ガンダム ヘッドクオーター   作:白犬

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第9話 「開催! GBトーナメント」

「ふう」

 ツカサは大きく伸びをしながら首を回した。

 いつの間にか夜が明けていたのか、小鳥のさえずりとともに、窓から薄日が差し込んでいた。

 

 今日はトーナメントの開催日。連日の突貫作業が功を奏し、ツカサはどうにか作業を終えることが出来た。

 

「何とか間に合ったな」

 机の上には、ようやく改修を終えたガンプラが置かれていた。

 

「……HQ」

 ツカサは目を細めてつぶやいた。

 

「おまえの名前は、Hi-νガンダムHQだ」

 

                     ※

 

「わっ!?」

 開ける度にガタピシと鳴る戸を開き、店の中に入ったツカサの口から驚きの声が漏れた。

 店内は、いつにもまして人であふれかえっている。

 

「いらっしゃい、アマノ君」

 『おもちゃのミサキ』と書かれたエプロンを付けたハルナが、ツカサの姿に気づき走り寄ってくる。

 

「完成したんだ?」

「何とかね。それよりすごい人だね。この人たち、全員トーナメントに出場するの?」

「まさか。トーナメントに参加するのは、アマノ君もふくめて32人だよ。残りの人は、みんなトーナメントを観戦しにきた人たちなの」

 その時、ハルナを呼ぶ声が聞こえた。

「ごめんね、おとうさんが呼んでるみたい」

 ハルナはすまなそうに謝ると、ツカサに背を向け人混みに消えた。

 

 ツカサは改めて店の中を見回していたが、手を振りながら自分の方に歩いて来る人影に気づいた。

「コウタ! 君もトーナメントに?」

「あたりまえだろう。今回はハヤミさんたち常連もほとんど参加するからな」

「ハヤミさんも」

 ツカサの脳裏に、レンの柔和な笑顔がよみがえる。

「しかもそれだけじゃない」

 顔を寄せて耳元でささやくコウタの声に、ツカサは我に帰る。

 

「今回は、カーネルさんも珍しくトーナメントに出るみたいだしな」

「カーネル?」

 コウタが指さす先には、ロングコートの下に迷彩服を着、壁に背を付けたままサング

ラス越しに店内を見回している男がいた。

 彼に気づいた人たちは、みな揃って敬礼をしている。

「あの人は……」

 それは、以前ツカサがこの店を訪ねた時に出会った男だった。

 

 そのカーネルの側に、ひとりの男が歩み寄る。

「アキトか、元気そうだな」

「おやっさんこそ……」

 アキトと呼ばれた青年は言葉を切ると、カーネルの頭からつま先まで無遠慮に眺め回す。

「あいかわらず、我が道を突っ走ってるってカンジだねぇ」

「よけいなお世話だ」

 皮肉丸だしのアキトのセリフに、カーネルは苦笑を浮かべる。

 

「それにしても、世界大会出場経験のあるお前が、こんな所に顔を出すとは、どういう風の吹き回しだ?」

「なんでも最近、この店におもしれぇ野郎が顔を出すようになったそうじゃねえか」

「……リョウゴのことか?」

「ああ、確かそんな名前だったな」

 目的の男の名を告げられたというのにあまり気にした素振りもみせないアキトに、

カーネルが呆れながら口を開こうとすると、店内にひときわ大きな声が響きわたった。

 

「では、そろそろガンプラバトルトーナメントを開催したいと思います」

 開会を告げるハルヒコの声に、店内に拍手が巻き起こる。

「今回のトーナメント参加者は総勢32名、これらをA、Bふたつのブロックに分け、勝ち抜き戦を執り行います」

 

 ハルヒコは、店の一点を指し示す。

「試合はバトルルームの匡体を2つに分け、各ブロックのバトルを同時に行います。ただ、ご存じの通りウチは大変狭いので……」

 

 店内に苦笑が広がる。

 

「バトルルームへの入室は、対戦者同士のみとします」

 

 この後もハルヒコの説明は続く。

 バトルルームへ立ち入れないギャラリーたちのために店内に大型のスクリーンを設置し、それでバトルを観戦できること。

 また、今回のトーナメントは平日を挟んだ飛び石連休で使って行われるため、1~3回戦は初日で行い、一日間を空け次の祝日で準決勝、決勝を行うという日程だった。

 

「かなりハードだな」

 ツカサは顎に手を当て考え込む。

 バトル中、受けたダメージはそのままガンプラに反映されるというガンプラバトルの特性上、これだけ短期間での連戦となると、受けたダメージが小さくとも、最終的に蓄積されたものは軽視できないだろう。

 

「では、これからトーナメントの組み合わせを行います。参加者のみなさんは、前に集まってください」

 ハルヒコの声に、ツカサは顔を上げる。

 視線の先で、ハルナがガラス箱を乗せたワゴンを押してくる。箱の中には、二つ折りの小さな紙片が入っていた。

 

「行くか?」

「うん」

 コウタにうながされ、ツカサは車いすを漕ぐ手に力を込めた。

 

                    ※

 

「ぼくはAブロック、しかも1回戦目か」

 ツカサは組み合わせの決まったトーナメント表を見て顔をしかめた。

 運命のいたずらのなせる技か、コウタ、レン、カーネルといった実力者が、軒並みAブロックに集中していた。

 

「リョウゴさんはBブロックか、それにしても」

 ツカサは組み合わせの一組を見て、眉をひそめた。

「なんでミサキさんの名前が、組み合わせの中にあるんだ?」

「それは、わたしがトーナメント参加者だからに決まってるでしょう」

 いつの間にか背後に立っていたハルナが、ほとんど高低差はできないが精一杯胸を張る。

「でも、ミサキさんは……」

 ハルナにガンプラの操縦法を教えてもらったあの日ことを思いだし、ツカサの表情がみるみる曇る。

 

「だいじょうぶだって、わたしだってあれから特訓したんだよ。それに……あれ、アマノ君もうバトル始まるみたいだよ!」

「うわ、ヤバッ」

 ツカサは自分を呼んでいるハルヒコ気づくと、慌てて車いすを漕ぎだした。

 

                    ※

 

 

「あれが、ツカサのガンプラか」

 店内に設置されたスクリーンを見ながら、コウタがつぶやく。

 

 バトルシステムにセットされたツカサのHi-νガンダムは、以前と同じトリコロールカ

ラーで塗装されていたが、外観には幾つかの変更点があった。

 

 胸部には2本の大型アンテナが追加され、腰から下はOガンダムの物と交換されており、見る者にシャープな印象を与えている。

 

 そして最大の変更点は、Hi-νガンダムを象徴するフィン・ファンネルが、すべてオリ

ジナルのファンネルに交換されていることだった。

 

 

「アマノ・ツカサ、Hi-νガンダムHQ、発進します!」

 ツカサのかけ声に、思考を遮られたコウタが顔を上げる。

「HQ、それがお前のガンプラの名か……がんばれよ、ツカサ」

 戦場へと送り出される友とそのガンプラに、コウタは心の底からエールを送った。

 

                    ※

 

「相手のガンプラはどこだ?」

 今回の戦いの場である砂漠に降り立つと、HQは左右を見回す。

 だが、見渡す限りどこまでも続く砂丘の他は、敵の姿はどこにも無かった。

 

 今回の対戦相手のガンプラは、デザートイエローで塗装された点をのぞけば、ほぼノーマルなアイザックだった。

 

「レーダーの反応は……駄目か」

 スクリーン上のレーダーパネルは嵐のような激しいノイズが走り、まるで役に立たなかった。

 

「アイザックは、もともと索敵や電子戦に特化したMSだ。こうなったら、直接肉眼で捕らえるしか、アラーム!?」

 コクピット内に鳴り響く警報に、ツカサはモニターを見る。右後方から、十数発のミサイルがHQめがけて飛来する。

「くっ!」

 手にしたビームライフルやバルカンでミサイルを撃ち落としながら、HQはスラスターを吹かし後退する。

 

「ば、馬鹿な、なんだこの火力は?」

 かろうじて敵の一撃をしのぎながら、ツカサの顔が驚愕に彩られる。

 

 ガンプラをセットする時、バトルシステムに置かれたアイザックはザク用のマシンガンとヒートホーク以外、武器を身に帯びてはいなかった。

 

「それに、一度にこれほどのミサイルを撃てるミサイルポッドなんて……左!?」

 さっきとは別の場所から、またもや雨霰とミサイルが撃ち込まれる。

 かろうじて敵の第二射をかわしたHQが左右を見渡すが、やはり敵の姿はどこにもなかった。

 

「敵は砂の中を移動しながら攻撃しているのか?」

 しばらく待ってみるが、敵も警戒しているのだろう。次の攻撃はなかなかやってこない。

 

「ふぅ、仕方がない」

 ツカサは大きく息を吐くと、操縦桿を押し込んだ。

 

「何やってんだ。ツカサの奴?」

 いきなり片膝をついてかがみ込んだHQを見て、コウタが叫ぶ。

 

 どれくらい時間が経過しただろうか。微動だにしないHQに、バトルを観戦していたギャラリーたちがしびれを切らしてざわめきだす。

 

 だが、それは対戦相手も同じだったのだろう。HQの背後から、三度ミサイルが襲いかかる。

 

 アラームの音とともに、閉じられていたツカサの目が静かに開く。

 

「T-ファンネル!」

 小型のファンネルが、ファンネル・ラックから射出される。

 T-ファンネルは、唸りを上げて飛来するミサイルに一斉にビームを放つ。

 空一面に広がる爆煙を突き破り、T-ファンネルはさらに上昇を続ける。

 

「正確な居場所が分からなくても、大体の見当がつけば……」

 操縦桿を握るツカサの動きに呼応し、T-ファンネルが一斉に機首を地上に向けると、猛烈なビームの連射を見舞う。

 

 眼下の砂漠に、小さな砂の柱が幾つも出来上がる。

 そして、それらを押し退け、ひときわ大きな砂柱がひとつ、天に向かって立ちのぼった。

 

「くそ、無茶苦茶しやがって」

 全身に砂をまとわりつかせたアイザックが、忌々しそうに頭上のファンネルを見上げた。

 

 アイザックのレドームの一部が開閉する。

 

「あれは、ギャンのシールド?」

 レドームの中に搭載されたギャンのシールドから、大量のミサイルが吐き出された。

 

「なるほど、あれが謎の攻撃の正体か、だが、タネが分かれば!」

 HQめがけて四方八方からミサイルが撃ち込まれるが、頭上に待機したT-ファンネルは、それら全てを狙撃してのけた。

 

「ちっ、やっぱ駄目か、ん!?」

 ツカサと対戦していた男が眉をひそめた。

 頭上から自分のガンプラに照準を合わせていたT-ファンネルが、一斉にラックに戻ってしまったのだ。

 

「おいおい、まだバトルは終わってないぜ。何のつもりだ?」

「あなたの『見えない攻撃』、本当に見事でした」

 ツカサの言葉に、男の表情が惚けたようになる。

 

「そりゃどうも。で、俺に敬意を表して降参でもしてくれるのかい?」

 男の軽口に、ツカサの顔に苦笑が浮かぶ。

「いえ、でもあなたに敬意を表して、ぼくも『見えない攻撃』であなたを斃します」

 

 ツカサの言葉が終わると同時に、さっきとは別のファンネルがラックから分離すると、HQと並び立つように移動し動きを止めた。

 

「見えないって……見えてるじゃん?」

 HQの腰の辺りで浮いたままのファンネルを見て、男は手を叩いて笑い出す。

 

「いけ、F-ファンネル」

 ツカサのつぶやきとともに、F-ファンネルの推進部が巨大な光球に包まれた。

 

 

「消えた!?」

 

 

 戦いを静観していたギャラリーから、一斉に同じセリフが漏れた。HQの横にいた

ファンネルの姿が、忽然と消えたのだ。

 呆然とするギャラリーたちは、耳をつんざくような音で我に返る。

 スクリーンに、腰の辺りで機体を両断されたアイザックの姿が映し出されていた。

 

 ゆっくりと落下する上半身が地に触れる前に、アイザックは大爆発を起こす。

 

 

「な、何が起こったんだ?」

 茫然としながら自問する男に軽く頭を下げると、ツカサはバトルシステムを後にした。

 

「やったなツカサ、瞬殺じゃんか!」

 我が事のようにはしゃぐコウタを見てツカサの口元がほころぶが、一点を見るや表情

を強ばらせる。

 

「まだ、こんな所で負けるわけにはいかないからね」

 ツカサの声音の変わりように、小躍りしていたコウタが動きを止め、ツカサの視線を追った。

 

 

 

 その先には、笑みを浮かべながらツカサを見つめるリョウゴの姿があった。




次回予告

初戦を勝利で飾ったツカサとHi-νガンダムHQ。

コウタやレンたち常連組も、危なげなく2回戦へと駒を進める。
そして、ついにリョウゴのバトルが始まるが、ツカサやギャラリーたちはリョウゴのトーナメント用のガンプラを目の当たりにするや騒然となる。


次回「ガンダム ヘッドクオーター」

第10話「阿修羅」


紅蓮を纏いし闘神に、砕けぬものなど何も無し!
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