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それが異常だと分かる様になったのは、まだ少年が小学生という幼い年齢の頃だった。
物心ついた時から、やけに色んな所が良かった事をよく覚えている。
遠くのものがよく見えて、他の皆が見えないと言うものは基本的に鮮明に見えていた。
色んな音がよく聞こえて、他の皆が聞こえないというものは基本的に聞こえていた。色んな音を聞き分ける事だって出来た。
食べ物の味がよく分かり、他の皆が美味しい不味いというものを具体的に理解出来た。一つの味から別の味を引き出す事だって出来た。
色んな匂いがよく分かり、他の皆には分からない様な匂いも基本的に嗅ぎ慣れていた。匂いを嗅ぎ分ける事だって出来た。
色んな事でよく泣いて、他の皆が平気そうなものや怪我は基本的に全てが痛かった。小さな風だけで人がどう動こうとしているか察知する事だって出来た。
変に勘が鋭くて、他の皆が分からない様なクイズもサプライズも基本的に全て分かった。勘が働いて体が先に動く事だってあった。
人の心や感情がよく分かって、他の皆の中で楽しいと言いながらも楽しんでいなかったり、楽しくないと言いながらも楽しんでいる人達の事も読み取れた。微妙な仕草から感情を察する事だって出来た。
少年が持つあらゆる『感覚』は、常人のものに比べればあまりにも『完全』だった。
少年は、自分が他の皆とはまったく違うのだと理解するのが早かった。
まだ幼い子供ながらに、自分が他の皆とは『感覚』が完全にズレていて、もはや『普通』という域から自分が逸脱してしまっているのだと理解してしまった。
学校に行くのを辞めたのは、その辺りからだった。外に出ない様になったのは、その辺りからだった。親と顔を合わせなくなったのは、その辺りからだった。
だが、残酷な事に。それでも変わるものは何一つとしてなかった。
部屋を暗くしてもよく見える世界。部屋に篭ってもよく聞こえる外の声。何をしても、何もしなくても、少年が苦痛から逃れる事なんて出来なかった。
それでも、親は少年を助けようとした。親にとってそれだけ少年は大切だったからだ。例え自分の子供から拒まれようと、必ず助けようと。
扉越しから話し掛けてくれる。
工夫してご飯を作ってくれる。
毛布を持ってきてくれる。
耳栓やイヤホンを持ってきてくれる。
サングラスを持ってきてくれる。
とにかく、色んな事をしてくれた。色んな手助けをしてくれた。少しでも少年の苦痛を和らげたいと願い、手を差し伸べてくれた。
少年にとっては、鬱陶しいものだった。けれど、それでも親は手を伸ばし続けた。二人には少年を見捨てるという選択肢なんて存在しなかったのだから。
鬱陶しいものは、いつしか疑問へ。その疑問は、いつしか喜びへ変わっていった。
二人はこんな自分を受け入れてくれる、どんな自分も認めてくれる。少年がそれを理解するまでに数年もの時間を要したが、それでも二人は少年を見捨てず、そして数年ぶりに部屋から出た息子を優しく抱き締めた。
その暖かさを、少年は今もよく覚えている。忘れる事なく、憶えている。それが、少年に前を向かせる理由の一つとなった。
その時はまだ――――――それが壊れるなどと、少年は考えてすらいなかった。
「あ……えっ……?」
―――赤。
赤、黒、赤、黒。目の前に広がる光景は、とにかく凄惨なものであった。
建物は皆崩れ、泣く子が物言わぬ肉塊に必死に呼び掛けている。それを引っ張る者、それを置いていく者、その場に泣き崩れる者、それと共に逃げる者……とにかく様々な人間が、悲惨たる現実を叩きつけられて叫んでいる。
そして、少年の目の前にもまた、物言わぬ肉塊が二つとあった。少年を庇う様に抱き締めたまま朽ち果てた屍が、その命を枯らして尚も少年の事を守り続けていた。
―――冷たい。なにも、なにも感じない。
あの時の暖かさは何処にもない。あの時の笑顔は何処にもない。ただ目を見開き、口から血を零し続けるだけのモノしか居ない。
「――――――――――――――――――――――」
するり、と。少年が少し動いただけで、モノは力なく少年を手放した。
そして、
お、まえが。
おまえが。
オマエが。
お前が。
お前がお前がお前が。
お前がお前がお前がお前が。
お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前が――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お前がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫ぶ。声の限り、喉が壊れん限りの怒号を飛ばす。
憎悪が滾る。己が身体を燃やさんばかりの憎悪の炎が、少年を突き動かした。
たった二つ、たった二人。他の誰よりも逸脱してしまっているであろうバケモノを、他の誰よりも異常であろう怪物を、自分達の息子だと言って優しく抱き締めてくれた二人を奪った塵芥。
生かしてなるものか。このまま逃げてなるものか。コイツを殺さなければ―――此処で殺さなければ、死んでも死に切れない…………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
少年の目には、ただその怪物だけしか写っていなかった。
周囲に倒れる屍の事など眼中にはなかった。ただ憎悪に支配されて、それに突き動かされていただけに過ぎなかった。
だから、それは無意識だったのだろう。
「―――――――――あァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
憎悪に支配されながらも―――周囲に斃れる屍の一人が握り締めていた一振りの剣を取って、立ち向かったのは。
これが、少年の―――ボーダー隊員「
『完全感覚』
SEの到達点とすら呼ばれるサイドエフェクト。五感は勿論の事、五感に当てはまらない超越した感覚である第六感の強化の他、様々な『感覚』が強化されている。