Green Archive ー自衛官先生と生徒の青春ー   作:和菓子甘味

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第2話「有事はすぐそこに」

ヘルメット団との抗争が終わったある日の朝。俺はアビドス住宅街の第45ブロックで現地偵察を実施している。45ブロックってなんやねんと、アビドスの広大さに辟易していると、目の前に知ってる顔が現れた。

 

「うっ......な、何っ......!?」

「おはようセリカ」

「な、何が『おはよう』よ!なれなれしくしないでくれる?私、まだ先生のこと認めてないから!」

「し、辛辣......」

 

普通に挨拶しただけなのにこの言葉......おじさん泣きそう。というか最近の女子高生ってこんな辛辣なの?

いくら迷彩服来た異質な先生とはいえそこまで毛嫌いせんでも......いや、するか。

流石にこれ以上辛辣な生徒も居ないだろうし、いつかセリカが認めてくれるといいなぁ。

 

「まったく、朝っぱらからのんびりうろついちゃって。いいご身分だこと」

 

グサグサ刺してくるね君ィ!?黒ひげ危機一髪ぐらい刺してるよ!?

 

「ははは......セリカちゃんは、これから学校かい?」

「な、何よ!何でちゃん付けで呼んでんのよ!私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?」

 

ちゃん付けで親近感アップ作戦は見事失敗である。

 

「大体、朝っぱらからこんなところをうろちょろしてたら、ダメな大人の見本みたいに思われるわよ?」

「まあ......うん......正論だね」

 

セリカがやれやれといった様子でダメ出ししてくる。

確かにダメな大人に見えるだろう。仮に【自衛隊】という組織を知っていても、朝っぱらから住宅街をうろちょろしてれば浮いて見えるというものだ。

加えて服装も迷彩服に鉄帽、チェストプレート、腰周り装備、拳銃という状況だしね。

 

「じゃあね!せいぜいのんびりしてれば?私は忙しいの」

「あ、どうせ学校に行くなら一緒に行こう。丁度パジェロをこの先の駐車場に停めてあるからさ」

「あのね、なんで私があんたと仲良く学校に行かなきゃならないわけ?それに悪いけど今日は自由登校日だから、学校に行かなくてもいいんだけど?」

 

自由登校日なんてそんな羨ましい日があるのか......俺が学生なら、絶対に登校せずにゲームばっかりしてるぞ。

 

「それならどこに行くんだ?多少遠くても現偵ついでに送っていくよ?」

「そんなの教えるわけないでしょ?じゃあね、バイバイ」

「あ、ちょ!セリカ!」

 

セリカは砂埃を立てながら走り去っていった。余程俺の事が嫌いな様子だ。

すると左腰のポーチに入ったシッテムの箱からアロナが残念そうに声をかけてきた。

 

「あらら......振られちゃいましたね先生」

「やかましいわアロナ」

「で?どうしますか?」

「追いかけるに決まってるだろ?」

 

問いかけるアロナにそう返し、俺は駐車場のパジェロへ戻って、セリカの後を追いかけた。

 

 

 

セリカを追いかける事数分後、流石に目立つパジェロでは気づかれた。

立ち止まったセリカの横にパジェロをつけ、操縦席の窓を開ける。

 

「な、なんでついてくるの!?」

「ついて行けばどこへ行くかわかるだろ?」

「何言ってんの!?あっち行ってよ!ストーカーじゃないのっ!!」

 

ストーカーじゃないです先生です。

自衛官だけど先生です。

 

「フッフッフ......果たして俺から逃げられるかな?」

「わかった!わかったってば!行先を教えればいいんでしょ?」

 

漸く諦めたのか、セリカはもごもごしつつも行先を言ってくれた。

 

「......バイトよ」

「バイト?お小遣いが足りないのか?」

「あ、あんたみたいにのんびりしてられないのよ、こっちは。少しでも稼がなきゃ!」

「辛辣ゥ」

「もういいでしょ?ついてこないで!」

 

そう言ってセリカは走り出した。悪いが明確な行先は聞いてないので、引き続き追跡を行う。

流石のキヴォトス人でも、車両相手には負けるのか、数分後にセリカは立ち止まった。

前回と同じようにパジェロを彼女の横につけて、窓を開けて話しかけた。

 

「バイト先を聞いてないもんでな。ついてきた」

「ああもうっ!意味わかんない!あっち行ってよ!ダメ大人!!あっち行けってば!ぶっ殺すわよ!?」

「やれるなら......行っちまった」

 

セリカは再び砂埃を立てながら走り去ってしまった。

俺としては、念の為に手をかけてた9mm拳銃を引き抜くことにならなくて、心底ほっとしてる。

このまま停車していても周りの迷惑になるので、パジェロを発進させて、現偵を再開した。

するとアロナが抗議の声を上げた。

 

「そんなに緊張するなら銃を置いてくればいいじゃないですか!」

「そうは言うがな、このキヴォトスで銃撃戦の発生件数がどれだけ高いか、アロナも知ってるだろ?」

 

そう、キヴォトスでは銃撃がハリセンと同等ぐらいの感覚で行われる。寧ろハリセンより軽いとまで言っても過言では無いだろう。

だからアロナのバリアがあるとはいえ、最低限の防弾装備と武器を携行している訳で、俺だって生徒相手に撃ちたい訳では無い。

 

「とりあえずどうしますか?セリカさんはもう行ってしまいましたが、ヴァルキューレのデータベースや監視カメラをハッキングすれば場所の特定は......」

「いや、止めておこう。そんな面倒な事する程でもないし、いつかセリカから言ってくれるさ」

「うーん......言ってくれるんでしょうか」

「そればっかりは待つしかないでしょ」

 

とりあえず今は現偵を続行する。なんせアビドスは広大だ。周囲の地形地物を把握していなければ、作戦行動に支障をきたす。アロナのサポートが完全に受けられるとも限らないし、自ら見た方がわかりやすい事もあるものだ。

 

 

 

 

 

現偵を続けて数時間後。現偵は粗方終了した。

 

「とりあえずこれで午前中は終わりかな」

「お疲れ様でした先生!」

「ありがとうアロナ」

 

アロナの労いの言葉の後、俺の腹の虫がなった。

もう昼だし、腹ごしらえでもするかな......今日はラーメンの気分だな。

 

「アロナ?この辺で美味しいラーメン屋とかある?」

「だから私はサポートAIでもそういうサポートAIじゃありません!!少し先に柴関ラーメンっていうラーメン屋があります」

「ありがとうアロナ。後でいちごミルクあげるよ」

「2本貰いますからね!!」

「はいはい。んじゃ行きますか」

 

アロナのナビゲーションの元、俺は柴関ラーメンへとパジェロを進めた。

数分後、近くの駐車場にパジェロを停め、9mm拳銃以外の装具を全て外し、作業帽を被って来るは柴関ラーメン。

本当にどこにでもある感じのラーメン屋だ。漂う匂いが俺の腹を刺激する。

 

「知らない土地のラーメン屋ってのはワクワクするな」

 

自衛隊勤務の時もよく訓練で遠くの駐屯地に出かけた際、外出が出来ればラーメン屋巡りをしたもんだ。

まあ、食いすぎて少し太って指導を受けたのは思い出したくないが。

 

「とりあえず入ってみるか」

「あっ、先生〜!」

 

早速引き戸を開けて暖簾を潜ろうとすると、後ろから声をかけられる。

振り返ると、そこには笑顔で手を振るノノミとセリカを除いた対策委員会の面々がいた。

 

「先生もお昼ですか?」

「ああ、現地偵察も終わったし、少し腹ごしらえをね」

「ん、なら柴関ラーメンはいい選択」

「せっかくだし、先生もおじさん達と一緒に食べない?」

「こんな可愛い女子高生にお誘いいただいたなら、断る訳にはいかんよね」

 

という訳で、俺と対策委員会の5人でラーメン屋に入る。中は趣のあるいい感じの内装だ。これは期待値が高まる。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで......」

「あ、5人で......」

 

挨拶をしてくれた店員さんに、人数を伝えようとして顔を向けたら、まあよく知った顔がいた。

当然向こうもこっちの顔を見て固まる。

 

「あの〜☆5人なんですけど〜!」

「あ、あはは.......セリカちゃん、お疲れ......」

「お疲れ」

 

ノノミが人数を伝えるが、セリカはフリーズしたまま。アヤネは薄々気づいていたのか、苦笑いを浮かべてセリカに声をかけた。

シロコに至っては特に気にしていない様子だ。

 

「み、みんな......どうしてここを......!?」

「うへ〜やっぱここだと思った。因みに先生は外で偶々会っただけだよ〜」

「ど、どうも」

 

再起動したセリカが問いただすが、ホシノがなんともないように返す。俺は掌握していなかったが、対策委員会では公然の秘密なんだろう。

 

「せっ、先生まで......やっぱストーカー!?」

「短絡的!!今ホシノが偶然会ったって言ったよね!?」

 

とんでもない言葉を言われて俺も焦った。流石にストーカーなんて言われたら品位もクソもあったもんじゃない。

 

「そうそう。それにセリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

「ホシノ先輩かっ......!!ううっ......!」

 

秘密に出来ていたと思っていたことがバレた羞恥心で、顔を覆うセリカだった。

そんなセリカの奥から1人の獣人が歩いてきた。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれくらいにして、注文受けてくれな」

「あ、うう......はい、大将。それでは、広い席にご案内します......こちらへどうぞ......」

 

大将ってことはあの人が店主か。優しくて頼りがいのあるナイスガイって感じだな。

とりあえずぎこちない動きのセリカに案内され、俺達は奥のテーブル席に案内された。

すると、すぐにシロコとノノミが隣に座ることを催促してきた。

少し悩むが、窓側に座るシロコの方へ座った。やめてくれノノミ。その残念そうな顔は俺に効く。

 

「狭すぎ!シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ!もっとこっちに寄って!」

「いや、私は平気。ね、先生?」

「ああ、まぁ......」

「なんでそこで遠慮するの!?空いてる席たくさんあるじゃん!ちゃんと座ってよ!」

「わ、分かった......」

セリカにすごい剣幕で怒られ、流石のシロコも折れて席を移動する。少し耳が垂れている。可愛い。

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」

「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし......」

 

案の定というか、セリカはノノミにいじられている。

そんな光景を見て、ホシノの目が怪しく光った。

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」

「言い値で買わせてもらおう。何、金ならシャーレの資金がある」

「変な副業はやめてください、先輩......。あと先生も堂々と横領を宣言しないでください......」

 

アヤネに怒られてしまった......横領は冗談だが、正直買えるなら買う。可愛いし。

引き続き皆から揶揄われているセリカだったが、そんな彼女たちが青春をしている姿を見ると、なんだか泣けてくる。

高校を卒業して約10年。泥や土、海水に塗れ、雨や雪の中を過した身としては、彼女たちが輝いて見える。

俺もこんな青春がしたかったなぁ......。

 

「も、もういいでしょ!ご注文はっ!?」

「『ご注文はお決まりですか』でしょー?セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー?」

「あうう......ご、ご注文は、お決まりですか......」

 

遂に臨界点に達したセリカが大声を上げたが、ホシノに窘められた。何はともあれ、やっと注文が始まった。

各々が色んなラーメンを注文する中、俺はメニューとにらめっこしていた。

 

「先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー!アビドス名物、柴関ラーメン!」

「そういうことなら......濃厚チャーシュー麺の大盛りとチャーハンの大盛りで」

「おおっ先生食べるねー。おじさんには厳しいよー」

「食える時に食っておかないとな」

 

これも自衛隊で叩き込まれたこと。飯を食える時に食っておかないと、戦うことは出来ない。

まさに『腹が減っては戦ができぬ』ということだ。

 

「......ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかしてまたノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」

 

セリカの問に対するノノミのカードで俺は目がぶっ飛びそうになった。目の前にはゴールドに輝くカード......ノノミってお嬢様だったのか......。

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

「言われなくても最初からそのつもりだよ。生徒に奢らせる先生がいてたまるかってんだい」

 

俺は財布からカードを取り出した。

シャーレ奪還騒動の後にリンちゃんから貰ったカード。

なんでも連邦生徒会長が残した物だとか。

名義は俺の名前になっていて、引き落とし先も俺の口座になっているのだから驚きだ。どこまで俺のことを知ってるんだ連邦生徒会長......。

 

「うへ〜大人のカードがあるじゃん。これは出番だねー!」

「大人のカードを使うような場所でもなさそうですが......先輩、最初からこうするつもりで、先生を誘ったんですね......」

「先生としては、カワイイ生徒たちの空腹を満たしてやれる絶好のチャンスじゃーん?」

「それはそうだけど、自分で言うか......?」

 

ホシノがケタケタと笑っていると、ノノミが少し寄ってきて小声で話しかけてきた。

 

「先生、こっそりこれで支払ってください」

 

そう言って、自分のカードを皆には見えないように渡してきた。

だが流石に大人としてのプライドが許すわけもない。

 

「大丈夫。これでもちゃんと給料もらってるからなんとでもなる」

「で、でも......」

「なぁに、ここは俺の大人としてのメンツを立てると思って。ね?遠慮しなくていいから」

 

何とか強引に押し切って会計は俺が済ませることになった。

届いたラーメンは非常に美味しく。これは確かにアビドス名物と言っても過言では無い。

チェーン展開してもいいレベルだと思う。

因みに俺は頼んだものを10分も掛からないぐらいで完食して、皆に少し引かれた。

しょうがないじゃん、職業病なんだから......。

食後に会計を済ませ、皆は満足顔で店を後にした。

俺も最後に大将へお礼を伝えて外に出た。

 

「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」

「あ、あはは......セリカちゃん、また明日ね......」

「ホント嫌い!!みんな死んじゃえー!!」

「あはは、元気そうで何よりだー」

 

ホシノたちの反応を見る限りだが、いつも通りなんだろう。セリカ自身も本気では無いにしろ、素直になれない性格と見える。今後はこの辺りも指導の1点として何とかしないと......。

 

「さて、俺はこの後用事があるからここでお暇するよ」

「ん、ありがとう先生。またね」

「また会いましょう〜☆」

「じゃあね〜先生〜」

「ありがとうございました」

 

対策委員会の皆と別れて俺はパジェロへ戻る。

座席をリクライニングして、柴関ラーメンの閉まる時間にアラームをセットして、暫し仮眠をとることにした。

 

 

 

 

 

閉店時間になった柴関ラーメンでは柴大将とセリカが最後の掃除をしていた。

そんな中、柴大将はセリカの事で悩みがあった。

 

「セリカちゃん、今日はもう上がっていいよ」

「あっ......はい......お疲れ様でした」

「セリカちゃん」

「はい?」

 

柴大将はセリカ呼び止め、目を見つめる。

そして一言だけ伝えた。

 

「お昼に来た先生。とても生徒思いの頼れる人じゃないか。セリカちゃんも困ったら先生を頼ってみるといいと思うぞ」

「......はい」

 

一言だけ言い残し、セリカは退勤した。

柴大将はセリカを見送り、テーブルに持たれて天井を見つめた。

 

「......若いってのは難しいねぇ。......俺もそうだったか」

 

誰に言うでもなく、クスリと笑った柴大将は引き続き清掃を続けた。

 

 

 

 

 

数時間後、俺はアラームで目を覚まして、座席を起こす。装備品を着用したあと、エンジンをかけてセリカを待っていると、目当ての本人が現れた。

 

「おっ、来たな......セリカ!夜も遅いし乗っていかないか?」

「はぁ!?先生なんでここに......!もう放っておいてよ!」

 

俺が声をかけるとセリカは足早に逃げ出した。

細い裏路地を通られたので、俺も先回りして追いかける。早速現地偵察の効果が発揮された。

数ブロック先でパジェロを停車させ、セリカを待つ。

案の定、セリカがこちらへやってきたが、少し前でヘルメットを被った集団がセリカの行く手をはばんだ。

 

「なんだ?ってか、あれヘルメット団か?」

 

何やら言い争いをしているようなのでとりあえず仲裁に向かおうとすると、突然背後から現れた別のヘルメット団が射撃を開始した。

 

「まさかセリカを狙って!?」

 

俺が援護のために9mm拳銃を引き抜い他と同時に、耳に何かの風切り音が聞こえた。

それが何か分かる前に、俺は地面に伏せて頭を抱える。

猛烈な爆音が辺りに響きわたった。

今のはおそらく迫撃砲か野戦砲の砲撃。風切り音は砲弾の物だろう。

野戦特科の知識がここで生きるとは思わなかったが、それは同時に相手には砲兵がいる上に観測されているということ。つまり分が悪すぎる。

だが、自衛官として先生として黙って見てる訳には行かない。

俺は立ち上がって、セリカに近づくヘルメット団に叫ぶ。

 

「君達!そこまでだ!今すぐ武器を下ろしてこの場から立ち去れ!これは警告だ!従わない場合、危害射撃を行う!」

「なんだ?」

「あいつ確かシャーレとかいうとこの先生じゃ?」

「かまわん!やれ!」

 

警告も虚しく、ヘルメット団は反撃をしてきた。

俺も物陰に隠れながら拳銃を撃って反撃するが、流石に9mm弾だけでは威力が低いのか、なかなか倒れてくれない。

そうこうしていると、車がやってきてセリカごとヘルメット団を乗せて去ろうとする。

最後っ屁だが、せめてタイヤをパンクさせようと照準するが、残っていたヘルメット団の銃弾が俺の体に命中した。

 

「ガハッ!!」

 

激しい衝撃と、鳩尾を殴られたような感覚になり、上手く息が吸えないが、必死に物陰に隠れて被弾箇所を確認する。

出血はしておらず、プレートで止まったようだ。相手が5.56mm弾なのに対して、レベル4のプレートを着用していたのが幸いだった。

急発進する車両に対して、拳銃の残弾が尽きるまで撃ち込んだが、結局タイヤには当たらず逃げ去られた。

 

「畜生が!!ハァハァ......セリカ、必ず助け出してやる。アロナ!起きてるか!?」

「せ、先生何が......!?」

「セリカが攫われた。俺も撃たれたがプレートのおかげで何とかなってる」

「撃たれ......えぇっ!?す、すみません先生!!」

「気にするな。急な射撃だったからな。とにかく、対策委員会の面々と連絡を取るから、その間にアビドス内全ての監視カメラのデータベースにアクセスしてセリカを攫ったヘルメット団を追跡してくれ」

「わ、分かりました!!」

 

アロナに指示をして俺もパジェロに戻ってアビドス高校に電話をかける。

どうやら今夜は長くなりそうだ。

 

 

 

 

 

俺はパジェロを校舎前に停め、大急ぎで対策委員会の部室に入り込む。

 

「すまない、遅くなった!」

「先生!.....撃たれたの!?」

 

シロコが驚いて駆け寄ってきた。

そういえばチェストプレートに弾痕があったな。

 

「ああ、5.56mmをな。幸いにも防弾板に当たって止まってるから問題ない。それよりもセリカの事だが、帰ってくる途中にセントラルネットワークにアクセスしてセリカの携帯のGPSと監視カメラの映像を確認した」

「セントラルネットワークに......先生、そんな権限までお持ちなのですね......」

「いや、これは本来許可がいる。個人情報とかもあるからな。つまり真っ黒くろすけの非合法って訳だ」

「うへ〜それってバレたら始末書なんじゃないの?」

「バレなきゃオッケー。セリカのためだし、それで俺が始末書書いたり、リンちゃんの足を舐めるとかでも全然やるよ」

「先生......」

「早速だけど地図に記すぞ。最後の発信源はここ、砂漠化が進んでいる市街地の端の方だ。事前に収集した情報や現地偵察で判明している事項は住民がいない廃墟エリアで、治安の維持が困難。故にチンピラ等が集まる激ヤバ地域だが......ホシノ、この見積もりで大丈夫か?」

「そうだね、その通りだよ」

「このエリア、以前危険要素の分析をした際にカタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です」

「なら合点がいく。俺を撃ってきたのも、セリカを攫ったのもヘルメット団の連中だ。だが奴らの規模は大きい、これは監視カメラの映像だが見てくれ」

 

俺は4人に監視カメラ映像を見せる。

そこには市街地を駆け抜ける『Sd Kfz 234』通称プーマが見えた。

こいつは第二次世界大戦時のドイツ軍の装甲車で、5cm砲とMG42機関銃を持つ偵察装甲車だ。

現代ではMCVが近いものだが......どれだけやりあえるかだな。

 

「なんで戦車が......!?」

「アヤネならわかるだろ?どうやらカタカタヘルメット団は相当なケツ持ちがいるようだ。とはいえ、攫われたセリカを見捨てる訳にもいかんだろ?」

「先生、その言い方はなにか秘策でもあるの?」

 

流石ホシノ。頭が回るな。

 

「こういう可能性を考えて、取っておきの武器を用意してある。対機甲戦闘は十分可能だ。内容は道すがら話そう。早速行くか?」

「いってみよー!」

「ん、ツケを払わせる」

「行きましょー!」

「はい!」

 

全会一致で出発が決定し、各々の武器を持ってパジェロに乗り込む。

少々時間がかかるが、命令下達には丁度いい。

 

 

 

 

『────。───』

『────!!───!』

「あいつら平然と無線使ってるな......暗号化もしてないとは」

車内にある無線機から出るヘルメット団の会話を聞いて俺は呆れる。

まあ、無線の周波数を探知されるとは思わなかったんだろう。アロナ様様だな。

 

 

 

しばらく砂漠を進むとトラックとそれを取り囲むプーマ装甲車5両が見えた。

 

「先生!目標確認しました!」

「了解!俺も確認!アヤネは引き続き追跡を続行!護衛の装甲車5両確認。これより、対機甲戦闘を実施する!──シロコ!目標敵前方プーマ装甲車!ドローン攻撃開始!」

「了解!」

 

アヤネにパジェロの操縦を任せ、俺はシロコに射撃命令を下す。

命令通りに前方の装甲車にドローンの攻撃が命中し横転。ヘルメット団は訳が分からないのか、混乱しているようだった。

 

「あっ!捕まっていてください!!」

 

敵の砲撃を受けてパジェロは蛇行運転による回避を行う。車内が滅茶苦茶に揺れるが、やられているのも癪だ。

 

「車長射撃する!前方敵散兵!単連射!発射!」

 

パジェロの窓を開けて身を乗り出し、89式で歩兵隊に射撃を与える。

命中率は低いが、何もしないよりは敵も動きづらい様で、こちらへの歩兵の攻撃は弱まる。

しかしながら、依然としてこちらへの砲撃は続いている。

 

「先生!降りるよ!」

「了解!気をつけてなシロコ!」

 

ある程度近づいたところで、シロコがパジェロの後部ドアを開けて飛び降り、そのまま下車戦闘を開始した。

俺達も少し離れたところで停車し、下車展開する。

そのタイミングで、俺は秘密兵器を後部ドアから取り出した。

 

「少々手荒になるが、セリカには後で何か買ってやらないとな」

 

俺はそう言いながら、パジェロのボンネットに体を委託して、手元の武器の安全装置を解除する。

今持っているのは「84mm無反動砲」通称ハチヨン。

スウェーデン製の無反動砲で、対戦車戦闘でよく使われる武器だ。今は着発のHE弾を込めてあるので、目の前にいるプーマ装甲車にお見舞いするって算段だ。

セリカは振動をもろに食らうが、勘弁願いたい。

これ以外だとシロコのドローンしか手立てがないからな。

 

「目標!前方プーマ装甲車!弾種着発HEAT!砲手確認!後方よし!発射!!」

 

射撃号令後に引き金を引く。後方で凄まじい爆風が起きると共に、砲弾が射出され飛んでいく。

数秒後には見事プーマ装甲車に砲弾が直撃し、大破した。

 

「シロコ先輩から連絡です!セリカちゃんを確保したそうです!怪我もないと」

「それは良かった。だが、あいつらはカンカンだぞ」

 

俺がハチヨンを再装填しながら指を指した方を見ると、アヤネは顔が青くなる。

敵のカタカタヘルメット団が統制を取り直してこっちに向かってきていた。

 

「せ、先生!!」

「慌てるな!俺達でプーマを陽動するんだ!」

「は、はい!!」

 

俺がパジェロに乗り込むと同時にアヤネはアクセル全開でその場を後にする。

だが装甲車は執拗に追いかけてくる。

3両のうち1両はシロコのドローンで横転したが、残りの2両が未だに追ってきている。

 

「ったく、しつこい奴らだ!!」

「せ、先生!?」

 

俺は後部ドアの位置まで移動し、後部ドアの幌窓を剥がして小銃で射撃を行う。

目標は敵の操縦手席視察窓だが、一定の効果はあれど、揺れで正確な射撃を出来ない。

 

「無駄無駄!!」

「のわあああ!!」

「きゃあああ!!!」

 

敵の砲撃が至近弾で命中し、パジェロは横転、俺達は車内でシェイクされる結果となった。

 

「あたたた......アヤネ大丈夫か?」

「私は大丈夫です......先生は?」

「あちこち痛いが大丈夫だ。あんにゃろ共......」

 

何とか後部ドアから這い出るが、目の前には2両の装甲車がこちらへ砲を向けていた。

マズったな......。

 

「ハハハハ!!これで逃げも隠れも出来ないだろ!!」

「せ、先生......」

「落ち着けアヤネ......なにかないか......?」

 

俺が打開策を考えていると、ノノミのミニガンの射撃が開始された。そのせいで、敵はそちらに釘付けになった。

 

「よしチャンスだ!──アヤネ!ハチヨンをくれ!!」

「は、はい!」

 

アヤネが何とか取りだしたハチヨンを受け取り、俺は少し離れて伏せて照準する。

 

「目標!前方プーマ装甲車!弾種着発HEAT!後方よし!発射!」

 

引き金を引いて発射。勿論HEAT弾は敵の装甲車に命中して爆発し、無力化した。

しかしまだ1両が残っている。

 

「アヤネ!ホシノ達に攻撃命令!」

「了解!ホシノ先輩お願いします!」

「まっかせて〜」

 

ホシノ達が気を引いている間に迅速に再装填を済ませて、照準する。

ハチヨンの弾薬もこれが最後のため、集中して狙う。

 

「これで最後だ!」

 

引き金を引き、砲弾が吸い込まれ爆発。

敵の装甲車は全て沈黙し、これにて機甲戦闘は集結した。

その後、セリカを攫ったカタカタヘルメット団のうち、逃げ遅れた団員は主にセリカにボコボコにされていった。

倒し終わったあとは拘束し、後日ヴァルキューレに引き渡す事にして、パジェロを復旧させた後で全員を誘拐で使ったトラックに押し込めた。

トラックはアヤネとホシノが乗ってパジェロに着いてくるとの事。

ついでにいくつかのプーマの部品を回収し、俺達は帰路に着いた。

こうしてセリカ奪還作戦は無事終了したのだが......。

 

「なんだか引っかかるな......」

「先生?どうかしたの?」

「いや、気にしないでくれ。俺の勘違いだ」

 

パジェロの助手席で不思議そうに見てくるシロコを尻目に、俺はパジェロを走らせる。

自衛官としての感が、これは面倒事になると言ってるようだった。

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