Green Archive ー自衛官先生と生徒の青春ー   作:和菓子甘味

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序章
プロローグ「赴任」


日本の南西諸島。

温暖な気候と広々とした海が広がるこの地域で、海上を航行する1台の水陸両用車の姿があった。

通称AAV7と呼ばれる陸上自衛隊水陸機動団所属のこの車両は現在演習中であり、その暗い車内では多くの武装した自衛官が上陸の時を待っていた。

 

「ウップ...」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です...エチケット袋はあるので...」

 

顔面蒼白の普通科隊員に声を掛けるのは、AAV7の後部乗員である3等陸曹だった。

普段は操縦手を務めているが、今回は編成の都合から後部乗員を務めていた。

そんな彼はエチケット袋片手に耐える普通科隊員を心配しながらも上陸準備に入る。

いつも通りの演習。普段通りやれば問題ない状況だった。

 

 

 

操縦手からの車内通信が入るまでは。

 

 

 

『なんか波が高くなってないですか?』

『確かに急に上がってきたな...注意して進め!』

『了解...おわああ!!!』

 

操縦手と車長のやり取りを聞いて衝撃に備えるが、想像以上の揺れが車体を襲う。

ひっくり返って行く感覚と共に、万が一に備えて脱出準備をするが、彼の意識はそこで途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここはどこだ...?俺は確か演習中のAAV7が横転して...脱出準備をしたはず...)

 

ぼんやりとする意識を何とか目覚めさせようと目を開いて周囲を確認する。

そこは暗いAAV7の車内ではなく、よく見る通勤電車の中だった。

 

(ここは...?)

 

急な場面転換に脳が追いつかないが、ふと目の前に座る女性が目に入る。

白のいかにも官僚って感じの上衣にロングスカートと身につけた水色の髪の女性。年は俺より10近く離れているだろうか。顔は丁度太陽が逆光になって見えない。

そんな彼女は目を伏せながら言葉を漏らした。

 

「......私のミスでした。」

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」

 

直後、頭にノイズの走った光景が映る。

雨の中、こちらに銃を向ける女性。弾痕があるタブレット。

これらが何を示すのかは依然不明だ。

 

「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて......」

「......今更図々しいですが、お願いします」

 

対面の彼女をよく見れば左脇付近から出血をしている。

直ちに処置をしなければと考えるが、体が動かない。

 

「先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから......」

「ですから......大事なのは経験ではなく、選択」

「あなたにしかできない選択の数々」

 

俺にしかできない選択...?俺は別に異世界の勇者でもチート転生者でもない。唯の高卒自衛官だぞ?

 

「責任を負う者について、話したことがありましたね」

「あの時の私には分かりませんでしたが......。今なら理解できます」

「大人としての、責任と義務。そしてその延長線上にあった、あなたの選択」

「それが意味する心延えも」

 

大人としての責任と義務...?

 

「......」

「ですから、先生」

「私が信じられる大人である、あなたになら」

「この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を......」

「そこへ繋がる選択肢は......きっと見つかるはずです」

「だから先生、どうか......」

 

少女がそこまで言うと、動かそうとしていた手足がやっと動いた。まるで何日も動かしていないように重いが、少しずつ少女の元へ歩み寄る。

少女は俺の動作に驚いているようだ。

 

「今...手当を...」

 

少女の元へ辿り着き、個人携行救急品袋へ手を伸ばした時、俺の体は座席へ倒れ、意識が遠のく。

その最中、少女が微笑みながら呟いた。

 

「これも、大人としての責任と義務。そしてあなただから選択したことなんですね。先生」

 

その言葉を最後に俺の意識は完全にブラックアウトしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......い。......先生、起きてください。先生!!」

 

何者かの鋭い声によって、俺の意識は急速に覚醒した。目を開けばそこには見知らぬ天井。

ガバッと起き上がって周囲を見れば、そこには黒髪でナイスバディな女性が、さながらどこかの執行機関とかの服装に見える白の服を纏っている。この服どっかで見た気がするんだが...?

 

「......。少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは......夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

うーん?俺が悪いのか...?今の状況に脳が追いつかない...。

 

「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生......のようですが」

「ようですが...?」

「......ああ推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

「えぇ......?」

 

俺ですら分かってないのにこの子も分かってないとかどういう状況なの...?

 

「......混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきて下さい。どうしても、先生にはやっていただかなくてはいけない事があります」

「それ、そんなに大事なことなの?俺演習抜け出してる状況なんだけど...」

「......学園都市の命運をかけた大事なこと......ということにしておきましょう」

「学園都市の命運って...あ!ちょっと!」

 

スタスタと歩いていくリンを慌ててソファーから飛び上がって装備を確認して追いかける。足元にあった89式小銃を吊れ銃の状態で携行して鉄帽を歩きながら被り直す。さながら遅刻気味の自衛官だが、あながち間違いではない。

リンについて行くと、エレベーターに乗せられた。

所謂チューブエレベーターというもので、ガラス越しの眼前に広がるのは広大な都市だった。

そこでリンによるキヴォトス解説講座が始まった。

曰く、数千の学園の集合体なのだとか。集合体恐怖症の人ヤバそう。

で、俺のいた所とは色々違っているそうだがそこまで心配はしてないとの事。理由は「連邦生徒会長殿が選んだから」だと。

え?根拠薄ない?そんな人徳あるんか連邦生徒会長殿...。

その理由は後でゆっくり説明してくれるそうだが、エレベーターが着いたのでとりあえず降りる。

 

ふと目に入ったプレートには「レセプションルーム」と書かれており、いわゆる応接室に案内されたようなのだが...。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」

 

なんとも性格がきつそうな藍色の髪をした女の子がリンにつっかかって来た。さては貴様よく漫画にいるツンデレ系キャラだな?年齢=彼女いない歴のおじさんの目は誤魔化せんぞ。

 

「うん?お隣の大人の方は?」

 

俺に気づいたのか、こちらに珍しいものを見る目を向けてくる。とりあえず笑顔で手を振っておこう。

 

「ど、どうも...」

 

なんか一気に不審者を見る目で見られてる...。

おじさんの心は硝子だぞ。

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

 

なんか今度は長身美人のお姉さんが出てきたんやが!?

というかデッカ!!リンも十分デカイけどそれより身長も胸もデケェ!現実ではじめてみたぞ...。え?てか学生なのか?これで!?

身長俺より15cmぐらいデカイぞ...羨ましい。

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

今度はメガネっ子か...属性のバーゲンセールかよ...。

というかこの子結構苛立ってない?若いうちからカリカリしてると将来大変よ?

 

「あぁ......面倒な人達に捕まってしまいましたね」

「それ本心でも言っちゃいけないやつぅ...」

 

なんでこんなFTC訓練で混乱してる連本みたいなカリカリしてる状況なんだよ...。

連邦生徒会長の事でみんな来てるみたいだし、相当面倒なことやらかしたんじゃないだろうな?連邦生徒会長殿......。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余してる皆さん」

 

リンちゃん笑顔だけど雰囲気が笑ってないのよ。

なんで昼ドラみたいな空気感になってるの?

 

「こんな暇そ......大事な方々がここを訪ねて来た理由はよく分かっています」

 

リン、もうそこまで言ったらいっその事開き直った方がいいんじゃないの?多分立場的に無理そうだけど。

 

「今、学園都市に起きてる混乱の責任を問うために......でしょう?」

 

ん?責任?なんだかよく分からんが猛烈に嫌な予感がしてきたよ、おじさん。

その言葉を皮切りに藍色の髪の子がブチ切れた。曰く所属校の風力発電所がシャットダウンしたとか...風力発電所あるってどんな学校だよ!!?

メガネっ娘は連邦矯正局という場所から停学中の生徒の一部が脱出したと言い、後ろにいた銀髪の子がスケバンのような不良が登校中の生徒を襲うことが多くなり、治安維持が難しいという現状を伝える。

待て待て待てィ!連邦矯正局ってなんだ!?名前からして刑務所みたいな場所だろ!?そっから脱出って実質脱獄じゃねえか!何の罪状でブチ込まれたかは知らんが、ヤバいだろ!しかも不良生徒が一般生徒襲うって警察なにしてんの!?

黒髪ロング長身美人お姉さんは戦車やヘリコプターといった出処の分からない武器の不法流通が2000%以上増加したとか言い出す。

今気づいたけどこの子達普通に銃持ってるよね?

多分不法があるから合法なんだろうし、もうこの際だから気にしないけどさ、戦車やヘリコプターの不法流通が2000%ってなんなの?

普通パーセント表記で2000って数字は出んよ?キヴォトス治安悪すぎないか!?

 

「......」

 

流石の問題の津波が押し寄せたせいかリンも硬直してしまう。それもそうだろう。俺ですら脳が思考放棄したいと泣き出しているんだから。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何してるの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」

 

藍色の髪の子がキレるのも当然と言えば当然か。

確かにこれは連邦生徒会長も悪いんだろう。何せ連邦と付くのだからそれなりの権力があるはずだ。

その前に警察機構が破綻してる気がするが、それは置いておこう。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

「え!?」

「やはりあの噂は....」

「なんてこったパンナコッタ......冗談を言ってすまん」

 

一斉にみんなから睨まれた。まあ、真面目な場でふざければそうなるわな...。

ともかく、現状は相当不味いんじゃないの?

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」

 

ちとそれシャレならんでしょ。なんでこういう時に次級者に移るシステムとかないの!こういう時に面倒になるじゃん!

 

「認証を迂回できる方法を探していましたが......先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」

 

先ほどまで...?じゃあ認証できる方法が見つかったのか。ならこの問題はもう解決しそうだな。

黒髪お姉さんも同じことを思ったのか、リンに方法を聞く。リンは「はい」と答えてこちらに手先を向けた。

 

「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

「この方が?」

「そうそう俺が....ってえぇぇぇぇ!!??」

 

黒髪お姉さんが聞き返して思わず返したけど、俺なんにも聞いてないよ!?確か問題解決者って意味だよな!?無理無理!!俺ただの自衛官だよ!?

 

「ちょっと待って。そういえばこの先生は一体どなた?どうしてここにいるの?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが......先生だったのですね」

 

やっと藍髪の子と長身美人お姉さんが聞いてくれた。正直俺が悪いとこもあるけど、ただの不審者枠に納まってて泣きたくなって来たところだ。

 

「はい。こちらの先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名......?ますますこんがらがってきたじゃないの......」

「大丈夫だ。俺も訳が分からなくなって思考放棄し始めてる」

「だ、大丈夫なんですかこの人......?」

「連邦生徒会長曰く前職はエリート部署に所属していたとの事なので大丈夫でしょう」

「すっごい投げやりだね!?...とりあえず初めまして。何の因果か先生をやることになった───3等陸曹だ」

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの......い、いや、挨拶なんて今はどうでも良くて......!」

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと......」

「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」

「あ、ああ。よろしく......」

 

なんか感情の起伏が激しい子だな......長い付き合いになりそうな気がしてきた。

 

「......先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。連邦捜査部「シャーレ」。単なる部活ではなく、一種の法的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です。」

 

ほえーすんごい組織だねぇ......なんで俺なん?俺より優秀な自衛官いっぱいいるよ?俺なんか下の下よ?

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが......」

 

聞いてないんかい!報連相って概念ないのか連邦生徒会!!!

 

「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。先生を、そこにお連れしなければなりません」

(とりあえずそのシャーレの部室に行かないといけないのか...30kmなら徒歩でも行けないこともないけど...)

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど......」

 

移動方法を考えていたら、リンちゃんがヘリを用意してくれるようだ。ヘリあんまり乗ったことないけど墜落しないかな...。

ふと横から聞こえる声を聞けば「戦場」だの「焼け野原」だの「巡航戦車」だの「占拠」だの不穏な言葉が聞こえてくる。

その単語ごとにリンの顔に青筋が立って恐ろしい顔つきになる。

 

「大丈夫......?深呼吸でもする......?」

「......だ、大丈夫です......少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」

「君も......苦労してるんだな......」

 

あんな演習とかでしか聞かない単語聞こえた以上は、おじさんは大した事だとは思わないんだけどね...?

そう思っていたら、リンちゃんは目の前の生徒達をじっと見つめる。なんだかやーな予感がぷんぷんするんだが...?

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

「......え?」

 

あ、これあかんやつや。ユウカは分かってないみたいだけど、やばい選択肢取るやつや!

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」

 

生徒達に有無を言わさずに歩いていくリンちゃんに俺は思った。

(この子だけはなるべく怒らせないようにしよう)と。

 

「あ、ごめんリン」

「なんですか?」

 

滅茶苦茶イラついてるじゃん...怖ァ...。

 

「いや...激戦区に徒歩で行くなら5.56mmNATO弾くれない?俺の銃は弾がなくて...」

「はぁ...わかりました。出口までの経路に倉庫があるのでそこで支給します」

 

とりあえず、俺の御守りは入手することが出来そうだ。

 

 

 

 

 

現在地、D.U.外郭地区のシャーレ部室付近。

発展してるのに何故か爆音に銃声が轟く市街地。

うーん先生って役職がいる場所じゃないんだよなぁ!

とりあえず死にたくは無いので、近くのブロックバリケードに隠れる。

さっきまで自己紹介とキヴォトスについて教えて貰ってた和気あいあいとした雰囲気はどこへやら。どっかの国の紛争地域に来たようなもんだ。

 

「な、なに、これ!?」

 

ユウカの声を遮るように敵勢力の銃弾が飛び交う。

全くキヴォトスはとんでもないところだな!!

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!!」

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから......」

「それは聞いたけど......!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が......!」

「連邦生徒会に来た自分を恨むしかないな!」

 

俺はチナツと口論をするユウカに軽口を叩きながらタバコに火をつける。

こんな状況じゃ、一服でもしてないと気がどうにかなりそうだ。

 

「何呑気にタバコなんて吸ってるんですか!!」

「副流煙は行かないようにする」

「そういうことじゃ......!」

 

説教をしようとしていたユウカの体に数発の銃弾が命中する。俺は情けないが咄嗟に身を伏せた。

 

「いっ、痛っ!痛いってば!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません。」

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

「それはミレニアムの話だし、まだ決まってないし、普通の人間はホローポイント食らったら傷跡云々より生命の有無を疑うんだよなぁ!?」

 

平然としてるユウカと長身美人お姉さんことハスミの会話を聞いていて、これがキヴォトスの日常なのだと改めて思い知る。平時が有事なんてシャレにもならん。

 

「今は先生が一緒なので、気をつけましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です。」

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので......。私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」

「こんな形で実戦を経験するとは思わなかったよ....!」

 

メガネっ娘ことチナツに注意されるが、後悔先に立たずとはまさにこの事。とはいえ嘆いていても銃弾は止まってはくれない。今、俺ができる最善の策を取るしかない。

とりあえず弾納から弾倉を取りだして弾薬が入っているかを確認。

小銃も薬室を解放して弾薬が入っていないことを確認してから弾倉を装着し、槓桿を引ききってから放し、弾薬を装填する。

後は安全装置を外せば...弾が出る。

経験したことの無い実戦。それが現実になり、脂汗が吹き出す。ユウカ達が言っていた通りなら彼女たちにとっては日常。現にユウカはホローポイント弾を受けて痛いで済んでいる。だが俺は違う。

1発が致命傷になる。救急法は学んでいるが、対弾性のない鉄帽か頭に喰らえばそこまでだ。

実際に交戦するということに恐怖を感じていた。

そんなことを考えていると、ユウカが声を上げる。

 

「先生、先生は戦場に出ないで下さい!私たちが戦ってる間は、この安全な場所にいてくださいね!」

「とは言っても俺は自衛官だ...あ、そうだ!俺が今から君達の指揮を執る!今から俺の指示に従ってくれ!」

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ...先生ですし...」

 

ユウカの先生だからって納得の仕方はどうかとは思うけど......。

 

「一応これでも小部隊の戦闘指揮は経験あるから任せて」

 

腐っても陸曹教育隊を終えて指揮経験もあるんだ。

実戦はなくても、何とかなるなる!!

表立って戦えないなら、せめて自衛官として役に立てなければ面目ない。

 

「わかりました、これより先生の指揮に従います」

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

 

ハスミとチナツも指揮下に入ってくれるようだ。

スズミとユウカを含めても4人とは2個組程度の規模だが、仕方ないだろう。

 

「よし、じゃあいってみましょうか!」

 

ユウカの言葉を合図に俺も号令をかける。

 

「只今より、当分隊の指揮を俺が執る!ハスミとチナツを1組、ユウカとスズミを2組と呼称!当初、1組射撃支援の下、2組は前方ブロックバリケードまで前進!1組、前方200、敵散兵、単射、射撃開始!2組前へ!」

 

陸曹教育隊で死ぬほどやった記憶を掘り返して号令をかけて2組を前進させる。

続いて2組の到着を確認してから2組に射撃支援をさせて1組を前進させ共に前進する。

それを繰り返して敵を撃破し続け、なんとか第一陣は凌げたようだ。

敵が居ない場所で一息を着くと皆が感嘆の声をあげた。

 

「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします......」

「......やっぱりそうよね?」

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

「なるほど......これが先生の力......まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か......」

 

小っ恥ずかしいが、スズミ、ユウカ、ハスミから褒めて貰えて嬉しい。

 

「そう言って貰えて嬉しいよ。陸教で頑張った甲斐があった」

「それでは、次の戦闘もよろしくお願いします、先生」

 

そういえば戦闘はまだ終息してなかったな。

 

「よし、引き続き当分隊はシャーレへ向けて前進する。各員警戒しつつ前進せよ!」

 

気が遠くなるけどやるしかないか。

 

 

 

敵の不良を撃破しながらシャーレへと進んでいくと、シャーレの建物目前でリンから無線が入った。

 

『今、この騒動を巻き起こした生徒の正体が判明しました。ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

「矯正局とか脱獄とか色々聞きたいことはあるけど...相手の頭が分かっただけでもデカイ。各員警戒を厳にしつつ引き続き前進!」

 

まだまだシャーレまでは距離がある。引き続き前進するが、その時目の前に1人の少女が現れた。

 

「騒動の中心人物を発見!対処します!」

「フフ、連邦生徒会の子犬共が現れましたか...お可愛いこと」

 

ハスミの報告を受けて前を見ると、そこには狐の面を被った黒い和服にスカートの女子が立っていた。

しかしその子が出す気迫はレンジャーや空挺団、FTCが出すそれに勝るとも劣らないものであった。

 

「おいおい...とんだ相手がいたもんだ。火力集中!敵の指揮官を撃破せよ!」

 

俺の号令を皮切りに一斉射撃が放たれるが、ワカモには大して効力が無いようで、ある程度攻撃を受けると後ろに下がった。

 

「私はここまで、あとは任せます」

「逃げられてるじゃない!追うわよ!」

「深追いはするな!俺たちの目的はシャーレを奪還する事だ!」

「それに、罠の可能性もあります」

「そういうことだ。ノコノコついて行ってブービートラップで仲良くボカンとはなりたくないだろう?」

「わ、わかりました、引き続き建物奪還を目指して進みます」

 

逃げるワカモを追おうとするユウカをチナツと一緒に静止して、本来の目的であるシャーレ奪還へ軌道修正する。

俺達の目的はシャーレ奪還であって首謀者の捕獲では無い。

それに相手があの気迫なら、今の面子や装備では相手にもならないだろう。チナツが言った罠の線もある。

とりあえずはシャーレの目の前まで来ることは出来たが...そういえばリンちゃんの電話で聞いた話なら「巡航戦車」もいるはず...。

そう考えた時、何やら地面が振動し始める。

この特徴的な振動とエンジン音...そして装軌音...来やがった!!

 

「敵戦車接近中!総員対戦車戦闘用意!」

「巡航戦車です!」

「嘘だろ!?あれは...」

「クルセイダー1型!私の学園の制式戦車と同じ型です!」

「不法に流通されたものに違いないわ!PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも!つまりガラクタって事だから、壊しても問題ないわ!!行くわよ!」

「だからなんでそんな世紀末覇王が居そうな世界観なのキヴォトスって!?」

 

クルセイダー巡航戦車。かつてイギリスが開発運用していた巡航戦車だ。俺のいた世界では博物館レベルの骨董品だが、戦車というだけでその火力は絶大であることに間違いは無い。なんで不良生徒が買えるレベルで流通してるのか知りたくは無いが、せめてもの救いは制式化してる学園の生徒が居るってことだ。

 

「ハスミ!敵戦車の弱点は!?」

「後部装甲です!そこなら私のAP弾で貫けるはずです!」

「よしきた!スズミ!手榴弾の残弾と種別は!?」

「破片、閃光、煙幕。どれもまだ十分にあります!」

「よし!破片手榴弾を一つくれ!───ユウカ!」

「は、はい!」

「バリアを貼って敵戦車を右90度方向に誘導できるか!?」

「できます!」

「よし、命令を補足する!──ユウカ!ユウカは俺の支援射撃の下、前方50ブロックバリケードまで前進して到着後に射撃開始、敵を陽動!──スズミ!前方20、敵戦車、弾種閃光1発!続けて煙幕手榴弾3発!指名!俺は敵戦車に近接して破片手榴弾を設置する!──ハスミ!当初陽動間に左側方へ前進!爾後、破片手榴弾炸裂後、敵戦車の後部装甲を狙撃!射撃時期は自己の判断で撃ってよし!──チナツ!チナツは敵戦車乗員が脱出した際の牽制射撃を実施!」

『了解!』

 

息を整えて皆を見る。慣れているのか準備は完了しており、後は俺の号令をかけるだけだ。

大丈夫だ落ち着け。演習でやったことは無いが、今は分隊長なんだ。何とかなる。

呼吸を整えて遮蔽物から身を出して安全装置を解除、89式の単連射で敵の砲手用視察装置と車長用視察装置を射撃する。当たってはいないが、支援射撃としては十分だ。

数回射撃後、息を吸い込み最大声量で号令を発した。

 

「ユウカ前へ!」

 

その号令を元にユウカが駆け出す。俺の方に気が向いていたからか、一瞬遅れて砲塔が旋回して車体も旋回する。だか流石に動き回る人に向けて命中させるのは難しいのか、主砲も連装銃も外していた。

 

「よし、ハスミ前へ!」

「行きます!」

「先生!到着しました!これから陽動を開始します!」

「了解!─スズミ!準備良いか!」

「いつでも行けます!」

 

ハスミが駆け出し、ユウカが無事に到着。射撃を開始した。

スズミは既に手榴弾の準備を終えていつでも投げられる。あとはタイミング。

敵が主砲を発射したのを見計らって号令を出す。

 

「総員閃光注意!─スズミ!手榴弾投擲用意!投げ!!」

 

俺の号令でスズミが閃光手榴弾を投げる。着弾したそれはとてつもない閃光と爆音を響かせる。おそらく車内で視察装置を見ていた乗員は混乱しているだろう。

これでも俺は元74式戦車の乗員だ。戦車の弱点のひとつ、それは視界が極端に狭い事だ。ペリスコープや照準器を覗かなければ敵が確認できない。

裏を返せば、戦闘間はそれらを凝視し続けることになる。

ならば閃光手榴弾で目眩しをして煙幕を撒けば、相手の視界を奪うことが出来る。とはいえ、これは赤外線視察装置がない旧式戦車にしか通用しないが、クルセイダー程度の年式相手なら十分のはずだ。

 

「続けて煙幕3発投げ!」

 

間髪を入れずに煙幕手榴弾を投擲して周囲に煙幕を発生させる。その間に、俺はスズミから受けとった手元にある破片手榴弾の安全ピンをまっすぐに伸ばしていつでも引き抜けるようにした。

「M26手榴弾」別名「レモン」。アメリカが開発して西側諸国が多く採用する破片手榴弾。当然陸上自衛隊でも採用しているが、俺は新隊員教育隊で1つ前のMkII手榴弾の模擬弾しか投げたことは無い。だが構造は同じだ。煙幕の状況を確認し、丁度良い曇り具合になったタイミングでジャングルクリップを外す。あとはピンを抜いて安全レバーから手を離せば起爆する。

 

正直怖い。

 

実戦で、しかも戦車に肉薄なんてやった事ない。寧ろ戦車乗員としてはかなり危険であると考える。まるで第二次大戦だが、今対戦火器が無い以上はこれをやるしかない。

 

「分隊長前進する!友軍相撃に注意!」

 

注意喚起と共に、俺は全速力で敵戦車の左側側面へ回り込む。少し距離を取りながら、敵戦車の第5転輪に安全ピンを抜いた手榴弾をセットする

 

「お腹すいてるだろ!?たっぷり食べな!!」

 

安全レバーが飛んだことを確認して、俺は近くのブロックバリケードに飛び込んだ。直後に爆発音が響き渡り、頭をあげて確認すれば、履帯と起動輪、第5転輪が吹き飛んでいた。

 

「見えた!撃ちます!!」

 

爆風で煙幕が晴れたタイミングで、ハスミが敵の後部装甲を狙撃。見事命中したのか、エンジンは金属が擦れる音を上げながら停止した。

流石に堪らず乗員が下車し、射撃してきたが俺とチナツで撃ち返して無力化した。

最終的に車内の安全確認を終えて、戦車が沈黙したことを確認した。

 

「敵戦車沈黙...目標奪取。任務完了だな」

 

小銃の安全装置をかけて戦車から降り、一息つく。

伝説の傭兵程じゃないが、戦車と肉薄したという事実に、未だ高揚感を覚える。おそらくアドレナリンが放出されているからだろう。気持ちを落ち着け、周囲を確認する。

同時にリンからの無線が来た。

 

『「シャーレ」部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』

「了解した」

 

通信を終えて目の前の建物を見る。

これが新しい職場か......。

 

 

 

まだ建物内部に敵勢力が居ることを考え、ユウカ達に正面玄関と上層階の安全化を頼み、俺は1人地下へと向かう。

電気が来ていないのか、真っ暗の地下を89式の被筒部に取り付けたタクティカルライトで照らし、89式を構えて進む。

しばらく進むと、少し電気がついている大きな部屋に来たのでライトを消して入る。

中を覗いてみると、1人の人影が見えた。

「動くな!誰だ!」

俺が誰何すると、その人影はこちらを向いた。

人影の正体はこの混乱の首謀者であるワカモだったのだが。

 

「あら、あららら....あ、ああ...し、失礼いたしましたーー!!」

「...........えぇ??」

 

叫び声をあげてそのまま逃げ去ってしまった。流石キヴォトス人。早くて捕まえるのは無理そうだ。

丁度入れ違いでリンが来て何かあったのか聞かれたが、敢えて黙っておくことにした。俺だって何が起こったか説明に困るのだ。

それはさておき、流石にリンに指導しなきゃならんことがある。

 

「ともかく遅い到着だな。鉛玉1発喰らえばゲームオーバーの人間を前線に送り出しておいて、自分は安全化されてからご登場って訳だ」

「それは......」

「ま、いいさ。それが自衛官の俺の仕事でもある。ただ、一緒に来てくれたあの子たちには礼の1つでも言っておきな。それが筋ってもんだろ?」

「......そうですね」

「よっし、じゃあ説教はここまでにして、さっさと制御権回復させるか。で?俺は何をすればいい?」

「少々お待ちください」

 

リンは机の引き出しを開けて板状の何かを取り出す。

そしてそれを俺に差し出した。

 

「......受け取ってください」

「どこにでもあるようなタブレット端末だな......?」

「はい、これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です。普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からないものです。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みの全てが不明」

「なんだその秘密ボックス......起動したらボカンとかないよな?死にゲーみたいなバッドエンドはごめんだぞ?」

「それは無いでしょう。連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるでしょうか、それとも......」

「怖い言い方しないでくれ!本当に爆発しそうだ!」

「......では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかってます。邪魔にならないよう、離れてます」

「......爆発から逃れるためじゃないよね?」

 

離れたリンは何も言わないが、とりあえず自爆覚悟で起動するしかないようだ。

どう見てもただのiP〇dだが、誰も動かせない秘密ボックス......非常に怖いが電源ボタンを押す。

ちゃんと画面は起動したが、パスワードを要求された。

当然と言えば当然だが、パスワードなんて知らんぞ...。

だが、その時ふと頭に何かがよぎった

 

「我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を...」

 

どうやら正解のようだ。音声が承認した事を報告して何かが起動し、光が辺りを包み込む。

気がつけば、半壊した教室とそこから広がる海。

そして机に突っ伏して寝ている女の子がいる空間が画面に映し出されていた。

 

「いや、どういう状況やねん」

 

ツッコミが止まらないが、画面をスワイプと拡大を利用して、寝ている女の子の頬を突っついて起こしてみる。

何度か突っつくと、女の子は目を覚ました。

どうやら寝ぼけているようだが、だんだん意識が覚醒したのか、俺の姿を見て驚いていた。

 

「お、おはよう」

「せ、先生!?この空間に入ってきたっていうことは、ま、まさか先生......?!」

「あ、ドーモ先生です。君は?」

「う、うわああ!?そ、そうですね!?もうこんな時間!?うわ、わああ?落ち着いて、落ち着いて......」

 

大丈夫かこの子......そそっかしくておじさん心配になってきたぞ......?

 

「えっと......その......あっ、そうだ!まず自己紹介から!私はアロナ!この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

正直幸先不安ではあるが、ここは黙っておこう。可愛いし。

 

「やっと会うことができました!私はここで先生をずっとずーっと待ってました!」

「いや、普通に寝てなかった?」

「あ、あうう......も、もちろんたまに居眠りしたりしたこともあるけど......」

「まあ、それはさておき。.......これからよろしくな。アロナ」

「はい!よろしくお願いします!」

 

話を聞いていけば、まだ身体のバージョン、特に声帯周りが低いとの事。うーん?十分ハイスペックだと思うけど......。まあこれから頑張っていくしかないか。

ひとまず手続きとして生体認証することになったのでアロナの言う通り人差し指を合わせる。本人は少し恥ずかしいらしいが、おじさんになった俺はどうもその感情がわからん。これが老いというやつか......。

 

「まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

「どちらかっていうと宇宙人の映画のワンシーンだな......」

 

アロナには申し訳ないが、どうしてもE.〇.が脳裏をチラつく。

 

「実は、これで生体情報の指紋を確認するんです!画面に残った指紋を目視で確認するのですが......すぐ終わります!こう見えて目は良いので」

 

俺の中のゴ〇リが「ほんとかなぁ?」と疑っている。

その結果はすぐ明白になり、段々目を細めて見たかと思えば、顔文字のような「まあいっか」という表情をしおった。

さては貴様ちゃんと見ておらんな?

 

「......はい!確認終わりました♪」

「真面目にやった?手抜きしてるみたいだけど....」

「えっと......そんなことありません!」

「えっとって言ってもうてるんよ......最近の機械は指紋認証は自動だし、1秒もかからんよ?」

「え、ええ!?わ、私にはそんな最先端の機能はないですが......そ、そんな機能なくてもアロナは役に立ちますから!?目でも十分確認できますから!」

「んん?ホントかなぁ?」

「全然信じてないですね......うぅ......」

 

あ、やっべ泣き出しそうになってる。やり過ぎてしまった......。

 

「だったらその最先端のナントカさんのところに行ってしまったらどうですか!」

「ごめんごめん、冗談だよ」

「ぐすん......」

 

へそを曲げてしまったアロナをいっぱい慰める事で何とか機嫌を直して貰えた。なんというか、全国のお父さんはこんな感じなんだろうか。子供っていいなぁ......あっ、目から汗が。

 

「なるほど......先生の事情は大体わかりました」

「え?俺が長年彼女いない事まで!?」

「それは知りませんよ!」

「ははは冗談だよ。サンクトゥムタワーの事だろ?」

「もう......はい、連邦生徒会長がいなくなって制御する手段がない事ですね」

「そうだ。因みに連邦生徒会長について何か知ってるか?」

「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが......連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも......お役に立てず、すみません」

「いや、知らないことは仕方ない」

 

この子、キヴォトスの情報の多くは知ってるのに、連邦生徒会長の事だけは抜けてるんだな......誰かが意図的に分からないよう工作したのか?

というか俺、連邦生徒会長が女の子ってこと言ったっけ?いやキヴォトスでまだ俺以外に男見てないからそうなのかもしれんけど......。まあいいや。

 

「......ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです」

「じゃあ一仕事頼むよ。アロナ」

「はい!分かりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください!」

 

アロナがそう言うと、モーター音のようなものが鳴り響き、今いる部屋の電気が点いて明るくなる。

電力が復旧したってことは、サンクトゥムタワーが動いた......ってことなのか?

画面に目を戻したと同時にアロナが勝ち誇ったような顔でこっちを見ていた。可愛い。

 

「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了......。先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」

「じゃあいっちょ好き放題しちゃうか?」

「先生!?」

「冗談だって。連邦生徒会に移管はできそうか?」

「まったく......。先生が承認さえしてくれれば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。でも......大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても......」

「まあ、なんかあったとしてもアロナなら奪い返す事ぐらい造作でもないだろ?」

「それはそうですけど......」

 

冗談で言ったのにできるんかい!......まあいいや。

 

「じゃあお願い」

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

アロナが実行してくれたようなので、リンに制御権が連邦生徒会に移管されてるか確認してもらう。

部屋の机にある内線でリンが確認を取ったところ、制御権の移管が確認されたそうだ。

リンも仕事が進められることに安堵していた。君学生なんだよね?社畜じゃないよね?

とりあえず色んなことが起こったが、ひとまず落ち着いたってところだな。

 

「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

「なに、本来なら大人がやるべき事なんだし。大したことはしてないさ」

「それでもです。ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」

 

討伐って言っちゃったよこの子。

 

「あー......あんまり手荒にはしないようにね?」

「それはヴァルキューレ警察学校次第ですね」

 

へー警察学校もあるんだ。てかそこが警察の仕事してるんかい!つくづく俺の常識とは違うな、キヴォトスって場所は。

 

「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようですね。......あ、もう一つありました」

「あるんかい!」

 

思わずズッコケそうになった。もしかして偶に抜けてるキャラか?もしそうなら俺のストライク範疇だぞ。

 

「ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」

「それもそうか、間取りもなんも知らんしな......お願いするよ」

 

そうして俺はリンに連れられて地下を後にした。

1階へと戻ると、そのままエレベーターに乗ってかなり上の階まで来た。

目的の階で降りると、リンはひとつの部屋の前へ進む。

部屋のガラスの扉には丁度目線の高さに「空室 近々始業予定」とマジックで手書きされた紙が貼られており、横の壁には円に十字が重なったようなマークの下に「Independent Federal Investigation Club S.C.H.A.L.E」の文字が入った金属製のプレートが掲げられていた。

 

「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」

 

そう言ってリンは部屋の扉を開けた。

俺も続いて中に入ると、そこには学校の職員室とか自衛隊の事務室を彷彿とさせるようなロッカーに棚や事務用品が用意されていた。

天井は吹き抜けで上に通路がかかっており、奥は一面ガラス窓で日差しが心地いい。

 

「そして、ここがシャーレの部室です。ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう」

「確かに良い職場環境だ。で?俺は何をすればいい?」

「......シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない......という強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です......」

「そりゃ面白い。のんびりしていい仕事だ」

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり、何でも先生がやりたいことをやって良い......ということですね」

「ハーレムを目指したり?」

「......」

「冗談だって!俺も流石に10以上年が離れてる生徒に手を出すほど歪んじゃいない!」

「......本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほど余力がありません。今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情......支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど......」

 

うわぁ......下手したら師団司令部とかと同じぐらい大変なんじゃないか?司令部勤務したことないから知らんけど。

そう考えてたらリンが何か閃いたという顔つきでこっちを見て来た。

嘘だよな?

 

「......もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね」

「さっきふざけた俺が言うのもなんだけど、本人目の前にしてよく言えたなお主」

「その辺に関する書類は、先生の机の上に沢山置いておきました。気が向いたらお読みください」

「確信犯じゃねーかオメー!!今チラッと見たけど服務小六法2冊分ぐらいの紙束が3つあるんだが!?」

「すべては、先生の自由ですので。それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」

 

リンはそう言って部屋を出ていった。

してやられたか......まあでも、夢に見た「先生」の職につけたんだ。元の世界に戻る方法を探しながら頑張って生徒の為に働くとしましょうか。

てか装具暑っついな、脱ぐか。武器も鍵かけておけば盗みに来る奴もいないだろ。本当は管理上ダメだけど。

よく見たら俺のリュックとか装備品、服なんかも全部ダンボールに詰められてここに置かれてる......。

まあ丁度いいので、鉄帽から作業帽に変えて、荷物の中からシッテムの箱がちょうど入るポーチを引っ張り出す。たまたま安くて買ったやつだけどちょうど良かった。

ポーチを右後部に吊るした時にふと思った。

そういえばタバコが吸いたいな......。

 

「へいアロナ。近くの喫煙所教えて」

「私は携帯のAIじゃありません!先生はタバコを吸われるのですか?」

「まあ、自衛隊なんてやってればそれぐらいしか娯楽がないもんだ。で?喫煙所は?」

「ビルを出てすぐそこにありますよ」

「ありがとう。ついでに連れてくよ」

「あ、私の事は肌身離さず持っていってくださいね?」

「風呂場でも?俺の裸を見たいなんて物好きのおませさんめ!」

「先生のバカァ!見ないですよ!」

 

そんなやり取りをしながら部屋に鍵をかけ、エレベーターに乗って1階へ。

外に出ると俺と来てくれた4人がいた。やっべ色々あって忘れてた。

 

「みんな、とりあえずサンクトゥムタワーは何とかなったよ」

「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ」

「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど......すぐに捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは、担当者に任せます」

「ハスミの言う通りだな。変に追いかけて余計面倒になるよりは、各自治区に任せるのがいいだろう」

「お疲れ様でした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」

「出来ればそこまで有名になりたくないんだけどなぁ。とにかくみんなお疲れ様」

「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生」

「ああ、その時はハスミとスズミに案内をお願いしようかな」

 

俺の言葉にハスミは微笑み、スズミはお辞儀をしてくれた。

 

「私も、風紀委員長に今日の事を報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」

「ありがとうチナツ。また時期を見て連絡するよ」

「ミレニアムサイエンススクールに来てくださればまたお会いできるかも?先生、ではまた」

「ああ、気をつけてねユウカ」

 

4人と別れの言葉を交わした俺は、彼女たちが見えなくなるまで見送った。

ドンパチをやってても、なんだかんだ彼女たちも青春をしているようだ。

自分はあんな感じじゃなかった分、彼女たちに楽しんで欲しいのはエゴなのかもしれない。

ふと背中に悪寒が走る。

後ろを振り返るが何も無い。

 

「気のせいか......?」

 

とりあえず喫煙所で一服決めますか。

 

 

 

 

 

一服を終えてシャーレに戻ってきた俺はとりあえず荷解きを進める。

アロナはシッテムの箱をタブレットスタンドに立てかけて見えるようにしてある。

 

「あはは......なんだか慌ただしい感じでしたが......ある程度、落ち着いたみたいですね。お疲れ様でした」

「アロナもお疲れ様。あっ、無くしたと思ってたヤツここにあった」

「はい!でも、本当に大変なのは、これからですよ?」

「これから?」

「これから先生と一緒に、キヴォトスの生徒たちが直面している問題を解決していくのです......単純に見えても決して簡単ではない......とっても重要なことです」

「特に思春期の子ならそうだろうなぁ......おじさん参っちゃうよ」

「大丈夫です!私も全力でサポートしますから!それではキヴォトスを、シャーレをよろしくお願いします、先生」

「こちらこそ、よろしく頼むぜアロナ!」

「それではこれより、連邦捜査部『シャーレ』として、最初の公式任務を始めましょう!」

「ちょうど荷解きも終わったし、始めますか!」

 

この透き通る世界で俺ができることは分からない。

ほんの些細なことかもしれない。

でも、些細なことでも未来ある子供たちのためになるのなら、俺は頑張れるだろう。

かつて目指した教師として、今までやってきた陸上自衛官として。

最大限努力していこう。




先生の名前は決まり次第加筆修正します。(つまり見切り発車)
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