魔法の制御にも肉体を鍛える事にも力を入れていたルーカスは、11歳を迎える頃には破格の強さを手に入れたと自負している。
同年代の魔法使いには家の付き合いでしか会った事が無かったので、実際にどの程度差があるのかは不明だが、少なくとも相手の肉体を見る限り、自分が負けている事は無いだろうと確信したのだ。
そして、今日は念願の杖の購入日である。
ダイアゴン横丁という魔法使いの為の商店街があり、そこのオリバンダーという人がやっている店の杖が良いとの事なので、ルーカスは父親に連れられてオリバンダーの店にやってきた。
ちなみに、前世から引き継いだ大人の精神力の賜物で、魔法の練習を全力で続けたルーカスは、結局父親の言うように杖なしで魔法を使えなくなるという事は無かった。
正確には体が成長するにつれて、魔力の制御とそれに伴う魔法の発現が格段に難しくなったのは確かだが、幼少期の頃から同年代の魔法使いが面倒くさがってやらなさそうな修行を重ねていた為か、魔法を意識的に発動する術を失わずに済んだのである。
したがって、杖を持つ必要性というのは薄れてしまったのだが、魔法を行使する手段の一つとしては良いだろうと、ルーカスは考えていた。
ルーカス達がドアを開けて店に入ると、腰の低そうなおじいさんがニコニコしながら挨拶をしてきた。
「いらっしゃいませ、杖のご購入ですね?」
「ああ、息子がホグワーツに入学するのでね」
「承知いたしました。どんな杖をご消耗でしょうか?」
オリバンダーがルーカスに話を振ってきたので、ルーカスは間髪入れずに即答する。
「この店で最も高い出力の出る杖を」
「なるほど……少々お待ちください。こちらはいかがでしょう?イチイの木にドラゴンの琴線、28cmです」
ルーカスが杖を手に取り、振ってみると杖は手の中で何故か激しく振動したものの、杖からほとばしった火花と暖かな風が、ルーカスを中心に広がった。
「ううむ……相性は良さそうですが、やはり使用性に難が……」
確かに、魔法を行使する度にこの振動が発生するのであれば、大多数の魔法使いはこの杖を避けるだろうというのは、ルーカスにも容易に想像が付いた。
連射性に難がある上に、肉体が軟弱な魔法使いにとっては、そもそも振動を抑え込む事が難しいからである。
しかし、ルーカスは杖に火力以外の要素を基本的に求めていなかった為、特に問題は無いと考えていた。
ルーカスはオリバンダーの目を真っすぐに見つめ、言う。
「これを貰おう」
「し、しかし……」
ルーカスは魔法の行使に関して、大きく分けて2通りの方法があると考えていた。
一つは自分の体を媒体にして直接魔法を行使する方法で、もう一つは杖という魔力の籠った媒体を経由して、強化された魔法を発動する方法である。
杖なしで魔法を発現出来るルーカスにとって、杖とはより強力な魔法を発現する為のサポート道具の様な存在であり、中途半端な素材で作られた杖では無く、自分が使いこなせる中で最も火力の出そうな物を選ぼうと決めていたのだ。
ルーカスが今手に持っている杖は魔力の伝導率自体は高く、何より非常に頑丈に出来ている事が分かったので、ルーカスはそれを買う事に決めたのである。
しかし、オリバンダーはそれでも何か言いたげな様子だったので、ルーカスはオリバンダーを安心させる為に言葉を重ねた。
「問題無い、魔法を行使する際の謎の振動は、俺自身の握力で抑え込む」
「これを握力で抑え込むのですか!?」
弾かれた様に全身で驚きを表したオリバンダーだったが、その後ルーカスの全身を見ると、顔をしかめながらも納得の表情を浮かべた。
ルーカスは魔法使いの常識から考えると有り得ない程に、肉体トレーニングを重ねていたので11歳でありながら、ぱっと見でも分かる程度には屈強な肉体を作る事に成功していたのである。
もちろん両親は良い顔をしなかったし、何度かルーカスに肉体を鍛える事のデメリットを諭していたが、ルーカスはその全てを聞き流し、トレーニングを続けた結果だ。
そのお陰か何度か杖を振って、その度に振動が手の中で発生していたが、全てを片手のみで抑え込む事に成功している。
少し心配そうにしているオリバンダーに父親が代金を支払っていると、入り口のベルの音が鳴り、やたらとデカい男と、細身で眼鏡を掛けたルーカスと同じぐらいの年の少年の2人が店に入って来た。
ルーカスは、少年の方に声を掛ける。
「やあ、こんにちは。もう出ていくから、気にしなくていいですよ」
「こ、こんにちは。もしかして、君もホグワーツに入学するの?」
「ああ、君もそうなのか。俺は今年入学するルーカス・ウィリアムズだ。」
「僕はハリー・ポッター。よろしく、ルーカス」
(ほう……こいつが、あの有名なハリー・ポッターか)
ハリー・ポッターは、魔法界で一時期猛威を振るっていた闇の帝王ヴォルデモートを、どういう訳か赤ん坊の頃に返り討ちにした、魔法界の超有名人である。
同い年な事は知っていたものの、まさかこんな所で唐突に出会うとは全く想像していなかったルーカスは、驚きを露わにしながらもハリーポッターと握手を交わす。
「君があの……それにしては肉体が……?」
「に、肉体?」
「何をいっちょるか分からんが、ほらみろ。お前さんは魔法界では有名人なんだ」
「実際に同い年の人にまで驚かれると変な気分だよ、ハグリット」
(口を挟んできた巨体の男は、ホグワーツのハグリットだったのか……)
魔法耐性が高く巨人の血を引いている、ルーカスが目標にするべき肉体を持つ男の一人である。
学生時代にホグワーツを退学になったので杖は持っていないものの、その力強い肉体には敬意を払うべきだと、ルーカスは考えていた。
「見て見なよ、ハリー・ポッター。ハグリットの素晴らしい肉体を。どんな時でも最終的には肉体の強さが物をいうんだ。なぜ、有名人の君がそんなにやせ細った姿をしているのかは分からないが、君が望むなら鍛え方を特別に教えてあげよう!」
「う、うん。ありがとう……」
「それじゃあ、ハリー・ポッター、ハグリット先生。またホグワーツで会いましょう」
「おう、変わったやつじゃが、よろしくな」
ハリー・ポッターの体格に不安を覚えながらも、最後にもう一度握手を交わしてから、ルーカス達はオリバンダーの店を後にした。
その後、教科書や鍋等をあれこれ買いそろえて、ダイアゴン横丁から家に帰る頃にはすっかり日も暮れており、夕食を食べながら改めてホグワーツでの生活について、両親に話を聞き、明日の出発に向けて早めに就寝したのである。