ただの村人が戦場に放り込まれるお話   作:おろとの

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六話

 

「あー止めて止めて。そこで撃ち止め」

 

 ひたすら魔力操作のコツと注意点を教えてもらいながら魔法を撃ち続けて十数発。一発撃つたびに細かく教えてもらったおかげで結構な時間が経ったはず。

 貰った指摘を修正しつつ次の一発を放とうとしたところで声が掛かった。

 

「まだいけますよ?」

「君の魔力量、もうすぐ三分の一とかそこらでしょ。これ以上は突発での事態に魔法が使えない、なんてこともあり得るから駄目。本当は半分くらいで止めたかったんだけど教え応えがあってなかなか止められなかった、ごめんね」

「なるほ──」

 

 ──ガンガンガンガン! 

 

 俺の返答を断ち切って扉が叩かれる。

 俺としては誰だ? としか思わなかったが、フラウスさんが思い当たる節があったのか目を見開く。

 

「もうそんな時間? 時計をどのポケットに入れたか……うわっまずい」

 

 懐から取り出した小物を見て慌てて扉を開けると二人の男が入ってきた。

 片方は防具一式を持ち、もう片方は剣、槍、斧、その他色々の武器を持っている。

 

「時間厳守でお願いしたいですね」

「申し訳ない、あまりにトントン拍子で成長してね。夢中で時間を忘れていたよ」

「それも追々聞かせてもらいます。さて、初めまして。()超人のカニルだ。で、こっちが……」

「同じく準のルッツ。よろしく」

「……アグナです。よろしくお願いします」

 

 男前な顔をしている方がカニルさん、優しげな顔をしているのがルッツさん。どちらも俺より頭半分くらい背が高い。

 

「こいつがサーレルーンを?」

「超人だろうと消耗する。そういうことだ」

「おこぼれを貰ったみたいな話か」

「とはいえ消耗していようが超人殺しには変わりない。最低限の強さはあるぞ」

 

 俺の体を上から下までじっくり見つつ会話を進める二人。

 二人とも俺が強いというのを疑ってはいないが、超人を殺したというのは半信半疑のようだ。

 十三の子供が超人を殺した、なんて人から人へ伝わるうちに盛られた話だと思うだろう。街に入ってから諸々のことを教えてもらううち、センに言われた言葉だ。

 

 それはともかく気になるのが、準超人という強くて偉いだろう二人がわざわざここに何をしに来たのか。

 

「今から何かするんですか?」

「そうだな……こちらはアグナ君の実力を見たい。それをもとに育て方を考えていく。なので君とルッツで戦ってもらいたい」

「そしてそっちは適切な教えを受けて成長できる。いい話だろ」

「体よく言ってるけど強制だから従っておいた方が楽だよ」

 

 フラウスさんが耳元に口を寄せてひそひそ伝えてくる。この距離だと二人にも聞こえてそうだ。

 

「フラウスくん……そういうわけで強制だ。すまない」

「いや、自分も訓練させてもらえるのは嬉しいです」

「おっとそうなのか。この遅くにいきなり来たから嫌がられるかと思ったが。意欲的で素晴らしいぞアグナ君」

 

 やっぱり聞こえていたようで防具を差し出し話に入ってくるカニルさん。そっちは悪い事をしているような口ぶりだけど、こちらとしては願ったりだ。戦いで死ぬ可能性が減るなら大体のことはする。それも戦がまだあると知らされていれば特に。

 乗り気だったのが予想外だったのか、カニルさんが重い顔から笑顔に変わる。

 

 もう片方のルッツさんはがしゃがしゃと地面に武器を並べ始める、よく見ると刃引きされている。まあ流石に真剣では危ないよな。

 

「好きなのを選んで本気で来い。根負けするまでやってやる」

「本気……でやったらルッツさん危ないですよ」

「言いやがったなお前。()()かくまでやってやるよ」

 

 両手剣を選び取り目測でおおよその長さを測りながら答えると、眉をぴくりと動かして反応するルッツさん。今のは角が立つ言い方だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣で受け止められた振り下ろし、をいなすように滑らせて体を崩させつつ回り込もうとしてくる相手。この流れがうまく決まれば剣を封じながら無防備な横体を好きに斬ることができる。でももう見てるんだよなそれ。

 

 刃の重なったところを起点に体ごと剣を横に動かす。

 相手の剣をすり抜かせない、遠間での鍔迫り合いのような形になる。

 組み打ちに行きたい、向こうはそれを嫌ったのか魔力をうねらせる。勢いはそこまで無くて量が多い、炎を纏う気か。これは気合を入れればなんとか耐えられ……いや、設定してた身体能力だとギリギリか? 

 

 魔法を放てば押し切れるだろうけど今は使えない想定。

 

 相手の肩向こうに伸びかけていた剣を引きつつ踏み出す。相手は数瞬遅れて下がりつつ振りかぶる。俺の剣を撥ね上げ、繋がる次の行動を振り下ろしに限定させるつもりだろう。けど遅れたのが致命的、ギリギリ剣の絡み合いからは抜けている。

 向こうは振り上げを途中で止め、剣をこちらへ立てて見せる。多分左右どちらかに動かして逸らすつもり。でもさっきの遅れがずっと後を引いている。もう間に合わない。ここでちょうど相手が炎を纏うが、それと同時に突きが胸へと吸い込まれる。

 

 ──ドッ、パァン! 

 

 会心の動きだ。腕・肩・腰・足の力が一息にそろった。刃先を潰してあるとはいえ伝わる力は本物の剣と変わらない。突きの衝撃に押され転がる相手。意識がブレたのか炎の勢いが弱まる。

 これで決めよう。一気に駆け寄り剣を振り下ろし──

 

「っ待て待て!」

 

 それより降参を示す手振りが先だった。足を止め勢いを殺す。

 

「ぐっ……ここで決着、俺の負けだ。強いなぁオイ」

「よっし!」

 

 場所は変わらず地下施設。あのあと本気……とはいかないまでも真剣にやったら数発で片がついた。流石に力が違い過ぎるとそうなるよな。

 

 そして今やっていたのは身体能力抜きで身体操作の精度と技を見るための魔法・力を抑えての訓練。魔法は全く使わないし、身体能力も相手と同じくらいに合わせる。これが案外楽しい。

 普段なら防具ごと頭を磨り潰せる、という場面でもそれをできないから色々と考えなければいけない。

 最初の何戦かは割合押されがちだったけど、段々動きの間や相手のしたがることも見えてきてこうした楽な勝ちが多くなってきた。

 

「正直なとこ、これだけ出来たんならあと何回か同じ形式やるだけで良い気もしてくるな」

「そうですね。ルッツさんの()に慣れてきちゃってるから、回数重ねすぎちゃってもあんまり」

 

 何戦か前に気付いたことだけど、大体の人は攻撃の前とか間に隙間がある。そこで動くと相手は反応が遅れる。本人も集中が途切れてるのかな。

 それでコレは何だと聞いてみたら文字通り隙・間だと教えてもらったのでそのまま使ってる。

 

 ここをつかなければもう少し苦戦できるようにはなるんだろうけど、そこまでやれることを制限してもな……。気が付かないフリをしても無意識の動きには出ることもあるだろう。

 

()、ね。武器の扱いを教えられたことは? 教えられたとしたらどれくらいの密度でだ?」

「昔親父にねだって一度軽いのを。本気でやって武器壊しちゃったせいで、その後は武器を使った訓練はほとんど無かったですけど。一人での訓練もどきみたいなのはしました」

「それでこれ……喜べよ、あんたは文句なしの天才だ。戦うために生まれてきたような男だよ」

 

 はっと息を立ち上がるルッツさん。その顔からは、さっきまであった覇気が抜けている。

 才能があることには気付いてた。村にいた頃から力は頭抜けてたし、やろうと思った動きは一回二回で成功できた。村の人からは将来戦士として必ず大成するとかなんとか毎日挨拶のように言われてきたから。

 予想外だったのは村で一番くらいかと思っていたら、色々な場所から兵士を集めてきたここでもかなり才能がある方だってことか。

 

 一区切りついて周囲を見渡すと入り口付近に立っているフラウスさんとカニルさんがぼそぼそ呟いている。

 

「惜しい……本当に惜しい。俺の故郷に産まれていればどれほど実ったか」

「それ何度目? 早いとこ育成方針固めましょう。下手に定番の方式で育てるより動きの精度と効率上げてくようにした方が良い。今の時点で本気だったらルッツでも相手にならないんだからひたすら力押し付ける方が効率良いですよ。私も魔法はほぼ攻撃一辺倒で教えてます」

「いやそれは………………アリか。アリかもしれない」

 

 うんうん唸りながら会話を続ける二人を横目に別の武器を選ぶ。

 

 戦に駆り出されてから、今が一番楽しい。

 罪の無い人と命の奪い合いをすることなく、思うままに成長できる。改善するべきところを見つけて、すぐさまそれを直せばまた次の課題が出てくる。

 村にいた頃は訓練もそうそうできなかった。それがここではいくらでもできる。

 

「ありがとうございます。武器を変えてもう何回かできますか?」

「無理だ無理」

「根負けってことですか?」

「……っくく、クソガキが。上等──」

 

 ──……ォゴォン……! 

 

 軽い振動と、少し遅れて聞こえる地響き。地震か? それとも……。

 

「魔術障壁が抜かれた!」

「あぁ!?」

 

 虚空を見つめて叫ぶフラウスさんに素っ頓狂な声で返すルッツさん。詳しいことは分からないけど攻撃か! 

 

「君は一先ず部隊へ戻れ! フラウスさんも術塔へ!」

「はいはい!」

 

 こうなるとさっきの訓練がどうこうなんてのは吹き飛ぶ。

 蹴破るような勢いで扉を開け地上に出ると、瓦礫の山となった住居と地面に突き刺さっている棒が視界に入った。

 

 人一人分ほどの長さと胴体ほどの太さ。細かい細かい魔力の線がジグザグ走って棒全体を覆っている外観が目を引く。これが降ってきたか何かでここを攻撃したのか。

 

「術塔に報告! わたしはボミク様に報せる!」

「……クソが!」

 

 ほぼ同時に二人が別々の方向へ走り去る。俺もセンのところへ戻ろうと走りかけたところで、フラウスさんが風に乗って凄い勢いで棒へと近寄っている。

 これで知らないふりをして後で死んでいました、となっても気分が悪いので何をしようとしているのかだけでも聞いてみるか。

 

「はははっ! 机上の空論でしょこんなの!」

「これ危なくないですか!?」

 

 喜色満面といった様子で棒を見つめて笑っているフラウスさん。こちらの声は届かないかと思った瞬間、顔をぎゅるんと回して俺と目が合う。

 

「アグナ君! それ全力で掴んでて!」

「分かりまし、うお!」

 

 詳しいことは分からないけどとりあえず両手で掴むと、少し間を置いて地面から抜け出すように動き出す。

 なんだこれ? そういう魔物ってわけじゃないよな? 掴んでと言われたから押しとどめてはいるが、段々力が増していく。

 

「地面固めるから突っ込んで!」

「ありがとうございます!」

 

 埋めてからガチガチに固めて動けなくするわけか。

 力任せに地面へ矢を押し込んでいると、フラウスさんがこんな状況とは思えないほど楽しそうな表情で語り出す。

 

「恐らくこれは矢! 刻まれている魔術式は軌跡をなぞって番いの元へ帰還する超がつくほどの大魔術!」

「つまり?」

 

 返答はない。こちらに説明しているのか口に出して情報を整理しているのか、多分だけど見立て通りなら矢の尽きない弓兵がいるということ。しかも一発一発がここに攻撃し放題。

 頭の中で情報をまとめている間に魔力の光が増していく矢。まずいんじゃないかと思った次の瞬間、今までにない力で矢が動き地面を割り抜ける。

 

「ええ!?この遠距離で高出りょ──」

「っとお!?」

 

 一瞬で俺もろとも壁の外へと飛び立つ矢。何かしらに驚いているフラウスさんの声が面白いぐらいの速度で小さくなっていく。

 

 ……ここまで勢いついてると今更矢から手を離したところで変わらないなコレ。多少着地する場所が前後するだけ。

 諦めて地上に目をやると、うじゃうじゃと…………屍人(ゾンビ)がいる?なんだよあれ、という頭に浮かんだ疑問への答えは当然なく、ぐんぐん空を飛ぶ矢はあっという間に高度を下げて地面へ刺さる。

 

 屍人(ゾンビ)を磨り潰しながら地面へ激突。腐りかけた肉にまみれて心底不快だが痛みはない。

 

「あ゛ぁああ゛!」

 

 濁音交じりの叫び声をあげながら襲い来る屍人(ゾンビ)に槍をぶつける要領で矢を振り回しぶちかます。次々来る敵をぐちゃぐちゃにしつつ、視界の先の一人から目を離さない。

 

 屍人(ゾンビ)数百体を挟んだ先でただ俺を眺めているだけの全身鎧。常識外れのデカさの体に、常識外れのデカさの弓を携えている。

 攻撃してきたのは間違いなくお前だな。

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