ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第19話 「4強」

「ツカサくんはホントーにニブチンですなぁ」

 人混みに消えたハルナを黙って見ていたツカサの背中に、皮肉めいた声が投げかけら

れる。

 振り返ると、コウタが肩をすくめながら首を振っていた。

 

「それ、どういう意味?」

「それはこっちのセリフだ。マジでおれが言ってる言葉の意味が分かんねぇのか?」

 さきほどまでとは打って変わり、コウタの口調ががらりと変わった。

 ふたりはしばらくにらみ合っていたが、やがてツカサは視線をそらすと首を振った。

 

 それを見たコウタが、安堵のため息をつく。

 

「そんならいいさ。けどよ、ミサキはおまえのためにあんな無茶なバトルをやったんだ。あいつの気持ち、分かってやれよ?」

 ツカサは無言でうなずく。

 

「ところでおまえ、帰らなくていいのか?」

 心配そうに話しかけてきたコウタ。急に話が変わり、ツカサは言葉の意味が理解できず顔を上げる。

 

「HQのことだよ。明日は学校だし、今日は早めに帰ってガンプラの修理に取りかかった

ほうが良くねぇか?」

「そうだね。でも、最後まで見たいんだ。誰が準決勝に駒を進めるのか」

「とはいっても、Bブロックの方はことに決定してるだろうが」

 

 コウタはそう言いながら、記憶を少し前に巻き戻す。

 

 ハルナのバトルと時を同じくして、バトルルームではBブロックのバトルも叔々と執り

行われ、リョウゴとアキトも早々と準決勝進出を決めていた。

 リョウゴたちのバトルがいまひとつ印象に残らなかったのは、ハルナとミキのバトルのインパクトに陰に隠れてしまったというのもあるが、それ以上に圧倒的な力で対戦相手のガンプラを一蹴してしまった彼らの実力にあるのだろう。

 

 ふたりが勝利を得るまでに有した時間は1分もかからず、まさにそれはワンサイドゲ

ームと呼べるものだったのだ。

 

「たしかにリョウゴさんやセラさんのバトルもそうだけど、ぼくとして当面の相手にな

る人のバトルをみたいんだ」

 

 ツカサが不戦勝になっために、Aブロックも試合展開が速まり、二回戦をことに勝ち進

んでいたレンとカーネルが準決勝進出の最後の枠をかけて、バトルシステムを挟んで火

花を散らしていた。

 

「なるほど……ほんじゃまぁ、本日最後のバトル、おれたちも活目させてもらいますか」

 コウタの言葉にツカサはうなずくと、目を細めスクリーンに映るレンとカーネルのガンプラを見上げた。

 

                  ※

 

「ハヤミさん、なんでせっかくのアドバンテージを……」

 スクリーンを見上げるツカサの顔が、困惑に彩られる。

 

 今回のバトルフィールドは『宇宙』。ほんらいなら360度好きな方向から攻撃が可能な

このフィールドは、機動性に劣るガンタンクMK-Ⅶにとってもっとも苦手とする戦場のは

ずだった。

 

 だが、レンのガザ・ノワールは背後からの攻撃をものともせずガンタンクMK-Ⅶに背を

向けると、近くに浮かぶ衛星に着陸しそのまま動きを止めてしまったのだ。

 

 底部のブースターを吹かしながら、ガンタンクMK-Ⅶがゆっくりと地表に着陸する。

 

「いいのかレン? 君は今、かなり不利な状況に置かれているのだが……」

「ええ、すべて承知のうえです」

 ガンタンクMK-Ⅶの両腕のインナーアームガトリングガンがゆっくりと持ち上がるが、

ガザ・ノワールは微動だにしない。

 

「私に情けをかけたのかな?」

「とんでもない。おれはただ、自分の力だけで『最強』と呼ばれた貴方に勝ちたいだけです」

 

 カーネルの口角がかすかに持ち上がった。

 

「若いな」

「失望しましたか?」

「とんでもない、その若さが生み出す覇気は、何物にも代え難い力を生み出す……羨まし

いかぎりだよ」

 

 カーネルは両手で握りしめた操縦桿を、ゆっくりと押し込んだ。

 

「私は自分を最強だなどと微塵も思ってはいないが、全力を尽くし君の相手をすることを約束しよう」

「光栄です!」

 

 ガンタンクMK-Ⅶの機体に搭載された火砲が一斉に火を噴くが、ガザ・ノワールはスラ

スターを小刻みに噴射させ動きにフェイントをかけると、相手の照準を巧みに外させてしまう。

 素早く側面に回り込んだガザ・ノワールがビーム・ガンで狙撃を試みる。

 だが狙い違わず命中したビームは、ガンタンクMK-Ⅶの胸部装甲で一瞬跳ねるような動

きを見せると消滅してしまう。

 

「カーネルさんのガンプラ、またビームを跳ね返した。でも、どうやって……」

 ツカサのつぶやきは横にいるコウタへ投げかけられたものでもあるが、コウタは沈黙したままだった。

 

 いや、厳密には答えたくても答えられないというのが正解だろう。

 

 プラフスキー粒子を変容させる技術は厳重に秘匿され、プラフスキー粒子とガンプラバトルの生みの親でありながら、三年前に行われたガンプラ選手権、第七回世界大会で起こった事件を機に一気に没落の道をたどったPPSE社と、彼らに変わり現在ではこれらのシェアを独占しつつあるヤジマ商事などの大企業。

 そしてガンプラ塾やガンプラ心形流などプラフスキー粒子に関する知識を独自に有する存在を除けば、世界レベルの実力を持つ、ほんの一握りの人間が所有しているというのが現状だった。

 

「やはり駄目か」

 一回戦のWガンダム、そして二回戦の相手もガンタンクMK-Ⅶの装甲を傷つけることも

かなわず敗れ去った。

 これらを目の当たりにしていたレンはにとって想定内の出来事のはずだったが、やはり心の片隅に芽生えた動揺をぬぐい去ることはできなかった。

 

 そして、カーネルはそのチャンスを見逃すほど甘くはなかった。

 

「くっ!?」

 間一髪、襲いくるビームやミサイルをかわすと、ガザ・ノワールはスラスター使い飛翔する。

 だが、間断なく打ち上げられる濃密対空砲火に片足を吹き飛ばされバランスを崩し地表に落下してしまう。

 

「その損傷では勝負になるまい。降参するんだ、レン!」

 スラスターを断続的に吹かし、片足だけでバランスをとりながら立ち上がるガザ・ノワールを見ながらカーネルが叫ぶ。

 

「まだまだ、勝負はこれからだ」

 レンの叫びと同時に、ガザ・ノワールはMA形態に変形する。

 

「貴方もご存じのはずだ。ガザCはMA形態のときにこそ最大の攻撃力を発揮する。おれの

ノワールもそれは同じだ!」

 左右のナックル・バスターとバインダーのビーム・ガンが起きあがり、バックパックに内蔵された大口径のビーム砲の砲身が、音もなく伸びはじめる。

 異形の存在の瞳のようにも見える左右の胸に取り付けられた大型センサーが、ガンタンクMK-Ⅶに睨みを利かせる。

 

「ガザ・ノワールに装備された武器による一斉射『ギガ・マキシマム』、これがおれの切り札です」

「面白い。君の切り札、とくと拝見しよう」

 挑発ともとれるカーネルの言葉に、レンは態度で答えた。

 

 ガザ・ノワールのすべての火器が同時に撃ち放たれ、ガンタンクMK-Ⅶの姿が寸分の間もおかず、覆い尽くされるかのようにビームに飲み込まれる。

 

 スクリーン越しにとはいえその光量は凄まじく、ツカサは思わず顔を背ける。

 

「そんな……」

 ようやく光りが薄れ、目をこすりながら視線をもどすと、そこにはガザ・ノワールの

一撃を受ける前と寸分違わぬガンタンクMK-Ⅶの姿があった。

 

 いや、現実には差はあった。ガンタンクMK-Ⅶの周りにを囲むように、小さな影が浮かんでいたのだ。

 

「あれはファンネル。でも、あんなもんがハヤミさんのガンプラの攻撃を防いだっていうのか?」

 目をしばたかせながら、コウタが呻くようにつぶやく。

 

「……あれは、ただのファンネルじゃないよ」

 ツカサはそう言うと、食い入るようにファンネルを見ている。

 

 ガンタンクMK-Ⅶを庇うかのごとく宙に浮くファンネルの先端には洞穴を連想させるビ

ームの砲口はなく、そこには淡いオレンジ色の光りを放つパーツがはめ込まれていた。

 

「あれは、クリアパーツ?」

 

 そのとき、数年前にまことしやかに囁かれた噂がレンの脳裏によみがえった。

 

 一時期、出所は不明だがクリアパーツがプラフスキー粒子を蓄積するという噂がネット上に蔓延した時期があった。

 これらの情報に飛びついたビルダーやファイターが、我先に自分のガンプラにクリアパーツを埋め込んだが、結果は散々なものだった。

 

 いや、確かにクリアパーツは他のプラ素材と違いプラフスキー粒子に顕著な反応を示した。だが、それはクリアパーツそのものを光らせる程度のものだったのだ。

 

 期待に胸をふくらませていた者たちは、イルミネーションのように点滅を繰り返す己のガンプラを見ながら、激しく肩を落とし落胆するというオチがついただけだった。

 

 当時はレンも単なる都市伝説程度に考えていたが、カーネルはそれを実用レベルまで

昇華させることに成功していたのだ。

 

「これが、ノワールの攻撃を凌いだ秘密か」

「そのとおりだ。このファンネルはフィールド内のプラフスキー粒子を集積し、敵の放つ粒子ビームを変容させることができる」

 レンのつぶやきを聞きつけたカーネルが、通信機越しに語りかけてくる。

 

「レン、もう一度だけ君に聞きたい。この現状を見てもまだ降伏を受け入れる気にならないのか?」

「ええ、あいにくですがそれは無理です。ここで諦めるということは、同時に貴方に勝つということも放棄したことになりますからね」

 

 カーネルはレンの覚悟の強さを知り、大きく息を吐いた。

 

「……これ以上降伏を勧めるのは、君を侮辱するに等しい行為だな」

 

 スクリーンに映ったレンは、無言でうなずいた。

 

「すまんな、ノワール。おれの無茶につき合わせてしまって。だがおまえも嫌だろ?

こんなところで終わりにするなんて」

 ガザ・ノワールに照準を合わせるべく動き出したGNバズーカを見ながらレンは自分のガンプラに話しかけた。

 握りしめた操縦桿から、微かに振動が伝わってきた。それはまるで、ガザ・ノワールからの肯定の合図のようだった。

 

「ありがとう……じゃあ、いくか!」

 レンの叫びとともに、ガザ・ノワールはバインダーからビーム・サーベルを抜き放つとガンタンクMK-Ⅶ向かって突き進んだ。

 

「GN粒子チャージ完了、高濃度圧縮粒子全面開放……」

 一直線に向かってくるガザ・ノワールをモニター越しに見ながらつぶやくと、カーネルはトリガーにかけた指に力を込めた。

 

 ガンタンクMK-Ⅶの両肩に設置されたGNバズーカから、目がくらむほどの粒子ビームが放たれ、回避運動すらとらなかったガザ・ノワールはその光りに飲み込まれてしまった。

 

「……勝負ありだ。だがレン、君の闘志は賞賛に値する、ん!?」

 粒子ビームの光の中に黒い影が浮かび上がったのを目の当たりにして、サングラス越しにカーネルの両目が見開かれる。

 

 灼熱の光りに浮かんだ影、あり得ない事だが、それはガザ・ノワールだった。

 

「馬鹿な、こんな事が……」

 高出力の粒子ビームの奔流に逆らうように、なおも前進を続けるガザ・ノワール。

 カーネルの岩のよう顔に激しい動揺が浮かんだ。

 

 全身を溶かされながら、なおもガザ・ノワールはガンタンクMK-Ⅶに肉薄するが、後少

しというところで機体を大きく震わせるとフェイスガードの下にあるモノアイから輝きが消えてしまった。

 

 

「まだだ、ノワール! この光の先に、おれたちの求めるものがあるんだ!!」

 

 

 レンの叱咤にも似た叫びに呼応するように、ガザ・ノワールのモノアイに再び光が宿った。

 

 残った腕が限界まで伸ばされ、指先がガンタンクMK-Ⅶに触れようとしたが、次の瞬間、機体の内側から幾条もの光が溢れだし、ガザ・ノワールは巨大な光り輝く珠と化してしまった。

 

 店内にバトルの終了を告げるアナウンスが響きわたる。

 

 この激戦を見ていたギャラリーたちからは気圧されたかのように声もなく、店内は水を打ったかのような静けさに包まれていた。

 

 

 ただ、カーネルだけが背筋を伸ばし、一部の隙もない見事な敬礼をレンに送っていた。

 

                  ※ 

 

「ハヤミさん!」

 コウタの声に気づいたレンが、ようやく我に返ったギャラリーたちの彼の健闘を称える声を背に受けながら、照れたように頭を掻き掻き歩いてきた。

 

「いや~、まいったまいった完敗だよ」

「そんなことないですよ。あのカーネルさんのガンタンク相手に一歩も引かず戦ったんですからね」

 興奮気味に話しかけるコウタを見ながらツカサも相づちを打つ。

 

「ほんとうです。ぼく……感動しました!」

 ガンプラ同士の直接戦闘を良策と考えないツカサにとって、レンの戦い方は異質なものだったが、ふたりのバトルを見終えたツカサの胸の内には熱いものがこみ上げ、身体は興奮で震えていた。

 

「そう言ってもらえるとは光栄だね。でも……」

 レンは手にしたガザ・ノワールを見ながら唇を噛みしめる。

 

「できればおれのガンプラでHQと戦いたかったが、これでアマノ君との再戦はご破算になったな」

「そんなこと……このトーナメントだけが戦いの場ではありません。ガンプラバトルはい

つでもできるじゃないですか」

 身を乗り出して話しかけてくるツカサに、レンの口元に笑みが浮かんだ。

 

「じゃあ、いつかまた、おれたちと戦ってくれるかい?」

 ガザ・ノワールを差し出すと、レンはツカサに問いかけた。

 

「もちろんです」

 四肢を失い無惨に溶け崩れたガザ・ノワールを労るように撫でながら、力強くうなずくツカサにレンは満足げに微笑んだ。

 

「明後日のカーネルさんとのバトル、必ず見に行くよ」

 レンはそう言うと店を後にする。ツカサとコウタの視線は、レンの姿が見えなくなってもなお彼が消えた店の入り口に向けられていた。

 

                  ※

 

 さきほどまでの喧噪は消え、静まり返り人気のまばらになった店内に、ツカサとコウタの姿があった。

 

「ようやくこれで、4強がそろったわけか。カーネルさんにリョウゴさん、それにセラさ

んと……おまえか」

 

 コウタが感慨深げにつぶやく。

 

 ツカサも同じ思いなのだろう。多くの出場者の名前が斜線で消されたトーナメント表を見ながらうなずくが、視線を感じ横を見る。

 

 真剣なまなざしのコウタと視線が合った。

 

「しかし、こうしてみると……おまえが一番弱っちく見えるな?」

「……そういうのは、思っていても口にしないのがやさしさだと思う」

 

 言われるまでもなく、そのことを身にしみて痛感していたのはツカサ自身である。

 あらためて現実を突きつけられたツカサは、ふてくされたように口を尖らせうつむくがそれはほんのわずかな間だった。

 

「でも、ぼくは負けない。どうしても勝ちたい人がいるんだ」

 先程とはうって変わり、全身に気迫をみなぎらせトーナメント表の一角を食い入るようにツカサは見めている。

 

 コウタはそんなツカサを黙って見ていた。

 

「じゃあ、あとは家に帰ってガンプラの修理だな」

 元気づけるように肩を叩くコウタに、ツカサは微笑んでみせる。

 

 ふたりの話し声が、店の外へと消えていった。

 

 

 こうして波乱に満ちたトーナメント初日は幕を下ろし、ツカサたち4人のファイターは

決戦の地へと足を踏み入れることとなった。




次回予告

トーナメントの初日を終えたツカサ。だが、休む間もなくHQの修理を開始するが、思わぬアクシデントに見舞われる。
焦るツカサ、時間は刻一刻と過ぎていく。


次回「ガンダム ヘッドクオーター」

第20話「ツカサの慌ただしい一日 前編」

因果応報、ツカサはこの言葉の意味を、身を持って知る……。




◆「登場ガンプラガンプラ紹介 その6」
 『ガザ・ノワール』


【挿絵表示】



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武装
大口径粒子ビーム砲×1
ナックル・バスター×2
ビーム・ガン×4
ビーム・サーベル×2
脚部クロー×2

解説
ハヤミ・レンが製作したガザ・Cのカスタムタイプ。
生産性と集団戦闘を前提に開発されたがゆえに個体の性能はおざなりにされ、あまり高い評価を受けることのないガザ・C。
この扱いに納得のいかなかったレンが、ガザ・Cの短所を徹底的に改修したのが本機である。

フライトユニットの新造とそれに伴う出力の強化。またナックル・バスターやビーム・ガンなど各種火器を増加し、オリジナルを超える火力を誇る。


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MA形態への変形を考慮したため機体の耐久性に問題が残るが、火力、機動性に於いてガザ・ノワールはガザ・Cを凌駕するガンプラとして生まれ変わった。


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またMA形態時のみで使用可能な、フライトユニットと一体化した大口径粒子ビーム砲をはじめとするすべての火器を使った『ギガ・マキシマム』は、トーナメントに参加したガンプラの中でもトップクラスの威力を持つ。


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