ほんらいは前書きに書くようなことではないのでしょうが、毎年この時期は仕事の量が桁外れに多くなります。
当初はなんとか時間をみつけて……と思いましたが、やはり執筆を続けるのは現状的に難しいようです。
お世辞にもレベルが高いとは言えない拙作を見に来て下さる方々、申し訳ありません。
というわけで、今年最後の「ガンダム ヘッドクオーター」、お楽しみください。
「まいったね、このまま勝ち進んだら、いずれあの人と戦うのかよ」
去りゆくアキトの背中を見ながら、放心したような顔でコウタが囁く。
(その前に、ぼくがいるだろ?)
そうツッコみたいところだったが、アキトの実力をまざまざと見せつけられ
た直後ではツカサも押し黙るしかなかった。
「……どうだ、世界レベルの戦いを目の当たりにした感想は?」
三つの視線の先に、腕を組みスクリーンに映し出された今の戦いのリプレイ
を見上げるカーネルの姿があった。
「今更ながら思い知らされました」
場を代表して、頭を掻きながらレンが答える。横にいるツカサとコウタが
かすかに頷くのを見て、カーネルの唇の端がわずかに持ち上がる。
「戦いに於いて敵をよく知るということは重要だ。例えそれが『恐怖』だとし
てもな……で、どうだ、勝てそうか?」
サングラスに隠され分からなかったが、カーネルの顔の向きからから不意の
質問が自分に投げかけられたものだと気づき、ツカサ顔が驚きに彩られる。
「ぼ、ぼく、ですか?」
念のため自身を指さすツカサ。カーネルはゆっくりと首を縦に振る。
「……正直分からないです。でも、ぼくは負けません。もう一度あの人と戦う
までは」
毅然とした口調でそう言うと、ツカサは壁に背をもたらせ目を閉じたままの
リョウゴを見た。
「ふ、そんな先の事を考えていると足下を掬われかねんぞ……と、言いたいと
ころだが、その気概も戦士には必要なもの。君との対戦を楽しみにしているよ」
「それはまた、随分と人をないがしろにするような発言ですね」
2人の会話にレンが割って入る。その口調にはいつもの穏やかさは感じられず
肌を切り裂くような鋭さがあった。
「アマノ君と戦うまえに、まず倒さねばならん相手がいると思いますが?」
そう、互いに2回戦を勝ち抜けば、レンとカーネルは3回戦で否応なしに戦う
ことになるだろう。
「これは失礼した。どうやら足下に気を使わねばならないのは私のようだ。それ
にまず、ツカサも越えなければならぬ『壁』があるしな」
そう言うとカーネルは自信ありげな顔で鼻の下をこするコウタを見下ろす。
カーネルは頼もしげにツカサたち3人を順に見ていたが、いきなり一分の隙も
ない見事な敬礼をとった。
「戦士諸君、貴官等の健闘を期待する!」
「「「サーッ! サンキューサーッ!!」」」
ツカサ、コウタ、レンの3人も一糸乱れぬ返答を返す。
この光景を見ていたギャラリーたちは、あまりに異様な空気に近づくことが
できず遠巻きに見ているなか、小さな人影が意を決したようにツカサたちに近
づいていく。
「……あのカーネルさん。さっきから対戦相手が待ってるんですけど……」
困り果てたようなハルなのつぶやきに、カーネルは大きな咳払いを一つする
と身を翻し走り出した。
「コウタ、カーネルさんて強いの?」
カーネルの後ろ姿を追いながら、ツカサはふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
この店に足を運ぶようになってから数ヶ月がたつが、ツカサはいまだにカー
ネルとバトルをしたことがなかった。
「目下、0勝5敗でございます」
過去のバトルを思い出したのか、苦虫をかみ意つぶしたような顔でコウタが
答える。
「……右に同じ」
ツカサに聞かれる前にレンは言葉少な目にそう答えると、口を堅く結んでし
まう。
(コウタやハヤミさんが、一度も勝てない?)
カーネルがかなりの実力者だというのは噂で知っていたが、コウタやレンの
口から勝率という形で直にその強さを聞かされ、ツカサはあらためてカーネル
の強さを思い知らされた。
「……ったく、ガンタンクに勝てないなんて、プライド傷つくよな」
唇を噛みながらコウタが悔しそうにつぶやく。
「ガンタンク? カーネルさんのガンプラってガンタンクなの?」
ツカサの驚きは至極当然のものだったろう。
『ガンタンク』、正式名称はRX-75。
地球連邦軍が初めて完成させた3機の試作MSのひとつであり、長距離砲撃戦
に優れた機体である。
だが、同じ試作機であるガンダム、ガンキヤノンが人型のプロポーションを
持つのに対して、戦車の車体に人の上半身を乗せただけのガンタンクの姿は、
他の2機と比べると浮いた存在といえた。
当然ガンダム等と比べると人気も低く、劇場版3作目ではガンキヤノンにそ
の立場を取って代わられ、まるで『無かった』かのような扱いを受けた悲運の
MSともいえた。
コウタのぼやきが耳に入ったのか、レンが苦笑する。
「まあ『アレ』をガンタンクと認めるかどうかは、議論の余地有り、といった
ところだと思うけどね」
「いったい、どんなガンプラなんで…!?」
ツカサの問いを遮るようにレンは手を伸ばすと、すぐにその手で大型のスク
リーンを指さしながら口を開いた。
「その疑問は、きみ自身の目で確かめるんだな」
※
辺り一面を鮮やかな緑に囲まれた森林地帯。
自らが操るガンプラをも覆い隠す木々の間に、黒一色で塗り上げられた
W(ウイングガ)ンダムが静かに佇んでいた。
モニターに映る愛機の姿がかすかに揺れ動き、履帯が地を削る重苦しい
響きが聞こえてきた。
それはあくまでフィールド内での事のはずだったが、モニターに映し出
された風景がかすかに上下に揺れ動く様は、まるでその振動が床を伝いWガ
ンダムを操作するファイターの身体を揺さぶっているような錯覚さえ覚えさ
せた。
「来たか」
男は前方を見据えたままWガンダムを身構えさせる。
突然左前方の大木が数本まとめてなぎ倒され、黒い影が悠然と進み出る。
「ガンタンクMk-Ⅶ!」
男の叫びとともにWガンダムは翼を開き、背部のメインスラスターの輝きと
ともに一気に飛翔した。
「あれがガンタンク?」
呆気にとられたツカサの口調は、ある意味仕方のないものだったろう。
戦場に姿を現したカーネルのガンプラは、ツカサの知るガンタンクとは似
ても似つかぬ姿をしていたのだ。
最大の特徴でもあるタンク型の下半身はマゼラアタックの物と変えられ、
より力強い印象を与えた。
それにともない、全身の武装もより強力な物に一新されている。
両腕はガンダムレオパルドの物と交換され、ボッブミサイルランチャーも
レオパルドのインナーアームガトリングへと置き換えられていた。
両肩の120ミリ砲はラファエルガンダムのGNバズーカにとって変わられ、そ
の二門の巨大な砲身は威圧するように大空に睨みを利かせ吃立している。
頭部と胴体にのみオリジナルの名残りを見ることができたが、カーネルの
ガンプラはもはやガンタンクとは別物といっても問題はないだろう。
ツカサはレンの言った言葉の意味を、ようやく理解していた。
(でも、あのガンプラがそんなに強いのだろうか)
確かに並のMS数機分はあろうかと思われるガンタンクMk-Ⅶの火力は侮れな
いだろう。
だがガンタンクの運動性の低さは、それらをすべて帳消しにするほどの致命
的な弱点のはずだった。
(まして、相手は機動性に優れたWガンダムだ)
「……結論を出すのは早すぎる、か。このバトルを見ていれば、カーネルさん
の強さはいやでも分かるはずだ」
ツカサは真剣な顔になると、食い入るようにスクリーンに視線を走らせた。
相手に頭上を取られたというのに、ガンタンクMk-Ⅶはまるで意に反さんと
いわんばかり停止した。
絶好の攻撃ポジションを取ったWガンダムも、なぜか攻撃しようとはしなか
った。
「カーネルさん」
突然、対戦相手から通信が入る。
「貴方と戦えることを光栄に思います」
カーネルの眉がかすかに動いた。
「私も同じ思いだ。お互い悔いが残らないよう全力で戦おう」
「望むところです!」
どこか高揚したような男の叫びとともに、Wガンダムは動き出す。
いくら正々堂々とカーネルに戦いを挑んだとはいえ、大火力を誇るガンタン
クMK-Ⅶに正面切って戦いを挑むほど男は愚かではなかった。
大きく回り込み相手の背後に回り込むと、バスターランチャーの照準を合わ
せる。
男がトリガーを引き絞ると同時にバスターランチャーの銃口から高出力のビ
ームが放たれる。
ガンタンクMk-Ⅶは、避ける間もなくビームの束に飲み込まれてしまい、まば
ゆい輝きの中にその姿が消えていった。
「えっ、終わり?」
スクリーンから放たれる凄まじい輝きに、顔を逸らしながらツカサが叫ぶ。
「あの人が、これぐらいで負けるわけないだろ!」
片手をかざしながら、コウタが負けじと大声を上げる。
ようやく光が薄れ、目をしばたかせながらツカサはスクリーンに視線を戻す。
そこには何事もなかったかのように機体を旋回させるガンタンクMK-Ⅶの姿が
あった。
「む、無傷……」
Wガンダムのバスターランチャーは、MSが搭載できる手持ちの火器の中では
トップクラスの破壊力を持っていた。
目の前の光景を前に、ツカサが信じられんといわんばかりに首を振るのは当
然のことだろう。
これほどの攻撃は、高出力のフィールドでも使わなければ凌ぎきることなど
できはしない。
だがガンタンクMK-Ⅶにはそのような物は見あたらなかった。
ツカサの脳裏に、ガンダムヴァーチェと戦うリョウゴのガンプラ、阿修羅の
姿が蘇った。
眼前の光景に、わずかな間茫然自失としていた男が我に帰ると顔を上げる。
功撃しようとすればいくらでも機会はあったろう。
だが、ガンタンクMk-Ⅶからの反撃はなく、その姿は大森林の中に消えよう
としていた。
(……誘われているのか)
「このままではみすみす虎口に飛び込むようなものだが……まだ勝機はある!」
男は自分を納得させるかのようにつぶやくと、Wガンダムを森の奥へと進ませ
た。
「……いた」
男はモニター越しに目標を発見した。
視界が極端に悪い森の中、狙撃を恐れ虎の尾を踏むような思いでWガンダムを
操っていた男は鬱蒼と生い茂る木々の間に佇むガンタンクMK-Ⅶの姿をみつけた。
「ほぅ、恐れず追ってきたのか? 勇敢だな」
通信機越しに聞こえたカーネルの偽りのない賞賛の言葉に、男は微笑んだ。
「ようやく掴んだ貴方とのバトル。これぐらいで逃げだすわけにはいきません」
「……光栄だ。だが、君も私のガンプラの力は十分に分かったと思うが」
「ええ、距離をあけて貴方のガンタンクと戦う愚は思い知らされました。だが、
まだ試してみたいことがあるんでね」
男の声と同時に、Wガンダムは手にしたバスターランチャーを投げ捨てるとビ
ームサーベルを握りしめた。
「なるほど、確かに私のガンタンクといえど、ゼロ距離からのビーム攻撃に耐え
られるほど堅牢ではない」
男の考えを瞬時に見抜いたカーネルが、感心したような口調でつぶやく。
男の口元に笑みが浮かび、Wガンダムが木々の間を縫うようにしてガンタンク
MK-Ⅶの周囲を高速で周り始める。
だが男は安易に攻撃をしかけなかった。
ガンタンクMK-Ⅶは旋回しながら両腕のインナーアームガトリングや車体に取り
付けられバルカン砲で応戦するが、周りの木々をむなしくなぎ倒すだけでWガンダ
ムを捉えることはできない。
やがてガンタンクMk-Ⅶの眼前には広大な空間が広がった。2機の間を遮る物は
何もなく地面には焼け焦げ、粉々に砕かれ倒れ伏した木々の慣れの果てがあるだけ
だった。
「今だ!」
男はガンタンクMK-Ⅶに無駄弾を撃たせ、尚且つ自分の突入ルートができるこの
瞬間を待っていたのだ。
Wガンダムはビームサーベルを振りあげると、ガンタンクMK-Ⅶの背後から切りか
かった。
ガンタンクMK-Ⅶの肩の一部が開くの見て男の瞳に動揺が走るが、すぐに口元に
安堵の笑みが浮かぶ。
「ミサイルポッド……だが、この程度なら」
ビーム兵器ならいざ知らず、ミサイルのスピードで最大速度で飛行しているWガ
ンダムを捉えられるはずがない。
大量の排煙を伴いミサイルが撃ち出された。地面めがけて……。
一瞬にしてモニターが闇に包まれる。男が顔を上げると、バトルステージも巻き
上げられた噴煙のため視界を遮られ自分のガンプラの安否も分からない状況だった。
「な、何が起こったんだよ?」
うわずった声で話しかけてくるコウタとは対照的に、それに答えるツカサは冷
静そのものだった。
「……カーネルさんは、わざと地面を撃ったんだ。自分で倒した木を弾幕代わりに
使うためにね」
巻き上げられた土砂も薄れ、ようやく視界が晴れてくると、落下した木々に押し
潰されるような格好のWガンダムの姿があった。
ガンタンクMk-Ⅶが悠然と回頭すると、Wガンダムに全ての武器の照準を合わせる。
「勝負あり、だな?」
「……はい」
カーネルの言葉を降伏勧告と受け取った男は、静かにつぶやいた。
カーネルと男が連れだってバトルルームから出てくると、2人の戦いを見ていた
ギャラリーから賞賛の拍手が巻き起こった。
だが、ツカサその拍手に加わらず、両の拳を堅く握りしめていた。
カーネルのバトルには、リョウゴのような猛々しさもアキトのような華やかさも
感じられなかった。
だが、彼は常に相手の一手先を読んでバトルをしていた。そしてそれは、ツカサ
がもっとも好む戦い方であった。
だが、自分と最も近いタイプであるが、その経験からくるカーネルの実力はツカ
サより数段上手であろう。
この先のことを考えツカサが険しさをにじませた顔をしていると、いきなり肩を
叩かれた。
「ほれ、次はおれらの番だぜ。カーネルさんも言ってたろ。そんな有様でバトって
ると足元すくわれるぜ? ……もちろんこの場合、おれにだけどな」
車いすの背もたれを叩きながらコウタは不適な笑みを浮かべ、バトルルームへと
歩き始める。
「……そうだった。ぼくが今、全力を尽くさなければならいのはセラさんやカーネ
ルさん──ましてやリョウゴさんでも無い」
ツカサは意を決したように頷くと、親友でありライバルでもあるコウタの背を追
い、車いすを動かし始めた。
次回予告
ツカサの次の対戦相手は、ツカサに初めて敗北を味あわせた男、ジョウジマ・コウタ。
因縁のバトルの幕が今切って落とされる。
コウタとの熾烈なバトルが続くなか、ツカサはついに切り札を使う決意をする。
次回「ガンダム ヘッドクオーター」
第15話 「ヘッドクオーター」
指揮官の鼓舞に、兵たちは奮い立つ!