鬼を切れ!   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

大悟が一つ目の怪物と戦っているところに、人間の姿をした大きなカラスが現れる。
カラスは一つ目と戦い、大悟を守るが、類が現れ、一つ目は類の体を乗っ取る。
カラスは大悟に、類が鬼になった事を告げる。
大悟は助けを求めるがカラスは一人では鬼を倒せないと言い、一つ目は霧の中に消えてしまった。


3~関守のツルギ

―ギイイイイン!!

「があっ!」

 大悟の耳を突然あの音が襲った。

 先程までの澄んだ音ではなく、金属を引っ掻くような不快な音だ。

 大悟と女性は、両手で耳を押さえた。

「なんなんだよ! うるせえ!」

「不快な音ですね……」

「まさか、お前達……」

 少年が歯を食いしばって上体を起こす。

「音が聞こえるのか」

「音? このキーンって奴?」

「そうか……聞こえているんだな。であれば、あの人間を助ける方法がある」

「本当か!? 頼む、やってくれ!」

「お前にとっては危険な方法とも言える。それでもいいか」

「えっ?」

「大丈夫ですよ、ウチは慣れてますから」

 危険と言われて一瞬戸惑ったが、大悟の中で答えは決まっている。

「やってやらぁ! それで類を助けられるんだろ?

 あいつだけが犠牲になるのを黙って見てるなんて、オレがオレを許せねえ!」

「よかろう。では、お前の名前を私に渡せ」

「はい?」

「……そうね。これは『契約』っていうものよ」

「契……約?」

「名前を知る事で私はお前に入る事ができる。

 私は肉体を得て呪力が強くなり、ヤツを倒す事ができる」

「オレに入る? ちょっと待て、やっぱりお前も鬼なわけ?

 オレの体を乗っ取ろうっていうのか?」

 お面から見える少年の口が、言葉を探して小さく動く。

 しかし、すぐにぎゅっと口を引き結んだ。

 烏面に手をかけると、押し上げて素顔を晒した。

「どうだ。鬼に見えるか」

 現れたのは、燃えるような黄金色の瞳を持つ少年だった。

 大人びた雰囲気なのは銀色に光る長い髪のせいだろうか。

 見たところ、ツノはなさそうだ。

「鬼には見えないけど……人間にも見えない」

 ここまで大悟を助けてくれた少年だが、あまりに鬼と似ている。

 体に触れない事も、呪力を持つ事も、腕の模様も。

 それでも大悟は少年の言う『方法』に賭けるしかない。

「分かった。名前を言う」

 少年がふっと笑った。

 残念だけど嬉しそうな、複雑な笑い方だった。

「これも我らの宿命か……。私も覚悟を決めよう」

「そうですね、姫様も困っているようですし……」

「何をブツブツ言ってるんだよ。

 いいか、もしも類を助けられなかったらオレは全力でお前に仕返しをする。

 子供だからって甘く見るなよ。絶っっ対に類を助けろ!!」

「約束しよう」

 烏面の少年がきっぱりと言ってくれたおかげで、大悟も腹を括った。

 

「オレの名前は……如月大悟」

「確かに受け取った」

 少年が頷いた途端大悟の視界がぐにゃりと揺れた。

 背中に暖かなものが触れ、そこから全身へと流れ込む。

「うへ、ゾワゾワする」

 指先まで入り込んできた感覚に身をよじっていると、頭の中で少年の声が響いた。

 

『うん……。まだ少し重たいが、悪くない』

 気が付くと、少年の姿は目の前から消えている。

「あれ? お前どこに行ったの?」

『お前の中だ。私が力を加減しているから喋る程度の自由はあるが、肉体の動きは預かるぞ』

「は? どういう事……」

『時間がない。いくぞ』

 大悟の意志に関係なく、体が勝手に立ち上がって歩き始める。

「変な感じだな、おい!」

 大悟の五感ははっきりとしているのに、体を動かす事が全くできない。

 乗り物の中から景色を眺めているような気がする。

『境界を越えるぞ』

 大悟の体が大岩の横を抜ける。

 霧に突っ込んだように視界がぼやけ、すぐに晴れた。

 

「ほー……これが憑依現象ですか」

 女性は、少年が取り憑いた大悟を見て、そう言葉を漏らしていた。

 

 そこは、元いた鎮守の森、守りの大岩の脇だ。

 ひんやりした森の空気が心地いい。

「戻った……。類はどこだ?」

『気配が残っている。真っ直ぐ行ったな。町に下りるつもりだろう』

「行こう!」

『その前に探し物だ。お前の友人を救う方法を手に入れる』

「ウチらも行きます!」

 耳を澄ますと、キン、とあの音がした。

『ほう……これがツルギの呼び声か。お前に入ったおかげで初めて聞けた』

 奇妙な事を言うと、少年は大悟の顔を上げて大岩を見る。

『なんだ、こんなに近くで眠っていたか』

 烏面の少年が嬉しそうに呟くと、大悟の腰がぐっと沈んだ。

 次の瞬間、大悟は大きくジャンプしていた。

 驚異的な速さでぐんぐん上昇する。

 ようやく勢いが止まった時には、山を見下ろすほどの高さになっていた。

 続いて、女性も精神を集中すると、高く、高く飛び上がった。

「オ、オ、オレ飛んでる!!」

「何を言うてるんです? 憑依したんやから当然ですよ?」

『この娘の言う通りだ。……長くは無理だがな』

 少年と女性の言葉と共に、大悟の体は空中でくるりと回転する。

 頭を下に向け、そのまま落下を始めた。

「落ちる落ちる落ちる落ちる!」

 みるみる近づく地表に見えるのは、守りの大岩だ。

 大悟の手が拳を作り、肘から後ろへと引く。

「この体勢ってまさか!」

『いくぞ』

「オレの手で大岩を砕くつもりか!?」

「どうしたんです? もう壊れていますよ?」

「そういう問題じゃねっ!!」

 大悟が叫ぶのと、拳が大岩に激突したのは同時だった。

 土煙を上げて……岩は左右に転がり、断面を天に晒した。

 大悟の体は割れた岩の間で拳を地面に突き立てていた。

 そして、ゆっくりと立ち上がると、その拳についた土を、ふっと吹いて払う。

「い、痛くない?」

 不思議に思う大悟のすぐ傍には、銀色に光るものがあった。

「岩の中に……刀?」

『ツルギだ』

「そうですね。理想郷にもありますがね」

 光っているのは銀の柄だった。

 柄から伸びた刀身は、地面に深々と刺さっている。

―キイイン……

「あっ、この音!」

 ツルギから聞こえる音は、大悟がずっと聞いていたあの澄んだ音だった。

「これが音を出していたのか」

 少年はツルギを手にすると、一息に引き抜く。

 途端、音が止んだ。

 

『久しいなあ、申の太刀よ』

 返事をするように、ツルギは月光を反射し輝いた。

 大悟の手にしっくりと馴染む。

 ふと、女性が岩の足下に落ちていた注連縄に気づいた。

「なあ、これ……アンタが切ったんですか?」

「ああ」

「ホンマに間抜けですね」

「うぐっ」

 女性に毒舌を吐かれた大悟は、自身の手で切断した注連縄の両端を握る。

 手の中で青白い光が放たれ、荒縄は元通りに繋がった。

 さらにさっと横に手を動かすと、

 信じられない事に割れた左右の岩がゆっくりと立ち上がってきた。

「すげえ……」

「アンタは初めてですから、驚くのは当然でしょう」

 呆然とする大悟の目の前で大岩はぴったりと合わさる。

 注連縄がするすると岩に巻き付いて、

 うっすら割れ目が残る以外は、以前と変わらない姿となった。

「おい、まだ割れてるぞ?」

「封印は既に解かれとるみたいですね」

 女性は、岩の裂け目に手をそっと置く。

「もうすぐ……夜が明けますね」

 見上げた空はいつの間にかうっすらと青く、夜明け前の色だ。

『ヤツはこちらに出てきたばかりで光には弱い。日が登れば隠れてしまう』

「それまずいだろ」

『心配するな。鬼がまだ近くにいる気配がある』

「このツルギで、鬼を殺すのか」

『あの子供の肉体から鬼を剝がすのだ。お前の肉体とこのツルギがあればできる』

「オレの肉体と……ツルギで? 剝がす?」

『この私がお前の体を動かす。案ずるな』

「ウチもこう見えて戦えます。アンタ一人じゃありません」

 女性の言葉に嘘偽りはなかった。

「なんかよく分かんねーけど、とにかく急ごう!」

『言われるまでもない』

「では、参ります!」

 そう言って、大悟と少年、そして女性は類に取り憑いた鬼を追いかけるのだった。

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