ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

3 / 27
第3話 「導かれし〇〇たち」

「ふぅ」

「だいじょうぶアマノ君? いきなり濃い人にあっちゃったもんね」

 心配そうにのぞき込むハルナに、ツカサはひきつった笑みを浮かべる。

 

「……きみがアマノ君かい?」

 いきなり名を呼ばれツカサは顔を上げる。

 そこにはハルナとお揃いのエプロンをつけ、口元と顎に見事な髭をたくわえた男性が立

っていた。

 

「あっ、おとうさん」

「!? は、はじめまして。ミサキさんのクラスメートのアマノ・ツカサです」

 立ち上がりたかったがそれは無理なので、とりあえずツカサは深々と頭を下げた。

「そう畏まらなくてもいいさ、話はハルナから来ているよ。ところでガンプラは持って

きたかい?」

 うなずくツカサに、ハルナの父、ハルヒコは屈託のない笑みを浮かべながら奥を指さす。

「それじゃあ行こう。工作室は向こうだ」

 歩きだしたハルヒロの背を追いながら、ツカサは左右を見回す。

 

「……今日はずいぶん賑わってるね?」

 はじめて来たときは閑散としていた店内だが、今日はあちこちに客らしき人がおり、か

なり盛況のようだった。

「こないだは平日だったからね。休みの日はいつもこんな感じだよ、ってどうしたの?」

 ツカサの後ろを歩いていたハルナは、車いすが急に止まったためつんのめる。

 

「……あの人だ」

 ハルナの声には反応せず、ツカサは<バトルルーム>と書かれた全面ガラス張りででき

た部屋の中の人影を、食い入るように見ていた。

「あれ? リョウゴさんだ……あいかわらず早いなぁ、もうバトルしてるよ」

 呆れと感心がほどよくミックスされた口調でつぶやくハルナを尻目に、ツカサは車いす

を人だかりの出来たバトルルームの前へと移動させる。

 リョウゴと対戦相手の間には匡体があり、その上に、ホログラムだろうか、見渡す限り

岩山だらけの広野が広がっている。

 

 その中で、2機のガンプラが戦っていた。

 

「対戦相手はイヌノ君か、ガンプラはスローネツヴァイ……ほう、あいかわらずいい出来

だな」

 顎ひげをいじりながら感心したようにハルヒコがつぶやくが、ツカサにはどっちのガン

プラのことかまるでわからなった。

 めぐるましく動き回るガンプラを交互に見ながら、ときどきハルヒコを見上げるツカサ

にハルナは苦笑する。

 

「スローネはあっち」

 ハルナは、身の丈ほどもある大剣を振るうガンプラを指さす。

「で、あっちの紅いのがリョウゴさんのガンプラ『零』だよ」

 視線の先には、唸りをあげて襲いかかる大剣を苦もなく避ける全身を深紅に染めあげた

細身のガンプラの姿があった。

「……素手じゃないか」

 リョウゴのガンプラ──後でイナクトと教えられたMSは、見たところ武器らしい武器

を何一つ身につけてはいなかった。

 

「デュフフフ、そ、そんな貧弱なガンプラで、ぼ、ぼくのスローネに勝てるわけないんだ

な!」

 全身これ『肉の塊』といった青年、イヌノ・タマサブローが皮肉めいた口調で挑発する

が、リョウゴは不敵な笑みを浮かべたままだ。

 横殴りに襲いかかるGNバスターソードの一撃を身を沈めてかわすと、零の脚が信じられ

ない角度で跳ね上がった。

 

「ちょいさ!」

 スローネの手にしたGNバスターソードが、弧を描きながら中天高く舞い上がる。

 何が起こったのか理解できず固まったままのスローネの胸元を、零は軽く小突いた。

 よろめくようにスローネは二、三歩後する。

 

「な、何のつもりでつか…あっ!?」

 落ちてきたGNバスターソードが頭に突き刺さり、スローネの身体はそのままふたつに分

かれた。

 

 もう興味がないといわんばかり歩きだした零の背後で、スローネが大爆発を起こす。

 

「す、すげぇ」

「あのイヌノが1分も保たないなんて……」

 バトルを観戦していたギャラリーから、ため息混じりの声が漏れる。

 

「リョウゴさん、すごい……あんな荒い作りのガンプラで……」

 

 リョウゴの能力の高さに感銘しつつもツカサがもらした感想に、ハルヒコは「おや?」

といった表情になる。

 

「……確かにガンプラの出来映えは戦いを左右する重要なファクターだ。だが、それが戦

いを制する絶対条件では無い」

 いきなり背後から聞こえた軋むような声に、ツカサは驚き振り返る。

 

 視線の先にはロングコートの下に迷彩服を身につけ、頭にベレー帽をかぶった男がサン

グラス越しにツカサを見下ろしていた。

 

「新兵か?」

 口ひげにかくれていた薄い唇が開き、詰問するような口調で尋ねる。

「はっ、ア、アマノ・ツカサ三等兵であります!」

 男の口調はおよそ常人のそれとはかけ離れたものだったが、その迫力に呑まれたのか、

つられて自己紹介するツカサの口調もかなり変だった。

 

 男は無言のまま、値踏みするようにツカサを見つめている。

 

「そうか……生き残れよ、新兵」

「サーッ! イェッサーッ!!」

 素早く敬礼するツカサに軽く返礼すると、男はコートの裾をひるがえし立ち去った。

 

 ツカサがそのポーズのまま固まっていると、いきなりバトルルームのドアが勢いよく開

け放たれた。

 

「ぶひぃいいい! 次こそは覚えておくでつよおおっ!」

 全身の脂肪を上下左右に激しく揺すりながら、タマサブローがドアを突き破らんばかり

の勢いで店の外へと走り去ってゆく。

 

 無言でタマサブローの背中を見送っていたツカサに、ハルナとハルヒコは遠慮がち話し

かける。

「あのね、アマノ君」

「……えっと、生でガンプラバトルを観賞した感想はどうだい?」

 

 ツカサが答えるべく振り返ったのは、きっかり3分が経過してからだった。

 

 

 

「ガンプラバトルをする人って、変な人ばかりなんですね」

 

 

 

 失礼極まりないがあまりにも的を得たコメントに、ミサキ親子は顔を引きつらせながら

微笑むしかなかった。

 

                    ※

 

「ほんとうに強かったな、リョウゴさん」

 店の隅の方に用意された工作用のスペースに移るや、ツカサは誰に言うとなくつぶやいた。

「リョウゴさんガンプラバトルをはじめてまだ1ヶ月もたたないけど、破竹の20連勝だか

らね」

 なぜか鼻高々に話すハルナに、ツカサは声もでない。

 

「たしかにリョウゴくんのファイターとしての才能は、この店でも群を抜いて高い」

 ハルヒコが腕組みしたまま相づちを打つ。

「ほんとうにすごいよね。……零だって、合わせ目の処理もろくにしてないのに」

 作業台の上に頬杖をついたままうなずくハルナに、ツカサも心の中で同意する。

「たしかにリョウゴくんの作業は荒削りだが、ポイントは押さえているんだ」

 

 二つの視線が、ハルヒコに集まる。

 

「たとえば、リョウゴ君はパーツの接着に必要以上に接着剤をつける。しかも、はみでた

ままの接着剤は処理もしないから見栄えはお世辞にもいいとは言えない」

 ハルヒコはいったん言葉を切る。

「でもね、おかげでパーツ同士は強固に溶着され、結果としてプラの強度は格段に高くな

っているんだ」

「ふぅん、なるほど。でも、リョウゴさんあんまり塗装も上手くないよね? イヌノさん

と比べたら……」

 

 さすがに失礼だと思ったのか、ハルナは声のトーンを落とす。

 だが、これについてもツカサは同じ考えだった。

 スクリーン上に大写しになった零は全身筆塗りで塗装したらしく、あちこち筆ムラが残

り、お世辞にもきれいな仕上がりとはいえなかった。

 

「たしかにイヌノ君のスローネは塗り分けは完璧。全身にスミ入れを施し機体各所にデカ

ールを貼るなど完成度は高い。だが、極論なんだがね……それとガンプラバトルで勝利す

るのと、何か関係があると思うかい?」

 

 ツカサとハルナは一瞬目を合わせたが、やがてそろって首を横に振った。

 

「なるほど……たしかに店長さんの言うとおりですね」

 達観したかのように何度もうなずくツカサを見て、ハルヒコは微笑んだ。

 

「じゃあ、そろそろ本題に戻ろう。アマノ君」

 我に返ったツカサは、慌てて車いすにくくりつけたバッグから箱をひっぱりだした。

「あんまり大した出来じゃないんですけど……」

 ツカサはためらいながらそう言うと、台の上に置いたガンプラのふたを開けた。

 ハルナとハルヒコは興味津々といった様子で箱の中をのぞき込むと、ニュアンスこと違

えど同じ響きを持つ言葉を紡ぎだした。

 

「こ、これは!」

「……すごい」

 箱の中には、ほぼ完成状態のHi-νガンダムが納められていた。

 オリジナルがホワイトとブルーを基調としたカラーなのに対して、ツカサのHi-νガンダ

ムはRX-78を連想させるトリコロールで塗装されていた。

 

「合わせ目の処理も完璧、塗装もとても初心者が施したとは思えない。すごいじゃないか

アマノ君!」

「いや、さっきの店長さんの話を聞いた後じゃ、見せずらかったんですけど……」

「言ったろう? あれは極論だって……それにしても見事だ」

 頭を掻きながら照れまくるツカサを横目に、ハルヒコは腕を組んだままツカサのガンプ

ラに見入っている。

 

「でも、アマノ君、ガンプラ作るのはじめてだって……」

 触れんばかりの距離でHi-νガンダムを見ていたハルナが思い出したように話しかけて

くる。

「ガンプラは、ね」

 はにかむように笑うツカサを見て、ハルナは首をかしげる。

「ぼくが以前ミニチュアゲームにハマってたのは知ってる?」

 

 小耳に挟んだ程度だが、その噂は聞いたことがある。ハルナは小さくうなずいた。

 

「ミニチュアゲームの駒は、昔はメタル製が主流だったんだけど最近はかなりプラ製の物

も出回っててね」

「そっか、それではじめてなのにこんなに上手にできたんだね? でも、それなら……」

「ぼくが知ってるのは、あくまでプラモを作る上で必要な初歩のテクニックだけだよ」

 

 ツカサはハルナの言わんとすること理解し、口を開く。

 

「それに、ほとんど固定モデルの駒とガンプラじゃ、素材が同じプラ製というだけで、後

はまったくの別物だよ」

 肩をすくめるツカサを見て、ようやく納得がいったといったいう顔でハルヒコが笑いか

けてきた。

 

「なるほどね。で、どこがわからないんだい?」

「はい、実はここのギミックの組立が上手くいかなくて……」

 

 ツカサの指し示す箇所をよく見ようと、作業台を囲むように3人の頭が寄り添った。




次回予告


ツカサは完成したHi-νガンダムを持参し『おもちゃのミサキ』を訪れた。

念願かなってバトルシステムの前に立つツカサだが、講師がイマイチのため悪戦苦闘を強いられる。

それを見かねたハヤミ・レンと名乗る青年が、レクチャー役を買って出る。
最初は軽い気持ちだったが、ツカサの才能に気づいたレンがとった行動とは……。

次回 「ガンダムヘッドクオーター」

第4話 「特訓」



だが、それ以前にHi-νガンダムは大地に立つことができるのか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。