ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第2話 「出会い」

 手にした組立説明書から視線を外すと、ツカサは額にかかった艶のある黒髪を払いなが

らつぶやいた。

 

「……ふぅん、思ったより細かいんだ」

 机の上には、つい数時間前に手に入れたガンプラ『Hi-νガンダム』が置いてある。

 『ガンプラなんて、ただのおもちゃ』、そんな程度の認識しかなかったツカサは想像以

上に細かい作りに驚きを隠せなかった。

 

「それにしても、なかなかおもしろい能力を持ってるんだな、このガンダム」

 ツカサは眼鏡に指を当て位置を戻すと、再び紙片に目をやる。

 

 組立説明書には、Hi-νガンダムの設定も記されていた。

 それによると、Hi-νガンダムはニュータイプと呼ばれる特殊な能力を持つ兵士専用の

機体であり、手持ちの武装のほかに『ファンネル』と呼ばれる遠隔操作のできる特殊な武

器を装備しているらしい。

 

 ミニチュアゲームではプレイヤー自身が司令官となり、戦場を見渡しミニチュア(兵士)

を操り戦いを指揮する。

 ツカサにとって、ファンネルという武器は性にあったものといえるだろう。

 

「……ツカサ、入ってもいい?」

 ノックとともに聞こえた控えめな声に、ツカサは首だけドアの方に向けた」

「どうしたの、母さん」

「今日はずいぶん遅くまで起きてるから、ちょっと気になってね」

 ツカサは時計に目をやる。もう日付が変わっていた。

「ご、ごめん、ちょっと夢中になってて……」

 慌てるツカサの肩越しに、サナエは机の上をのぞき込む。

「あら、またコレをはじめたの?」

 眠そうなサナエの声は、どこかうれしそうだった。

「ちがうよ、これはミニチュアゲームの駒じゃないよ」

 とはいえ、他人から見ればミニチュアとガンプラの区別などつかないだろう。

 ツカサは思わず苦笑する。

 

「趣味に集中するのもいいけれど、明日も学校でしょう?」

「わかってる。もう、寝るよ」

 ツカサはハンドリムを片手で動かしながら、サナエの背を押し、ドアの方へと追いやる。

「おやすみ、母さん」

「ええ、おやすみなさい……」

 ドア越しに聞こえるサナエの声を背に、ツカサは再び机の前に移動する。

「さぁて……」

 ツカサは箱を開けると、小さくつぶやいた。

 

                    ※

 

「ふぁああああああああ」

 特大のあくびが口から紡ぎ出された。

「……おはよう」

 いきなり背中かに投げかけられた消え入りそうな声に、ツカサは本日十数回目のあくび

をかみ殺した。

 

「どうしたの、すごく眠そうだけど?」

 制服姿のハルナが、心配そうな顔でツカサを見つめている。

「いやあ、昨日買ったガンプラのパーツを確認してたら、明け方近くになっちゃってさ」

「えっ、ぜんぶ確認したの?」

 何気なく発した言葉にハルナが絶句する。

「あれ? だって説明書に必ずパーツやシールの有無を確認しろって……」

「それはしないに越したことはないけれど、Hi-νガンダムってすごくパーツ数多いから

ざっと見るだけでいいと思うよ」

 

(そういうことは、先に言ってください)

 

 

 思わず幽体離脱しかかったツカサが、声にならない魂の抗議をあげる。

 

「アマノ君って律儀なんだね?」

 明るい栗色の髪に留められた髪飾りが、笑いを堪えるハルナの動きに併せてかすかに揺

れている。

 そんなハルナを見て、ツカサの抱いていた憤りが霧散する。

 

 遠慮しがちに笑っている姿は、ツカサが淡い好意を抱いていた少女そのものだった。

 

(昨日会った娘は、じつはミサキさんの双子の姉だった……なんてことは無いよな)

 

 

 ザクレロを勧めていた時と目の前にいる控えめな態度のハルナ。

 あまりのギャップに自分なりの仮説を立ててみたが、すぐに首を振ると頭の隅に追いや

った。

 

「……アマノ君?」

 遠慮がちに名を呼ばれ、ツカサは我に返る。目と鼻の先にハルナの顔があった。

「わっ!? な、何?」

 おどろき車いすの背もたれに背を押しつけるツカサに、ハルナもおどろき身を放す。

「う、うん……だから明日、店に来ない?」

「え?」

「ほら、明日は学校お休みでしょう? 昨日は急用で留守だったけど明日ならおとうさん

店にいるし……」

 ツカサの態度に驚いたのか、ハルナは消え入りそうな声で繰り返す。

「そ、そうだね、ガンプラのことで聞きたいこともあるし、行く、行くよ!」

「じゃあ、待ってる」

 目を潤ませるハルナだが、ツカサからそう言われるやパッと顔を輝かす。

 

 そんなハルナを見て、妙に胸が高鳴るツカサであった。

 

 

「こらぁ! こんなところで不純異性交遊しとる場合か」

「わっ!?」

「きゃっ!?」

 いきなり声をかけられ、ツカサたちは飛び上がらんばかりに驚く。

 いつの間にか二人の背後に立っていたのは、まとまりのない黒髪に、少しタレ目がちな瞳

が印象的な少年だった。

 それは、ツカサとハルナのクラスメート、ジョウジマ・コウタだった。

 

「朝っぱらからお熱いねぇ、オフタリサン?」

「ち、違っ、これは……!?」

 ニヤニヤしながら話しかけるコウタに、ツカサは顔を真っ赤にして反論しようとしたが、

コウタは急に真面目な表情になると、手を上げツカサの言葉を遮った。

 無言で一点を指さす。

 

「うそっ、もうこんな時間なの?」

 校舎に据え付けられた時計を見るや、ハルナが慌てふためく。

「そういうわけ。ふたりとも急いだ方がいいぜ。じゃあ!」

「ちょっと待ってコウタ君。アマノ君は……」

 片手をあげて先を急ごうとしたコウタは、ハルナの視線に気づいたようだった。

 

「……仕方ない。アマノ、これ持って!」

 返事も待たずコウタはツカサの膝に鞄と、小型だが丈夫な作りのアルミケースを乗せる

と、いきなり車いすを押し始めた。

 

                    ※

 

 翌日、ツカサは約束通り『おもちゃのミサキ』を訪れた。

 今時珍しい引き戸のドアを開け、店内に入ろうとしたツカサは眉をひそめた。

 

「またか……」

 段差に乗り上げた車いすを見るや、ツカサは忌々しそうにつぶやいた。

 この店の入り口はかなり段差があり、はじめて来たときも大変な目にあったのだ。

「ひとりじゃ、ティッピングレバーは使えないしな」

 ツカサは覚悟を決めたような顔になると、車いすを後退させ、全力でハンドリムを回し

はじめる。

「よっ!」

「ほいさっ」

「わっ!?」

 威勢のいい掛け声とともに、ツカサは車いすごと店の中に押し込まれ驚きの声を上げる。

 

「あ、ありが……」

 礼を言おうとツカサは振り向くが、背後に立つ人影と目が合うや言葉を失ってしまった。

 ツカサを見下ろしていたのは、何カ所もメッシュを入れた燃えるような紅い髪の青年だ

った。

 むき出しの二の腕に彫られたタトゥに、ヘビ柄のベストに皮のズボンという出で立ちは、

誰が見ても真っ当な人間には見えなかった。

 

「だいじょうぶかい、兄ちゃん?」

 完全に凍りついたツカサを見て、青年は不思議そうな顔をする。

 物音が気になったのか、エプロン姿のハルナが棚の端から顔を出す。

 

「あれ、リョウゴさん来てたんですか、って、アマノ君?」

「なんでぇ、嬢ちゃんの知り合いか?」

 二人の顔を見比べながら、青年はつぶやく。

「あの、ミサキさん、この人……」

 ツカサの心中を察したのか、ハルナは微笑んだ。

「この人はうちの常連の……」

「シキブ・リョウゴだ! ま、よろしくな」

 ハルナの紹介をさえぎり名乗ると、指輪だらけの手を差し出す。

「ア、アマノ・ツカサです」

 恐る恐る手を握り返すと、いきなりリョウゴが触れんばかり顔を近づけてきた。

「な? 何ですか?」

 質問には答えず、リョウゴはツカサの瞳を見つめている。その眼の鋭さに、ツカサは

声もでなかった。

 どのくらいの時間が過ぎたろうか、リョウゴは唐突に顔を放した。

「……おめぇ、おもしろいな」

「え?」

「どうだい、俺とバトらねぇか?」

 突拍子もない提案に声もでないツカサ。見かねてハルナが助け船を出す。

 

「リョウゴさん、アマノ君はつい先日ガンプラを買ったばかりなんです」

 リョウゴはそれを聞くと、露骨に失望の色を浮かべた。だが、それはほんのわずかな間

だった。

「ガンプラ買ったってことは、バトルをする気はあるんだろう?」

「え、ええ」

 ツカサの返事に、リョウゴは満足そうにうなずいた。

「よっしゃ! それじゃあ、おめぇのガンプラが完成したらバトルだ」

 リョウゴの一方的な提案に、二の句も告げないツカサ。 それを了承ととったのか、

リョウゴは上機嫌で棚の後ろに姿を消した。

 

「……な、何なの、あの人?」

 ようやく呪縛から解放されたのか、唖然としながらツカサがささやく。

 ハルナはそれを見て、困ったような表情を浮かべる。

「悪い人じゃないんだけど、わがままというか自分勝手というか……でも、根は優しい人

なんだよ」

 ハルナの言葉に、ツカサは顔を上げる。

「シキブさん!」

 しばらくすると、リョウゴが棚の陰から顔を出す。

「なんでぇ?」

「あ、あの、さっきはありがとうございました」

「なあに、困ったときはお互い様よ」

 片手をひらひらさせながら、リョウゴの姿は再び棚の後ろに消えた。

 

 ツカサとハルナは、思わず目配せして微笑んだ。

「……あぁ、そうそう、言い忘れた」

 いきなり話しかけられ声の方を向くと、いつの間にかリョウゴがこっちを見ていた。

「俺のことは、リョウゴでいい」

 リョウゴはそう言うと、見るものを凍り付かせるような凄絶な笑みを浮かべた。




次回予告


圧倒的な力の差で対戦相手を蹂躙するリョウゴに、ツカサは戦慄と共に感動を覚える。

店には以前訪れた時と違い大勢の客がおり、ツカサは多くの常連と出会う。

だが、目の前に現れたファイターたちは、いろんな意味でツカサの想像を超える〇〇ばかりだった。


次回、「ガンダム ヘッドクオーター」

第3話「導かれし〇〇たち」



この店は、濃すぎる!
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