ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第17話 「復活の迷惑娘」

 ツカサは大きく息を吐くと、両手を合わせる。

 

「ふぅ。ごちそうさま」

「くす、ほっぺにご飯粒が付いてるよ?」

 

 慌てて口の周りを手の甲で拭うツカサを見ながら、ハルナは口元に手を当て笑いをこらえる。

 

「くっ!? うぉおおおおお!」

 狼狽するツカサを目を細めて見ていたハルナが、大声を上げながら奇妙なゼスチャーをはじめたコウタに胡乱げなまなざしを向けた。

 

「何をやってるの?」

「いや、おまえ等の愛のオーラに行く手を阻まれ、これ以上近づくことができん!」

 

「えっ!?」

「な、何バカなこと言ってんだよ、コウタ!」

「いや、ホントだって。ここんとこに見えない壁が……」

 

「「あるわけ無いッ!」」

 

 一瞬顔を見合わせたツカサとハルナは、何もない空間にぺたぺたと手を当てるコウタを睨みつけながら、声をそろえてツッコんだ。

 

 

「あっ、そういえばわたし、アマノくんに聞きたいことがあったんだ」

「おっ、露骨に話題を逸らす辺り、ますます怪し……おごッ!?」

 

 ニヤニヤとやらしい笑みを浮かべていたコウタの顔が、苦痛に彩られる。

 顔を真っ赤にしたハルナの手にはモップが握りしめられており、その柄の部分がスニーカー越しにコウタの足の甲を直撃していた。

 

「あのね、HQのファンネルって一番はじめにアルファベットがつくじゃない。あれって、どういう意味なの?」

 人体の急所のひとつである甲利を突かれ彫像のようになったコウタと、照れ笑いを浮

かべながら、手にしたモップにさらに力を込めるハルナを交互に見ていたツカサが口を開く。

 

「えっ? ああ、そのこと……あれは、ぼくが以前ハマってたミニチュアゲームから名前

を拝借したんだ」

 ハルナとモップの一撃からようやく解き放たれ自由を取り戻したコウタが、思わず顔を見合わせる。

 

「T-ファンネルのTは、これといった特徴は無いけど戦いにおいて必要不可欠な兵科であ

る『Troops』からとったんだ」

「それって、兵隊さんのこと?」

 あごに指を当てながら尋ねるハルナに、ツカサは笑いながらうなずいた。

 

「次にF-ファンネルは、バイクや航空兵力など機動力に優れた兵科『Fast Attack』から、最後にH-ファンネルは重火器を装備した特殊部隊やタンクなど火力に優れ兵種が集まった『Heavy Support』の頭文字から名付けたんだ」

 

「……なるほどな」

 超高速で移動するF-ファンネルや、圧倒的な攻撃力を誇ったH-ファンネルを目の当たりにしたコウタは、しきりと感心したように何度も首を縦に振っていた。

 

「じゃあ、アマノ君のガンプラに付けた『HQ』って……」

「……それは、『Head Quarters』のことだな」

 いきなり頭上から軋むような声が響き、ハルナとコウタは飛び上がらんばかりに驚く。

 

「だが、『Head Quarters』は本来『司令部』や『本部』というのが正しい意味だと思うが?」

「ええ、でもゲームの中では『英雄』や『司令官』という意味もあるんです」

 ツカサはカーネルを見上げながら話を続けた。

 

「ぼくは自分のガンプラにファンネル──兵たちを指揮する者という意味を込めて『HQ』

と名付けたんです」

「なるほど、やはりそういうことか。できれば戦場で、ツカサの率いる軍団と合間見えたいものだな」

「全力を尽くします」

 敬礼しながら答えるツカサを見て、カーネルの口の端がわずかに持ち上がる。

 

 カーネルはツカサに返礼を送ると、身を翻し去っていった。

 

「……でも、アマノ君のガンプラ、そんな状態で戦えるの?」

「うん、なんとかなると、思う」

 心配そうに尋ねてくるハルナに曖昧な返事をしながら、ツカサは膝の上に載せていたHQを手に取った。

 両腕を失い、機体のあちこちに大小の傷が目立つHQは、アイギスとのバトルに勝利したとはいえ、傍目に見てもかなり破損が目立った。

 ミキのOO-FもハイゴックNとのバトルでそこそこのダメージは受けたがHQと比べれば軽微といえるだろう。

 

「だいたいコウタ君が悪いのよ」

「な、何だよ、急に?」

 いきなり詰め寄るように顔を寄せるハルナに、コウタは目を白黒させている。

 

「2回戦でアマノ君が勝ったら、次の相手はミキだってコウタ君だって知ってたはずだよ。だったらもう少し手加減してくれてもよかったんじゃない?」

「いや、そんなこと言ったって、おれだって……」

 

 ハルナの主張は言いがかりもいいところだが、その剣幕に反論もままならず、コウタは口ごもってしまう。

 

「互いに全力を出しきったバトルだったんだ。コウタを責めるのは筋違いだよ」

 本人の前では面と向かってはいえないが、ツカサもいざ試合が始まればコウタとのバトルに集中するあまりミキとの賭けのことは頭からすっぽりとぬけ落ちていたほどなのだ。

 

 コウタひとりを責めるというのは、あまりにも酷な話だろう。

 

「それに、ぼくのガンプラの主戦力はHQ本体ではなくファンネルだ。だいじょうぶ、なんとかなるさ」

 ツカサはHQを見つめたまま、ハルナやコウタではなく自分を納得させるかのようにつぶやく。

 

「分かった」

 コウタは頭を掻きながら一言つぶやくと、立ち上がった。

 

 ツカサとハルナはそろってコウタの背中を目で追っていたが、コウタは壁際まで歩いていくと、荷物を手にし早足に戻ってきた。

 

「ほれ、どれでも好きなのを使え」

 コウタは例のアルミケースを開けると、きれいに陳列された種々様々なシールドを指さす。

 

「……だからそれをつける腕が無いんだってば」

 

「じゃあ、よかったら、これ使って……」

 ハルナはおずおずと手を差し出した。

 

「あ、ありがとう。き、気持ちだけもらっておくよ」

 ちいさな手のひらに乗ったザクレロの腕パーツを見るや、ツカサはハルナの手に自分

の手を重ね、そっと押し戻した。

 

 一瞬からかわれているのかと複雑な心境になるツカサだが、二人が心底自分を心配していることに気づき胸が熱くなる。

 

「サンゼンインさんはイヌノさんをたおすほどの実力を持っているけど、大丈夫。きっと彼女に勝ってみせるよ」

「そ、そうだよね。それによく考えたら、さっきミキはボコボコにしておいたし、うまくいけば不戦しょ……」

 きっぱりと言い切るツカサを頼もしそうに見ていたハルナは、そう言いながら首を回すが、その動きが凍りついてしまった。

 

「どうしたんだよ、急に?」

 訝しげに尋ねるコウタの顔を見ようとせず、ハルナは顔を強ばらせながら口を開いた。

 

「ミキが、いない……」

 

 ツカサとコウタは、同時にハルナの視線を追った。そこには確かに棒のように硬直したミキが転がっていたはずだが、今は影も形も無かった。

 

「あ、あの女、どこいきや……」

「ひぃいいいいいいい!」

 

 コウタのつぶやきは、ハルナの悲鳴にかき消された。見ると、両手を胸元で組み合わせたハルナの背後から二本の腕が生えていた。

 ハルナに逃げる間もあたえず、片方の腕がハルナの腰に巻き付き、残りの腕は服の上からかぎりなくフラットな胸をまさぐりはじめる。

 その淫猥な動きは抜けるような白い肌と相まって、まるでのたうつ二匹の白蛇を連想させた。

 

「ミ、ミキ、あんた生きてたの?」

「うふふ、無論ですわ。あの程度のダメージ、こうしてハルナさんのまるで凹凸のない胸に触れ、香しい髪のかほりを嗅ぐだけで……たちどころにヒーリングエスカレーションですわ!」

 

「わけ分かんないわよ! ア、アマノ君、見てないで助けてーッ!」

 ミキは手のひらで盛んに愛撫を繰り返しながら、白魚のような指でハルナのスカートをたくし上げてゆく。

 少しずつ露わになっゆくハルナの太股に釘付け状態だったツカサだが、懇願するような声にようやく我に返る。

 

「ちょ、ちょっとサンゼンインさん、いい加減に、う!?」

 慌ててふたりの間に割って入ろうとしたツカサだが、ハルナの肩越しに射るような視線で自分を睨みつけているミキと目が合うや、車いすに添えた両腕の動きが止まってしまう。

 

「そこのオス、そういえば先程、随分とわたくしを軽んじる発言をしていましたね。もう一度、わたくしを前に同じ言葉を言えまして?」

 ふたりはしばらく睨みあっていたが、ツカサが無言なのを自分の勝利と確信し満足そうな笑みを浮かべると、ミキの顔はハルナの背中に隠れていった。

 

「サンゼンインさんがミサキさんを好きにできるのは、ぼくとのバトルに勝ってからのはずだ!」

 

 毅然と言い切るツカサの声に、ミキの顔がゆっくりと上がる。口元は笑いの形をとっているが、ツカサを見つめる碧眼には地獄の陰火を思わせる炎が燃え盛っていた。

 

「確かに貴方の言うとおり……ただの下等なオスかと思っていましたが、以外と骨がある

ようですわね」

 ミキはほんのわずかな間意外そうな顔をしたが、すぐに腕を掲げ指を鳴らした。

 

「すぐに屋敷に戻り、寝室の用意をなさい」

 ミキの叱咤にも似た声に黒服の男は一礼すると、風のように店を後にする。

 

「な、何よ寝室って?」

「何って……ハルナさんとわたくしが愛の営みを行う場所に決まっていますわ」

「あ、あんた、アマノ君の話を聞いてなかったの?」

「無論聞いておりましたわ。ですが。愛というものは、その障害が大きいほど激しく燃え上がるもの。あのオスを斃し、今宵二人は一つになるのです」

 

 一片の迷いもなくズバンと言い切るミキに、ハルナはこぼれんばかりに大きく目を見開き、窒息寸前の鯉のように口をパクパクとさせている。

 

「まずは屋敷に戻ったら、わたくし自らハルナさんの珠のような肌を洗って差し上げますわ」

 

 ミキはハルナの肩に手を添えると、熱い吐息とともに耳元でささやいた。

 

 

「隅々まで……念入りに」

 

 

 小悪魔のような笑みを浮かべ高笑いとともに去っていくミキを見ていたコウタが、ゆ

っくりと振り返る。

 

「お~い、ミサキ~、だ~いじょ~ぶか~、って、ダメそうだな、こりゃ」

 コウタはツカサに向かって肩をすくめた。

 まるで彫像のように立ち尽くすハルナの身体は、頭のてっぺんからつま先まで、肌の見える箇所は見事なくらい鳥肌に覆い尽くされていた……。

 

                  ※

 

「気分はどう?」

「う、うん。まあ、なんとか……」

 店の隅の空いているスペースに座り込んだハルナは、口からペットボトルを離すと、心配そうにのぞき込むツカサに無理に笑ってみせた。

 

「ったくよぉ、そんなんでどうすんだよ。次にあの変な女とバトルするのはミサキなんだぜ?」

 ハルナを元気づける意味もあるのだろう。少し辛辣な口調で話しかけるコウタの声を耳にするや、再び口元に向かっていたペットボトルの動きが止まる。

 

「……そうだね。わたしがしっかりしなきゃ……」

 腰に括りつけたケースに手を伸ばすと、ハルナは両手でザクレロを持ち上げ自分のガンプラに語りかけるようにつぶやいた。

 

「そうそう、その意気だぜ。それに万が一あの女に負けて薄い本みたいなシュチュにな

っても、どうせタグに『R18』が付くだけだろ? たいした問題じゃ無がッ!?」

 ひらひらと手を振りながら話すコウタの頬に、拳大の黄色い球のようなものが深々とめり込んだ。

 

 

「大ありよッ!!」

 

 

 ハルナの血を吐くようなツッコミは、コウタが床に頭を強打した後にやってきた。

 完全に出遅れたツカサは、コウタの頬にめり込んだ黄色い球が反動で宙に舞うのを目で追っていたが、眼鏡の奥の瞳があり得ないほど見開かれる。

 

「あ、あれは!?」

 ツカサの身体が反射的に動いたが、ツカサの両足は本人の意に反しピクリとも動かなかった。

 

(くそ!)

 

 ツカサは忌々しそうに自分の両足を睨みつけたが、それはほんのわずかな時間だった。

 黄色い球めがけて精一杯手を伸ばす。

 

「もうちょ、わっ!?」

 指先に触れた感触。ツカサは限界まで身体を伸ばそうとしたが、激しい衝撃とともに身体が投げ出された。

 店内は依然バトルが行われており様々な喧噪に包まれていたが、店中に響きわたった音は、それらをすべてかき消してしまうほどのものだった。

 

「アマノ君!?」

 しんと静まり返った店内に、ハルナの声が響く。

 

「おい、大丈夫か?」

「何やってんだよ、アマノ!」

 いつの間にかできた人垣から数人の人影が飛び出すと、口ぐちにつぶやきながらツカサを助け起こす。

 

「痛てて……す、すみません」

 ひっくり返った車いすは起こされ、担がれるようにその上に座らされたツカサは、周りを見回しながら頭を掻いた。

 

「だいじょうぶ? どこも怪我してない?」

 車いすの肘掛けに両手を添え、触れんばかりの距離までハルナは顔を近づける。

 

「だ、だだだ大丈夫、ぜ、ぜんぜん平気デスヨ!」

 露骨に目を反らしどもるツカサを、ハルナは不思議そうに見ている。

 

「それより、ミサキさん」

 盛大に咳払いをすると、ツカサは視線を下げた。

「だめじゃないか、自分のガンプラを投げたりしたら」

「あっ!」

 ツカサが手にしたザクレロを見るや、ハルナは自分の両手に視線を移した。

 

「……ごめん」

 消え入りそうな声でつぶやくと、身体を縮こませるハルナを見てツカサは微笑んだ。

 

「まあ、今のはどう見てもコウタが悪いけどね」

 ツカサはそう言いながら、力無く手足を投げ出し口から泡を吹いているコウタに冷たい視線を投げかける。

 その時、店内にハルナとミキのバトルの開始を告げるアナウンスが響きわたった。

 

 慌ててザクレロを手渡そうと伸ばしたツカサの腕が、途中で止まる。ツカサは手にしたザクレロを軽く上下に振りはじめた。

 

「あれ? このガンプラ……」

「どうかしたの、アマノ君?」

「いや、なんでもないよ」

 両手を差し出した姿勢のまま首を傾げるハルナに、ツカサは思考を遮られ、手のひらにそっとザクレロを乗せた。

 

「がんばって、ミサキさん!」

 

 バトルシステム向かって歩きだしたハルナは振り向くと、力強くうなずいた。

 

 

(そうだ、アマノ君にばかり頼っていてはだめなんだ。わたしががんばらなくちゃ!)

 

 

 激励と少しばかり下卑た野次を背に、ハルナとミキ、ふたりはバトルシステムを挟み対峙する。

 

「ねぇミキ、ひとつ聞いてもいいかな?」

「何でしょう? ハルナさんが望むなら今宵わたくし、どのようなプレイでもウェルカムですわ!」

 

 

「……そんなことは聞いてない」

 

 

 スクラム組んで背筋をかけめぐる悪寒に必死に耐えながら、ハルナは話を続ける。

 

「もし、このバトルにわたしが勝ったら、当然アマノ君との賭けは無しってことだよね?」

「は?」

 

 いかがわしい妄想に浸り、恍惚とした表情を浮かべていたミキが、拍子抜けしたような顔になる。

 

「まあ、そういうことになりますが……まさかハルナさん、本気でわたくしに勝とうと

思っていますの?」

「悪い?」

 

 ミキの口元に、意地の悪い笑みが浮かぶ。

 

「ハルナさんの気持ちは察しますが、残念ながら貴女がどうがんばろうが、わたくしの勝利は動きませんことよ?」

「そんなの、やってみなければ分からないわ」

 

 バトルシステム上に満ちたプラフスキー粒子が、無数の輝きを背景に広大な宇宙空間へと変化する。

 

「口で申し上げても無駄なようですね。では、さっそく体感してみますか?……圧倒的な

力の差というものを」

 室内にバトルの開始を告げる機会音とともに、ハルナとミキはガンプラをセットする。

 

 

 

「サンゼンイン・ミキ、OO-F。ハルナさんとの愛の営みのために、華麗にテイクオフですわ!」

 

「……ミサキ・ハルナ、ザクレロ。 あの変態を駆逐するッ!」

 

 

 ふたりの声を合図とするようにリニアカタパルトが火花を散らしながら動きだし。2機のガンプラを戦場へと送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

ハルナとミキ、ふたりの因縁の戦いが始まる。
奮闘するハルナだが、実力の差は如何ともしがたく一方的にミキに追い詰めれてゆく。
勝利を確信するミキだが、バトル中ハルナがもらした言葉の意味をその身を持って思い知ることになる。

次回「ガンダム ヘッドクオーター」

第18話「魂」


女同士の戦い(痴話喧嘩)、ここに終結。
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