ただの村人が戦場に放り込まれるお話   作:おろとの

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十一話

 

 貫いて、潰して、焼いて。襲い来る獣十二匹を討滅隊の方々が対処してくださる。障壁で分断され数では劣るというのに見事な手際。

 俺がやるのは目の前の悪魔(こいつ)だけでいい。

 

 互いの間は広くはあるが全力で動けば半歩でも届く。この距離で睨み合いにはならない、というかさせない。

 俺が動くのを察したか踏み出すその足指の根元に指二本分の幅で魔法を放つ。今ので残りの魔力は三分の一。

 

 ──ダ、バァン! 

 

 自分でも驚くほどに淀みなく魔力を出せた、地面を踏み動くまさにその時を千切り潰した。力のほぼ全てを受け止める部分が消え足が空を切る。

 中途半端な速度で前に進む悪魔がつんのめったところに合わせ、踏み止まる足首目掛けて全力の横薙ぎ。

 

『上手いなあ上手い! それだけ練り上げるには弛まぬ修練が必要だったろう! どう隠し通していた!? まだまだ我らも──』

 

 それを止めようと手が迫るが俺の方が速い。骨が割れ、肉を断ち切る手応えと共に勢いを殺せず転がる悪魔。コルエル様かその他の方がやったのか、一拍置いて顔を潰されながら吹き飛んでいく。

 声を出す部位が潰されて尚わめきたてるそれを追う……が吹き飛ぶそのまま、体から何かがこぼれ落ちている。

 

『ギャウ──!』

 

 獣か、すれ違いざま蹴り飛ばして肉塊に変える。

 ……いや待て、この獣悪魔の肉からできてるわけじゃないな、今まで出した分だけでもそれなりの量だけど、付けた傷以外は悪魔の姿に変化はない。魔法か何かでどこか別の所から持ってきてるのか。 

 

 つまりこのまま長々と戦ってたらこの障壁内で肉の海に溺れて死ぬことになる。早いうちにやり切らないといけないな。

 

 悪魔の殺し方は教えてもらった。

 いくらでも再生する奴らではあるが、無限にできるというわけもなく再生するだけの燃料・力がいる。

 そしてくっつけるより生やす方がより力を消費する。なのでより大きい部位を消し飛ばしてやればいい、とのことだ。

 

 また“分かっているだろうが聖なるもので傷付け、消し飛ばせばより消耗させることができる”とも。

 

「おっ、らぁ゛!」

 

 障壁にぶつかり止まる悪魔が立ち直るより先に太ももに狙いを定め、障壁と挟む形で圧し切る。

 斬り飛ばした足が戻ろうと跳ね回るのを掴み抑え叫ぶ。

 

「俺ごと!」

 

 それだけで討滅隊の方々は分かってくださる。俺を巻き込む形で炎が撒き散らされ悪魔の足が焦げ砕けた。

 悪魔の死体を焼けて、かつ俺が耐えられるギリギリを狙ってくれるおかげだろうか、滅茶苦茶に熱かったり痛いわけじゃない。緩く回復魔法をかけていればいくらでもやれる。

 

『おお、おお! いじましいことだ! その無理がいつまでもつ? それで私を殺し切れるか?』

 

 ひたすら障壁から離さない。余裕ぶってべちゃくちゃまくし立ててるお前は、ここで何もできないまま死ぬ。

 

 

 

 

『そう意地を張るな! 今なら命乞いをすれば助けてやれるぞ? ここで遊んでいるうち発明した百本指にしてやろう! 指をそれぞれ十に分割してな! 全てを離したまま回復魔法を──』

 

 戦い始めて少し、悪あがきのように出してくる前蹴りに刃を合わせ受ける。

 

 骨に食い込ませ止まった動きに合わせ、コルエル様が足の甲に盾をぶつけ半ばまで切り込む。

 更に一瞬間を開けて来た隊士様が盾を押し込む形で何度も柄頭で叩き付け切り飛ばした。下淵を刃のように研いでいるのか。

 

 コルエル様目掛け後から後から湧いてくる獣も討滅隊の方々が出て来る端から潰し燃やしている。

 

 

 

 

『おい……! いつまで続けてる! 俺が許してやるのもここまで──』

 

 いくらか経って段々と余裕の消えてくる悪魔。やることは何も変わらない。

 切り飛ばし、千切り飛ばして焼いていただく。

 悪魔と戦うのは二回目だけど共通点が見つかった。なんか雑なんだよな、再生できるからなのか避けようとせずひたすら攻撃を通そうとしてくる。

 それも一つの戦法だとは思うけど、こっちの戦い方と合っていない。

 

 

 

 

『神の犬がぁああ! 調子に乗っていられるのも今のうちだぞ! 貴様の魂の端まで凌辱──』

 

 炭にした獣たちが足首あたりまで埋まるようになってようやく本気で怒り始めた。遅いんだよお前、もっと早く必死になってろ。

 延々相手にしたおかげで間や速度は分かり切っている。振り下ろされる拳に切り上げを合わせ刃を通し、半分に割れたそれに手をかけ裂き千切る。

 

 肉が盛り上がるように再生するが、その速度は明らかに初めより遅くなっている。

 

 

 

 

『お前……なんなん……だ……この俺が……』

 

 障壁の中の全てのものが焦げた血で染まった頃、悪魔にも限界が来た。

 焼け焦げた炭の山から掠れ切った声が届く。どの俺だよ。 

 

「……瘴気は収まりました、この悪魔は“門”の役割を担っていたようですね。狭いうちに滅することができ幸いでした」

 

 未だ悪魔だったものを睨む俺にコルエル様が声をかける。

 再生してくる印象が強いせいで、どうにも安心しきれない。

 

 やっと終わって……ないな! まだ味方が戦ってるはずだ! 慌てて壁を割ろうと殴りつける拳を制止される。

 

「それほど集中していましたか? 外をご覧になって」

 

 指し示す先に目をやればまず見えるのは血に染まった障壁。散々に衝撃を与えた障壁は、悪魔という緩衝ありでも耐えきれなかったようでいくつもヒビが入っている。

 

 障壁にこびりついた血をぬぐうと、広間を埋め尽くすほどいるのでは、と思うほどの人。大騒ぎをしているのに障壁が音を遮断しているのか音がまるで届いていない。

 よほど興奮しているのか跳ねてる人までいるが、無音でその動きを見ているとちょっと面白い。

 

 ここにこの人数……なるほど、もう戦は終わってたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が進んで夜。後処理は一段落ついて、飯も食べた。

 あの城塞の調査に時間がかかるから休んでいていいと言われたが、興奮のせいか寝付けずこうして門の上いる。

 

 門上は見張りの兵士たちで一杯だ。俺を見て寄ってくる兵士たちに軽く手を上げながら歩いていると声がかかる。

 

「な、なあアグナよ!」

「おう、どうしたの?」

 

 すれ違いざま肩を掴む男。

 何度か話したことがあったような……誰だったかな、名前が思い出せない。

 

「アグナがいてくれりゃあ俺らは安心、だよな? あいつらみんなやってくれるよな?」

「……ああ、任せとけ。俺は頑張る。あんたも死なないよう頑張れ」

 

 すがるような目を向けてくる男。俺は俺で頑張るだけ。と思いつつ欲しいであろう言葉を返せば安心したように笑みをこぼす。

 いきなり声かけて悪かったと会話を終えた男の顔は一転して緩んだ顔になっていた。

 

 ……そう思いたいなら好きにするのがいいと思う。祈りすがるなら神の方が応えてくれるだろうけど。

 思い返すとさっき寄って来てた人たちもそんなような目をしていたような──俺の考えすぎだと思いたい。

 

 気持ちを切り替え歩いていれば昼とは打って変わって涼しく気持ちのいい風が吹いてくる。ついさっきまであった腐臭と違って夏らしい青い匂いだ。

 この風はどこから来たのか、鳴く虫の音と相まってさらに涼しく感じる。月には期待できない代わりに星明かりが見渡す先を照らしている。暗いには暗いけど景色はそれなりに見える。

 

 そうして少し進んだ先にセンを見つける。壁外を見て大あくびをしている。

 時間を潰そうか、隣に立つと向く先は変えず口を開く。

 

「三日月の夜は流石に暗い、星明かりが頼りだな」

「光は大事だね」

「夜は特に。これじゃ攻めてこないか不安だ」

 

 今しているのは壁上での見張りか。壁向こうや壁沿いに何か変わったものや人が来たりいないかの確認。暗いとはいえ周りはなだらかな丘が続いているから何かが来たらすぐに分かるだろう。

 

「攻めてきてもこの壁は抜けないんじゃない? かなり硬いよこれ」

「投擲でその硬い壁をバリバリにしてたアグナが言うことじゃねえだろが」

「いやいや、下の壁の方だよ」

 

 たんたん、と足踏みする。金属で作られてて人が縦に三人寝られるほど分厚いこの壁はとにかく頑丈だ。だからわざわざ障壁の方を狙う。

 

「そりゃ大前提じゃねえか」

「で──」

 

 語頭でいきなり止めた俺にセンが眉をしかめる。

 

「どうしたよ」

「ここの真下、人いる」

 

 違和感、というか妙な感じがして壁下を覗き込むと見知らぬ男たちが立っていた。人数は二人。薄明りから隠れるようにいる兵士、敵兵かと一瞬思ったけど仲間だ。あんなところで何をしているのか。

 

「壁周辺の見回りか?」

「それって五人隊全員でじゃないっけ」

「いるのは二人かぁ……面倒なことになったな」

「行ってくるよ」

 

 センも人数に気付いた。脱走か落ちたのか。どっちにしてもすぐに行った方がいいだろう。遅れて何かあっても困る。

 

「隊長に報告は」

「助けが必要だったりもめてそうならお願い」

「あの人なら言わなくてもすぐ感付くぞ」

「そうなったらごまかしてもらえると嬉しい」

「どう誤魔化すよ」

 

 それは大切だ。口裏合わせが上手くいかないと俺たちまで疑いの目で見られることになる。ここで一番自然なのは……。

 

「こう……壁から落ちたのを助けに行ったとかで」

「一世一代の大芝居が必要だなこりゃ」

「雑な言い訳ってこと?」

 

 これはあまり期待できなさそうだ。

 二人の近く目掛けて飛び降りる。ここから地面までは大体俺が三十人分くらい。そのまま降りても大丈夫だけど、普通にいったら着地の音がでかすぎて気付かれるだろう。

 

 上へ向けた左手に右を重ねる。速くなりきる前に左で魔法の発動、魔力はある程度回復した。ばん、ばん、ばん。自分で自分の手を押しての減速だ。音は出るけど直で降りるよりはうるさくない。

 残りは三分の一、もう減速しなくてもいいか。地面にぶつかるのに合わせて転がって……うん、うまくいった。さて、このあとも上手くいってくれるといいけど。

 

「助けに来ました、落ちたんですよね?」

 

 壁際の二人へ声をかける。助けに来たとは言ったけど、どちらも傷は見当たらない。代わりにこの世の終わりみたいな顔はしているけど。どうやって降りたんだろうか。

 少しの間を開けた後、覚悟を決めたという感じで男は口を開く。

 

「みのっ……見逃してくれないか?」

「見逃す?」

「騒ぎは起こさない、あんたさえ見逃してくれれば」

「他の人にバレますって」

 

 センが気付いたんだ、他にも気付いてる奴はいるだろう。来ないのは俺が対応してるからか、それとも見ないふりをしてくれているのか。

 

「無理だ、アレは無理だ」

「家族のために死にたくないってのは分かるだろ……!?」

「戦は続く。あんな地獄にいて生きてられるわけが──」

 

 その家族を守るために戦う……なんて考えになるのは無理だよな、こんなことは俺が強いから考えられることだ。余裕がなければ自分が大事になるのは当たり前だ。

 滅茶苦茶に強い俺でも帰りたい気持ちはある。この人たちだったらその気持ちはもっと強いだろう。

 

 でも、もう遅い。俺を説得するのに時間をかけすぎたな。俺以外にも人が来たぞ。

 

「何をしてる?」

 

 声のした方へ向くと兵士がいた。普通のとは装備が違う。全身をみっちり覆う鎧にデカい盾とデカい槍。門を警備してる兵士か。門からここじゃ結構離れてるっていうのに流石の感知力。

 

「この二人が壁から落ちました。俺がそれを助けに来たんですけど……必要なかったらしいです。だよな?」

「あぁ……そう、だ」

「すんません、オレたちのせいで」

 

 会話が終わる。いきなり振ったからか明らかに不自然になっている。でもこれで納得してくれないかな。これ以上何か言ってもボロが出るだけだろうからもう喋れないし。そうなってくれたら一番楽だ。

 どうなるか分からない嫌な沈黙が続き、ようやく相手が口を開く。

 

「あなたが助けに来たのは本当ですね」

()()、ですよ」

「ふぅん……そうですか。あなたが言うんだ、そういうことにしときましょう」

「おお! ありがとうございます。それじゃもう行っても」

「いいですよ」

 

 まさかの結果だ。大体うまくいった。ありがとう誤魔化されたフリをしてくれた門兵さん。二人に目配せをして行こうとすると、門兵さんが呼び止めて槍と盾、篭手を差し出してくる。槍盾はともかく篭手は上手く外すもんだな。

 

「持ちます?」

「お願いします。お前らはあっち向いて並べ」

 

 言われた本人たちは怪訝そうにしているけど、この状況で従わないわけにはいかない。何をする気だ? 門兵さんが両手を振り上げ……ああなるほど。

 ばこん! と音を立てて背中を張り飛ばされた二人が吹き飛ぶ。

 

「ぅ、う゛……」

「はっ、は……っ!」

「落ちたなら鎧にこれくらいの凹みは無ければな」

 

 うぅん痛そう。かなり効いてるみたいだけど大丈夫だろうか。後で回復魔法が使える奴にでも見せよう。うずくまって呻く二人をよそに渡された諸々を返す。

 

「俺もやられる感じです?」

「あなたが助けに行ったのは見ています」

「……なるほど」

 

 門兵さんが笑って話す。何でもない事のように言われたけど、やっぱりバレるものなんだな。この人らもこうなったらまた逃げようとは思わないだろう。

 しかしこれは死地に無理矢理連れて行くようなものだから嫌な気分になるな。でもこの状況で脱走は下手しなくても超が付く厳罰だよな……。

 

 考えても仕方ないな。置いていくわけにもいかないので二人を抱えて歩き出す。すると、両脇からぼそぼそとした声が聞こえてくる。

 

「お前の、せいだぞ……」

「あんたが、引き止めなけりゃ」

「俺に言うなよ」

 

 どうせバレてたんだから。それにしても、ついさっきまで息もできないって感じだったのに元気なもんだな。回復魔法でも使ったか。それだけ喋れるならそう心配しなくてもいいな。

 

 二人の恨み言を聞き流して歩く。センは上手く言ってくれてるか?

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