次の日の朝、ルーカス達4人は飛行訓練を受ける為に、校庭へと向かっていた。
「ルーカス! いよいよ今日はマダム・フーチの飛行訓練だね!」
「ああ……そうだな」
「どうしたんだい? 君なら家でたくさん練習していたから、得意なんじゃないのかい?」
「まあ、そうなんだが……俺自身の体重がなぁ」
魔法使いの箒は当然道具である為、根本的な性能という物が決まっており、どんなに箒の質を向上させたとしても、物理的な限界がある。
例えば体重50kgの者と、体重200kgの者が乗った場合を比べると、明らかに前者の方に最大速度や旋回性能に軍配が上がるのだ。
したがって、ルーカスは肉体が強化されるにつれて、本人の技量とは関係なく、段々と箒をスムーズに操るのが難しくなってしまったのである。
ルーカスが微妙な顔をしながら廊下を歩いていると、突然後ろから肩を叩かれ、振り向くとそこには純血をやたらと自慢するドラコ・マルフォイが、にやにやしながらそこに立っていた。
「ルーカス! 君は純血の家系なのに、箒にも満足に乗れないのかい? よければ純血のよしみで、この僕が教えてやろう! ポッター! せいぜい無様な姿をさらさない様に頑張るんだな! はっはっはっ!」
そう一方的に言うとドラコは、高笑いしながら去って行った。
するとそれを見ていたハーマイオニーとロンが憤慨して、ルーカスとハリーに耳打ちをする。
「なんだあいつ! ほんと感じ悪いなあ!」
「気にしない方が良いわ! きっとマウントを取りたがるお年頃なのよ!」
「そういえば、ダドリーもあんな感じだったなあ……」
「そうだな……構っている時間が勿体ないから、放置しよう」
ルーカス達4人の、マルフォイに対する印象がさらに下がった。
校庭に行くと、人数分の箒が地面に並べられており、マダム・フーチが生徒達を今か今かと待ちわびている様子で、その横に立っており、ルーカス達が到着したのを見ると、声を張り上げた。
「これで全員揃いましたね! それでは飛行訓練を始めます! みなさん、ぼさっとしていないで、それぞれお箒の横に立って右手をかざし『上がれ』と言ってください、勝手に次のステップには進まない様に! 始め!」
ルーカスが「上がれ」と言うと、箒はスムーズに右手へと収まった。
(基本的な事は変わらず出来るんだがなぁ……)
右隣を見ると、ハーマイオニーやロンは箒が中々いう事を聞かずに苦戦している様だが、左隣のハリーを見ると練習をした事が無いのにも関わらず、一発で箒を上がらせる事に成功させており、ルーカスは驚いてハリーに声を掛けた。
「ハリー! 凄いじゃないか! もしかしたら才能があるかもしれないぞ?」
「ありがとうルーカス……ああ、マルフォイは当たり前の様に成功してるな。なんか僕らの方を見て、誇らしさと悔しさが入り混じった様な複雑な表情をしているぞ」
「自分の凄さを見せつけようと思ったら、俺たちもあっさり成功させているのが悔しかったんじゃないか?」
ハリーとルーカスが雑談を続けていると、マダム・フーチが再び口を開いた。
「出来なかった人は、仕方が無いので普通に箒を手に取ってください……それでは、いよいよ箒に跨ります。私が合図をしたら両足で地面を強く蹴って、それから直ぐに前かがみになって地面に戻ってきてください。いいですね? それでは……ミスターロングボトム? ロングボトム? どこへ行くのです!!」
マダム・フーチが説明をしていると、突然ネビル・ロングボトムが箒に跨ったまま宙に浮きだし、そのまま加速して上空へと行ってしまったのだ。
マダム・フーチが慌てて声を掛けるも、箒に振り回されているネビルに、自力で戻れる様子は全く無かった。
ルーカスは、ハーマイオニーに声を掛ける。
「あいつって、汽車でヒキガエルを探していたやつだよな?」
「ええ、そうよ! でも、どうして飛んで行っちゃったのかしら……あ、危ない!!」
ハーマイオニーが焦った様に指を指している方向を見ると、ネビルがちょうど空中で箒から振り落とされる瞬間だった。
生徒達から、この後の惨劇を想像させる様な、多数の悲鳴が上がる。
そんな絶望的な状況の中、ルーカスはにやりと笑うと呪文を唱えた。
「ヴィゴラトゥス・マキシムス!!」
ヴィゴラトゥス・マキシムスは身体強化魔法の詠唱呪文であり、唱えたルーカスの身体能力を超人の領域へと瞬時に引き上げると、ルーカスは地面を強く蹴り、砲弾の様に飛び出して黒いローブをなびかせながら、ネビルの落下地点へと突進した。
「フハハハハハ!」
ルーカスが雄たけびを上げながら、さらに速度を上げる。
そして落下の衝撃を殺しながら、ルーカスはネビルをお姫様抱っこで受け止めた。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!! あ、あれ?」
「フハハハハハ! 何とか間に合った様だな!!」
「き、君は確か、列車で僕のトレバーを届けてくれた……」
「ロングボトム! ロングボトム! 無事ですか!?」
ルーカスがネビルと話していると、マダム・フーチとその他の生徒達が、2人の周りへと集まってきた。
「だ、大丈夫です……多分、はい」
「それは良かったです……念の為、ロングボトムとウィリアムズを保健室に連れて行きます! その間、みな大人しく地上で待機している様に! 勝手に宙に浮かび上がった者は、ホグワーツを退学になってもらいますからね!」
マダム・フーチが動揺している生徒達を脅すと、ネビルとルーカスを連れて行こうとしたので、ルーカスはそれに待ったを掛ける。
「先生! 俺は無傷なので保健室は大丈夫です!」
「何を言うんですか!? ウィリアムズ!」
「そうよ! ルーカス! 保健室に行くべきだわ!」
「そうだよ、君。あんな無茶な事して」
「ルーカス、行った方が良いと思うよ」
「問題無い、3人とも。俺はこの程度で怪我をする程、やわな鍛え方はしていない!」
ルーカスが自信満々に、ハリー達に自分の肉体の頑強さを主張するも、マダム・フーチは諦めずにルーカスに詰め寄ってきた。
「生身であれだけの加速をして、もし後遺症でも残ったらどうするのですか!? あなたが嫌と言おうが、何が何でも……」
「なにい!? 後遺症!? それは不味い! 先生! 早く保健室に行きましょう!!」
「え、ええ……分かりました」
ルーカスは鮮やかな手のひら返しで保健室へ行く事を決めると、あっけに取られる他の生徒達に見送られながら、呆れた様な顔のマダム・フーチに連れられ、ネビルと共に校庭を後にした。
ルーカスは自分の肉体に絶対の自信を持っていたが、前世ではあっさりとトラックに殺された事を思い出し、今世では二度と過ちを繰り返さない為にも、肉体が本当に万全の状態にあるのかどうかを確認するというのも、大切な事だと思い直したのだ。
「ルーカス・ウィリアムズ……あなたは至って健康です。健康ですが、いささか興味深い肉体をしていますね」
保健室の主であるマダム・ポンフリーは、ルーカスの鍛え上げられた肉体を検査して、そう結論を出した。
ルーカスはまんざらでもない様子で、返事を返す。
「はい、幼い頃から魔法も併用して筋肉トレーニングを続けていた所、どんどん強化されていきました」
「なるほど……それで、魔力と筋肉がどういう訳か融合し『魔法筋肉』と呼べる様な代物へと変化している訳ですね。魔力を十分に流せばマダム・フーチの言う様に、常人を遥かに超えた出力を出せるというのも頷けます。ですが、過信してはいけませんよ。筋肉は酷使すれば必ず弱る物なのです」
マダム・ポンフリーは、ルーカスの筋肉はあまりにも長時間、全力で稼働し続けると常人の筋肉の様に壊れてしまい、しかもその特性から治すのには通常よりも長い時間が掛かってしまうと、ルーカスに忠告した。
ルーカスは思ってもみなかった話に、真剣な表情になる。
(なるほど……考えなしに酷使すると、いざという時に使えなくなるという事か)
ルーカスにとって、筋肉は己の生命線である。
魔法筋肉はルーカスにとって非常に使い勝手がよく、無意識に使ってしまう事がある。
その度にストレッチや食事で筋肉のメンテナンスを行っていたルーカスだったが、まさかそんなリスクがあったとは、全く気付いていなかったのである。
それに気付く事が出来たのはひとえに、この世界でも有数の医師であるマダム・ポンフリーの助言があったからであり、その事を教えてくれたマダム・ポンフリーに、ルーカスは強い感謝の念が湧いた。
そしてルーカスは考えた末、マダム・ポンフリーに頼み事をする。
「先生! 筋肉の最良の鍛え方を教えるので、代わりに魔法筋肉の最適なメンテナンス方法を教えてください!!」
保健室から出る頃には昼食の時間だった為、ルーカスが大広間へと向かうと、そこにはいつもの3人が食事をしながら、興奮して喋っている姿があった。
「何を話しているんだ? 2人とも?」
「あっ、ルーカス! 体は大丈夫……大丈夫そうだな! それより聞いてくれよ! ハリーがグリフィンドールのシーカーに選ばれたんだ!」
「シーカーに!? ハリーはまだ1年生だぞ!?」
魔法界には『クィディッチ』という競技があり、箒に乗った7人対7人の選手が、競技場の上空で4つのボールを使って対戦する人気スポーツだ。
シーカーとは、7人の中でも最も重要だと言っても過言では無い役職であり、シーカーは『スニッチ』と呼ばれる金色のくるみサイズの、やたら素早く競技場中を逃げ回るボールを捕まえる役割を担っている。
それを捕まえればチームに150点が入り、同時に試合終了になるからだ。
通常のボールを相手チームに放り込んでも10点しか入らない為、シーカーにはチームの命運が掛かっているといっても良い。
「マルフォイがネビルの落とした魔道具を奪って、ハリーを挑発したのよ。そしたらハリーったら、挑発に乗って見事な操縦技術でそれを取り戻したと思ったら、マクゴナガル先生に見られていて……」
「そしてハリーが連れていかれたと思ったら、なんとシーカーになって戻って来たんだ! 見ろよ、あのマルフォイの悔しそうな顔を! 君を困らせようと思ったら、逆に喜ばせてしまったんだからな!」
ルーカスがマルフォイをちらりと見ると、苦虫を嚙み潰したような顔をしているマルフォイが見えたので、ルーカスはそっと視線を逸らした。
(やはり才能があったのか……しかし、これではハリーの肉体改造計画に多大なる支障が!!)
ルーカスはハリーが選手に選ばれた嬉しさと、突然立ちはだかった困難への苦悩の2つを抱えながらも、ハリーを称えた。