ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第13話 「世界の実力」

「え~、まずは本トーナメントに参加してくださったみなさん、お疲れさまです」

 GBトーナメントもようやく1回戦をすべて終了し、ざわめく店内にハルヒコの声がマイクを通して響きわたる。

 

「なかにはバトルに集中するあまり、熱くなりすぎた方もいたようですが……」

 ハルヒコはいったん言葉を切ると、タマサブローが勢い余ってぶち破った店の入り口をちらりと見た。

 辺り一面に散らばったガラスの破片が午後の柔らかな日差しを受け光輝いている風景は、どこか幻想的だった。

 

 現実から逃避するかのように視線を反対側に目をやると、怒りと羞恥に顔を朱に染め、乱れた衣服を直すハルナの姿が目に入った。

 すぐ傍には折れたモップと、頭に特大のこぶをこさえたミキが棒のように硬直し、床に倒れていた。

 

 隅の方では、壁に貼られたガンダムのポスターを相手にツカサが延々と何かを話しかけ、B級ホラー映画にノーメークで出演できそうな顔をしたコウタが、必死にツカサの肩を揺すっている。

 

 眼前のカオスな光景を無言で見守るハルヒコの胸中には、どんな想いが去来している

のだろうか?

 

「……店長、どうかしたんスか?」

 全身から苦悩、後悔、悲しみといった感情をにじませ、彫像と化していたハルヒコが、ギャラリーから投げかけられた言葉に我に返る。

 

「あ、すみません。……ハルナ」

「分かってる!」

 ハルナは語気荒くそう言うと、頬を赤らめたまま顔を伏せ走り出す。横を通るときに、ミキの頭を踏んづけてゆくのを忘れない。

 

「それと、ハヤミ君」

 すまなそうに声をかけてくるハルヒコに、レンは苦笑しながら頷くと、ツカサたちの方に歩き出した。

 

「……けっ!」

 眼前の光景に不機嫌さを隠そうともせず露骨に顔をしかめるアキトに、音もなく人影が近づく。

「随分と機嫌が悪いようだな?」

「あたりまえだ。俺はガンプラバトルをしにきたんだ。つまらねぇ漫才を見に来たわけじゃないからな」

 まるで敵でも見るよう目つきで、アキトはカーネルを睨みつける。

 

「俺はあいつと戦いたいだけだ。雑魚と遊んでるヒマなんかねぇ!」

 そう言うとアキトは首を回す。

 そこには人だかりから離れ、壁に背をつけツカサたちを見ているリョウゴの姿があった。

 

「もうしばらく我慢しろ。Bブロック最後のバトルは、間違いなくお前とリョウゴの戦い

になるだろう」

「そして、決勝でとっつぁんと俺の一騎打ちになるってわけかい?」

「……いや、そうとは限らん」

 

 つまならそうに両手を広げ肩をすくめようとしたアキトの動きが止まる。

 

「どういう意味だい? Aブロックに──いや、このトーナメントに参加しているメンツのなかに、俺以外あんたに勝てるファイターなんざいないぜ」

 カーネルはビルダーとしてもファイターとしても超一流の腕を持っている。正直なところアキトの実力を持ってしてもカーネルとバトルになったら、どちらに軍配が上がるかは時の運といったところだろう。

 

 カーネルの言葉の真意を汲むことができず苛ついた顔になるアキトの肩に、皮の手袋に包まれた大きな手が置かれる。

 

「確かに、単純に技量のみなら私やお前に勝てるものなどこの店にはいないだろう。だが、面白いやつもいる」

 アキトの肩越しにカーネルは一点を見つめる。つられて振り返るアキトの視線に、さっきまで壁に語りかけていた車いすの少年の姿があった。

 

「あの坊主が?」

 カーネルの意図が理解できずアキトは怪訝な顔になる。

 

「……昔の自分を思い出せ」

 カーネルは2回戦の出場者たちが集まるのを見るや小声で囁くと、口を開きかけたアキトを残し歩きだした。

 

                  ※

 

「何見てんだよ?」

 口をへの時に曲げ、熱心にトーナメント表を見上げているツカサに、コウタが話しかける。

「いくらおれとぶつかるのが嫌だからといって、トーナメント表にガンつけても仕方ないだろ? 災難だと思ってあきらめろ」

 

 どこまで本気で言っているのだろうか? 真面目な顔で言い切るコウタに、ツカサが苦笑を浮かべる。

 

「そんなんじゃないよ。ただ、勝ち残った人たちの名前を見てたらちょっと、ね」

 16人に絞り込まれたトーナメントの出場者たちは、その大半がこの店の常連だ。

 ほとんどの者とツカサはなんらかの面識があったが、その中に、ひとりだけ記憶と合致しない名前があった。

 

「このセラ・アキトさんて、どんな人なんだろう?」

「こんなヤツさ」

 声と同時に、横合いから回り込むように男がツカサを覗き込む。

 ウィンクのひとつもすれば、立ち止まる女性もいるだろう非常に整った顔立ちの持ち主だが、ツカサを見る眼光の鋭さと口元に浮かぶ皮肉めいた微笑が印象的な男だった。

 驚きのあまり、息を飲み硬直しているツカサを無遠慮に眺め回していたが、やがてアキトは顔をしかめる。

 後ろでひとつに束ねられている艶のある黒髪が、軽く左右に揺れた。

 

「こいつがねぇ、…………やっぱ、分かんねぇわ」

 アキトは髪を掻きながらつぶやくと、ツカサたちをその場に残し去っていく。

 

「相変わらずだな、セラのやつ」

 呆然としているツカサたちの背後から、ため息混じりの声が聞こえたきた。

「ハヤミさん。 な、何なんです、あの人?」

 バトルルームに消えたアキトの背中を見ながら、ようやく呪縛が解けたかのようにコウタが堰を切ったように話し出す。

 

「おれも詳しくは知らないんだ。極端に人付き合いの悪いやつで、今までおれも挨拶程度しかしたことがなくてね」

 興味津々で身を乗り出していたツカサとコウタが、がっくりとうなだれる。

「すまない。 だが、腕は折り紙付きだ。第9回ガンプラバトル世界選手権でベスト16ま

で残ったほどだからね」

「何でそんな人がこのトーナメントに?」

 ツカサの問いに、レンは首を横に振る。

 

「分からない。今までこの店で行われたトーナメントはおろか、ふつうのガンプラバトルにすら興味を示さなかったあいつが、どうして今頃になって動き出したのか──だが、見る価値は十分にあると思うよ。世界レベルの実力者のバトルをね」

 レンはそう言いながら顔を上げる。アキトのガンプラがスクリーンいっぱいに映し出されていた。

 

                  ※

 

 アキトのガンプラはデスティニーガンダムをベースとしているようだが、機体各所にスラスターが増設され、全身を深紅に染め上げられていた                 

 

 果てのない連なりを見せる広大な山脈を背に、2体のガンプラが対峙している。

 

「どうした、かかってこないのか?」

 アキトのガンプラ『クリムゾンミラージュ』が、腰に手を当て前を見る。

 

 対戦相手もアキトの噂は耳にしているのだろう。

 アキトのガンプラを警戒してか、対戦相手のシグーはアキトの挑発に答えず沈黙を貫いている。

 

「にらめっこしにきたんじゃねぇんだけどな」

 クリムゾンミラージュは、いきなりシグーに背を向けると両腕を高々と上げた。

 シグーを操るファイターが、アキトの真意を測りかねず眉をひそめた。

 

「ほれ、これぐらいのハンデがありゃあ攻撃できるだろ? これでまだ足りないなら、逆立ちでもするか?」

 自分が完全におちょくられていることに気づき、男の顔が怒りに歪む。

 

 シグーは手にしたビームガンの照準をクリムゾンミラージュの背中に合わせる。

 

「ふざけんな!」

 

 男の怒声とともに銃口が輝きビームが放たれるが、クリムゾンミラージュは横に一歩動いただけでビームの火線をかわしてしまう。

 

 シグーの機体が一瞬硬直するが、すぐに立て続けにビームを放つ。

 だが、クリムゾンミラージュは最小限の動きで全てかわしてしまう。それはまるで、武術に精通した者がみせる『見切り』のようだった。

 

「ま、こんなもんか……」

 アキトの深いため息とともに、クリムゾンミラージュがゆっくりと振り返る。

 ただそれだけの行為だというのに、シグーはまるで怖じ気付くかのように後ずさった。

 

「いつまで出し惜しみしてんだ。その後ろのデカいヤツ、ただの飾りってわけじゃないんだろ?」

 シグーやジンといったMSの背部はスラスターを防御するために特徴的な装甲で覆われている。

 対戦相手のシグーはこのスラスターユニットを廃し、その場所に巨大なコンテナのようなものが取り付けられていた。

 

「どうせ何やったって俺には勝てないんだ。だったらその前に悔いが残らんようにやること全部やっとけよ」

 相手を諭すように話しかけるが、その口調は皮肉そのものだ。アキトの声に反応するように、男は二つの動作を同時に行った。

 背部に纏められたシグーのメインブースターが轟き、背部のコンテナカバーが小さな爆発とともに吹き飛んだ。

 

「……バクゥか」

 アーマーの下には走行形態のままバクゥがマウントされていた。バクゥは素早く四肢

を伸ばすと戦場を疾駆しはじめる。

 

「これが俺の『シグーハウンド』の奥の手だ。三位一体の攻撃、避けられるものなら避けてみろ!」

 

「一発」

 

「何?」

 アキトのつぶやきに、男は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「お前のガンプラとあの犬っころを黙らせるのに必要な攻撃の数だよ」

 一語一語かみ砕くようにアキトがつぶやく。その意味を理解した男の顔が、怒りのために醜く歪む。

 

「人をコケにするのも大概にしやがれッ!」

 男の怒声に動じることもなく、アキトの口の端が軽く持ち上がる。

 左右から大きく回り込む2体のバクゥと、正面から衝突も辞さない勢いで迫るシグーハウンドを順に見ていたアキは、ゆっくりと操縦桿を動かした。

 

 本来なら背部に二連装レールガンかミサイルポッドを装備できるバクゥだが、この機体はそれらを排し軽量化に努めているようだった。

 口元からビームサーベルを発生させると、並みのバクゥを上回る速さでクリムゾンミラージュめがけて突進する。

 2機のバクゥは身をたわめると地を蹴った。

 

(仕留めた!)

 

 バクゥのビームサーベルで無残に切り裂かれたクリムゾンミラージュの姿が、男の脳裏に浮かび上がる。

 

 だが、バクゥのビームサーベルはクリムゾンミラージュの機体をすり抜けてしまい、2機のバクゥはそのまま空中で交差する。

 

 跳躍を終え、バクゥは着地するとブレーキ代わりに四肢を踏ん張り急制動をかけるが、機体の上半分は勢いを殺せずズルリと滑るように地に落ち、バクゥの四肢も後を追うようにふらりとよろめくと横倒しになってしまう。

 

 互いに切りあったバクゥは、自ら発した光に飲み込まれ次の瞬間爆発した。

 

「残像、だと?」

 

 モニターに映る2つの火球を見ながら、男はバクゥが切り裂いたモノがクリムゾンミラージュの残像であることにようやく気づいた。

 

「満足したか?」

 物憂げな声は上から聞こえた。シグーハウンドの頭部がゆっくりと持ち上がった。遥か高みからクリムゾンミラージュが見下ろしている。

 

 クリムゾンミラージュはバックパックに手を回すと、巨大な銃を抜き取った。

 それは、デスティニーガンダムに装備されたM2000GX高エネルギー長射程ビーム砲をも上回る大型ビームランチャーだった。

 

「ほんじゃまあ、そろそろ終わりにしようや」

 男は答えない。だがアキトはそれを無言の肯定と受け取ったようだった。操縦桿のトリガーを静かに引き絞る。

 バスタービームガンから放たれた一撃は、天と地を繋ぐ巨大な光柱を思わせた。

 灼熱の奔流がシグーハウンドを包み込み、爆発する間も与えず瞬時に消滅させてしまう。

 

「いくら努力したって報われねぇ時もある……これがお前の『運命』だったのさ」

 アキトは自嘲気味につぶやくと、クリムゾンミラージュを手にバトルシステムを後にした。

 

「……ホントに一発で終わりにしちまった」

 バトルに釘付け状態だったコウタが、呻くようにつぶやく。

「まさか、これほどとはな」

 スクリーンに映し出された今のバトルのリプレイを見ながら、レンは珍しく険しい表情を浮かべている。

 シグーハウンドを操縦していた男とは何度かバトルをしたことがあるが、ここまで一方的に勝つ自信はレンにはなかった。

 

 ツカサは無言のまま車いすの肘掛けを手の色が変わるほど握りしめていた。

 その横を通り過ぎるアキトの瞳には、もうツカサたちの姿は映っていないようだった。

 

 

「これが、世界を相手に戦った人の実力……」

 ツカサはアキトの背中を見ながら、絞り出すような声でつぶやいた。

 

 

 

 

 




次回予告

アキトの圧倒的なバトルに店内は騒然とするが、息つく間もなくカーネルのバトルがはじまる。
他のファイターたちから一目置かれた存在であり、つねに畏敬と敬意を払われる男の実力は如何に?


次回「ガンダム ヘッドクォーター」

第14話「戦闘巧者」


そのガンプラは、眼前に立ち塞がるもの全てを粉砕する。
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