うたかたの歌姫   作:如月SQ

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旅の始まり

「そろそろ、一般登録から冒険者登録に変更してみませんか?」

 

「ほへ?」

 

 僕がギルドで働くようになって早、半年程経った頃。

 街中で完結するような依頼を受けるようになって一月くらいの頃。

 初めて僕の対応をしてくれたギルドの受付のお姉さんから、そんな提案を受けた。

 

 講習会の内容も殆ど終わり、この世界の事もまぁまぁわかってきたかな……?って頃だったからいい機会ではあるんだけど……。

 

「うーん……」

 

 僕は正直悩んでいた。

 頭に過るのはやっぱり、狼さん達を一方的に悪者だと判断してしまったあの一件。

 色々と学んだとはいえ、そういう間違いを起こさないとは限らない。

 

「悩むのもわかりますが、失敗なんてそう珍しいものではありませんよ。

 完璧になんでもこなせるような冒険者ばかりなら、私達ギルド員すら必要ありませんからね」

 

「うーん……それは確かに……?」

 

 言われてみればその通りでは、あるのかな……?

 失敗したのは確かだけど、いつまでもこのままじゃ、何も進展しないし……。

 

 普通の冒険者登録をすれば、戦闘関連を始めとした、街から長期間離れるような依頼を受けられるようになる。

 すると当然、稼ぎもよくなっていく。

 講習会では時折体を軽く動かす戦闘訓練なんかもあって、僕の動きは悪くないと褒めて貰えてたけど……。

 

 僕はうーん、と腕を組んで悩んでいた。

 どうにも踏ん切りがつかない……どうしようかな……。

 そんな煮え切らない態度の僕に対して、お姉さんはそうだ、と手を叩いた。

 

「では……お試しとして一度、普通の冒険者が受けるような依頼を受けてみませんか?」

 

 お姉さんはそう言うと、一枚の書類を差し出した。

 掲示板に無造作に貼られているものと同じ、けれど真新しい紙。

 依頼内容のかかれたそれを上から下まで舐めるように見つめて……。

 

「……!受けますっ!」

 

 僕は二つ返事で了承していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「護衛依頼?」

 

「そうです!」

 

 僕は部屋で意気揚々と旅支度を進めていた。

 こんな事もあろうかと用意していたリュックに、新調した旅衣、レイチェルさんと一緒に選んだ下着に普段着に……。

 

「……ん!安眠の為!いるいる!」

 

 レイチェルさんと一緒に寝ない日は、いつも抱いて寝てるぬいぐるみ!

 いそいそとリュックに大事に詰め込む僕に、レイチェルさんは呆れたようにため息を吐いた。

 

「はぁ……一応依頼なんだろう?

 荷物は可能な限り少なくするべきだ。

 そのぬいぐるみのスペースに、いざという時の雨具や防寒具なんかを……」

 

「…………むぅ……」

 

「……はぁ……好きにしな」

 

 えへへ、安眠も大事大事!

 

 呆れた様子のレイチェルさんに見守られながら、僕は旅支度を続ける。

 ギルドで借りた部屋、レイチェルさんとずっと一緒に住んでる部屋だけど、なんだかんだと物も増えてきていた。

 いくつか置いていかなきゃいけないなぁと、持っていく物の取捨選択をしていった。

 

「……ところで、よく護衛依頼なんて受けられたね。

 君はまだ一般登録だろう?本来なら受けられない筈だ」

 

「本当はそうですね!

 でも今回は本冒険者登録しない?ってお誘いからのお試し依頼でもあるから、熟練の冒険者の人を一人連れて行けば良いらしいです!」

 

「ふぅん……そういえばそんな制度もあったか。

 やっぱり妙に至れり尽くせりで気持ち悪いな……。

 それで?どんな護衛依頼なんだ?」

 

 ベッドの上で寝転がる薄着のレイチェルさんが、首を傾げたのが横目で見えた。

 明日着る服と革鎧を用意していた僕は一度手を止めて、レイチェルさんに向き直る。

 依頼を確認した瞬間から、楽しみで仕方なかった僕は、満面の笑みを浮かべて答えた。

 

「魔法学園までの護衛依頼です!」

 

 冒険者の仕事も体験出来て、魔法学園にも行ける!

 通えるようになる訳じゃないけど、見学はしてみたかったから、この機会に是非とも見てみたい!

 なんとも一石二鳥な依頼だと、僕は明日からの旅に思いを馳せた。

 

「……成る程ね、だからそんなにテンション高いのか。

 まぁ精々、はしゃぎすぎて足元を掬われないようにする事だね」

 

「はい!楽しみですね!レイチェルさん!」

 

 魔法学園までは整備された街道が続いていて、野盗も魔物……この世界の魔力を持った動物も、殆ど現れないらしい。

 それでも皆無ではないので、念のため、という形での護衛依頼だから、殆ど旅行みたいな気持ちで行ける筈だけど……レイチェルさんの言うことももっともだ。

 明日は、気を引き締めないとね。

 

 改めてそう思い直し、準備を再開させたのだった。

 

「…………ん?

 その言い方……もしかして同行するの、私か?」

 

「はい!勿論そうですよ!」

 

 僕はレイチェルさんと一緒に学園見学が出来ると思うと、楽しみで仕方なかった。

 制服とか借りて、気分だけでも味わえないだろうか?

 そんな風に能天気に考えていた僕のほっぺに、気付けばレイチェルさんの手が添えられていて……。

 

「……ほへ?」

 

「その依頼……明日からだよね?」

 

 ニコ、と微笑むレイチェルさんに、僕も満面の笑みで返した。

 

「はい!」

 

ピキッ

 

 そう元気よく返した瞬間、レイチェルさんの額に青筋が浮かんだような気がした。

 

「あのね……」

 

ふに

 

 不意に僕のほっぺが摘ままれて、それを疑問に思う間も無く。

 

「私の許可を取らずに、何を勝手に話を進めているんだ君は!」

 

ギリギリギリギリ

 

「いひゃいいひゃいいひゃい!ふぉへんひゃひゃーい!」

 

 ひーん!ごめんなさーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミクちゃんどっか行くのかい?」

 

「はい!初めての護衛依頼に行くんです!」

 

「そうかい、気を付けてね」

 

 顔馴染みの八百屋のおばさんへ、笑みを返す。

 

「お、じゃあ非常食にうちの干し肉持っていきな!

 そのままでも良いが、煮込めばスープになるぞ!」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「へへ、いつも良い歌聞かせてくれる礼だ!」

 

 肉屋のおじさんの好意に甘えて、そこそこの量がある干し肉をありがたくいただく事にする。

 

「ミクちゃーん!あそぼー!」

 

「ごめんねー、僕今日から暫くこの街離れるから……」

 

「えー!」

 

「今日もお歌聞きたかったのに!」

 

「行かないでー」

 

 近所の子供達がわらわらと僕に群がって、口々に別れを惜しんでくれる。

 そんな子供達の頭を一人一人優しく撫でながら、僕は笑う。

 

「大丈夫!ちゃんと帰ってくるよ!そうしたら、また遊ぼうね!」

 

 子供達は一部涙ぐみながらも、ヒラヒラと手を振ってくれた。

 

「ミクちゃん」

 

「寂しくなるねぇ」

 

「ミクちゃーん!」

 

「頑張れよミクちゃーん」

 

「いってらっしゃい!」

 

「帰ってきたら、また歌ってくれよー?」

 

 みんなの声がする。

 僕へと明るい、温かな感情が向けられているのを感じて、自然と笑みが浮かぶ。

 ……まだ痛むほっぺを擦りながら、僕はみんなへと大きく手を振り返した。

 

「またねみんな!行ってきます!」

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