うたかたの歌姫   作:如月SQ

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プロローグ

―――ライトに照らされた、ステージの上。

 

 僕は今、ここで立っている。

 何人もの人々の視線の集う場所で、きらびやかかつ清楚な衣裳に身を包んで。

 

 空は晴れ渡り、気候は穏やか。

 背の高い建物が綺麗に建ち並ぶ、美しい景観。

 

『……絶好のライブ日和だね』

 

 手元のマイクによって、僕の呟きは辺りに大きく響き渡る。

 同時に、僕のライブに来てくれていた人達のざわめきが収まっていく。

 

 その様子に口元を吊り上げて、僕は歯を見せて笑った。

 

『みんなー!今日も僕のライブに来てくれて、ありがとーっ!』

 

 満面の笑みで、心からの喜びを表に出して、僕は声を張り上げた。

 

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 静寂に支配されていた場が、その瞬間に沸き立った。

 僕の眼下に広がる、幾人もの人々の姿。

 誰もが笑顔で、期待に満ち溢れた顔で、僕を見上げている。

 重なる声は物理的な重みを増して、マイクを握る手がビリビリと震えた。

 

『今日もみんな元気だね!僕も負けないよーっ!

 いつも通り、盛り上がっていこーっ!』

 

 それに負けじと僕も声を張り上げる。

 マイク越しで増幅された声で、みんなの歓声を受け止める。

 老若男女、ズラリと並んだみんなの、希望に満ち溢れた視線が、僕の胸を高鳴らせる。

 自然と胸に添えた左手を握り締め、右手のマイクを握り直して、僕は改めてみんなを見渡した。

 

『それじゃあ早速一曲目行ってみよー!

 みんなご存知、いつもの奴!いっくよー!』

 

ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 会場の盛り上がりも最高潮。

 

 ウインクして、みんなを指差して、僕の中の力を漲らせる。

 お腹の奥に渦巻く暖かな力を、練り上げ、こねくり回し、解放する。

 

『【こちら、幸福安心委員会です。】

 ミュージックー……スタートっ!』

 

シンッ……

 

 その言葉と同時に、辺りは水をうったように静まり返る。

 前世で見た事のあるライブ映像と似たような光景に、既視感と満足感で顔が綻んだ。

 

 そして僕は、僕の中に渦巻く魔力を解き放つ。

 途端に流れる、透き通った音色。

 何処からともなく響き渡る、静かな旋律。

 

 この街全てに響き渡るように。

 この街全てに満ちるように。

 

『どうして みんなが 幸せなの?

 この世界のこと 聞きたいって、知りたいって

 水辺の公園で みんなが耳を澄ませて

 ……わくわくするね ねぇ、オンディーヌ?』

 

 満ちていく、満ちていく。

 僕の渦巻く魔力が、みんなを包み込んでいく。

 

『ハイハーイ!

 さあさあ、みなさん 教えてあげまーす!

 みんなが気になっていること 疑問に思ってること

 ぜーんぶ 教えてあげまーす!』

 

 曲直が変わる。

 静かで流麗なイメージだった曲が、テンポ良くリズムを刻み、僕の体も動きだす。

 大きく手を振って、みんなに笑顔を振り撒く。

 じわじわと沸き立ち始めるみんなへと、もっと歌を届ける為に、大きく息を吸った。

 

『えー、みなさんが 幸福なのは 義務なんです。

 幸せですか? 義務ですよ? 果たしてますか?

 我々、幸福安心委員会は 

 みなさまの幸せを願い そして、支えまーす!』

 

 大きく腕を振り上げ、ステージに立つ僕を照らすライトが、色とりどりの物へと移り変わる。

 くるくるくるくると回転しながら、様々な色のライトに照らされて、僕はその場で踊り出した。

 

『幸福なのは義務なんです

 幸福なのは義務なんです

 幸福なのは義務なんです

 幸せですか? 義務ですよ?』

 

 奏でられるメロディに僕の魔力を乗せていく。

 みんなに届くように、みんなに満ちるように。

 みんなの熱気が、熱狂へと移り変わっていく。

 

幸福万歳!

幸福万歳!

幸福万歳!

 

 僕の歌に合わせて、みんなのコールも響いていく。

 その表情はみんな、心底幸せそうな笑顔。

 

 瞳だけがギラギラと輝いていた。

 

『幸福なのは義務なんです

 幸福なのは義務なんです

 幸福なのは義務なんです

 幸せですか? 義務ですよ』

 

幸福万歳!

幸福万歳!

幸福万歳!

ワァアアアアアアアアアアア!!!

 

 満ちる。

 充ちる。

 僕の魔力が、この場のみんなに、この街中に。

 みんなの熱狂が、鮮やかなライトで照らされたこのステージ中に。

 

『ですから、安心して義務を果たすように!

 みなさまの幸せが 我々の幸せ』

 

 みんなが幸せになるように、幸福に満たされるように。

 高らかに歌おう。

 みんなが心から笑えるように、幸せになれるように。

 

 それが……僕の幸せだから。

 

 みんなの笑顔が、幸福感が、もっと幸せに繋がっていく。

 背後の巨大なモニターに映し出される僕の姿を見たみんなの歓声が、またこの街に新たな幸せを産み出していく。

 モニターに映る、揺れる緑のツインテールの少女……前世の電子の歌姫の姿をした、僕の姿。

 踊って、笑顔を振り撒いて、一挙手一投足に心を込める。

 

 さぁみんな、幸せになろう。

 みんなで幸せになろう。

 僕と一緒に……永遠に。 

 

『幸せですか? 義務ですよ? 果たしてますか?』

 

 ……あれ、幸せじゃない子達がいるね。

 見慣れない子達……若い……武装してるから冒険者かな?

 それとも、旅行中の学生さんかな?

 困惑して、周りをキョロキョロして……可愛いなぁ。

 まぁ初めて僕のライブを見るんじゃ、最初は戸惑っちゃうか。

 仕方ないよね。

 

 でも大丈夫!

 この街で過ごせば、すぐに幸せになれるよ!

 僕が、幸せにしてあげる!

 何故ならこの街では、幸福なのは、義務なんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ここは、僕の夢を具現化した、幸福の街。

 みんなが幸せな、完璧で最高の街。

 毎日僕のライブが開催される、音楽の街。

 住む人みんなが幸せで、自然と笑ってしまう、笑顔の街。

 そして……僕の理想で形作られた、泡沫の街。

 

 僕は全てをかけて、みんなを幸せにし続ける。

 だから、みんなも安心して、幸せになって欲しい。

 

 泡沫の夢でも、醒めない夢ならばそれはもうリアル。

 けして弾ける事のない泡の中で、与える幸福に身を委ねて。

 みんな、平等に幸せになってほしい。

 それが、神様に転生させて貰った、僕のやりたい事なんだ。

 

 願わくば、平穏で、穏やかで、幸せな日々を。

 

 みんなと、一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 だからもし。

 

 もしも。

 

 邪魔するような人が、いるなら……。

 

『幸せじゃないなら―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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