うたかたの歌姫   作:如月SQ

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「ぽっぴっぽー」

 後悔に苛まれながらもどうにか薬草採取の依頼を終わらせ、気晴らしも兼ねてギルドで歌った後の夜。

 僕はベッドの上で今日の事を思い返して、悩んでいた。

 

 今日の事はショックだった……。

 僕の軽率な行動が、酷い惨劇を作り出してしまった。

 きっと、僕がこのままでは同じような過ちを繰り返してしまう。

 だからこそ、これからの身の振り方を考えなきゃいけない。

 

 レイチェルさんの言う通り、何も知らないでは許されない。

 僕の持つ力は、それだけ強大なのだから。

 

 僕は、考えて、考えて考えて、考えて考えて考えて……考え抜いた。

 

 そうして出した僕の答えを次の日の朝伝えると、レイチェルさんは否定も肯定もせず、やってみれば良いと、優しく目を細めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!ご注文をどうぞー!」

 

 という訳で、僕は今ギルドの食堂でウェイターをしています!

 

「お、ミクちゃん、朝から元気だねぇ。

 じゃあ……鳥の香草焼きと適当なサラダとスープを頼むよ」

 

「はーい!香草焼きとサラダとスープですね!少々お待ちくだせいませ!」

 

 注文を受けた僕は急ぎ足で厨房へと駆け込んでいく。

 

「香草焼きお願いしまーす!」

 

「あいよー」

 

 料理長へと注文内容を告げて、僕は僕でサラダの用意に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕がまず考えたのは、街の外に出ないことだった。

 物を知らない状態で、行き当たりばったりではいけないと思って、まずは色々と学ぶ時間が欲しいと思ったから。

 けど、学ぶだけじゃあ生活が出来ない……だからこそのギルドで働く、という選択だった。

 

 依頼を受けていれば、と思わなくもないけど、一般のギルド員が受けられる依頼は稼ぎは良くないし、拘束時間もまちまち。

 そうなると、今度は学ぶ時間がなくなるという本末転倒な結果が待ち受けることになる。

 

 だからこその、ギルドでの労働だ。

 ギルドで働けばなんと、賄いも出るし格安で泊まれるのだ!

 しかも、お誂えむきにギルドでは定期的に講習会が行われているらしい。

 僕はこれからその講習会、及びギルドの図書室で知識を吸収していくつもり。

 

 この世界にも学校はあるらしいのだけど、この辺りにはないうえに学費も高い。

 学校に憧れはあるけど、まぁそこは仕方ない。

 いずれ、余裕が出来たら見学くらいはしてみたいと思う。

 

「ふむふむ……この世界の魔法は、基本は八属性、と……。

 炎、氷、水、雷、土、風、光、闇でそれぞれの優劣が……」

 

 図書室で、受付のお姉さんに貰ったノートに書き込みながら、知識を詰め込んでいく。

 今日は魔法について……『魔法教本』という初心者向けの本が今日の教材だ。

 ギルドでの労働は朝夜の食堂でのウェイターとお手伝いなので、お昼ごはんを食べた後、夜までは自由時間なので、この時間を勉強に充てていこうと思っている。

 丁度よく講習会も午後からだという事で、その開催が楽しみだ。

 

「属性の乗らない魔法は一纏めに無属性とされて、特殊な特性はあれど属性魔法より劣ると言われ……あれ?

 へぇ、そうなんだ……なんとなく無属性のほうが強そうだけどなぁ……」

 

 ふむ……僕の歌魔法は多分無属性だね。

 まぁ、その気になれば実質あらゆる属性が使えるから、あまり分類する意味もないけども。

 

「ふーん……属性があるより、属性がないほうが格好良くて強そう、ってのは創作の世界だけのお話なのかな?意外だなー」

 

「その理由は二つある」

 

「レイチェルさん!おかえりなさい!」

 

 ふと声がして顔を上げれば、いつの間にかレイチェルさんが立っていた。

 依頼をしていた筈だけど、もう終わったのだろう。

 

「んん……ただいま。

 それで、話を戻すと一つは、研究、研鑽されているか、だ。

 有属性魔法は扱い易く、使い手が多い。

 だからいくつもの型が作られ、詠唱という形で世界に定着し、安定した威力と規模を持つ。

 極論、魔力と詠唱があれば、子供でも扱える程に簡易化されているのが有属性魔法だ」

 

「ほへー」

 

 僕は気の抜けた返事を返した。

 一つ一つの言葉を噛み砕いて、要所をノートにまとめていく。

 

「そしてもう一つが、有属性魔法にはそれを司る存在がいる事だ。

 その存在が魔法の安定感をより高めているんだ。

 大体はその属性の精霊がなってるんだったか……」

 

「精霊……?へー!いるんですね、精霊!」

 

「……ん、言ってなかったか。

 人間以外の知的生命体も結構いるよ、この世界には」

 

「へー!僕の勉強終わった後、レイチェルさんと見に行くのが楽しみですね!」

 

 また一つ、楽しみが増えたなぁ。

 僕は気分が高揚するのを感じながら勉強を再開した。

 各属性魔法のイラストつき解説に目を通しつつ、いずれレイチェルさんと一緒に見るその光景を思い描いて……きっと楽しいだろうと自然と笑みを浮かべていた。

 

 視界の端でレイチェルさんが口を半開きにして、彼女にしては珍しく呆けていたけど……依頼で疲れたのかな?

 休んでるなら、邪魔しちゃ悪いよね。

 僕は勉強に意識を集中させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤ

 

ガヤガヤ

 

「お待たせしましたー!エール四つと唐揚げ盛り合わせでーす!」

 

「お、きたきたー!」

 

ギャハハハハ

 

「おーい、注文お願いしまーす」

 

ワァアアア

 

「はーい!ただいまー!」

 

 夜の食堂は酒場!

 凄く忙しい!

 依頼を終えた冒険者や、仕事を終えた人達で賑わって大盛況!

 僕は足を止める事なく、料理やお酒を運び、注文を受け続けた。

 

「ありがとー!」

 

 酔ってるのか顔を赤らめたお姉さんにお礼を言われつつ、僕は笑顔を浮かべながら動き回った。

 休む間も無くて大変だけど……。

 

「今日もお疲れ様ー!かんぱーい!」

 

ガチャーンッ!

 

 みんなが楽しそうで、その輪の中に僕もいるみたいで……。

 

「えへへっ……」

 

 なんだか、楽しいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ飲め お前好きだろ? 野菜ジュース♪

 私が決めた いま決めた♪

 だから飲んで 私の野菜ジュース 価格は200え~ん♪」

 

 一番忙しい時間、お夕飯とが重なっていた時間を過ぎて、顔を赤らめた人ばかりの時間となる。

 事前にこのくらいの時間になったら良い、と言われていたので、僕は早速とばかりにステージに立っていた。

 

「そいやそいや!」

 

そいや、そいや!

 

「どっせーどっせー!」

 

どっせーどっせー!

 

「そいやそいや!」

 

そいやそいや!

 

「どっせーどっせー!」

 

どっせーどっせー!

 

 みんなが僕の声に合わせてコールまでしてくれる。

 場の一体感に、楽しくて、自然と笑みが浮かぶ。

 

「まろやか野菜ジュース♪

 ふわふわ野菜ジュース♪

 いーちばんオススメなのは……緑のジュースー♪」

 

 えへへ……楽しいな、今日の疲れが全部飛んでいくみたいだ。

 

「ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 ベジタブルな ああああ ああ ああ あああ♪」

 

 笑顔を振り撒いて、僕は歌って、踊る。

 

「ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 生命あふれた ああああ ああ ああ あああ♪」

 

 ノリ過ぎて歌魔法を使わないようにだけ気を付けて。

 

「ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 あなたも今 ああああ ああ ああ あああ♪」

 

 チラりと見えたレイチェルさんは、酒場の隅で静かに赤いお酒の注がれたグラスを傾けていた。

 その、絵になる光景に、僕は笑顔を深め、レイチェルさんへと笑いかけた。

 

「ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 ぽっぴぽっぴぽっぽっぴっぽー♪

 野菜ジュースが好きになるー♪」

 

 ニコーッと心からの笑顔を振り撒いて、僕は歌い続ける。

 本当に、歌って最高!

 

「ぽぴーーーー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寝る前は、少しだけお話をする時間。

 初日に買って貰った、ネギみたいなマスコットのぬいぐるみを抱き抱えながら、レイチェルさんのお話を聞く時間。

 レイチェルさんの体験したというそのお話は、どれもとても面白かった。

 

「氷の龍が支配する、凍てついた森なんかがあって……生命を感じない恐ろしさはあれど、あの光景は美しすぎて、目に焼き付いてるな……」

 

「ほぇー……僕も見てみたいです!」

 

「ふふ……いつかね」

 

 そのお話が終われば、明日も早いからと就寝の時間。

 魔法で作られた道具……文字通り魔道具というらしい、明かりを消して、それぞれベッドに潜り込む。

 

「おやすみなさい、レイチェルさん」

 

「ん……おやすみ」

 

 そうして、僕の一日は終わる。

 今日も充実してたなぁと思って、明日も頑張ろうと意気込んで、僕はゆっくりと目を瞑る。

 充足感と、明日の期待を胸に……眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐす……レイチェル、さん……」

 

「……はぁ……仕方ない子だね……いいよ、おいで」

 

「ずず……んしょ……しつれいします……」

 

「……大丈夫……一緒にいるよ」

 

「はい……えへへ……」

 

「もう寝な……明日も早いんだろう?」

 

「……うん…………ねる……。

 ……んにゅ……レイチェルさん……あったかい……」

 

ぎゅう

 

「……やれやれ、本当に……仕方ない子だね」

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