リョウゴとアキトは互いの肩を叩くと、バトルシステムを後にする。
周囲から、二人のファイターへの惜しみない拍手が送られる。
「リョウゴさん」
ツカサに気づいたリョウゴが、大股で歩いてくる。
「決勝進出おめでとうございます」
「ま、さすがに楽に勝たしてはくれなかったがな」
クリムゾンミラージューとのバトルでダメージを受けた阿修羅を見ながら、リョウゴは苦笑する。
「あとは決勝の時を待つだけ……先いってるぜ?」
「そんな、その前にぼくはカーネルさんと、う!?」
肘掛けを鷲掴み、乗り出すように顔を寄せてきたリョウゴにツカサは息を呑む。
リョウゴの実力を改めて見せつけられたツカサは、心の内に芽生えたリョウゴへの恐れを必死に押さえつけていた。
「俺と必ずガンプラバトルを戦る! 約束、忘れてねぇよな?」
「そりゃそうですけど、何もここで戦わなくても……」
「いいや、俺はここでおめぇと戦いてぇんだ!」
一方的にまくしたてるリョウゴに、ツカサは引き攣った笑みを浮かべるだけだった。
「もう、わがままだなぁ、リョウゴさんは」
呆れ果てたといわんばかりの顔で、話に割ってはいるハルナ。我に返ったリョウゴが豪快に笑い出す。
「悪ぃ悪ぃ、つい、な。 おっと、お前のお相手が首長くして待ってるみてぇだな」
「え?」
リョウゴの視線の先では、カーネルが腕を組みながらこっちを見ていた。
ツカサは慌ててハンドリムに手を添えると、バトルシステムへと急いだ。
※
「まずいな」
「うん」
コウタのつぶやきに、ハルナは間髪入れずにうなずいた。
ツカサとカーネルのバトルに選ばれたステージは『荒野』だった。
「せめて市街地だったら、多少はツカサが有利になったろうに」
射線をさえぎる障害物がほとんどない荒野は、カーネールのような火力中心の戦い方を好むファイターには格好の戦場だった。
(アマノ君、がんばって……)
今は祈ることしかできない。そのことをもどかしく思いながらも、ハルナは必死にツカサの勝利を願った。
「カーネルさんは……いた!」
モニターに目をやり戦場を見回していたツカサは、ステージのほぼど真ん中に、カーネルのガンプラ、ガンタンクMk-Ⅶの姿を確認した。
脚部がタンク型のカーネルのガンプラは、圧倒的に機動性に劣るという欠点がある。
本来なら、壁となる障害物を背に相手の攻撃ポイントを限定させるのがセオリーのはず、だが、カーネルはそんなことなぞ意に介さん言わんばかりに戦場の中央に陣取っている。
「すごい自信だ」
カーネル自身の経験と能力に裏付けされた布陣なのだろうが、その剛胆さに、ツカサは素直に感心してしまった。
カメラアイとレーダーなどの索敵ユニットを集約した頭部が睨みを利かせ、過剰なま
での武装が辺りを威圧している。
その無骨な姿は華やかさとは無縁だが、全身に施された濃緑色のカラーと相まってある種の威厳すら感じさせた。
「……勝てる、のか?」
意識せず口をついた言葉を耳にするや、ツカサは苦笑しながら軽く首を振った。
「アドバンテージは取ったけど、さて……」
ツカサはカーネルの背後を取るべく移動しながら、自身のガンプラを見た。
タカオの協力もありHQの修理は完了したが、機体の交換用パーツまでは手が回らず、かろうじて予備として数基のファンネルを用意するだけで精一杯という有様だった。
ましてや今回の対戦相手はあのカーネルである、彼の実力を考慮するとけっして楽観できる現状ではなかった。
「まだこの後に、リョウゴさんとのバトルが控えているんだ、戦力を無駄にできない。それに、カーネルさん相手に長期戦に持ち込むのは愚策以外の何ものでもない」
ツカサの指が操縦桿の上をめぐるましく動く。
「ならば……先制攻撃あるのみ!」
HQのファンネルラックから、T-ファンネルが射出される。モニター越しに四方八方か
ら襲いかかるファンネルを見ていたカーネルの口元に、苦笑が浮かぶ。
「なんともまあ、幼稚な戦い方だな……それとも私を試しているのか?」
ガンタンクMk-Ⅶのバックパックが開き、ファンネルが飛び出す。
「ここでファンネル?」
T-ファンネルを迎え撃つべく上昇をはじめるファンネルを目の当たりにしながらツカサは眉を寄せた。
ガンタンクMK-Ⅶに搭載されたファンネルは、レンのガザ・ノワールとのバトルで防御
専門の装備だということが知られてしまっている。
それをあえてこのタイミングで使うことに、ツカサは疑問を感じていた。
「カーネルさんが何を企んでいるかは分からないけど、数はこっちの方が上だ」
ツカサの指示を受け、9基のT-ファンネルがガンタンクMK-を包囲すべく四方八方に展開するのを見るや、カーネルは自機のファンネルを追随させる。
それに合わせ、ガンタンクMK-Ⅶに搭載されたミサイルポッドやアームガトリングガン
が火を吹き、ツカサのファンネルがばたばたと撃ち落とされる。
いくらカーネルの射撃技術が高かろうと、全方位から攻撃を加えるファンネルを狙撃するなど不可能なはずだった。
「……馬鹿な」
目を凝らして眼前の光景を観察していたツカサは、カーネルの操るファンネルが、攻撃を仕掛けようとするツカサのファンネルを妨害しているだけなのに気がついた。
射撃の機会を失ったファンネルが再度攻撃を仕掛けようと移動するポイントをカーネルは先読みし、苦もなく撃墜してのけたのだ。
(これじゃあ、猟犬に吠えたてられ逃げまどう獲物の群と同じだ)
ツカサは残ったファンネルを帰投させた。
「くそ、これだけか……」
ラックに戻った5基のT-ファンネルを見るや、ツカサは苦虫を噛みつぶしたような顔に
なる。
1分にも満たないわずかな間に、半数近いT-ファンネルを失ってしまったのだ。
「ツカサ、なぜお前自身は手を下さないのだ?」
いきなり入ってきたカーネルからの通信に、ツカサは顔を上げる。
「お前のファンネルを使った戦いは見事なものだ。用兵巧者といってもいいほどにな。
だが肝心の戦いの最中、お前はいったい何をしている?」
「……どういう意味ですか?」
挑発ともとれるカーネルの口調に、ツカサは押し殺したような口調で尋ね返した。
「指揮官とは兵をただ死地に送り出すだけの存在ではないということだ。今の戦いもHQ
自身が援護に入れば、戦況はまた違ったものになっていたはずだ。だが、お前はよほど
のことがなければ己のガンプラを危険に晒そうとはしない」
カーネルは大きく息を吐いた。
「……ツカサ、お前にとってガンプラとは何なのだ?」
ツカサの目が大きく見開いた。ほんの十数時間前、ツカサはこれと同じ問いを父タカオの口から聞いたばかりだっだ。
「それが分からぬというのなら、お前はリョウゴに勝つことはできん!」
そう断言するカーネルの声に、ツカサは操縦桿を肌の色が変わるほど無意識に握りしめていた。
「たしかにぼくはガンプラ同士の直接戦闘は好まない。でも、ファイターの数だけ戦い方はある……これがぼくの戦い方なんだ!」
「……たしかにおれはそう言った。でもなツカサ、お前はまだ肝心なことに気づいてない
んだよ」
「コウタ君?」
スクリーンを見上げながらつぶやくコウタを、ハルナは不思議そうに見ていた。
「それに、ぼくはすべての戦術を見せてはいない」
「ほう、まだ私に勝つ算段があると?」
不敵に笑うカーネルの問いには答えず、ツカサは操縦桿を握る手に力を込めた。
「いけF-ファンネル、最大戦速!」
ツカサはF-ファンネルを射出した。もはやF-ファンネルの超高速移動に賭けるしかない。
「やれやれ、まだ自分の手を汚そうとはせんか」
カーネルは軽く頭を振ると、F-ファンネルの攻撃をかわすべく、ガンタンクMk-Ⅶは岩山に開いた亀裂の中へと後退させる。
さすがのカーネルも、フルパワーで移動するF-ファンネルを墜とすのは無理と悟ったうえでの行動だった。
F-ファンネルが、間髪入れず追撃に移る。
必死に後退を続けるが、F-ファンネルとの速度差はあまりに違いすぎた。
F-ファンネルは大気を切り裂く音だけ残し、一気にガンタンクMK-Ⅶとの距離を縮める。
「ふん、ここらでいいか」
軽く鼻を鳴らすと、カーネルの指が操縦桿のトリガーに触れる。
ガンタンクMk-Ⅶの両肩のGNバズーカから、目を覆わんばかり光が放たれる。
F-ファンネルから送られてきた映像を見るや、ツカサの指がコンソールに備え付けられたキーボードの上を走る。
間髪入れず回避行動に移ったF-ファンネルだが、かろうじて逃げられたのは一基だけだった。残りは粒子の束に飲み込まれ、影絵のようなシルエットを一瞬浮かばせ、ゆっくりを消えてゆく。
GNバズーカの光が消え、モニターに映し出されたのは高出力のビームに岩肌をえぐりとられた岩壁だけだった。
「いかに超高速で移動しようが、場所させ分かれば撃ち落とすなぞ造作もない」
カーネルは逃げると見せかけ、F-ファンネルを破壊するために亀裂へとおびきよせたのだ。
(ツカサたちも、今の一撃に巻き込まれたか? いや、そこまで愚かではあるまい……)
煙を上げながら退避するF-ファンネルを目で追いながらそんなことを考えていると、
甲高いアラームが響きわたりカーネルの思考を断ち切った。
振り仰ぐと、頭上からT-ファンネル数基をしたがえたHQが、ライフルを構え逆落としに突っ込んでくる。
「ほう」
F-ファンネルをはなから囮に使い、その隙に強襲を仕掛けるつもりだったのだ。
自らの一手先を読んでのツカサの戦術に、カーネルの口元がわずかにほころんだ。
「ようやく自ら銃をとるか──ならば!」
カーネルは両手に握った操縦桿に力を込める。
ガンタンクMK-Ⅶの左右のキャタピラが轟音とともに動きだし、機体が回転をはじめる。
「あれは、信地旋回? いや違う」
カーネルのガンプラは左右の履帯を同時に逆進させ、素早く機体の向きを変える戦車独特の移動法を行っていた。
「超信地旋回、か。でも、なんでこんな時に……ん?」
カーネルの意図が読めずツカサは困惑するが、スクリーン上のHQがかすかに揺れているのに気づき眉をひそめる。
真下のガンタンクMk-Ⅶの回転は速まり、さらに速度を増してゆくにつれ、機体を中心
に気流の流れが見て取れた。
「まさか、竜巻?……馬鹿な!」
ツカサは思わず発したつぶやきを自ら否定したが、小型のT-ファンネルなどは、左右に激しく揺さぶられている。
「これをただの超信地旋回などと思うな。これが私の奥の手だッ!』
カーネルの叫びとともにHQの身体が持ち上がり、上空へと舞い上がる。
ツカサは必死に操縦桿を動かすが、狭い亀裂の中ではもはや自由に動くことすらままならなかった。
(策にはまったのは、ぼくの方?)
ツカサの額を、一筋の汗が流れ落ちる。
もはやガンタンクMk-Ⅶを中心に流れていた気流は巨大な竜巻と化し、HQは二度三度と岩肌に叩きつけられる。
モニターに衝撃でラックから外れた2基のH-ファンネルの姿が映る。その片方が断崖に衝突し火球に包まれる。
頭上では木の葉のように舞っていたT-ファンネルの内数基が、岩に激突し爆発する。
ツカサのガンプラは今までのバトルに加え、壁面に激突したダメージも加わり、満身創痍といったありさまだった。
「……ほう、まだ戦意を失ってはいないのか?」
HQは目の前の地面に突き刺さり、砲身から幾条もの白煙をたなびかせ残ったH-ファンネルを手にし、ゆっくりと立ち上がる。
それを見ながら、カーネルは巌のような顔に歓喜ともいえる表情を浮かべた。
次回予告
ツカサとカーネルのバトルはなおも苛烈さを増していく。
大半のファンネルを失い、己の戦法を否定されてもなおツカサは戦いを止めない。
そんなツカサの身に、微かな異変が訪れる。
次回「ガンダム ヘッドクオーター」
第26話「一手 後半」
戦闘巧者同士の戦い、ここに終結。