不完全な完全   作:全智一皆

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第一話「戦前」

 

■  ■

「C級でトリガーを現場使用し、違反者としてクビ扱い……厳しいが、正しい判断ではあると思う」

「手厳しいねー」

 

 ボーダー玉狛支部、屋上にて。

 パーカーの上にジャケットを重ね、厚めのジャージに軍人を彷彿とさせるタクティカルブーツ、黒塗りのサングラスを掛けた青年―――草薙天之は、同じボーダー所属の仲間にして同期である迅悠一から聞いた話に、迅から貰ったぼんち揚を食べながら答えていた。

 三門市にある中学校で(ゲート)が発生し、その場に居合わせたC級隊員が規定を無視してトリガーを使用し、近界民(ネイバー)を倒し、生徒達を救ったという話だ。

 それは確かに立派な行動だ。人として正しく、善き行動であると言えるだろう。しかし、ボーダーとしては立派な規定違反に他ならない。例え人命が掛かっていたとしても、それはそれで、これはこれという事だ。

 天之としては、ボーダーの行動を間違っていると言うつもりはない。彼からしても厳しいとは思うが、仕方ない事だ。規模が大きな組織であるが故に、それは徹底しなければならない。

 だが―――それは、ボーダー隊員としての意見である。

 

「俺個人としては、助けてやりたいな。その彼は正しい事をした、それが報われないのは腹が立つ」

 

 一人の人間、草薙天之としては、是非ともその少年を手助けしてやりたいという気持ちが強くあった。

 

「……何もかも守れなかった俺と違って、人を守れたんだ。それは立派な事だ」

 

 天之は、過去に近界民(ネイバー)によって大切な両親を失った。

 『完全感覚』などというサイドエフェクトによって、自分が他の誰よりも逸脱した存在であると子供ながらに理解してしまい、塞ぎ込んでしまっていた彼を受け入れた唯一無二の存在を。

 力無きが故に失った。戦えなかったが故に失った。

 だが、少年は違った。実戦なんて経験した事も無いにも関わらず、ルールを破ってまで本来なら死ぬ筈だった多くの人間の命を救ったのだ。

 正しく、最善の選択だったと天之は断言する。だからこそ、自分に何か出来るならそれを手助けしたいと言ったのだ。

 

「うん、お前ならそう言ってくれると思ったよ」

「サイドエフェクトがか?」

「いや、おれがそう思ったんだ」

「そうか。なら文句はない」

「サイドエフェクトだったら文句言うつもりだったの……?」

「『俺のサイドエフェクトがそう言ってる』……それで人を判断するのは失礼だろ。正直、かなり不快だ」

「あはは……そりゃ申し訳ない」

 

 サイドエフェクトの事になると、天之は感情的になる。迅もそれは知っている。迅もまた、そのサイドエフェクトに悩まされてきた人間の一人だから。

 『未来視』―――目の前の人間の少し先の未来を見ることが出来るという、『超感覚』に分類されるサイドエフェクト。

 確定した未来と不確定の未来。その二つを見る―――いや、見させられてきた迅の過去もまた、天之に負けず劣らずのものの筈だ。

 互いにそれを理解しているからこそ、互いにそれを味わっているからこそ、二人は特別な間柄である。

 

「今後気を付ければいい。それで、俺は何をすればいい?」

「そうだなぁ……実を言うと、天之はどっちにしたっておれと戦うんだよねぇ」

「は? お前に協力しているのに、何故お前と戦う事になっているんだ?」

 

 天之は本気で首を傾げた。

 迅の言動からすれば、流れは完全に天之にその少年のクビをどうにかする為に協力してほしい、という頼みだと簡単に予測出来た。

 だが、それからいきなり方向性が180度変わって、迅と敵対する事になっている。しかもどちらにせよ、と言っていた。

 つまり、迅が見ているどの未来でも、天之は迅と戦っているという事だ。

 

「多分、その子の友達が原因かな。それで争ってる」

「……ますます訳が分からないな」

「こればっかりは、おれも手の打ちようが無いって言うか。天之の根本に関わる問題だからな」

「……なら、なんで俺に話した。視えていたなら、回避出来ただろ」

「いや、お前にはちゃんと話しときたかったんだ。嘘吐いてた方が酷い未来になってたってものあるけど」

「お前だけじゃなく玉狛を斬り捨てる、とかか?」

「おぉう……めっちゃピンポイントで当ててくるじゃん」

「いつもの勘だ。俺がそこまでの愚行に及ぶという事は、大方近界民(ネイバー)関連だろう……頭では、分かっているつもりなんだがな」

 

 あれから何年もの時間が経ったが、それでも衰える事を知らない近界民への憎悪。未だに燻り続けている復讐の炎。

 天之にとって、近界民とは家族を奪った怪物だ。大切な二人を奪った化け物だ。だが、決して全てがそうではないと頭では分かっている。

 玉狛に拾われてから、ソレを知った。近界民全員が、自分が憎む様な存在ではないのだと。

 だが、それを分かっていても尚―――ソレは消える事を知らなかった。

 

「…天之、無理に玉狛に合わせようとする必要はないんだぞ。お前は……」

「俺も折り合いが必要だと分かっているから、努力しているんだ。無理に合わせている訳じゃないさ。心配は無用だ」

「そっか……なら良いんだ」

「……さて。どちらにせよ争う事になるのなら、俺は協力しない方が良さそうだ。本部で時間を潰す事にしよう」

「ごめんな、せっかくやる気出してくれたのに。ぼんち食う?」

「ありがたく貰おう。うむ……気にするな。まぁ、やられない様に頑張ってくれ」

「うわー、煽りなのか応援なのか分かんない言い方するなぁ」

「お前が相手なら、俺も手加減はしないだろうからな」

 

 そうして、時は進み―――二人は、相対する事になる。

 そして、天之は知る。迅が言う近界民が、かつての仲間の友人の息子である事を。

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