リトルペネントを殲滅し終えた時、そのメッセージは流れた
『《Mito》がパーティを離脱しました』
「は…?」
頭が一瞬真っ白になった。
どうして?
ミトが死んだ…のか?いやHPは半分くらいあったはず…
ふとHPを見る、アスナのHPは俺よりも少なく今にも消えてしまいそうだった
「アスナ…!」
マップを開き位置を確認する
(そこまで離れていない…急ごう、ミトのことは後回しだ。)
ポーションを飲み全速力で森を駆け抜ける
木々の隙間にアスナの姿が見えた。しかし、そこに気力などなく剣を落とし立ち尽くしているだけだった
「アスナ!!」
俺はアスナに向かって叫ぶ。その時、大きな拳が俺を吹き飛ばし全身に衝撃が駆け巡った。
「ぐっあぁ…」
「…ン!!」
アスナが俺を呼んだ気がした
(音が聞こえない…息が、出来ない…)
ここはゲームの世界のはずなのに、苦痛がリアルのように流れ込む
何が起きたのか分からない、ただ1つ分かるのは非常に危険な状況だという事
ふと視界に映ったのは《ジャイアント・アンスロソー》という名のフィールドモンスターだった。青い体色に突き出した鼻は狼のようだったが、体格はあまりに大きく、パワーも今まで対峙したモンスターと段違いだった。
「クッソ…」
視界がぼんやりとして前が見えない
(どこまでリアルに忠実なんだよ…)
足だけでは上手く立てず鎌を杖にして何とか立ち上がった
ジャイアント・アンスロソーは俺にタゲを移すと大きな体を動かして俺を殺す為近づいて来る
体は思うように動かない、俺は迫り来る大きな口に食われることを待つだけだった
(ミト…どうして。)
俺が死を覚悟し目を閉じた時だった
「ぐうぉぉぉ!!」
大きな悲鳴が俺の体を震わせた
俺が目を開けるとそこにはひとつの影があった
「大丈夫?」
その影が振り返ると少女のような顔をした剣士だった。しかし、その声は凛々しく俺の目には英雄のように映った。
しかし、彼の背後では態勢を取り直したジャイアント・アンスロソーが腕を振り上げていた
「危な…」
俺が言い終わる前にその剣士はジャイアント・アンスロソーに一撃…また一撃とダメージを与え、いつしかその巨体は光となって消えた
そしてそこには、アスナと俺そしてその剣士が立っていた。
「君達大丈夫?HPは…?」
「ポーションがまだあるから大丈夫だ。ありがとう、ほんとに助かった。」
「…ありがとう。」
俺とアスナはお礼を言うと、その剣士は剣を背中にしまうとマップデータを出力する
「これで安全に帰れるはずだ、俺はこれで…」
「待ってくれ。」
俺は無意識に彼を引き止めていた
「…この子を街まで送り届けてくれないか。」
「え?」
隣でアスナが目を見開く、が俺はアスナに構わず続ける
「実はさっきはぐれたメンバーがいるんだ。俺はそいつを探したい。けど、この子はまだ初心者だから1人にするのは心配なんだ。俺は…この子を守れる自信が無い。けど、君なら。」
「友達を知らない奴に預けてもいいのか…?」
「お前なら、信用できる気がするんだ。」
「…その子がいいなら俺は構わない。」
アスナは黙ってしばらく考えた後
「…わかった。けど、シンこれだけは覚えておいて。」
「…なんだ。」
「ミトと会うなら。暫くは私と会わないで…私は、ミトと暫く会えない。」
「…わかった。お前、名前は?」
「キリトだ。」
「そうか。キリト、アスナのこと頼んだぞ。じゃあな。」
俺はミトがいた方向へ走った、ただ彼女達から逃げるように。
アスナを捨てて森の中を走った
こうして、俺たちのパーティは俺とミトの離脱でこのゲームから消えた
数時間は経っただろうか。ミトを探してフィールド内をくまなく探したが、結局見つからずに街へと戻ってきた。
あまりに長く走っていたからか、街についた途端足から力が抜け地面に座り込む
「とりあえず、広場で探してみるか。」
俺は地面から立ち上がり街中央の広場へ向かう
朝は三人で何も思わず歩いた道のりも、暗く街灯も少ない一人の夜では足取りが重く感じた
広場に着くとそこは多くのプレイヤーが集いNPCの店を訪れたりパーティ同士で酒盛りをしていた。
そして奥の路地裏に一瞬、紫髪のポニーテールが見えた
「ミト…!」
俺はその姿を追って走った、道行くプレイヤーとぶつかりそうになりながらその背中を追いかけた。
気付くと雨が降り始め、夜道は濡れていて走る度に足音を立てて水溜まりから水が弾けた
暗い路地裏に入ったところで俺は走るのを止めた。目の前には髪を濡らしたミトの姿があった
「なんで…追いかけてきたの?」
「パーティーメンバーだからだよ。」
「…私は貴方達を裏切った。見殺しにしようとしたのに…どうして。」
「お前はそんなやつじゃない。だってそんなに辛そうじゃないか。本当に裏切り者ならそんな顔はしてないよ。」
「…顔、見えないはずだけど。」
「確かに…まあ、いいんだよそんなこと。とりあえずお前が無事でよかった。」
ミトは手で顔を拭うと俺のほうを向く
「アスナは無事?」
「ああ、無事だよ。まあ、暫くは会えそうにないけど。」
「…そう。」
「よし、再会もした事だし。」
俺は指を動かしてパネルを操作する
《パーティーを組む》のボタンを押すとミトの前にパネルが現れる
「また、パーティー組もうぜ。βテストの時みたいによ!」
「いいの?」
「…ひとりぼっちてのも寂しいんだよ。ここに来てからずっとお前らと一緒だったから。」
「フフ。なにそれ、子供みたい。」
ミトはボタンを押すと俺の左上に《Mito》の文字とHPが表示される
「改めてよろしくな、ミト。」
「よろしく、シン。」
俺が右手を差し出すと彼女も俺の手を強く握り返した
いつの間にか雨も上がって空には満月が浮かんで明るく街を照らしていた
次回 ちょお!待ってんか!