは、お世辞抜きで可愛かった。
お母さんがすみちゃんを猫可愛がりしてたのにも、今では納得だ。
『お父さんからのおみやげだ!』
『ひさめくんの、お父さん?』
『そう言えば〜すみちゃんには言ってなかったかしら〜?』
『お父さんはね、せかいじゅうを仕事で旅してるんだって!』
『たび?』
『ふふっ……、お父さんからのお土産という名の仕送りよ〜』
『ふふんっ!きょうは何かな〜……何これにんぎょう?』
『ちょっと……こわい』
『ナイジェリアの民芸品ね〜……相変わらず変な人ね〜』
お父さんは単身赴任で中々家に帰ってこない。
それでも、僕にとっては実の父親で、尊敬できる人だった。
……変人だけどね。
『きいてあすみちゃん』
『どうしたのひさめくん?』
『ともだちにると、にっくねーむ?っていうのを付けるだって!』
『にっくねーむ……?』
『えっと、にっくねーむ?っていうのは………お母さん何だっけ?
『ふふっ、ニックネームっていうのは、あだ名ね〜』
『あだ名……?』
『?』
『仲良くなった友達同士で、特別な名前をつけるのよ〜』
『えっと、じゃあ僕のにっくねーむはかめんライダー!』
『そうじゃないのよ氷雨〜。ニックネームっていうのはね、名前からすこーしだけ文字を借りるのよ〜』
『えっと…じゃあ、ひさめくんは“ひさめ”っていう文字からニックネームをつけるの……?』
『そうそう〜!さすがあすみちゃんね〜!』
『それじゃあ、あすみちゃんのにっくねーむは“すみちゃん”だね!』
『ふぇっ!?』
『んへへ……!じゃあ、すみちゃんもぼくににっくねーむ付けてくれる?』
『えぇ…!?で、でも……うぅん……“サメくん”とか…?』
『つよそー!』
……身内に入ると途端に距離が短くなるのは、悪いことでは無いと思うけど、それにしたって最初に会った頃から距離感が近くなったと思う。
今さらだけど、すっごい恥ずかしいっ……!
と、とにかく!
そんなすみちゃんと遊ぶ日は楽しくて、僕の家にすみちゃんが来なくても、僕がすみちゃん家で遊ぶようになったりして、ほとんど毎日遊んでいたように思う。
そんな僕らの関係に進展があったのは、たしか小学生に入ってすぐ。
すみちゃん家が引っ越す事になった。
理由は、大人の事情というので詳しくは聞けなかったけど、多分すみちゃんママとパパの仕事の都合だろう。
僕もすみちゃんもワンワン泣いて、駄々をこねて、散々困らせた。
結局、そんな子供の事情なんて通用するはずもなく、僕とすみちゃんはそのまま別れた。
その後の事は……あまり思い出したくない…かな。
冬月氷雨
幸運体質のせいで小学校いじめにあうものの、そのいじめっ子達が“不慮の事故”によって大怪我を負ったりする事が頻発し、自身の呪いとも言える体質で他者を巻き込まないよう不登校になる。
交通事故にあい、“運良く”生き残り母親と死別する。
若干10歳の頃だった。
おっとりとした天然超人。
しかし運がとても悪く、何度もその運の悪さで死ぬような場面に遭遇してきたが、超人らしく全てを回避。
……しかし。
迫りくるダンプカーから息子を守るために身を挺し……。
それでも数分間息をして最後の言葉を残せたのは、はっきり言って彼女が超人であった証拠だろう。
錦あすみ
幼い頃のとても楽しい日々をいまだに忘れられない。
あの頃は、とても楽しかった……。