ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

1 / 27
第1話 「ぼくのガンプラは……ザクレロ?」

「はぁ」

 何度目だろうか、少年は大きなため息をつく。

 窓辺のカーテンは引かれ、外は晴天だというのに部屋の中は薄暗いままだった。

 

 誰も見るものもないテレビだけが、場面の移り変わりとともに部屋の中にわずかな光の

彩り添えている。

 

 少年、アマノ・ツカサは下を見る。ツカサが腰掛けている椅子……それはただの椅子で

はなかった。

 

 ツカサは2年前交通事故にあった。

 幸い命に別状はなかったが、ツカサの下半身はその日以来本人の意志通りに動くことは

なく、それからツカサは車いすを必要とする生活を強いられてた。

 

 ツカサは顔を上げ、横を向いた。

 そこには大人の身長を有に超えるラックがあり、中には大小様々なミニチュアが飾って

あった。

 

 事故に遭う前、ツカサはミニチュアを駒に使って戦うシュミレーションゲーム、ミニ

チュアゲームにのめり込んでいた。

 もともと明朗快活とはいいがたい性格だったが、休日になるとショップやクラブチーム

に足を運びゲームに没頭する日々を送っていた。

 だがあの日以来、ツカサの生活は一変してしまった。

 車いすは、ツカサのすべての行動に制約を設けてしまったのだ。

 いつからか、あれほど好きだったミニチュアゲームからも遠ざかってしまった。

 

「は……ん?」

 また出かかったため息は、背後から聞こえてきた大音量に飲み込まれた。億劫そうに振

り返る。

 

 いつのまにか番組が変わっていたようだった。

「これは……」

 眼鏡を指で押し上げながら、テレビに顔を近づける。

 画面には、ところ狭しと戦いを繰り広げるロボットの姿が映し出されていた。

 宇宙空間をバックに激しい銃撃戦を繰り広げるのは、たしかガンダムとかいうアニメ作

品にでてくるモビルスーツと呼ばれるロボットだった。

 ここ数年、これらモビルスーツを模したプラモ、通称『ガンプラ』を使ったバトルが

大ブレイク中だった。

 

 当時ミニチュアゲームに入れ込んでいたツカサは、スポンサーやマスコミ関係の過剰な

までなテコ入れや、その派手なバトルを毛嫌いしており、意図的にこれらの情報を見ない

ようにしていた。

 

 だが、今は眼前で行われているバトルから目を離せないでいた。

 

 嵐のようなビームをくぐり抜け、単眼のモビルスーツが相手に肉薄すると、手にした戦

斧を振りかざす。

 真っ赤に赤熱した刃が、二枚のウィング状のパーツを背につけたモビルスーツを一刀両

断に切り裂いた。

 二つに分かれたモビルスーツは一瞬の後、大爆発を起こす。

 テレビからは、割れんばかりの拍手と歓声が響きわたる。

 

「これが、ガンプラバトル……」

 ツカサは、食い入るように画面を見つめながらつぶやいた。

 

                   ※            

 

 翌日、昨夜のガンプラバトルのことを考えながら、ツカサは学校からの帰りの途にあった。

 何気なくいつもの通学路から外れ車いすを進めていたが、ふと横を見る。

 そこには、細い道が続いていた。

 

 ツカサの足は無意識にそちらに向いた。しばらく薄暗い路地裏を進んでいくと、小道は

『おもちゃのミサキ』と書かれたうら寂れた店の前で終わりを告げていた。

 

(いまどき『おもちゃ』はないだろう?) 

 

 呆れながらそんなことを考えるが、近所にこんな店があったことに今まで気がつかなかっ

たツカサは、興味を覚え中へと入っていく。

 店の中は薄暗く、案の定人っ子ひとりいなかった。

 中の暗さに目を慣らすべく店内を見渡すと店の片隅に色あせた玩具らしきものがうず高く

積み重なっている。

 

 ボロボロに痛んだ箱には、かろうじて「ミクロマン」とか「変身サイボーグ」と書いて

あるのが見て取れた。

 

(いったい、いつのおもちゃなんだ?)

 

 どう贔屓目に見ても、かなり昔の物と思える品々に、ツカサは眉をひそめ心の中でツッ

コんだ。

 

「わっ!?」

 何気なく反対側へ視線を移したツカサは驚きの声を上げた。目に飛び込んできたのは色

鮮やかな箱、箱、箱の山であり、

統一された箱のレイアウトから見て、同じシリーズのようだった。

 

 唖然としながらも、ツカサは棚一面に並んだある箱の前で動きを止めた。その中に、昨

夜見た単眼のモビルスーツの姿があった。

「……じゃあ、これ全部ガンプラなの?」

 ツカサは棚にそって車いすをゆっくりと進ませた。すごい数だった。これみよがしに棚

に飾られたガンプラたち。その種類は、ゆうに百を越えていただろう。

 

「い、いらっしゃいませ」

 店の奥から、か細い声が聞こえた。反射的に振り返ったたツカサは、大きく目を見開く。

 

「ミサキさん!?」

「アマノ君!?」

 カウンターの裏側で、ツカサ同様大きく目を見開いていたのは、同じ中学校に通うクラ

スメートのミサキ・ハルナだった。

 

                    ※

 

「ここ、ミサキさんのうちだったんだ」

「うん」

「ミサキさんのうちがお店をやってたなんて知らなかったよ」

「実家がおもちゃ屋さんなんて、ちょっと恥ずかしかったから……」

 ミサキ・ハルナはおとなしい性格のためか、クラスの中でも目立たない存在であり、ツ

カサも学校で挨拶をかわすぐらいの関係であったが、ツカサは物静かハルナに淡い思いを

抱いていた。

 

 普段と同様、控えめな態度だが、少しはにかみながら舌をだして答えるハルナを見て、

ツカサは彼女のちがった一面を見た思いだった。

 

「アマノ君、ガンプラに興味があったんだ?」

 遠慮がちに話しかけられ、ツカサは我に返る。ハルナは小首を傾げてツカサを見ていた。

「えっ? ああ、ちょっとね」

 我に返ったツカサは、ドギマギしながら答えた。

「そ、それにしてもすごい数だね」

「うん。でも、これでも全種類は置いてないんだよ。うちのお店はあんまり広くないから」

「そうなんだ。あの、ちょっと店の中を見せてもらってもいいかな?」

「ご自由に。わからないことがあったら何でも聞いてね」

「ありがとう」

 ハルナの声を背に、ツカサは棚の端からガンプラを真剣な眼差しで見はじめた。

 

                    ※

 

 とりあえず店内を物色しはじめるが、まるで予備知識のないツカサは膨大な数のガンプ

ラを前にあたまが痛みだすまでそれほど時間はかからなかった。

 自分で選ぶことを断念したツカサは、こめかみを指でもみほぐしながらカウンターの前

にもどると、ハルナにお勧めのガンプラはないかとたずねてみた。

 

「それだったら、『ザクレロ』がいいよ!」

「へっ? ざく…れろ??」

 カウンターから身を乗り出し即答するハルナに、ツカサはたじろぐ。

 ハルナはカウンターの下からガンプラを取り出すと、ツカサの眼前に突きつける。

「これが、ザクレロ……」

 目の前に突きつけらた箱に必死に焦点を合わせると、世にも珍妙な姿のロボットがツ

カサの網膜に焼き付いた。

 

(か、カッコ悪ッ!)

 

 これが、初めてザクレロを見たツカサの嘘偽りのない感想だった。

 

 全身これ頭! と言わんばかりの巨大な頭部。

 しかも、その頭部にはメカのくせになぜか目や口が付いており、泣いてるんだか笑って

るんだかわからない微妙な表情をしていた。

 両手と思われるパーツの先端には鎌のようなものが付いており、妙に浮いて見える辛子

色のカラーと相まって不細工な事この上なかった。

 

(やっぱり、ガンプラバトルするの止めようかな……)

 

 ツカサの脳裏を、そんな考えが電光石火の速さでよぎる。

 

「ザクレロはね、機動戦士ガンダム…通称ファーストガンダムにでてきたモビルアーマー

なんだよ!」

 脳内で真剣に検討をはじめたツカサを尻目に、ハルナは目を爛々と輝かせザクレロの解

説をはじめるが、超がつくほどガンダム初心者のツカサにしてみれば、ハルナが何を言っ

ているのかまるでちんぷんかんぷんといったありさまだった。

 

(それにしても、この人は本当にミサキさんなのか?)

 

 いつもの控えめな感じはどこへやら、血走った目でザクレロの魅力を力説し続けるハル

ナを見てツカサは素朴な疑問を抱く。

 だが、ここで隙でも見せようものなら、この変なガンプラを押しつけられるのは必至!

 ツカサは身振り手振りを交えながら、なんとか現状を打破すべくハルナの説得に乗り出

した。

 

「……お買い上げありがとうございます」

「え?」

 このままでは埒が明かないと悟ったのか、ハルナは感情の欠落した声でつぶやくと、箱

のバーコードにスキャナーを押し当てようとする。

 

(だ、だめだ。ミサキさんは強硬手段に訴える気だ!)

 

 そうはさせじと、ツカサは近くにあったガンプラを手に取った。

「せっかくだけど、ぼ、ぼく、これがいいかな」

 箱には『Hi-νガンダム』と書かれていた。咄嗟に選んだものだったが、パッケージに描

かれたイラストを見て、ツカサはそのガンプラに見入ってしまった。

 

 はっきり言って、ザクレロとは大違いだった。

 

「……やっぱり、アマノ君もザクレロがきらいなんだ?」

 沈んだ声に、ツカサは反射的に視線をもどした。その先にはハルナががっくりと肩を落

とし顔を伏せていた。

 

「え? い、いやそんなことないよ」

「ふふふ、いいよ、無理しなくても。みんなザクレロを勧めると、きまってアマノ君みた

いなリアクションとるんだよね」

「そんな、誤解だよ」

「いいって、いいって、別に気にしてないからさ……チッ、どいつもこいつも……」

 

 別人が話してるのかと錯覚するほどドスの利いた声でつぶやくハルナ。

 怒りのためか堅く握られた両の拳が震えだし、つられてカウンターが激しく揺れ動く。

 

「もう、お小遣いがないんだ!」

 ツカサが必死に言い訳すると、拳どころか全身を震わせはじめたハルナがぱっと顔をあ

げる。

 

「そっか、それじゃ仕方がないよね。じゃあ、これはアマノ君用に取っとくよ!!」

 満面の笑みを浮かべながら、ハルナはレジの後ろに取り付けられた「ご成約済み」と書

かれた棚にザクレロをしまい込む。

 

 

(やっぱりアレを買わなきゃいけないわけ?)

 

 

 

 ハルナの機嫌がなおったのは良かったが、内心はげしく後悔するツカサであった。




次回予告


ハルナの執拗な勧誘から逃れるためとはいえ、『Hi-νガンダム』と運命の邂逅を果たしたツカサ。
かったツカサは、店の入り口でシキブ・リョウゴと名乗る青年と出会う。

次回、「ガンダム ヘッドクオーター」
しかしガンプラ初心者であるツカサは、いざ組み立てというところで案の定苦戦を強いられる。

ハルナの提案でガンプラ製作のレクチャーを受けるべく『おもちゃのミサキ』へと向

第2話 「出会い」


この出会いが、ツカサの運命を変える。

お楽しみに!









  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。