大悟達は鬼の城に迷い込み、一つ目の鬼と対峙する。
一つ目は人間の目を奪って呪力を高め、関守石を砕いて異界と人界の境界を消そうとする。
鬼は自分の名前を当てるゲームを仕掛け、クラブの生徒達を人質にする。
類は大悟に正解を託して犠牲になり、大悟は一つ目の名前をやっと当てる。
大悟と少年は一つ目を倒し、雅と葵は雅の父である猿飛の領主と再会する。
そして大悟はツルギを入れる鞘を手に入れ、鬼の血が流れる関守である事を知るのだった。
外は夕焼けに染まって奇妙なほど静かだった。
大悟、雅、葵は校門の手前で止まる。
「オレに鬼の血が流れてるって、どういう事だ」
「やっぱり私は、関守の娘だったみたいね」
「それなのに、まだ現代に残っている……」
少年は答える代わりに大悟の中から出てきた。
傍にある鉄棒の上に立つ。
「関守は鬼って事なのかよ?」
「関守は……半人半鬼の一族だ」
「半鬼ぃ?」
「故に関守は呪力を持つ」
「呪力って……オレが? 意味分かんねえよ。そもそも鬼に肉体はないはずだろ?」
少年は小さく溜息をついた。
「説明ができるなら、私とてすぐにお前に明かしていた。
半鬼になった理由は誰にも分からぬのだ。祖先の系譜を辿り尽くす事は難しい。
伝えられているのは、神々が人と対話していた時代……
鬼と人の間に生まれた子供が関守の役目を授かったと。それだけだ」
「お前にも分からない事があるのか」
「分からぬ事の方が多い」
「ま、当然よね」
大悟はじろりと少年を見上げる。
もう一つ、聞かなければいけない事がある。
「どうしてお前はオレの中に入れたんだ? 人の名前だけじゃ入れないはずだ。
入ったって事は、お前……知っているんじゃないのか? もう一つのオレの名前」
「そうだ」
あっさりと言ってくれる。
「なんでだよ? オレだって知らないものをどうしてお前が知ってんだよ」
「理由は分からぬ。ただ、知っているのだ。私の心に浮かんでくる」
「教えろ」
「ならぬ」
「ふざけんな! オレの名前はオレのものだ!」
「鬼の名を知れば、お前は必ずいつか誰かに名乗る事になる」
「そんな事したら体を取られるんだ、絶対しない! 絶対大丈夫に決まってんだろ!」
「絶対、だと……?」
少年が睨む。
「では聞く。友人である類に命の危険が迫り、お前の鬼の名で救えるとしたらどうする?」
「それは……」
「類ではなく、それがお前の母であったらどうだ?」
大悟は黙ってしまう。
「これでもお前は『絶対大丈夫』とほざく気か」
「やはり、それでたじろぐとは。忍にはなれませんね」
はぁ、と葵は溜息をつく。
忍者は文字通り、忍ぶ者という意味で、
どんな事情であっても耐え忍び任務をこなす、強い心身を持たなければならないのだ。
「でも、大丈夫だって」
「思い上がるな!」
少年の怒鳴り声に、ピシッと空気が張り詰めた。
「容易に感情を揺さぶられ、怒りに我を忘れるお前に『絶対』があると思うか!
お前は今日、友人達の闇を見て『まさかこいつが』と思ったのではないのか?
何故それが己に当てはまらないと思えるのだ!
あらゆる闇に触れてもなお、己に……人に『絶対』があると言うか!
あのくノ一に言われたのだぞ!」
「お前に人の何が分かる!」
少年がぐっと黙ってしまった。
傷つけてしまったと大悟は気づくが、もう取り消す事はできない。
少年は校庭を眺めて静かに言った。
「以前は……私も人だったのだ。人の弱さはよく知っている」
今の大悟には痛い言葉だった。
一つ目との戦いで、結局は類に助けられたのだから。
悔しさと情けなさをどうしていいか分からず、大悟は少年の隣でぐるんと逆上がりをする。
「人は弱い。つまり、お前は正真正銘の人間という事だ」
「弱くて悪かったな!」
少年が僅かに笑う。
「覚えておけ。私の魂が消されるとしても、お前の鬼の名を言うつもりはない」
どんな顔をしていいか分からず、大悟は連続で前回りをした。
頭がくらくらする。
「雅、葵。お前はこの時代にずっと取り残されているようだな。帰らぬのか?」
「帰れないわ」
「きっと時代の流れで、消えてしまうのだから」
雅と葵は、遠い過去の人物だ。
それが今でもなお、ここに残っているという事は、
消えたくないという意思が強く残っているのだろう。
「ウタキ」
ふいに言われて少年を見上げた。
「私の名だ」
「お前……名前を渡すと力を取られるって言ってたじゃないか」
「お前は敵ではない」
少年の顔を見る事ができず、大悟はもう一度前回りをする。
「そうだ! 人の名前もよこせよ。お前を乗っ取ってやる!」
「口の軽いお前に両方渡すわけがなかろう。そもそも人の名は忘れた」
「そんなの信じないね」
校庭の上に広がる空は既に藍色で、間も無く夜を迎える時刻だ。
「なあ、オレが結界を破ったせいで人界に入った鬼って、まだいるのか?」
「結界が弱まっていた関守石の周りには、境界を越えようとする鬼がたくさん集まっていた。
一つ目がその全てを集めたとは思えぬ」
「やっぱりまだいるって事か……」
大悟は深い溜息を吐き出した。
関守石を壊した犯人は分からず、自分が半人半鬼である理由も分からない。
しかし、大悟にだけ分かる事が一つあった。
「ウタキ」
初めて少年を名前で呼ぶ。
「オレは強くなりたい」
ふつふつと湧き上がるこの思いだけは、確かに分かるのだ。
この先、どんな鬼と戦う事になるのか。
どんな闇が待ち受けているのか。
大悟が進む道は暗中模索、まさに暗闇の中を歩いていく事になる。
それでも。それだからこそ。
「オレは強くなる」
言い直した大悟の横で、ウタキ、雅、葵が小さく頷いた。