酒呑童子と戦う大悟達は、ある人物が関守石を破壊して鬼の世を作ろうとしている事を知る。
関守石を壊せるのは人間だけで、その人物はウタキに執着する強大な呪力を持つ男だった。
酒呑童子はウタキを手に入れるために、ウタキの大切な人である大悟を殺そうとする。
そんな大悟は闇の中で隈と出会い、彼の力を借りて酒呑童子に立ち向かう。
大悟は自分の腕に浮かぶ呪紋に気づき、使い手としての力を覚醒させる。
酒呑童子は大悟と隈の連携に敗れ、この世の地獄を呪いながら息絶えるのだった。
酒呑童子がツルギの力で異界に送られる瞬間、
大悟は酒呑童子が憑いた少年――赤嶺海斗の闇を見た。
海斗は、人付き合いを上手にこなそうとするあまり、
相手に合わせようと無理をしていて、それが大きなストレスとなっていた。
闇は小さなものだったが、海斗は酒呑童子に選ばれてしまった。
真白のクラスメートである海斗は、真白に近づくためにちょうどいい人物だったのだ。
酒呑童子が異界に帰ると同時に呪界は消え、
大悟達は元のショッピングモールの屋上のカフェにいた。
「真白、眠ってるわ。よかった……」
大悟はホッとして座り込み、雅と葵も座り込む。
倒れた真白は人間の姿に戻っていた。
隈は真白の影の中に戻ったのだろう。
影が僅かに揺れている。
誰もいないカフェを見渡して、ウタキが疲れた声を出した。
「酒呑童子の呪力が残っているな。しばらくここには誰も入ってこれぬだろう」
「あいつ、強かったもんな。今回はマジでやばかった」
ウタキは珍しく床に座り込んでいる。
やはり相当なダメージを受けているようだ。
大悟が心配しながら見ていると、ウタキにジロリと睨み返された。
「で? 鬼と契約だと?」
「真白の闇の中に、隈……その、鱗鬼がいたんだ。
で、酒呑童子を倒す手助けをしてもらう代わりに、今は斬らないって……約束した」
ボソボソとした説明を聞きながら、ウタキの目つきがさらに険しくなった。
「考えがあっての事だろうな」
「……隈は、真白を守ってるんだ」
ウタキは小さく首を振って言う。
「鬼は鬼だ。人が心に闇を持たぬ事、鬼が人の闇に憑かぬ事。それがいかに難しいか……」
残りは溜息で飲み込んだ。
長い年月を生きるウタキが、凄惨な戦いをしてきた事は間違いない。
鬼と人間の現実を嫌というほど知っているのだろうと大悟は思う。
「でもさ」
大悟は食い下がった。
「こいつらはお互いにとっての光なんだ。
それをむしり取るみたいな事……『これは悪い事だ』って決めつけて隈を斬るなんて、
オレにはできない。やりたくない」
ウタキは険しい顔のまま腕組みをした。
鋭い眼差しが反対を唱えている。
「ウタキ、オレは信じたいんだよ。斬っても祓っても、闇は湧いてくる。
だけど、その闇を消す光だって人間は持ってるし、見つける事ができるって」
大悟は必死に言葉を探した。ウタキに理解してもらいたかった。
「ウタキはオレに、ツルギが闇を見せる理由を自分で見つけろって言っただろ?
まだ断言はできないけど……多分、使い手が闇を経験するのは、光を見つけるためなんだ。
闇を知れば、光も見えてくるから。闇が深いほど、光は小さくて弱くなる。
でも、絶対に光はある。オレはそう信じる。信じて、見つけるために使い手はいるんだ」
懸命に言う大悟を、ウタキは黙って見ている。
眼差しからは鋭さが消えていた。
大悟は続ける。
「闇を祓うツルギと、光を見つける使い手の両方がいて初めて本当に誰かを助けられる。
だから一心同体って言われるんじゃないかな」
やがてウタキがようやく口を開いた。
「……昔、ある使い手から聞いた事がある。“使い手は、闇底で光を見出す者”だと」
何故か、遠くを見るような目をしていた。
「ウタキ、オレさ、どんなに深い闇でも光を見つけてみせる。そんで、言ってあげるんだ。
ちゃんと光があったよって。だから大丈夫、闇に負けるなって」
「私も、大悟と一緒に、助けて見せるわ。もちろん……」
「ウチも一緒ですよ」
雅と葵が微笑みを浮かべる。
ウタキは眩しそうに目を細めて三人を見返すと、真白に視線をやる。
影の中から隈が心配そうに顔を出していた。
それに反応したのか、真白が目を開けた。
「これ以上は言わぬ。使い手はお前だ」
ウタキの横顔が、僅かに微笑んでいるように見える。
「え……じゃあ」
「ただし。もう二度と迷ったままツルギを使うな。こちらの身がもたぬ」
いつも通り淡々とした口調だが、ウタキなりに大悟を認めたという意味だった。
大悟は跳び上がりたいほど嬉しかった。
「……大悟?」
真白が不安そうに大悟を呼ぶ。
大悟は真白と隈にニカッと笑ってみせた。
「酒呑童子は異界に帰したよ。隈が手伝ってくれたんだ」
「え? 隈が?」
隈は真白の影から目だけを出している。
「隈。約束通り、鬼だからってお前を斬る事はしない。
でも今後もしも、真白が自分の闇を制御できなくなったり、お前が暴れたりすれば斬る。
真白も、それは分かってくれ」
「分かった。隈は?」
隈もコクリと頷いた。
「なあ、真白は隈を調伏したって事になるのか?」
「調伏っていうのは、力でねじ伏せる事よ。
でも、名前を与えるのはそいつを受け入れ、導く行為よ」
「導くって……教えるみたいな事?」
横から聞いた真白に、雅は問いかけた。
「その覚悟はある?」
「――ある」
力のこもった真白の返事だった。
隈が影にするりと潜っていく。
これからも影から真白を助けるのだろう。
頼むぞ、と大悟は心で声をかけた。
「せめて、真白の闇だけでも祓えたらよかったんだけどな」
大悟が言うと、真白は首を振る。
「これでよかったんだ。闇はもう、私の一部だ」
「なあ、真白」
真白の闇を経験した大悟には、伝えたい事があった。
「あの事故は、真白のせいじゃない」
「――!」
「真白は悪くない」
きっぱりと言った大悟を真白はじっと見つめ、そして深々とした溜息をつく。
「生意気なんだよ」
真白が笑った。
それは、彼女が初めて大悟達に見せた、笑顔だった。
真白と別れ、大悟、ウタキ、雅、葵はバス停にいた。
とてもではないが、歩いて帰る元気はない。
ベンチにへたり込んだ大悟の中に、ウタキはさっさと入ってしまった。
「背中の魔除けが消えて、本当によかったわ」
『私も深手を負ったのだ。しばらくお前の中で休ませてもらう』
「なあ、オレにも呪紋が出たって事は、呪力を出せたって事だよな?」
大悟は、既に呪紋の消えた自分の腕を見る。
『お前の呪力は、恐らく“共鳴”だ』
「きょーめー?」
『同意し、同感し、心を沿わせた果てに相手の力を増強する』
「え? 相手を強くする? それだけ? オレはどうなるんだよ?」
『知らぬ。私に聞くな』
「え~……」
空を飛んだりしたいんだけどなぁ、と大悟は心の中でボヤく。
「あ、そうだ。隈が真白から名前をもらった途端に強くなってたんだけど。あれってなんで?」
「魂が安定したみたいよ。安定した魂が力を生むのは必然ってね」
「へー、名前ってすげーんだな」
「名は魂を守護する。“名付ける”とは、呪術的関係を結ぶ事よ。だけど、人と鬼って……」
「信じようぜ。真白が自分の闇を“調伏”できるって」
『闇の調伏、か。易くないぞ』
ウタキが渋い声で言った時、バスが来た。
バスのシートに座った途端、強烈な眠気に襲われて大悟は目をゴシゴシとこすった。
『初めて己の呪力を出したのだ、消耗は激しかろう』
「ま、当然だよな」
そう言いつつ眠りに引きずり込まれそうだ。
どうにか意識を保ちながら大悟は聞いた。
「酒呑童子が言ってた“あいつ”って誰だ?
そいつが守りの大岩……関守石を壊した犯人なんだろ?」
『そうだ』
「だけど、相手が誰だろうと私達がやる事は変わらないわ。ね、葵?」
「当然です」
大悟達は鬼を斬り、人の闇を祓う。
そして、光を見つけるのだ。
「何とかなるだろ。オレ達一人じゃないんだし。雅と、葵もいるしな」
ふっと笑うウタキの息遣いが聞こえ、大悟は改めてウタキ、雅、葵が傍にいるのだと実感する。
『大悟、今は眠れ』
深い安堵に包まれて、大悟は眠った。
雅と葵も、ぐっすり眠りにつくのだった。
これにて「鬼を切れ!」は完結です……というよりも、打ち切りです。
2巻が出てから1年経過していますが、未だに3巻が出ていない以上、
「鬼切の子」は2巻で打ち切りになった、と言っていいでしょう。
「鬼切の子」が打ち切りになった原因は、この2つと結論しました。
・児童書はモラルを重視するため、刺激がある少年漫画をよく読む男の子にはウケない
・女性キャラが非常に少なく、その扱いも悪い
前者は児童書が女の子向けに偏っている最大の要因だと私は思っています。
児童書は「子供に悪影響を及ぼさないように」とモラルを重視しているので、
刺激がない作品が大半で、それが女の子向けに偏るのかな、と私は思っています。
なので流石に「ブラックラグーン」や「龍が如く」のような世界観は無理ですが、
私は、児童書にはスパイスすなわち刺激を入れるべきだと断言します。
料理は塩やレモンのように引き締める味があってこそ、料理ですからね。
後者は他の作品と比べてしまいますが、「ドラゴンボール」も「鬼切の子」と同じく
女性キャラが少ない(少なくとも原作漫画では)ですが、それでもしっかり目立っていました。
ブルマは科学者の娘として孫悟空達をサポートしていましたし、
チチ、人造人間18号、ビーデルなども、孫悟空やその仲間に引けを取らない活躍をしていました。
対して「鬼切の子」の女性キャラは、全員が「主人公の引き立て役」です。
1巻で登場した主人公のクラスメートは主人公が助けてからそれっきりですし、
女性教師も鬼が取り憑いていてそれを主人公が助けますし、
2巻では呪力を持った女子高生が登場しましたが、彼女が再登場する見込みはありませんし、
もちろん、主人公と一緒に戦ったり、競い合ったりもしませんでした。
結論として「鬼切の子」は「日本の伝説と伝統は女性の扱いを悪くする」典型的な例でしたね。
歌舞伎じゃあるまいし、と私は原作者に対して勝手ながらも失望しました。
もしも主人公が女戦士だったら、確実に長続きしていたと思いましたが、
まあ、児童書にそんなキャラは滅多にいませんし、仕方ないですよね。
以上、あとがきなのに批判ばかりで申し訳ありません。
だからこそ、私の二次創作の原動力が増えるので、
逆に意欲をつけてくれてありがとう、と原作者に言っておきます。
では、私の次回作を、楽しみに待っていてください!