鬼を切れ!   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

大悟達は鬼の城に迷い込み、一つ目の鬼と対峙する。
一つ目は人間の目を奪って呪力を高め、関守石を砕いて異界と人界の境界を消そうとする。
鬼は自分の名前を当てるゲームを仕掛け、クラブの生徒達を人質にする。
類は大悟に正解を託して犠牲になり、大悟は一つ目の名前をやっと当てる。
大悟と少年は一つ目を倒し、雅と葵は雅の父である猿飛の領主と再会する。
そして大悟はツルギを入れる鞘を手に入れ、鬼の血が流れる関守である事を知るのだった。


16~強くなるために

 外は夕焼けに染まって奇妙なほど静かだった。

 大悟、雅、葵は校門の手前で止まる。

「オレに鬼の血が流れてるって、どういう事だ」

「やっぱり私は、関守の娘だったみたいね」

「それなのに、まだ現代に残っている……」

 少年は答える代わりに大悟の中から出てきた。

 傍にある鉄棒の上に立つ。

「関守は鬼って事なのかよ?」

「関守は……半人半鬼の一族だ」

「半鬼ぃ?」

「故に関守は呪力を持つ」

「呪力って……オレが? 意味分かんねえよ。そもそも鬼に肉体はないはずだろ?」

 少年は小さく溜息をついた。

「説明ができるなら、私とてすぐにお前に明かしていた。

 半鬼になった理由は誰にも分からぬのだ。祖先の系譜を辿り尽くす事は難しい。

 伝えられているのは、神々が人と対話していた時代……

 鬼と人の間に生まれた子供が関守の役目を授かったと。それだけだ」

「お前にも分からない事があるのか」

「分からぬ事の方が多い」

「ま、当然よね」

 大悟はじろりと少年を見上げる。

 もう一つ、聞かなければいけない事がある。

「どうしてお前はオレの中に入れたんだ? 人の名前だけじゃ入れないはずだ。

 入ったって事は、お前……知っているんじゃないのか? もう一つのオレの名前」

「そうだ」

 あっさりと言ってくれる。

「なんでだよ? オレだって知らないものをどうしてお前が知ってんだよ」

「理由は分からぬ。ただ、知っているのだ。私の心に浮かんでくる」

「教えろ」

「ならぬ」

「ふざけんな! オレの名前はオレのものだ!」

「鬼の名を知れば、お前は必ずいつか誰かに名乗る事になる」

「そんな事したら体を取られるんだ、絶対しない! 絶対大丈夫に決まってんだろ!」

「絶対、だと……?」

 少年が睨む。

「では聞く。友人である類に命の危険が迫り、お前の鬼の名で救えるとしたらどうする?」

「それは……」

「類ではなく、それがお前の母であったらどうだ?」

 大悟は黙ってしまう。

「これでもお前は『絶対大丈夫』とほざく気か」

「やはり、それでたじろぐとは。忍にはなれませんね」

 はぁ、と葵は溜息をつく。

 忍者は文字通り、忍ぶ者という意味で、

 どんな事情であっても耐え忍び任務をこなす、強い心身を持たなければならないのだ。

「でも、大丈夫だって」

「思い上がるな!」

 少年の怒鳴り声に、ピシッと空気が張り詰めた。

「容易に感情を揺さぶられ、怒りに我を忘れるお前に『絶対』があると思うか!

 お前は今日、友人達の闇を見て『まさかこいつが』と思ったのではないのか?

 何故それが己に当てはまらないと思えるのだ!

 あらゆる闇に触れてもなお、己に……人に『絶対』があると言うか!

 あのくノ一に言われたのだぞ!」

「お前に人の何が分かる!」

 少年がぐっと黙ってしまった。

 傷つけてしまったと大悟は気づくが、もう取り消す事はできない。

 少年は校庭を眺めて静かに言った。

「以前は……私も人だったのだ。人の弱さはよく知っている」

 今の大悟には痛い言葉だった。

 一つ目との戦いで、結局は類に助けられたのだから。

 悔しさと情けなさをどうしていいか分からず、大悟は少年の隣でぐるんと逆上がりをする。

「人は弱い。つまり、お前は正真正銘の人間という事だ」

「弱くて悪かったな!」

 少年が僅かに笑う。

「覚えておけ。私の魂が消されるとしても、お前の鬼の名を言うつもりはない」

 どんな顔をしていいか分からず、大悟は連続で前回りをした。

 頭がくらくらする。

「雅、葵。お前はこの時代にずっと取り残されているようだな。帰らぬのか?」

「帰れないわ」

「きっと時代の流れで、消えてしまうのだから」

 雅と葵は、遠い過去の人物だ。

 それが今でもなお、ここに残っているという事は、

 消えたくないという意思が強く残っているのだろう。

 

「ウタキ」

 ふいに言われて少年を見上げた。

「私の名だ」

「お前……名前を渡すと力を取られるって言ってたじゃないか」

「お前は敵ではない」

 少年の顔を見る事ができず、大悟はもう一度前回りをする。

「そうだ! 人の名前もよこせよ。お前を乗っ取ってやる!」

「口の軽いお前に両方渡すわけがなかろう。そもそも人の名は忘れた」

「そんなの信じないね」

 校庭の上に広がる空は既に藍色で、間も無く夜を迎える時刻だ。

「なあ、オレが結界を破ったせいで人界に入った鬼って、まだいるのか?」

「結界が弱まっていた関守石の周りには、境界を越えようとする鬼がたくさん集まっていた。

 一つ目がその全てを集めたとは思えぬ」

「やっぱりまだいるって事か……」

 大悟は深い溜息を吐き出した。

 関守石を壊した犯人は分からず、自分が半人半鬼である理由も分からない。

 しかし、大悟にだけ分かる事が一つあった。

 

「ウタキ」

 初めて少年を名前で呼ぶ。

「オレは強くなりたい」

 ふつふつと湧き上がるこの思いだけは、確かに分かるのだ。

 この先、どんな鬼と戦う事になるのか。

 どんな闇が待ち受けているのか。

 大悟が進む道は暗中模索、まさに暗闇の中を歩いていく事になる。

 それでも。それだからこそ。

 

「オレは強くなる」

 言い直した大悟の横で、ウタキ、雅、葵が小さく頷いた。

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