ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第21話 「ツカサの慌ただしい一日 中編」

「父さん、ガンプラバトルをやってたの?」

「昔ちょっと、な」

 

 いきなり持ちかけられたバトルの申し込みより、タカオがガンプラバトルをやっていたことがツカサにとって驚きだった。

 

 正直タカオとのバトルに心を動かされたツカサだが、自分の置かれた状況を思い出し暗い顔になる。

 

「ごめん、今日は無理そうなんだ」

「ん、どうしてだ?」

「時間が……」

 

 ツカサはそう言いながら時計に目をやった。

 もう4時近かった。残された時間を計算すると、少しでも早く帰りたいというのがツカ

サの本心だった。

 

「なあに、時間はとらせんさ」

「でも今日は自分のガンプラ持ってきてないし」

「それも問題ない……あの店長さんですか?」

 自信に満ちた声で言い切ったタカオは、いきなりツカサの背後に話しかけた。

 慌ててツカサが振り返ると、騒ぎを聞きつけたのかハルヒコがカウンターの奥からこっちを見ていた。

 

「アマノ君のお父さんなんだって」

 事情が飲み込めず困惑顔のハルヒコに、ハルナが耳打ちする。

 

「あっ、これはどうも、この店の主でミサキ・ハルヒコと申します」

「これはどうもご丁寧に。ところでバトルシステムを使いたいんですが、この店、ガンプラの貸し出しはやってますか?」

「はい、こちらに……あまり種類はありませんが」

 ハルヒコが口を開くより先にハルナが説明をはじめ、貸し出し用にガンプラが陳列されたショウケースの方にツカサとタカオを案内する。

 

「ほう、けっこう数が揃ってるじゃないか。ツカサはどれにする?」

 まだ複雑な表情を浮かべていたツカサだが、タカオにうながされショウケースの前に立つと、途端に目の色が変わった。

 

「じゃあ、これを」

 迷うことなくツカサが手にしたのは、Hi-νガンダムだった。

 

「渋いチョイスだな。それじゃあ、父さんは、っと……」

 ガンプラを物色しはじめたタカオをその場に残し、ツカサは一足先にバトルルームに向かった。

 

「アマノ君、ひとつ聞きたいんだが、君のお父さんは何ていう名前なんだい?」

 バトルルームへの入り口を塞ぐように立つハルヒコが、熱っぽい口調で尋ねてきた。

「タカオですけど、それがどうかしたんですか?」

 

「アマノ・タカオ……まさか!?」

 

 ツカサの問いかけにも答えず。背を向け一心にガンプラを選んでいたタカオを見ていたハルヒコの瞳が大きく見開かれる。

 

「オー マイ ガッ、なんてこったい!」

 

 狭い店内にオッサンの叫びが木霊する。

 

 驚き振り帰ったツカサの目の前を、タカオが猛スピード通り過ぎていった。

 

「どうしたの、父さん?」

 ガンプラの箱が置かれた棚の前で慌ただしくごそごそやりはじめたタカオを、ツカサは眉をひそめて見ている。

 

「ん、いや、父さんのお気に入りのガンプラが無くて……おっ、あったあった」

 満面に笑みを浮かべたタカオが手にしたガンプラを見て、ツカサの目が細まる。

 

「あれは、キュベレイ……」

 

 以前ツカサがタカオに一番好きなMSは何かと尋ねたとき、間髪入れずに答えたのが

このキュベレイだった。

 

 だが、いまタカオが手にしているものは、ただのキュベレイではなかった。

 

 大事そうに箱を抱えレジへと歩いていくタカオを目で追っていたツカサは、ある事実

に気づき顔色がみるみる変わっていく。

 

「まさか父さん、いまからガンプラ作る気なの?」

「まっかせなさ~い。すぐに出来るって……あっ、ハルナちゃん、工具貸してももらえる

かな?」

 会計を済ませ上機嫌のタカオは、ハルナが指さす工作スペースに腰を下ろすと呆然とするツカサを尻目におもむろに作業を開始した。

 

 

 一分でも時間が惜しいツカサにとって、これからバトル用のガンプラを作るなど、とうてい許諾できることではなかった。

 だが、ツカサはタカオのガンプラの組み立て作業を目の当たりにして、喉まででかかった言葉を飲み込まざるをえなかった。

 

 パーツ数にもよるだろうが、HGシリーズなら慣れた者でも素組みで小一時間はかかるだろう。だがタカオは、それを凌駕するスピードで組み立てているのだ。

 

 これだけ短時間でガンプラを組み上げられるのはタカオ本人の流れるような動きもあるのだろうが、組み立ての手順にも工夫がみられた。

 たとえば足の組み立てなどは、取扱説明書に書いてある通りに作業すると、まず右足

のパーツを切り出し、組み立てから次は左足に取りかかるというのが一般的だ。

 だがタカオは左右のパーツをランナーから同時に切り出し、組み立てていくのだ。

 このやり方なら、作業時間は実質半分で済むだろう。

 

 だが、タカオの驚異的な速さには、まだ秘密があった。

 

「何でおまえのオヤジさん、取説見ないでガンプラ組み立てられるんだ?」

 コウタの虚ろなつぶやきこそ、この速さの秘訣だった。

 キュベレイの取扱説明書は閉じたまま作業台の隅に置かれ、タカオは目をくれようともしなかった。

 

「組み立て方は頭にインプットするほどコイツを作ったからね」

 コウタの問いに、タカオは作業台に向かったまま答える。

 

「じょうだんだろ? そんなことできるわけ……」

「そんなことないわ!」

 乾いた笑い浮かべ目の前の光景を否定しようとするコウタのつぶやきを、ハルナの毅然とした声が遮った。 

 

 

「わたしだって、ザクレロだったら目をつむったままでも組み立てられるもん」

 

 

「……どう思う、いまのコメント?」

「……ミサキさんだったら、多分やると思う」

 

 

 他の人間が発した言葉ならいざ知らず、「我、生涯の友を得たり!」と言わんばかりの熱いまなざしをタカオに送るハルナを見ていると、あながち冗談と笑い飛ばすこともできなかった。

 

「よっしゃ、完成だ!」

 タカオの声にツカサとコウタは我に返った。

 

「嘘だろ? 30分もたってねぇじゃん」

「なんのなんのこれしき、18分で完成させたことがあるんだぞ」

 青ざめて時計を確認したコウタの顔は、タカオの得意げな口調にさらに青みを増した。

 

「待たせて悪かったな。まあ、組み立てでかかった時間はバトルをさらっと終わらせることで帳尻を合わせるから勘弁してくれ」

 あきらかに挑発ととれるタカオの発言に、ツカサの口元がかすかにひきつった。

 

「そうだね、ぼくも少しでも速く帰りたいからそれを考えていたところだよ」

 ツカサの瞳に強い光が宿っているのを見て、タカオは満足そうな笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、はじめるか」

 タカオはそう言いながら、手にしたガンプラをを胸元に持ち上げる。

 ツカサは無言でうなずくと、握りしめたHi-νガンダムをタカオめがけて突き出した。

 

                  ※

 

「あれがキュベレイMk-Ⅱ」

 ツカサは無数の星々を背にHQと対峙するタカオのガンプラを見ながらつぶやいた。

 

 

 AMX-004-2 キュベレイMk-Ⅱ。

 原型はネオ・ジオン軍が一年戦争時に活躍したエルメスの発展型として開発した

ハマーン・カーン専用MSである。

 オリジナルのマイナー・チェンジバージョンとして製作され、基本的な機体性能

は同じだが量産化を視野に設計された。

 パイロットがハマーンほどのNT能力を持たなかったため性能自体は下方修正された

が、活躍した時代こそ違えどツカサのHi-νガンダムとおなじく当代屈指の性能を持つ

NT専用MSといえるだろう。

 

「それにしてもあのガンプラを選ぶとは……父さんらしいや」

 ツカサはモニターに映ったキュベレイMk-Ⅱを見ながら苦笑する。

 

 一般的にキュベレイといえば、ハマーン・カーンの専用機を想像する人の方が多い

だろう。だが眼前のキュベレイの成形色は紺色をベースとしていた。

 

 そう、このガンプラこそタカオが愛してやまず『心の嫁』とまで言わせた少女、エル

ピー・プルの専用機だった。

 

「さぁて、そろそろはじめるか」

 

「そうだね、時間が惜しい」

 

「その心配はないさ」

 

 操縦桿を握る手に力を込めたツカサだが、タカオの一言に動きを止めてしまう。

 

「そう、すぐに終わる」

 タカオの声と同時に、キュベレイMk-Ⅱは握りしめていた拳を持ち上げ指を一本立てた。

 

「……1分で終わらせるってこと?」

 何も答えないタカオの態度に、ツカサは唇を強く噛んだ。

 

「いけ、ファンネル!」

 ツカサの叫びとともに、ラックから6基のフィン・ファンネルが射出され、キュベレイ

Mk-Ⅱを取り囲むように回り込む。

 

 間髪入れず四方からフィン・ファンネルは狙撃を試みるが、キュベレイMK-Ⅱは急激な

加速で迫りくるビームを紙一重でかわしてしまう。

 

「なんだ、あの動き?」

  立て続きにファンネルの攻撃をかわすキュベレイMK-Ⅱの動きを慌ただしく目で追い

ながら、コウタが叫ぶ。

 ツカサの使っているHi-νガンダムはカスタマイズこそ施していないが塗装まで済ま

せた完成品だった。

だが対するタカオのキュベレイMk-Ⅱは設定では計12基ものスラスターを内装された

ショルダーバインダーを持ち、高い機動性を有しているが、現状は素組みの状態だった。

 ほんらいなら、ガンプラとしての両者の基本性能にはかなりの差があるはずだったが、一方的に押されているのはツカサの方だった。

 

「くそ!」

 ツカサは操縦桿から手を離すと、コンソール上のキーボードに手を伸ばす。

 

「ん?」

 ショルダーバインダーの先端にビームが掠るのを横目で見ていたタカオが眉をよせた。

 フィン・ファンネルの射撃が急激に精密さを増したのだ。

 

「あのファンネル、ツカサが動かしているのか? 面白い!」

 また至近距離での直撃を受け、振動するコクピットの中でタカオは歯をむき出して笑う。

 

「ならばこちらも!」

 キュベレイMk-Ⅱの機体背部のコンテナが持ち上がり、中から漏斗状のファンネルが放

たれる。

 1基のフィン・ファンネルに対し、数基のファンネルが群がるように襲いかかる。

 熾烈なドッグファイトがはじまるかに見えたが──そう思った時にはことに勝敗は決し

ていた。

 

「そんな、フィン・ファンネルが全滅?」

 モニターに映る6つの光球を見ながらツカサは一瞬我を忘れたが、爆光の照り返しを受

け迫りくる濃紺のキュベレイMk-Ⅱに気づくや、Hi-νガンダムはラックからビームサーベルを抜きはなった。

 

「うわぁあああああッ!」

 モニターいっぱいに広がったキュベレイMk-Ⅱの頭部ユニット、その中で怪しく輝く2つのデュエルアイ・センサーと目が合うや、ツカサは絶叫とともに操縦桿を押し倒した。

 

 だが降り下ろされたビームの刃を、キュベレイMk-Ⅱは手にしたビームサーベルで苦もなく受け止めてしまう。

 

「この!」

 上段から渾身の力を込めてビームサーベルを振り下ろすが、キュベレイMk-Ⅱは難なくそれを受け止めてしまう。

 2機のガンプラはしばらく激しいつばぜり合いを続けるが、わずかな隙を見逃さずキュベレイMk-Ⅱが強烈な蹴りを入れてきた。

 体制を崩したHi-νガンダムがバランスをとっている間に、キュベレイMk-ⅡはHi-νガンダムとの距離をとっていた。

 

「拍子抜けだな」

 通信機越しにタカオの声が聞こえてきた。

 

「あれほどファンネルを巧みに操る腕を持っていながら、肝心のガンプラ操縦のお粗末さ。おまえは今までどんなガンプラバトルをしてきたんだ?」

 激しい落胆をかくしもせず、タカオは話しを続けるが、ツカサは吐く息も荒くタカオを睨みつけているだけだった。

 

 キュベレイMk-Ⅱは、手にしたビームサーベルの切っ先をHi-νガンダムに突き付けた。

 

「ツカサ、おまえにとって、ガンプラとは何なんだ?」




次回予告

父タカオの圧倒的な実力を知り、ツカサは愕然とする。
意気消沈するツカサ。ハルナたちに励まされ立ち直るが、このあと最大の災厄がツカサを襲う。

次回「ガンダム ヘッドクォーター」

第22話「ツカサの慌ただしい一日 後編」

ツカサの運命やいかに?
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