うたかたの歌姫   作:如月SQ

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高評価いただきました!
ありがとうございます。
ゆっくり更新で話もあまり進みませんが、まったりお楽しみいただければと思います。


依頼主ディゼル

「初めまして、ディゼル・カイザレスと言います。

 依頼を受けてくださる冒険者の方ですね?

 数日の予定ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

「あ、はい!よろしくお願いします!」

 

 依頼主だと紹介されたのは、まだ幼いと言って良い少年だった。

 歳はよくわからないけど……少なくとも小学生くらいだろう。

 黄色い髪と瞳を持った、眼鏡をかけた少年。

 その幼さに見合わない堂々とした、物腰の柔らかい態度に、僕は面食らっていた。

 

 その少年……ディゼル君が身に付けている服装は、何処か気品に溢れていた。

 魔法学園に通えているのだから当然と言えば当然なのだろうけど、かなり良い所の子供なんだなーとなんとなくわかった。

 

「どうも……予定を確認したいが、依頼はアーク魔法学園までの護衛で相違ないか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「移動はそちらが用意した馬車で、道中は出来る限り宿屋、やむを得ず野宿をする場合の装備は此方の物を使う、と」

 

「え?」

 

「その通りです」

 

 粛々と二人で話が進んでいく。

 途中覚えのない話が聞こえて、思わず声をあげてしまった時、一瞬向けられたレイチェルさんの呆れを含んだ視線が痛かった。

 

 それからは認識の擦り合わせ。

 見た目の歳からは考えられない程にディゼル君は立派に受け答えをしていて、僕はそれを呆けた態度でほえほえと声を漏らし……。

 

「くすくす……」

 

「はぁ……」

 

 気付けばディゼル君にも笑われ、レイチェルさんには呆れてタメ息をつかれてしまった。

 

「あ、うぅ……」

 

 恥ずかしくて口をもごもごさせていると、レイチェルさんは僕の肩を掴んで引き寄せると、ディゼル君に背を向け数歩離れた。

 そしてひそひそと、けれど強く告げてきた。

 

「ミク、君にとっては学園に行く良い機会で、旅行気分で浮かれているのかもしれないが、依頼主にとっては今後の進退が決まる大事な事なのかもしれないんだぞ?

 護衛依頼は自分の身を守れば良いだけじゃない、依頼主を完璧に守り、時には危険を承知で時短を狙わなければならない時もある。

 浮わついたままの気持ちでいるのなら、君はここで冒険者のいろはをまた1から学び直すべきだ」

 

「っ……ご、ごめんなさい……」

 

 僕は、そう返すしか出来なかった。

 

「くすくす……そう気を張らずとも大丈夫ですよ。

 アーク魔法学園までの道程に危険地帯はありませんし、僕自身も腕に覚えがあります。

 ……貴女なら、ご存知では?」

 

 すると声を潜めていたにも関わらずディゼル君には聞こえていたようで、穏やかに微笑みを浮かべてそう言われてしまった。

 明らかな年下に慰められて、僕は自分自身が恥ずかしくて仕方なくてなんとも言えず、苦笑を浮かべて軽く頭を下げて……。

 ……ん?なんだか、ディゼル君、レイチェルさんの方を見て……あれ、もしかして二人知り合いなのかな?

 

「……さてね。取り敢えずミク、そういう事だから。

 改めて気を引き締めて。

 ディゼルさん、貴方が良ければ出発しよう」

 

 ディゼル君はレイチェルさんの態度に肩を竦め、口元に笑みを浮かべながらコクリと頷いた。

 うーん……やっぱ何かある……?

 でも、まぁ、いっか。

 今軽く怒られたばっかりだし、レイチェルさんははぐらかしてる感じだし。

 

「よーし、しゅっぱーつ!」

 

 気を引き締め直しつつ、僕はそう元気よく声をあげた。

 そんな僕をディゼル君はくすくすと笑って、レイチェルさんはやっぱり呆れた表情で見つめていた。

 

 そうして僕の初めての依頼、そしてこの世界に転生して初めての旅が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラ

 

 馬車に揺られながら進む道中。

 馬車はそこそこ立派な物で、乗っていてもあまり揺れは気にならなかった。

 

「駆動に魔法が仕込まれているんだ。

 機構は前世からすればおもちゃみたいな物だが、魔法で補われている。

 物にもよるが、乗り心地は前世の乗り物とそう遜色ない」

 

「へぇー」

 

 レイチェルさんの解説に納得の声をあげつつ、僕は周りをキョロキョロと見回していた。

 一応の警戒……でもあるけど、やっぱり景色の変化を楽しんでるのが一番かな。

 レイチェルさんに気付かれたらまた怒られそう……。

 そう思いつつも、辺りを見回すのはやめられそうになかった。

 

「いや、気付いてるけどね。

 まぁ、ちゃんと警戒もしてるなら口煩く言わないよ」

 

「!?」

 

 レイチェルさんには敵わないなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車は屋根のある御者席、四方を囲われた中座席、屋根のない後部座席に別れてた。

 基本的に僕達は後部座席に待機し、何かがあった時にいつでも対処出来るように、という形だ。

 御者の人はディゼル君の専属の従者だという女性で、ディゼル君の身の回りの世話全般を担当しているそうだ。

 服装があまりにもメイドで、初対面思わず歓声をあげそうになったのを、事前に察知したレイチェルさんに口を押さえられて咎められる……っていう一幕があったり……。

 

 ちょっと浮かれ過ぎてるなぁとは自分でも思うんだけど……どうしてもテンションが上がっちゃう。

 前世じゃ旅行すらろくに行った事なかったから……どうしても。

 それでも、これから冒険者として生きていくなら……いくらなんでもこんなんじゃダメ、だよね。

 

「……よし、切り換える切り換える。

 僕は立派な冒険者!僕は立派な冒険者!」

 

「…………」

 

 自分に言い聞かせて、自己暗示。

 僕ははりきって、周囲の警戒に勤しんだ。

 ふむふむ、怪しい影はなし、変な気配もなし!

 異状なし!

 

 ……それにしても、天気が良いし、ポカポカしてあったかい甜菜なぁ……。

 

 ……良い、天気……。

 

「……くぅ……」

 

「……はぁ」

 

とさり

 

 ……ん……あったかい……。

 いい……におい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……」

 

「……起きたか。そろそろ休憩だぞ」

 

 まんまとお昼寝してしまい、レイチェルさんの膝枕で目を覚ました。

 僕は恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じて、レイチェルさんの顔を見上げながら、パタパタと顔を手で仰いでいた。

 

 それにしても、端正なお顔がちゃんと見えるなぁ。

 部屋着の時に膝枕して貰った時は顔が見えなかったのに。

 ……何処にアレが収まってるんだろう……?

 

 そこから暫くして、休憩の時間となった。

 馬の補給をしている間に、軽食を取る時間だ。

 

 ギルドで販売している、お溶かすだけでスープになるキューブを複雑な表情でお湯に放り込むレイチェルさんをディゼル君と一緒に眺めていた。

 

「魔法学園ではどんな事を勉強してるんですか?」

 

「そうですね……文字通り魔法については一通り学べますね。

 初等部では一般常識や集団行動を中心に。

 中等部からは魔法、属性の基本から応用、実践まで幅広く。

 また、各属性の実力者……冒険者ギルド等とのツテもあるので、その気になればかなり専門的な見識も得られますよ。

 高等部になれば独自の研究等も行えて、予算も出るので、魔法を極めたいのであれば入学して損はないと思いますよ」

 

「へぇー……」

 

 なんというか、想像以上にしっかりとした学校だなと思った。

 あまり前世の学校にも詳しくはないのだけど、高等部が大学みたいな感じだろうか?

 小さい頃に入ってしまえば、色んな事をたっぷりと学べるのだろう。

 

 ディゼル君は初等部に入学して2年目で、魔法は基礎的な物と身体強化しか学んでいないらしい。

 基本的には座学で理論を中心に学び……息抜き、ガス抜きのような形で魔法を使ったレクリエーションが多いとの事だった。

 

「身体強化を用いた追いかけっこや、初級魔法の妨害が許されている玉当てなんかが多いですね。

 幼いと勉学ばかりでは退屈してしまいますからね。

 僕はそんな事はありませんが、良く出来た教育課程だと思いますよ」

 

 クイ、と眼鏡をあげながらディゼル君は語った。

 何処か誇らしげで自信に溢れた態度は、なんだか微笑ましかった。

 大人びてすごく立派なんだけど……だからこそ年相応の子供でもあるんだなと、不思議と納得出来た。

 

 うーん、それにしても……。

 

「魔法学園……良いところですねぇ」

 

「ええ、我が国の誇るべき美点です」

 

 ディゼル君はニコリ、と眼鏡の奥で笑みを浮かべた。

 

 僕も笑みを浮かべて、ディゼル君に魔法学園での話を聞き続けた。

 体験談を交えた話はとても興味深くて、レイチェルさんに貰ったスープを飲みきるまで夢中で話を聞いていたのだった。

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