茅場の声って癖になるよね
私の世界?何を言ってるんだ…?
目の前に浮かぶ巨人は何を言っているのだろうか
色々なことが起きすぎて頭がパンクしそうだ
混乱する俺たちを気にする様子もなくそいつは続ける
「私の名前は茅場晶彦。いまや、この世界をコントロール出来る唯一の人間だ。」
茅場晶彦、それはこのゲームの開発者本人である
しかし、世界を操れる唯一の人間とは。どういう意味なのか、どうしてそんなことになっているのか、運営は何をしているのか
様々な疑問が頭を駆け巡る中、茅場は続ける
「プレイヤー諸君の中には、ログアウトボタンがない事に気付いている者もいるだろう。」
プレイヤー達は「なんだ、運営からのアナウンスか」と胸を撫で下ろす
しかし茅場の次の言葉は想像もしていない言葉だった
「これはバグなどではなく、SAO本来の仕様である。繰り返す、これはバグではなく仕様である。」
一瞬、プレイヤー達は呆然と立ち尽くしていた
しかし、状況を理解したのか顔には絶望しか無かった
その絶望を加速させるように茅場は続ける
「よって諸君らによる自発的なログアウトは一切できない。また、外部によるナーヴギアの強制ログアウトも出来ない。もしも外部の人間の手によってナーヴギアが停止、あるいは取り外しが行われた場合…ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し…」
「生命活動を停止させる。」
生命活動の停止、すなわち死ぬということ。ゲームの中で死ぬと現実でも死ぬ?
(そんなの…ゲームなんかじゃない。)
頭の中で否定するが茅場は淡々と続ける
「実際に、現実世界で外部の人間の手によって213人が亡くなっており、メディアが報道しているため外部からの影響の心配はなくなっている。」
茅場の前にメディアの報道の様子が移し出されており、茅場の言っていることが嘘ではないことが分かった
「しかし、充分に留意して貰いたい。今後、ゲーム内でのあらゆる蘇生手段は通用しない。HPがゼロになり諸君らのアバターが消滅した場合、同時に君たちの現実世界の脳も破壊される。」
モンスターによって俺が殺されると現実でも死ぬ?
その情景が鮮明に想像され
俺の心は恐怖と絶望で染め上げられた
ふと、ミトとアスナを見ると彼女らも同じように恐怖しているのがわかった。
「このゲームから脱出する方法はただ1つ。この『浮遊城アインクラッド』の第100層にたどり着き、そのボスモンスターを倒すことでのみこのゲームから開放される。これは、ゲームであって遊びではない。」
狂っている
そう思うしかなかった、茅場は何がしたいのか…俺らを閉じ込めたことに何が理由があるのか?
「最後に、諸君のアイテムストレージに私からのささやかなプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ。」
言われた通りアイテムストレージを確認すると《手鏡》なるアイテムが入っていた、それをタップし具現化させると
「うわっ?!」
突然体が光に包まれた
目を開けるとどうやら、他のプレイヤーも光に包まれていた
「2人とも、大丈夫?」
後ろから肩に手を置かれ振り返ると、そこには見慣れない少女が立っていた。紫色の髪をポニーテールにまとめた鎌を持った…
「お前、ミトか…!?」
「まさか、シン!?」
「お前、女だったのか?」
「あんたこそ、そんな顔だったけ?」
俺は手鏡で自分の顔を見た、するとそこには
「なんで、リアルの顔が…」
現実世界で何回も見た俺の顔が写っていた
「ミト!良かった…って誰?この人。」
「アスナか?俺はシンだ。」
「ええ!?これが?」
アスナは何も変わっていなかった。恐らくリアルの顔をそのままアバターにしたのだろう
周りのプレイヤーも自分達の変化に驚き、動揺している
「では諸君、健闘を祈る。」
そう言うと茅場の姿は忽然と消え、空は偽の太陽が沈みかけ夜になろうとしていた
暫しの沈黙を破ったのは少女の悲鳴からだった
プレイヤーは次々と怒号と悲鳴を上げ広場は恐怖と絶望に包まれた
すると視線の端に広場から出ていく2人のプレイヤーの姿を見た
この世界が茅場の言う通りゲームの死=現実での死のデスゲームなのだとしたら、この世界で生き残るためには誰よりも強くあることが必要になる、そのためには…
俺は少女達の腕を掴むと彼女らを連れて広場の外の薄暗い路地にに入る
「ミト、アスナ!この街から出よう。この世界が茅場の言う通りだとしたら、レベルを上げなければこの世界から出れない。だから次の街にいって狩場を確保しないと。」
「…そうだね、とりあえずレベルを上げないと…私はついて行くけど、アスナは「嫌だ!」」
ミトの言葉を遮ってアスナは叫んだ
「2人はこのゲームを知っているかもしれないけど、私は何も知らないんだよ?!それに、あの人の言うことが本当だとして、なんで危険なフィールドに行くの?私は…怖いよ…死にたく…ない。」
両目に涙を浮かべて必死に訴えるアスナに俺とミトは何も言えなくなった
死にたくないというのは当たり前の感情だ、特にアスナは俺やミトの様なゲーマーでもなく、偶然この日にログインしただけだ。右も左も分からないゲームに閉じ込められ、しかもゲームで死ねば現実でも死ぬ。こんな酷なことがあるだろうか
俺は無理強いするつもりはなかった。けれどミトはアスナの手を握って言った
「大丈夫、アスナは私が守るから。絶対に死なせない。だから、私たちと一緒にきて。」
ミトは真っ直ぐアスナを見つめる、その言葉に嘘も虚勢もなかった。
アスナはその目を見て少し困惑した後少し考え込んだ
「わかった…ついて行く。」
「うん…ありがとう。」
アスナの言葉を聞いてミトは安心したように笑顔を見せるとアスナを抱きしめた。
完全に俺は蚊帳の外だ
「よし、それで?これからどうする。」
「そうだな、とりあえずはβテストの時1番安全だったルートで2つ目の街を目指す、その間のモンスターは俺とミトで倒しながら進む。このゲームは早い者勝ちだ、急いで移動するぞ。」
俺が走りだすと、2人も俺について来る。
フィールドに出ると、目の前に狼のモンスター《ダイアウルフ》が現れる
ダイアウルフは俺を目掛けて飛びかかってきた、俺は鎌の柄でガードするが鋭い爪が俺の体に突き刺さる
体を走る不快感と共に左上に表示されているHPが減少する
「はあぁぁ!」
ダイアウルフの背後からミトが鎌で背中を切り裂くとダイアウルフはポリゴンとなって消えた
「大丈夫?」
「ああ、ありがとう。」
ポーションを使いHPを回復したところでダイアウルフがさらに2体リポップする
「うぉぉぉ!」
目を赤く染めたダイアウルフに向き合うと俺は叫びながら鎌に力を入れる、すると鎌の刃は光を纏って首を目掛けてシステム通りに振り下ろされる、刃はダイアウルフの体を切り裂きポリゴンへと姿を変える
アスナもソードスキルを発動させ、飛びかかるもう一体のダイアウルフを避けて横腹にレイピアを叩き込む
しかし、僅かにHPが残りポリゴンにならずそのままアスナへ向かって牙を剥く
アスナは反応できずダイアウルフはアスナの首元に噛み付く…
寸前、ミトはダイアウルフに向かって走り背中に刃を突き刺すと狼はポリゴンとなって消えた
1時間ほど前まで流し作業だった戦闘は、デスゲームとなった途端、モンスターの行動1つ1つに死への恐怖が伴うようになった。
俺たちはまた次の街へ向かって走り始めた、太陽は沈みきって道の先は暗闇に染まり一筋の光もなかった
しかし俺たちは立ち止まれない、この世界で生き残るために…