電脳の楽園   作:kfdos

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電脳世界へ

 「新型yPhoneZ発売から1か月、街の人の反応をうかがってみました!」

 

 テレビから番組の音声が流れてくる。

 

 2045年、yapple社よりyPhoneZが発売された。これまでにない拡張現実を売りとしており、付属デバイスを一切必要としないものだ。

 

 売り文句は「部屋から出ずに、世界中を旅しよう。この1台と共に」。インフラ整備がより高度化されたことにより実現することができた技術といえる。

 

 俺、椎葉 集(シイバ ツドイ)もその圧倒的な技術力と魅力に、発売日当日に並んで購入したほどだ。

 

 セットアップとして生体情報の入力やスキャンなど、既存の物とは違う項目が多く戸惑いはしたものの、未知の体験をより濃く味わうためだとしっかり入力したものだ。

 

 そして数か月後。

 

「飽きた」

 

 飽きていた。はじめは自分の部屋にいながらヨーロッパの街並みのような場所を投影させたり、江戸時代や戦国時代など教科書上でしかしらない場所を投影したりしたものだったが、毎日のように行っているとさすがに飽きがくる。

 

「それよりもやっぱりバージョンアップしたSiriが一番だよな~」

 

 Siriはかなり高機能なものになっていた。まず、自分が想定する好きなキャラクターを模した会話をすることができる。父・母・兄・姉・弟・妹・幼馴染・先生・親友などといった人物像の設定が可能であり、好きな声優などの声のサンプルデータからその声を設定することも可能だ。

 

 俺は一人っ子なので妹に憧れている。設定は妹、声は甘め、性格はお兄ちゃんっ子だ。これ以外ないです。

 

「あぁ、今日もSiriに癒される……」

 

 自分以外にもSiriをフルカスタマイズしているしている人は多くいるらしく、PCのHDDを見られるよりもSiriの設定を見られる方が恥ずかしいと言われる時代になった。

 

 Siriと会話しながら寝落ちする、これが俺の毎晩の出来事であり、日課でありルーチンであった。

 

「今日もお疲れ様、お休みSiri……」

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

集は知らない空間で目が覚める。一見自分が住んでいる街に見える。しかし空間が歪んでいたり、何か色彩がおかしかったり、太陽があるのになぜか真っ暗なところがあったりと全体的に気持ちが悪い。

 

「ん?君はNPCではないね?」

 

 知らない女性にいきなり声をかけられる。金髪と茶髪の中間のような髪色で、長く毛先がカールしている。西洋人形を思わせる美しい容姿をしているが、服装は白衣だ。

 

「NPC?いや、何のことです?それとここは一体?」

 

「あぁ……ここはいわば電脳世界だ。私はこの空間の研究をしている。そうだな、エリザと呼んでくれ」

 

 エリザと自称する美人さんは俺に向き直る。ここが電脳世界だと?どうして俺はここに着てしまったのだろうか、現実に戻れるのだろうか、進んだ先に何があるのだろうか、と不安と興奮で思考が加速する。

 

「で、電脳世界ですか?現実になったネットワーク空間のような、あの?」

 

「そうなるな。ここではインターネットにある情報の全てがあり、それが可視化・実体化されたものを体験することができる。そして君が現実であると知覚している世界、『肉体世界』と呼称しようか。この電脳世界には肉体世界にいる人間の多くが同じ顔や体格で生活している。ただし、主人格が肉体世界にある者は己の意志で行動できず、電脳世界の意志によって行動している。この状態を私はNPCと呼んでいる」

 

「なるほど、プレイヤーが操作していないからNPC、と。ゲームに例えたんですね。ところでなぜ俺がNPCではないとわかったんです?」

 

「君があまりに狼狽していたからだ。まるで知らない空間に放り投げられたかのような挙動。さしずめいきなり電脳世界に飛ばされたのだと考えるのが普通だ。とあればNPCではないと推測は容易い」

 

「確かに仰る通りで……お恥ずかしいところをお見せしました。ところで、この電脳世界にはどうやって入って、どうやって出ることができるのでしょうか」

 

「詳しいことはわからないが、入眠時にyPhoneを持っていることが条件のようだ。これまでに何人かの人間と会話を行ったが、全員yPhone所有者だった。また、寝落ちした人が多かったからか夢だと思っている者ばかりだったな。出る方法は簡単だ。出たいと強く念じればいい。」

 

「なるほど、ではまたこの世界に入ってくることができそうですね、よかった。来たらまたエリザさんに会えますか?いろいろ教えてほしいことがあるのですが……」

 

「なんだ、口説いているのか、少年?私はそんなに安い女ではないぞ?」

 

 エリザは意地の悪い笑みを浮かべている。

 

「ち、違いますよ!慣れない世界に来てしまったから不安で……それに知った人に案内いただけるのであれば心強いですし」

 

「冗談だ、そんな必死な顔をするな。まあ、私は大体このあたりにいることが多いからな、君がこの場所に現れるのならきっと私ともまた会えるだろう」

 

「そうでしたか……それはよかった。あ、俺、椎葉 集といいます、自己紹介遅くなっちゃってすみません」

 

「なんだ、君はネトゲでも本名で登録するタイプなのか?まぁいい、ツドイ、ぜひまたここに来てくれ。この世界に来る人は稀でね、ぜひ君と意見を交わしたいものだ」

 

「あ、ありがとうございます!ちょっと今日はいろいろとびっくりしちゃって……またエリザさんとお話したいです!」

 

 そう言って俺は電脳世界を後にした。だいぶ長い時間が経ったと思っていたが、ここに戻ってきたら30分ほどしか経っていなかった。どうやら体感時間よりも短いようだ。

 

「また眠くなったら行ってみよう、電脳世界……!」

 

 興奮で眠れなくなってしまったためしばらくお預けであるが、また絶対に行こうと心に決めた集だった。

 

 

 

「続いてのニュースです。原因不明の植物人間化現象が相次いでおり――」

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