ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第26話 「一手 後編」

「無論です。ぼくはまだ、負けるわけにはいきません」

 

「いまだ闘志は衰えず、か……その心意気は賞賛に値するが、それだけでは私には勝つこ

はできんぞ?」

 

「もちろん! 精神論だけで戦いを征することができれば苦労はしません」

 

 覇気に満ちたツカサの声に、カーネルの口元ががかすかにゆるんだ。

 

(そう、確かにそれだけでは勝てん……だがそれ無くしてもまた、勝利を収めることはで

きんのだ、ツカサ!)

 

 カーネルの思惑は、HQが動き出したため中断される。

 損傷のためか飛行能力を失ったH-ファンネルを抱えるように構えるHQ。それを見つめるカーネルの瞳がみるみる険しさを増し、戦う者のソレへと変わっていく。

 

「残念だが、H-ファンネルの火力をもってしてもガンタンクMK-Ⅶの守りを崩すことは不可能だ」

「それは承知のうえです」

 抑揚のない声でつぶやくカーネルにツカサは即答する。

 ツカサの見立てでも、ガザ・ノワールのギガ・マキシマムとH-ファンネル1基との火力

の差はよくて互角といったところだろう。

 このまま攻撃したところで、レンの二の舞となるのは確実だった。

 

「すべて承知の上か……」

 だが、ツカサが何の策もなく正面切ってそんな無謀な真似をするなど考えなれなかった。

 そう確信したカーネルの指が素早く動く。ガンタンクMK-Ⅶの背部からかすかな音が響き、6基のファンネルが迫り出し射出態勢になる。

 

 ガンタンクMK-Ⅶの動きにもHQは反応を示さなかったが、背部から残ったF-ファンネ

ルが射出された。

 だが先ほどガンタンクMK-Ⅶから受けたダメージのせいか、その動きは緩慢としていた。

カーネルの意識がわずかにファンネルに逸れた一瞬、HQの手にしたH-ファンネルの砲口から目も眩まんばかりの光が放たれる。

 

「……だめか」

 ようやく回復したモニターに無傷のガンタンクMK-Ⅶの姿が映し出され、ツカサは何か

を確信したような顔になる。

 

「ファンネルを囮にし、その間に攻撃か……どうしたツカサ、これがお前が考えうる策だ

とでもいうのか?」

 通信機から落胆を隠さないカーネルの声が流れると、ガンタンクMK-Ⅶの両腕が持ち上がり、アームガトリングガンの照準がHQに合わせられる。

 HQはとっさに手にしたH-ファンネルを投げ捨てると、両腕を組み後退する。激しい衝撃がHQの両腕を伝い機体を激しく揺さぶった。

 

 ツカサはいったんガンタンクMk-Ⅶと距離をとった。

 

(やはり、あのファンネルを何とかしないとぼくに勝機は無い)

 

 ガンタンクMK-Ⅶの正面に立ちふさがるように浮かぶファンネルを見ながら、ツカサは

思案する。

 

 レンのバトルを見ていたツカサにとって、今の一撃を防がれるのは想定内だった。

 

「エネルギー系の武器では、やはりあの防御は崩せないか、こんなことならニュー・ハ

イパーバズーカでも……ふっ、それほど差はないか」

 

 ツカサは苦笑いを浮かべる。

 

 ガンプラバトルに於いて武器の爆発のエフェクトなどもまたプラフスキー粒子によって再現される。

 ならば相手の攻撃(プラフスキー粒子)を変容させることにより防御するカーネルのクリアパーツを組み込んだファンネルの前には、ビームだろうが実弾だろうが結果は同じことだろう。

 

「やはりガンタンクMK-Ⅶを倒すには、あのファンネルが粒子変容できる以上の一撃を加えるしかない、でも……」

 2基のH-ファンネルの同時攻撃なら、あるいはそれも可能だったかもしれない。だが

ことに片方のH-ファンネルを失ってしまった以上この策は実現不可能だった。

 

「とすれば残った方法はひとつ……」

 ツカサはそうつぶやきながら、フィールドマップに光る4つの点を食い入るように見た。

 

                   ※

 

「とりあえず、ここまで来れば一息つけるかな」

 レーダースクリーン上にガンタンクMK-Ⅶの姿はどこにも見えなかった。

 ツカサは大きく息を吐きながら辺りを見回す。

 周りに見えるのは長い間風雨に晒されたためか、槍のように細い石柱が林立していた。

 

「そういえば、これがけ機動力に差があるんだ。ある程度ダメージを与えて時間いっぱい逃げ回る手もあったな」

 ツカサはレーダースクリーンの探査域ぎりぎり浮かんだ小さな光点を目で追いながら

つぶやく。

 ガンプラバトルには時間制限が設けられており、タイムアップ時には、よりダメージの少ない方が勝者となるのだ。

 

 だが、コウタのアイギス以上の防御力を誇るガンタンクMK-Ⅶにダメージを与えるのは

至難の業であり、もたもたしているうちにあの大火力の前に蜂の巣となるのが関の山であろう。

 

(でも、ハヤミさんたちはカーネルさんに正面から戦いを挑んだ……)

 

 ツカサの脳裏に、全身を灼熱のビームに晒されながらなおもガンタンクMK-Ⅶに挑んだ

ガザ・ノワールの姿が浮かんだ。

 

 レンにしても一回戦で敗れたWガンダムのファイターにしても、ツカサと同じ考えは浮

かんでいたはずだし、もっと有利に戦いを進める方法があったはずだった。

 

 だがレンたちは、あくまで真っ向から戦うことにこだわった。

 

「……やっぱりぼくは、みんなとは違うんだろうか……」

 寂しげにつぶやくツカサは、甲高いアラームに我に返る。レーダースクリーンに小さな光点が浮かび、徐々にHQとの距離を詰めてくる。

 ツカサはHQを石柱群の中に後退させる。

 

「いや、ぼくにはぼくの戦い方があるんだ!」

 HQの立っていた場所に立て続けに着弾し爆発するミサイルを見ながらツカサは叫んだ。

 

 林立する石柱群の中程まで来てHQは動きを止めると背後を見た。

 しばらくすると大地を震わせるような振動が起き、石柱の破片が雨のようにHQに降り注いだ。

 ガンタンクMK-ⅦがHQのそばまで来ると、重々しい音とともに停止する。

 

「ようやくこれで身一つの戦いができそうだな」

 スクリーンを見ながらカーネルは満足そうな顔になる。

 主武装である各種ファンネルの姿はなく、HQの武器は右手に握ったビームライフル、左腕のマシンガンと頭部のバルカン、そしてビームサーベルだけだった。大火力を誇るカーネルのガンプラを相手にするには、あまりにも貧弱な武装といえた。

 

「……それとも、ツカサが選んだこの場所自体が『武器』なのかな?」

 

 ツカサの頬がかすかに動く。

 

「まあいい、すぐに分かることだ」

 ガンタンクMK-Ⅶの両肩に添えつけられたGNバズーカが光弾を放つ。粒子量を押さえているためか、いつものような威力はないが、その分速射性は上がっていた。

 襲いかかる複数の光弾をかわしながら、ツカサの目はフィールドマップを走る。

 背後で爆発が起き、黒い影が覆い尽くすように大きくなるのに気づきHQは背後を振り仰ぐ。

 

「石柱!? 最初からこれを狙って……」

 背後から崩れるように倒れ込む石柱。HQはすぐに回避運動をはじめるが、さらに左右からも石柱が崩れ落ちHQの姿は巻き上がる粉塵と土煙に隠れてしまった。

 

「さて、次はどう出る?」

 カーネルは手入れのいきとどいた口髭をいじりながら自問する。

 HQが石柱に押しつぶされたなら今頃はバトルの終了が伝えられているだろう。

 

(それが無いということは……)

 

 眼前の土煙から、黒い影が飛び出す。

 だがカーネルは上昇を続けるビームライフルには目もくれなかった。

 

「甘いッ!」

 

 正面から幾条もの白煙を纏い付かせながら迫るHQに照準を合わせるや、カーネルはトリガーにかけた指に力を込めた。

 

 ガンタンクMK-Ⅶの両腕が放つ光を見ながらも、HQの動きは止まらなかった。

 

(まだだ、まだ終わらせない!)

 

 心の中で叫んだ瞬間、ツカサの視界が大きく広がった。

 それはモニターで視認できるような断片的なものではなく、まるでHQを介してツカサ

自身がフィールドを一望しているような感覚だった。

 

(な、何だ、この感じ?)

 

 自身の体に起こった異変にツカサは戸惑うが、それはほんのわずかな間だった。

 ツカサは握りしめた操縦感に、さらに力を込める。

HQの機体から雄叫びにも似た音が響き、背中のスラスターの輝きが一段と大きくなる。

 

「!? 馬鹿な、何だ、このマニューバは?」

 驚異的な機動性でガンタンクMK-Ⅶの攻撃をかわし肉薄するHQに、カーネルが悲鳴にも似た叫びを発する。

 すれ違いざま、HQは左手に握ったビームサーベルでガンタンクMK-Ⅶに切りかかる。

 

 コクピットに衝撃が走るの無視し、カーネルはなおも直進を続けるHQめがけて車体後部に取り付けられたミサイルポッドが一斉に火を噴いた。

 背後から襲いかかったミサイルにHQは左腕を吹き飛ばされ、その衝撃で倒れ込み幾本もの石柱をへし折りようやくその動きを止めた。

 

「今のは……」

 カーネルは自機のそばに転がる自らのアームガトリングガンを見ながら、どこか惚けたようにつぶやいた。

 あの距離で攻撃を外すなど、彼の過去の経験からいえば考えられないことだった。

 

 そしてカーネルと同じセリフを発した者がもうひとりいた。

 

 それは他ならぬツカサ本人だった。

 

 ツカサは何度も目をこすった。だがモニターに映った景色はいつもと何ら変わらなかった。

 

(いったい今のは……!?)

 

 断続的に鳴り響くアラームが耳朶を打ち、ツカサは我に返る。フィールドマップ上に点在する4つの光点の動きが止まり、赤く輝いている。

 

「みんな配置についたのか? ならば!」

 片腕となってしまったHQが立ち上がるのを見て、カーネルも思考は遮られた。

 

「まだ続ける気か?」

 振り返り自らのガンプラと向き合ったHQを見て、カーネルはそう尋ねた。

もはやHQに残された武器といえば、頭部のバルカンと右腕のビームサーベルだけだった。

 無言のツカサに、カーネルは大きく息を吐く。

 

「戦いとは、常に相手の一手先を読むもの。ましてや我々のレベルともなれば、数手先まで読めねば勝利などおぼつかぬ。残念だが、私から見てツカサにもう打つ手は無いように思えるが」

 

「いいえ、ぼくの一手はこれからです!」

 

 不適に笑うツカサにカーネルが気を引き締めた瞬間、衝撃とともにガンタンクMk-Ⅶの

車体が大きく跳ね上がった。

 モニターには車体の右側から煙が上がり、地面に履帯の破片が散乱していた。

 

 ガンタンクMK-Ⅶの履帯を破壊したもの、それは4つの光点のうちの2つ──自らを特攻兵器として自爆したT-ファンネルだった。

 だがカーネルには、今の爆発の原因が何かは分からない。左右の操縦桿を必死に動かすが、動輪は虚しく回転を続けるだけだった。

 

「くっ、やるな、だが私のガンプラの動きを封じたところで対局に影響はないぞ」

 カーネルの叫びとともに、先端のクリアパーツから光を放つ6基のファンネルが飛び立つ。

 移動手段を失ったとはいえ、このファンネルがある限りガンタンクMK-Ⅶに防御的な死角は無かった。

 

 瞬時に守りを固めたカーネルだが、HQが正面から一歩も動かずにいるのを見て眉をひそめた。

 

「どういうつもりだ?」

「これ以上動く必要がない……ただそれだけです」

 

 ツカサの真意が計りかねず、カーネルは困惑を増すばかりだった。

 そんなカーネルを黙って見ていたツカサは、意を決したように大きく息を吸う。

 

「これがぼくの……最後の一手だッ!」

 ツカサの叫びとともにHQが前のめりに倒れ込む。

 

「なっ! ファンネル?」

 HQの背後に浮いていた破損おびただしいH-ファンネルに気づき、サングラス越しにカーネルの瞳が限界まで見開かれる。

 

 それは4つの光点ひとつ。

 

 チャージの終了した巨大な砲口から、目もくらまんばかりの光の塊がほとばしる。

 巨大な粒子の奔流がHQの背後をかすめ、ファンネルラックが大爆発を起こし、HQはその反動で地面を砕き、深々とめり込んだ。

 

「くっ!」

 カーネルはとっさにファンネルを展開しガンタンクMK-Ⅶの前方に集結させる。

 間一髪、展開したフィールドに高出力のビームが直撃する。

 ガンタンクMK-Ⅶの姿が光に飲み込まれそうになるが、ファンネルは瞬時に粒子量を同

調させフィールドを展開させる。

 

「な、なるほど。自らを盾としながら攻撃のチャンスを作るとは……見事だ」

 モニターから溢れる輝きに目を細め、カーネルはツカサに対し賛辞を送る。

 

「だがな、H-ファンネルの火力を持ってしても私の防御を貫くことが叶わぬのは先刻承知のはず。この攻撃を凌ぎきった時が……ツカサ、お前の最後だ!」

「まだぼくの一手は終わっていない……『スピア・ヘッド』!!」

 そして最後の光点が耳をつんざくような音とともに、目の前に浮かんだファンネルの姿が数基、モニターから忽然と姿を消した。

 状況が飲み込めず唖然としていると、カーネルの鼓膜を震わせる轟音が響いた。

 とっさに音のした方を見ると、遠くの岩壁に大きな穴が開き土煙が天に向かって立ち昇っていた。

 

「今のはF-ファンネル、か?」

 音を立てて崩れ落ちる岩を目で追っていたカーネルだが、何かに気づいたようにほく

そ笑む。

 

「なるほど、コウタとのバトルで使った手か……だが残念だったな。必中を喫した槍の一

撃は、見当外れの獲物に命中してしまったようだな」

 

「……とんでもない、ぼくの槍(F-ファンネンル)は狙い違わず命中していますよ」

 

 ツカサの勝利を確信した口調に、カーネルはモニターに映る自らのファンネルの数が3基になっていることにようやく気づいた。

 

 

 数を減じたため、ファンネルの防御力も以前ほどの鉄壁さはみられず、H-ファンネルの一撃はじりじりとガンタンクMK-Ⅶへと距離を縮めはじめたのだ。

 

(そうか、さきほどの攻撃は私ではなく、はじめからファンネルを狙っていたのか)

 

 カーネルの頬を、一筋の汗が伝わり流れ落ちた。

 

 拮抗は破れた。灼熱のビームの束の前にファンネルは消滅し、ガンタンクMk-Ⅶの上半

身を吹き飛ばす。

 その光景を見届け成すべきことを成したと感じたのだろうか、H-ファンネルもまた己の発した閃光に包み込まれ四散する。

 

 一瞬の間の後、ガンタンクMk-Ⅶは大爆発を起こした。

 

 

《BATTLE END》

 

 

 

「いやったあーッ、アマノ君が勝ったー!」

 ぴょんぴょんと飛び回り、喜びを露わにするハルナをよけながらコウタが走りよってくる。

 

「すげぇぞツカサ! あのカーネルさんを倒すなんて……」

「薄紙一枚の差だけどね」

 ボロボロになったHQを手にしたツカサがつぶやくが、その顔にはどこか浮かない表情をしていた。

 

「薄紙一枚だろうが、勝利には違いないさ、よくやったなアマノ君」

「ハヤミさん」

 バトルを静観していたレンが、ツカサの肩に手を置き笑っていた。

 

「レンの言うとおりだ。このバトル、私の負けだ」

 そう言いながらカーネルは皮の手袋を外し、拳ダコの盛り上がったゴツい手を差し出す。

 

「見事な戦いだった」

 ツカサはようやく笑みを浮かべると、カーネルの手を握り返す。

 

「……だがな、ツカサ。残念だが次の戦い、今のお前では勝てない……」

「え?」

 ツカサの笑顔が、一瞬に戸惑いに変わる。

 ハルナが飛び跳ねるのを止め、カーネルの元に走りよってきた。

 

「それ、どういう意味なんですか? たしかにアマノ君のHQはボロボロだけど、それはリョウゴさんだって同じなんですよ?」

「私はガンプラのことを言っているのではない」

 

 ハルナの顔が困惑に彩られる。

 

「ツカサとリョウゴ、お前たち二人の本質的な違いに気づかないお前はリョウゴには勝

てない」

 諭すようにハルナにそう言うと、カーネルは振り返り薄い唇を開く。

 

「私はお前の戦術の前に敗北を喫した……いまさら何を言おうが負け犬の遠吠えにしか受

け取ってもらえないかもしれん。だがな、ツカサ。お前に残された時間はあまりにも短い……だからこそ、よく考えるんだ。私の言った言葉の意味をな」

 

 そこまで話すとカーネルは口を閉ざしてしまう。

 

 だが、ツカサにはカーネルの言葉の意味を理解できず、ただ逡巡するばかりだった。




 
次回予告

ようやくカーネルとの激闘に終止符をうったツカサ。だがそれは新たなる戦いの幕開けにすぎなかった。
だがツカサとリョウゴのガンプラは満身創痍といった状態。それを見てハルヒコはある提案をふたりに持ちかける。

次回「ガンダム ヘッドクォーター」

第27話「迫りくる刻」


刻一刻と過ぎる時間のなかで、ツカサは思いを馳せる。
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