鬼を切れ!   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

水影真白は、事故で弟の青葉を亡くしたショックで眩暈と白髪に悩まされていた。
弟からもらった『源氏物語』を読むために神社に来た真白は、
古井戸から別の世界への入り口を見つける。
そこに現れた謎の男は、真白に別の世界に行く事を勧め、関守に自分の事を伝えるように頼む。
真白は男の言葉に従って井戸に飛び込み、闇の中に消える。
一方、酒呑童子を追っている大悟達は、見附市の高校に辿り着き、真白と出会うのだった。


24~神隠し

 その夜、大悟はベッドに寝転がって考えていた。

(まさか、雅以外にも、呪力を持ってるヤツがいたなんて)

 その時、スマホに、見知らぬアドレスからのメールが着信した。

 本文にはリンクが一つ。

 大悟がタップすると、暗い画面に緑ケ丘高校の校舎が現れた。

「さっきの高校の、“裏サイト”? こんなもの、誰が……」

「私だ」

 壁をすり抜けて部屋に入ってきたウタキに、大悟は「ひぃっ!」と跳び上がる。

「その入り方、怖いんだよ! ドアを使え! てか、どうやってメール送ったんだ?」

「あの高校の生徒が持っていた物を、呪力で操作した」

「にしても、裏サイトって」

「学舎に残っていた者どもが見ていたから送っただけだ。

 あの娘の事が知りたいと騒いだのはお前であろう」

 不機嫌になるウタキの横でサイトを読んでいくと、

 “白髪の転入生プロフ”というスレッドが立てられていた。

「水影真白。これがあいつの名前か。高校一年。転入してきたんだ……」

 その先に書き込まれている内容は、気持ちのいいものではなかった。

 サイトの中で、水影真白は“バケモノ”と呼ばれていたのだ。

 

 “中学校での火事。コンセントから発火したって発表されたらしいけど、

 火元は明らかにバケモノの席。あそこだけ真っ黒に燃えてたんだって!”

 “バケモノに注意! 触ると火傷するらしい。笑”

 “バケモノが神隠しに遭ったって、本当?”

 “弟君の事故、実はバケモノのせいらしいけど、誰か詳細教えて”

 

「弟の事故?」

「くだらぬ噂話はどうでもいい。その次だ」

「えっと……ニュースをそのまま貼り付けてるな。

 “小学五年生の少女、神社で行方不明に。現代の神隠しか?”」

 ウタキが頷く。

「あの黒白の娘が呪力を持っていた理由は、恐らくこれだ」

「待て待て。神隠しと呪力が関係あるの? てか、神隠しって何よ?」

 そこからか、とウタキが呆れた目で見た時、部屋のドアがノックされた。

「アイス食べる?」

 コンビニの袋をぶら下げて、旺太郎が顔を出す。

 ウタキが低い声で命じた。

「食べろ。そしてあのメガネから学べ」

「兄ちゃん、アイスついでに聞いてもいい? 神隠しの事なんだけど」

 旺太郎は目を丸くすると、ゆっくり微笑み、すっと指を三本立てた。

「五時間コース。一日コース。一週間の講義コース。どれがいい?

 ちなみにおすすめは最後の奴で、『遠野物語』から検証した……」

「ウルトラ短い五分コースでお願いしますっ!!」

 大悟が挙手して発言すると、旺太郎は露骨にがっかりし、しおしおと床に座り込んだ。

 

「いただきまーす」

 大悟はスイカの形をした棒アイスを手に取り、雅と葵は初めてのアイスクリームに興味津々だ。

「旺太郎は、鬼の事しか考えていないのね」

「ん? 何か言った?」

「いいえ、何でもないわ」

 旺太郎は何故か正座で座ると、咳払いをして説明を始めた。

 

「ええと、その昔、人が突然行方不明になった時、人々は神様が隠したと考えた。

 それが神隠しだよ。

 まあ、神様とはいうものの、実際には天狗や鬼、狐が隠したって考えられる事が多いんだけど」

 天狗という言葉を聞いて、葵はピクッと動く。

「鬼も子供を隠すの?」

「そう! 僕、立候補しちゃうけどな。だって鬼に会えるんだもん」

「そうだよねー。あっはっはー」

(会うどころか、ちょっと前に鬼に取り憑かれたぜ! よかったな!)

 大悟は心で親指を立てた。

「ちなみに神隠しに遭うのは、女性や子供が多い」

「抵抗力が弱いし、当然よね」

「二度と戻らない事もあれば、数日でひょっこり戻る事もあったらしい。

 そして戻った場合は、大抵神隠しに遭っていた時の記憶を無くしているんだ」

 ふと、大悟は首を傾げる。

「いや、でも、単なる迷子だったりしないの?」

「その可能性はあるよね。だから二日も三日も捜し歩いて、それでも子供が見つからない場合に、

 神隠しと判断してみんなで捜して歩いたそうだよ。

 鉦を鳴らしたり、『かやせ、もどせ』って唱えて歩き回ったりね。

 発生する主な時刻は、夕暮れの逢魔が時」

「逢魔が時って、昼と夜の狭間の怪異に遭いやすい時間……だったわよね?」

「そう。昔から子供は『暗くなる前に帰りなさい』って、よく言われるでしょ?

 あれって神隠しへの警戒心が発生源じゃないかと、僕は思っているんだ」

 大悟は亡き祖父、仁次郎をふと思い出した。

 いつもは優しい仁次郎だったが、

 大悟や近所の子供達が夕方になっても遊んでいると険しい顔で叱っていた。

「あ、そういえば仁じいちゃん、夕方になったら絶対にかくれんぼはするなって言ってた。

 それも同じような事?」

「そのまま“隠されてしまう事”を、仁次郎さんは心配してたんだな」

(あいつが神隠しに遭ってたとしたら……その時、何が起きたんだろう)

 白と黒の髪をなびかせた水影真白の、人を突き放すような目を思い出した。

 

 翌日、学校から帰った大悟は、すぐに自転車で見附市に向かった。

 雅と葵は徒歩で見附市に向かっている。

「くっそー、お前がオレに入れたらひとっ飛びなのにな!」

「何とかあなたの魔除けを消し去りたいんだけどねぇ」

 ペダルを漕いで山道を登るのは、大悟といえども楽ではない。

「いざという時は、お前を呪力で吹き飛ばして山越えさせてやる」

「吹き飛ばすって……お前、オレが人間だって認識ある?」

 ウタキは今、自転車の後ろの荷台に腕組みをして立っている。

 この姿が見えたら、警察に間違いなく止められるところだ。

「んで? 真白ってのが神隠しにあった事と、呪力が使える事に何の関係があるんだ?」

 昨夜、旺太郎と話している間に、あろう事かウタキはいなくなっていた。

 どうせさっさと寝てしまったんだろうが、つくづくよく寝る幽霊だ。

「人間が神隠しとみなした者の中には、異界に渡った者が少なからずいる。

 そしてその者らは、稀に呪力を身につけて人界に戻るのだ」

「えっ? 異界に行くと呪力が身に着くの? オレと類も行ったじゃん! それに雅だって……」

「お前とあの娘は関守の血筋故、呪力は元々持っているはずであろうが。

 それに、必ず呪力が身に着くのではない。あの巻き毛を見れば分かる」

「確かに、類に呪力がある感じはないな。類は怖がりだから、よかったよ。

 鬼が見えたら卒倒しちゃうだろうし」

「呪力を使う“呪術者”には大きく分けて二つある。

 一つは、特異体質として生まれつき呪力を持っている者。鬼の血を引く関守はこれだ。

 もう一つは、修行をする、あるいは異界に渡る事で身に着ける者」

「先天的か、後天的かって事か」

 山道の下り坂。

 カーブを曲がるごとに、ウタキも体を大きく斜めに傾ける。

 それなりに自転車を楽しんでいるのかもしれない。

「真白が異界に迷い込んでたとして、どうやってあっちに行ったんだ?

 オレの時みたいに結界が弱まってたとか?」

「恐らくな。逢魔が時には結界が弱まる。境界が揺らぎ、時折、穴が開く。そこを通って迷い込むのだ。私も何人かそういった者に会い、人界に送り返した事がある」

「じゃあ、真白を人界に戻したのは?」

「さて。私でない事は確かだ」

「本人に聞いてみよう」

「あの娘が覚えているとは思えぬがな」

「なんか謎だらけだなあ。とりあえずオレは、呪力を出せるようになるためのヒントが欲しい。

 何でもいいから教えてもらう!」

「うむ。少し急いでみるか」

「え?」

 ぐん、と自転車が突然スピードを増す。

 ウタキが自転車に呪力を込めたのだ。

 再び登り始めた山道をぐんぐん走り、自動車を追い抜いていく。

「すげー! こんな事できるなら、最初から……て、ちょっ……速すぎ!」

 あまりのスピードにハンドル捌きが追いつかず、大悟は森の中に突っ込んだ。

 

「きゃぁぁぁっ、速いわよー!」

「姫様、全力で走りましょう!」

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