ただの村人が戦場に放り込まれるお話   作:おろとの

10 / 13
十話

 

 あれから二日。初めの忙しさが嘘のようにオーレールからの攻撃は無く、静かな日々を過ごしていた。

 

 あの狂ったような勢いからの一転。絶対に何かしてくるだろうと不安になってしまうが、それはそれとしてこれを逃す手は無いと昼夜問わずひたすら魔法と武芸の訓練をさせてもらっている。

 

「もうずいぶん遅くなっちゃいましたね」

「そこは“自分がしつこいせいで遅くなってすみません”だろうが。もう朝だぞ。クソ、眠い……」

 

 人通りの少なくなった道を進みながら大きなあくびをして愚痴をこぼすルッツさん。

 訓練を始めたのは夕方に入るかというくらいの時間だったというのに、終わって外に出てみれば夜が更けて……どころではなく微かに空が白んできている。

 

 俺が求めすぎたせいなので文句を言われると何も言えない、夢中になりすぎて時間を忘れてしまった。

 一分もかからずかきこむ食事の時間以外は本当にずっと戦いっぱなしだ。

 

「すみません、ルッツさんがどんどん色んなことを教えてくれるおかげで」

「生意気言いやがって」

 

 相手がこう来るからこうする、というものはあまり教えてもらっていない。色々な武器の扱いとこうするとより速く動ける、より力を伝えられる、というものが主だった。

 具体的には体移動や淀みなく加速させる武器の振るい方、平場・不整地それぞれでの動きの変え方等々だ。

 

 ここ何日かで気付いたけどルッツさんは教えるのが上手いと思う。

 何というかこう……平たいという感じ。普段の言葉はがさつなこともあるけど、教えることになると感情が全く乗らない。ただ手本を見せる、伝える。要点をつまんで教えてくれる。

 

 俺に才能があるからというのもあると思うが、おかげで教えてもらったことを試して次、また試して次、とスルスル学んでいける。

 

「はっ……で? どうする。カニルは今は無理だぞ」

「俺も眠いんで寝ます。ただその前にちょっと教会行ってきます」

「元気なことだ。俺はもう寝る、お前も寝るならさっさとしろよ」

 

 肩をすくめて反対方向へ歩き去っていくルッツさん。

 建物に挟まれた路地から裏に抜けて、壁門とは反対へ歩く。

 そうして少しすれば教会が見えてくる。相変わらず高い、それに豪華な見た目だ。村の教会とはまるで違う。

 

 中に入って出迎えてくれたのは外観と同じく綺麗な内装。この時間のせいか人はおらず俺の足音が響くだけだ。

 入ってきた者たちを見下ろすように鎮座しているのは赤金色の正円盤。太陽を通して人を見る(ゼス)を模したものだ。

 

「よくぞ来た、礼拝か」

「こんばんは。祈りに来ました」

「感心なことだ。神もお喜びになるだろう」

 

 足音を聞き付けたのか奥から顔を見せた神官様と言葉を交わす。この前の戦いで一緒に戦ってくれたうちの一人、フェズベェナ様。ゆったりした神官服越しでも分かる鍛えられた太い体と岩のような厳つい顔が威厳を感じさせる。

 

 あれから何度か顔を合わせているのである程度の仲になれた、と思う。

 戦が終わってから見るたび兵士たちの武器に聖別を施していたけど、こうして手ぶらで話せるということはそれも終わったのだろうか。

 

「といっても時間が出来たから来ただけですけどね」

「それでも神は喜ぼう。人はただ祈ればいい。全てを神は受け止めてくださる」

「ありがとうございます。今頃送った手紙は届いてますかね」

「遠く別大陸にある我らの総本山、とはいえ一番馬。もう既に届いているだろうな、対応が早ければ今は折り返しでこの大陸に戻っているところだろう。どう甘い裁定であっても確実に破門となる」

 

 破門認定、つまりは教えの世界から追い出されるということ。結婚、葬式、死後の導き。それらを全て期待できないということ。そして何より神の正義とは違った道にいるということ。恐ろしいことだな。あんなことしたんだから当たり前か。

 

「そうなったら民衆も一気に離れちゃうんじゃないですか? そんな人に統治されたくないでしょうし」

「それはどうであろうな。我らでもオーレールの現状はわかりかねる。向こうにも聖教の者は居る、悪魔とやり取りなどすれば即刻知らせが届き討滅隊が寄越される。そのはずだった。そうならなかったということは、よほどに巧妙に隠していたか、考えたくも無いことだが聖職の者までもが悪魔に侵されている可能性もある」

 

 よっぽど悪魔が狡猾か、神官様たちが悪魔に魅入られるほどその影が広まっているか。どっちでも気の滅入りそうな話だ。

 

 ……人は神の救いが胸にあるから勇敢に戦える。少なくとも俺はそうだ。

 悪魔にすがる人たちは何を頼りに戦うんだろうか。

 

「悪魔の──」

 

 頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出すその最中。

 神官様は何かに気付いた様子で手招きしながら外へと歩いていく。

 

「かなり早いぞ、討滅隊だ」

 

 笑う神官様。指の向ける先、門の向こうから光が漏れ出ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒々とした雲が空の果てまで覆っていそうな曇り空の下、俺たちは走っていた。

 

 目指す先は王都と俺たちがいた砦のちょうど間にあるジーナという都市。聖教の支援も受けられることが分かりすぐさま攻勢に出ることになったけど、ここを無視するわけにはいかないから先にここを落とすとのことだ。出がけにカニルさんに教えてもらった。

 

 それから街を出て他の軍と合流だったりをしていたが、詳しいことは聞いていないので分からない。分かるのは少なくとも数は倍以上になったこと。

 

 段々と怪しさを増す空模様に気落ちしつつ進んでいると走る人波をゆるゆると抜けて円盾と戦杭(ウォーピック)を携えた全身鎧が近付いてくる。

 

「アグナ殿、しっかりとした挨拶もできず申し訳ありません。すぐにでも悪魔を滅することが必要と判断し調整をしているうち後に後にと……。あなたの活躍は聞いています、まさに獅子奮迅の活躍だと」

「お声をかけて頂いて光栄です」

 

 兜を脱いで声をかけてきたのは討滅隊の偉い人……多分隊長か何かのコルエル様。今言った通りバタバタしていて本当に軽く会話をしただけだからあまりどんな人なのか知らない。

 金の髪に快活そうな目鼻立ち、背は俺より少し大きい。こんな状況でなかったら嬉しい美人だ。

 

 そのコルエル様がすこぶる重い表情で言葉を続ける。

 

「成人もしていない子を戦に巻き込むなど本来あってはならないことですが、事ここに至ってはあなた抜きで戦略を練ることは難しい。恨んでください」

「いえ、俺も……納得はしています」

 

 俺がいなければ大勢が死ぬ。

 俺がいることで敵兵は大勢死ぬが、俺がいる事で少なくとも味方の死ぬ数は減らせる。

 そしてオーレールが勝てば死んだ人たちは死後の導きに与れない。敵も味方も関係なく。

 

 それを知って嫌だと、自分には関係ないと言える心を俺は持てない。

 オーレール(てき)だろうと誰だろうとその魂は辱められるべきじゃない。神の御許(みもと)へ行くかどうかにそんなことは関係がない。

 

 だから俺はここにいて戦うことに納得している。そのきっかけが酷いものだとしても。

 

「そうですか…………逞しいことです」

 

 本当に逞しかったら心の中でも弱音は吐かないでしょう。俺のはただ我慢しているだけだ。

 

「ありがとうご──」

 

 俺の返答とほぼほぼ同時、長い長い上りを終えた先に目的地が現れた。

 

「神よ……」

 

 誰の口から漏れたか言葉なのか、やけにはっきりと聞こえた。

 

 俺もそう言いたくなる光景だ。

 壁の周囲には敵味方関係なく死体が撒き散らされている。

 手・足・頭・内臓その他諸々、色々なモノを失った死体で溢れている。それだけなら戦の後にはありふれた光景なのだろうが、問題はその死体の全てが屍人(ゾンビ)だということ。

 

 あたりに響くのは損傷のせいで動くこともできず苦痛に悶える屍人(ゾンビ)たちの怨讐の大合唱。

 

 壁上にて守りを固めているのは同じく屍人(ゾンビ)。よくよく見ると壁上には数は少ないものの普通の人がいる。あれを普通の人と見ていいのなら。

 

 手に持つ槍に腐りかけた人頭をくくりつけ、その頭を切り裂き五芒星を描いている。人の頭を円に見立てているんだろう。円に五芒星は悪魔の象徴、神を現す円を引き裂くという意味。

 

 これは……酷い有様だろうと思ってはいたけど予想以上だ。

 

「恐れるな!我らが付いている!」

 

 広がるどよめきにコルエル様が叫ぶ。

 声色は全く変わっていない、そのはずなのに今まで見たことも……あるな。あのときの神官様たちのように怒りを噴火させていることが感じ取れる。

 それに押されてか空気が引き締まる。

 

「始めぇい!」

 

 落ち着くのを待っていたな。指揮官の声を合図に後ろに控える魔術師たちの攻撃が始まった。

 

 こういった壁には重なるように魔法の障壁があるらしい。壁を乗り越えようとして障壁に阻まれて侵入できないという事態にならないよう、こうして障壁の方を攻撃している。

 歩兵は障壁が十分破れたら、もしくは(らち)が明かない状況になれば突っ込んでいく役目だ。

 

 俺もヴウアレ──弓兵の使ってた得物が使えればな。

 

 一応アレを引ける人がいなかったから、弓の引き方を教えてもらいつつ事前に使わせてもらうことはできた。

 けどあいつほどの体高が無いため傾けるどころかほぼほぼ真横に構えるような不格好な構え、かつ矢も長過ぎるため矢を途中までで持つ超変則の撃ち方。

 撃つには撃てたがルッツさんからは流石にやめておけと言われてしまった。

 

 なので使うのは別のもの。持たせてもらった拳大の金属球を取り出す。

 踏み出す。胸、肘、手──回すような感覚で……。

 

 ──ボゥ! 

 

 風圧でよろめく周りの兵士。巻き上がる土煙。

 実戦初で放ったそれは、壁上あたりの障壁をうまく破いてくれた。

 

 俺だと気づいたのか上がる歓声に拳を立てて応える。

 球はまだまだある。具体的にはあと三十九個。

 

 投げれば破れる。当たる当たる、当たる。

 時たま風で逸らそうとするのもあるけど、範囲が狭く逸らしきれない。それを嫌って範囲を広げれば魔法の威力がぼやける。

 結局投げたほぼ全てが障壁を破ることになった。

 

 投げ尽くしたのに合わせるようにまた号令がかかる。

 

「進めぇ!」

 

 ここからが本番、俺の役割は血路を開く切り込み隊・決死隊だ。ここにいる大体の人より硬いからそれに文句は無い。

 

 全力で駆け出す。手で隠せるほどの大きさだった壁がぐんぐん大きくなってくる。飛んでくる魔法はあまり俺を捉えることができていない。ほとんど速度を緩めることなく一息で破れ空いた穴に向かって跳ぶ。

 

「おら゛ぁ!」

 

 破れたといっても全体が割れたわけじゃない、ひびは大きく入っているけど穴自体は球をそのまま型取りしたような大きさだ。それを広げるように左右に引き裂く。めりめりと穴が広がっていく、粘っこい感触だ。

 

 ぎゅうぎゅう詰めの壁上──遠くから水が飛び来るのに合わせて魔力を動かす。

 範囲を広めに……俺の魔法にかき分けられた水流に武器・壁材ごと屍人(ゾンビ)たちがすり潰される。これで魔力は残り三分の二。入ったところで近くにいた屍人(ゾンビ)を殴りつけて吹き飛ばす。

 

 ……ひどい匂いだ。糞便腐敗、この世の悪臭全てを煮詰めたような臭気。

 

 両手剣を抜き更に場を開けたのに少し遅れてコルエル様たちが来た。討滅隊の方々も俺と同じ役割だ。

 

 振るわれる武器と共に炎が迸れば次々縛り付けられた魂が昇天していく。

 救いを求めてか炎に屍人(ゾンビ)が向かってゆく。

 

 視界の先、都市の中心にある城塞で膨れる魔力、大規模魔法。一足飛びで下方に広がる街区画へ突っ込む。

 俺の跡を舐めるように撒き散らされる水流。

 

「ぐ──」

 

 全速力で走るが捉えられ、目・鼻・口全てをぶっ叩かれる。

 体全体を包まれ押されるというのはかなり独特だ。風ともまた違った足元をすくわれるような感覚。

 

 しかし威力はそこまで無い。この距離で水が拡散するせいだろう、地面が削れる程度だと十分走れ……いや別のが来るな! 

 

 ──バ、ヅン! 

 

 熱が来る、あとから衝撃が。

 熱より一瞬先に見えた黄色の光、雷か! 

 腰のあたりに感じた悪寒に従い両手剣を背後へ振り回すと軽い手ごたえが返ってくる。

 

 飛びのく兵士の身にまとう鎧は金属……じゃないな、質感は金属っぽいけど動物か魔物の皮。

 そして獲物は長めの長剣と身体の半分を覆う大盾。どこかで見たような形だ。近接戦を挑んでくるということはよほどの自信があるか。

 

 さっきの水魔法のやつと同じくこいつも多分超人だ。聞いてた特徴とほぼ一致するし強い。

 

 フラウスさんからオーレールの超人のことは教えてもらった。姿形、使う魔法に武器戦術。奥の手があったり見せ札として表に出しているだけで、実際に使う武器や魔法は違うかもしれないから鵜呑みにするなとも念押しされたが。

 

 やるなら水の邪魔が来るより先にだ。全速で突っ込み身体ど真ん中を目掛けて突きを出すと、向こうは大盾でその体を隠すようにして斜めにかざす。

 

 ぶつかる盾と剣。盾を割りつつも逸らされる、かなり上手い。

 盾に隠した兵士の突き、それはもう戦法としてルッツさんと試した。逆に踏み……いや違うなこいつ。体が残りすぎてる。別の──なんだ? 剣を挟むように二枚の金属板が浮いて……引き、寄せられる? 不自然に加速する男の獲物。狙いは俺の首元。

 

 魔力を体の外にまで広げる。刃の一番先、に向けて魔力を弾き上へはね上げる。若干遅れたせいで逸らしきれず顔に向かう形になったがこれで十分。

 

 ──ガッ! ギィイイイ゛……! 

 

 口で受け止める。

 剣が軋む。歯が刀身に微かに入り始める。相手の片手と俺の口だとこっちの方が強い。

 

 体の外で出す魔法。俺が覚えたときは体から魔力を出せば即魔法になる、という理屈だったからこれを覚えるのには数回練習が必要だった。

 ヴウアレの戦法を何度か見て肌感としては理解できたのでなんとかなったが。

 

 ──バヅン! 

 

 口に挟んだ剣から雷が溢れ出す。目玉が飛び出そうな威力、けどこれで死にはしない。

 魔法に集中していたおかげか同時に蹴りをぶち込めた。向こうも大盾で防ぎはしたが衝撃は殺しきれず、建物を砕きながら吹き飛んでいく。

 

 剣を吐き出し兵士の吹き飛んだ方向とは反対にぶん投げる。まだ降りてきてる味方はいないから大丈夫なはず。

 

 吹き飛んだ先を目指して駆け出すとギリギリで立ち直りこちらへ向き立とうとしている。ボロボロの大盾で何かを隠して──球が飛び出す。

 

 さっきの二枚板で加速させたのか。どこから取り出したのかは知らないが、飛ばすものが違っても一度見たんだからその速度にはもう目が慣れた。肩を狙ったのに合わせて両手剣をぶち当てる。

 

「がぅ!」

 

 断ち切れはしなかったがそれが逆に良かった。ひしゃげながら飛んだ球が腰あたりに当たる。

 体を折り怯む兵士の首根っこを掴む。

 もう何があっても離さない。

 

「おォ゛お……!」

 

 圧し切るように肩から股下まで刃を進める……が通り抜けたそばから塞がっていく。どんな再生力だ!?

 

──バ!ヂン!

 

 再生が終わった直後雷が襲ってくる。

 

「っづ……!」

 

 流れる雷を気合と回復魔法で無視して鼻目掛けて頭突きを繰り返す。鼻が潰れ、上あごの割れる感触が伝わる。初めは硬いものにぶつかる感触だったものが段々と柔らかくなっていく。

 それに合わせて魔法の威力が徐々に弱まる。そうだ、このまま雷を放ってても相手は死ぬ。だから再生しないといけない。でも一度に使える魔力量には限りがある、再生したいなら俺への攻撃に使っていた分の魔力を回復の方に割かなければいけない。

 

 ふらつく兵士を引き倒し馬乗りになる。刃の部分を掴み短く持ち、弱まった雷を浴びせられ続けながら何度も何度も打ち下ろす。

 再生するなら固めてる外側を歪めて阻害すればいい、皮の防具と言っても柔らかいわけじゃない。

 

 そうして何十何百と打ち付けて兵士が平たく穴だらけになった頃、ようやく雷は収まった。

 

「はぁっ……!」

 

 兜を脱がし首を断ち切ってようやく息を吐き出す。

 強い奴だった。雷のあの速さは避けようがない。

 

 しかし水の妨害が来なかったのが良かった。どうして……と思ったら城塞と目と鼻の先のところでコルエル様たちが水魔法の奴を相手に戦っている。戦いの余波で散々に建物を壊したおかげかよく見える。

 つかず離れずでかなりの優勢、やっぱり数は力だな。俺も超人一人ならある程度余裕を持って殺せるが五人か六人にまとめて来られたら確実に死ぬ。

 

 コルエル様たちが膨れ上がる水に炎をぶつけて爆発、霧散させている。今だ。

 

 爆発でそこら中に撒き散らされる土煙と瓦礫に紛れて突っ込む。

 狙いは振り下ろし。ギリギリで俺に気付き放ってきた先ほどよりも細い、がいくらか速くなった水流を魔法で逸らす。今ので魔力は半分近くに減る。

 

 ずどん、と剣先が肩口に綺麗に入った。

 衝撃で膝を折ったのに合わせてコルエル様が顔に杭先を叩き込み、炎を放ち焼き焦がす。

 

 超人が全部消えれば一気に楽になる。事前に都市を占拠していると確認できている残りはあと一人だが、それらしい姿は見当たらない。

 どこにいるかとあたりを見渡していると、戦杭(ウォーピック)を城塞へ向けている。

 

「来なさい!」

 

 コルエル様に付き従い侵入、門は土魔法で裏までぎっちり埋めていたが、全力で体当たりをかませば破ることができ──

 

「ああ──?」

 

 地獄が広がっている。

 

 門を抜けた先の広間のような場所。

 全身の肌を剥かれ痛みに震える人、手足の……肉だけを剥がし抜いて治されたのか骨に皮だけが…………もう見たくない。

 

 拷問か何かでこうなったのか、そういった人たちが場を埋め尽くすように転がっている。その上その全てがギリギリ生きている。

 

 そしてそれを相手に覆いかぶさりぐねぐねと動く屍人(ゾンビ)。……屍人(ゾンビ)とも違う? 雰囲気が……いやもうそんなことはどうでもいい。

 

『神に呪いあ──』

 

 気色の悪い声を撒き散らすそれの頭を磨り潰す。コルエル様が続いて炎で滅してくださる。

 傷を負った人たちを巻き込まないよう速度を落とし一つ一つ潰す。今は傷の治療を出来る時間も物も無い。この人たちの生命力が高いことを祈るしかない。

 

 そうして進んでいるとすぐに元凶と思しき奴が見つかる。

 

 目は有り得ないほどにくぼみ、頬は物を置けそうなほどに張り出している。口は耳元まで開き黄ばんだ隙間だらけの歯は端まで並んで。しわくちゃの真っ赤な肌に人の体の特徴を全て誇張したような見た目。俺の倍くらいの体高があるだろう。

 

『かなりの余裕があったはずなんだ。貴様らだけであれば四度の夜を凌げた…………儀式はつつがなく終わるはず……それがお前……お前』

 

 こちらに向き直りぶつぶつ言っている悪魔。お前の話なんて聞いてねえよ。しかしコルエル様たちが今すぐ襲いかからないってことは一応情報は聞けるだけ聞こうって腹積もりか。

 しかし想定外を演じ、これ以上の計画が無いように装ってる可能性も十分ある。ここまで考えると話を聞く意味が無いな。

 

 ああいや、コルエル様を中心にするようにしてじわじわ隊士の方々が広がっていく。べちゃくちゃ喋ってるなら場を整えるのに利用するということか。

 

『けれどもこうして少数で来てくれたことは望外の幸運だ。仕込みが無駄にならなかった。私に“神の導き”でもあったか? ははは!』

 

 うってかわって愉快極まりないという声色に変わり笑う。その汚らわしい口で神を語るな。

 次の瞬間、魔力の障壁が俺たちの周囲を覆う。こいつのか。

 

『これで我らと閉じ込められたわけだ 果ては無いぞ』

 

 その言葉を皮切りに悪魔の背後からずるりと無毛のぶよぶよした四足獣がいくつも出始める。

 逆だクソ野郎、そっちが俺と閉じ込められたんだ。お前はもうどこにも逃げられない。




バラガ
・雷を使っていた方の超人
・雷で行動を阻害しつつ近接でサクッと殺す戦法が鉄板
・アグナとは嚙み合わなかったが、純粋な近接戦の技量はクザーン・オーレール双方を合わせても十本の指に入る
・奥の手はまだいくつかあったが抱え落ち

討滅隊の円盾
・大小の差異はあるがおおよそすべての隊士が装備する防具
・裏面に太陽の紋様を再現した刻印が掘られている
・激しい戦闘で聖印を持てない討滅隊にとっての聖印
・盾に体を預けねばならない熾烈な攻撃を耐えるとき、自然目に映る刻印によって隊士は奮い立つ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。