エロゲーオブザデッド (仮) 作:にーと戦士
性指導員(二番煎じ)のオッサンを制圧した後。
事情を聞いてみると、やはり“猿にも出来る。簡単催眠術! ”という本を購入し、催眠術を習得していた様だった。
しかも習得にかけた時間はおよそ十五年。
青春の全てを捧げ、発声トレーニングや腹式呼吸なんぞも行い、朗読コンテストで最優秀も受賞したこともあるとか。
馬鹿だ……。
才能の無駄遣いの馬鹿がいる……。
その努力と才能をなぜ正しい道に活かせなかったのか……。
いや、催眠術とかいうチートを得られるなら十五年かかっても納得ではあるけども。
何せ催眠術があれば全てが自分の思うがまま。
富、名声、女……この世のありとあらゆるモノが手に入る魔性の能力。
それが手に入るとするなら、十五年どころか倍の三十年かけても欲しいと思う人間は腐る程いるに違いない。
まあその分習得するハードルは高い。
催眠術を会得するまでに長い時間が必要な上、個人の才能に左右される。
場合によっては一生をかけても不可能だという人もいるだろう。
そう考えると、田島の一年で催眠術を習得したってのは割と偉業だったんだな。
なんでこんな馬鹿本をマトモに信じて練習するトンチキが何人もいるんだ……。
操作系って言ったらフツー理屈屋でマイペースだろ。
目標を決めたら真っ直ぐ進むのは単純一途の強化系なんだよ。
という訳で。
色々と情報を聞き出した後、性指導員のおっさんは催眠術を封じた上でリリースした。
これからはマトモな人生を送ってくれ。
「藤村」
昼休み。自販機からお茶を購入していると、後ろから声をかけられた。
話しかけて来た人物の名は花村希(ハナムラノゾム)。
時間停止能力者であり、性癖が女体盛りとわかめ酒の男だ。
そういや、こいつも催眠術かけてたんだっけ。
催眠術は上書きが出来ない。
一人の人物に対し、催眠が出来るのは一人まで。
催眠術は早い者勝ち。
おっさんの催眠術は俺の催眠術に弾かれ、無効化されることになる。
つまり花村は素面のまま、性指導員(笑)の指導を見届けていた。
そら気になって話しかけて来るわな。
「いたんだな。お前の他に催眠術師が……」
「ああ、これで三人目だ。一体どうなってんだか。この街の治安終わってるよ」
「待て、詳しく話を聞かせろ」
ずい、と身を乗り出して突っ込んで来た花村。
落ち着け、と手で押し出す。
不都合なとこは省き、催眠術の下りを最初から話し、現状に至るまでまるっと説明した。
「厄介だな。その催眠術を防ぐ方法はあるのか? ……いや、既にあの時、僕には催眠術が効いていなかった。つまり他との違いは……ああ、なるほど。催眠は重ねがけ出来ないのか」
爆速理解された。
察しがいいな此奴。
俺が答えを教える前に、自分で正解に辿り着いたぞ。
「じゃあ藤村は自分に催眠術をかけて防いでいるのか? 自己暗示も可能とは、凄まじい応用性があるな」
「いや、俺の場合はちょっと特殊で……」
情報を濁そうとして、はたと思い直す。
花村には既に催眠術をかけている。他言無用の縛りさえ結べば、俺の情報を開示してもいいだろう。
その為には転生した事も話す訳だが……まあこれについては信じられなくても構わない。
「『絶対誰にも言うなよ』」
と、自然な流れで催眠前置きを一つ。
「俺は神様転生した転生者で、チート能力を貰った。んで、そのうちの“ステータス”という異能で育てた精神耐性LvMAXで耐えた」
「そうか。それは便利そうだね」
あっさりと流された。
嘘を言われたと表情に疑念が混じることなく、純粋に事実を受け止めている様子。
「あー神様転生だぞ? 電波女とか思わないのか?」
そう言うと花村は鼻でフッと笑い。
「時間停止や催眠術が実在するのに今更だよ」
それは確かにそうだが。
親にも喋ったことない秘密を初めて喋ったが、こうもあっさり受け止められると、釈然としないものがある。
ちょっとしたモヤモヤを抱えていると、花村はそんな俺を気にせずペラペラと喋り出す。
「むしろ、どの体系の神が転生させたか気になる。やっぱり閻魔大王の元ネタになったインド神話の閻魔(ヤマ)か? それとも中国の女神孟婆(モンポー)? ……いや、孟婆は前世の記憶を忘却をさせるから違うか」
転生・輪廻という概念はあるのに、特にこれといった司る神様がいないからなぁ、と呟く花村。
ごめん、俺そんなに詳しく無いから着いていけない。
「どんな見た目だったか分かる?」
先程まで催眠術について憂慮していたのに、目をキラキラと輝かせて質問を投げかけてくる。
こいつもしかしなくても神話好きなのか。
割とマイナーな趣味してるな……。
うーん、どんな見た目をしていたか、ねぇ。
「覚えてない」
「……どんな顔、声、身体つきをしていたとか」
「まーったく、なにも」
「男神とか女神とかですらも?」
記憶にございません。
薄ぼんやりと転生時に喋った記憶があるんだが、思い出そうとしても霧がかかったようにその姿を思い出せないんだよなぁ。
男といえば男だった気もするし、女だったと言われれば、女だったかな? と思う。
ステータスの異能で習得出来るのって、今世に纏わるものだけなのだ。
前世知識なんて、薄ぼんやりとしか覚えてない。
よって、神様の情報は何にも分からない、ということだ。
おう、だからそんな期待はずれだ、と言わんばかりにデカイ溜め息吐くのは辞めろよな。
「転生する経緯とかはどうだったんだ?」
「それも覚えてない」
「……言いたくなければ、構わないけれど。転生と言うからには前世では死んだんだよな。前世の死因って覚えている?」
「そんなの覚えているに決まって……」
あれ? 俺ってなんで死んだんだっけ?
俺は前世で成人した男性だった。
社会人として働いた記憶もある。
それで……。それで。
どんな風に死んで、どんな最期を迎えたのか、ぽっかりと穴が空いたように記憶が無くなっている。
「覚えて、ない」
「それ本当に神様だったのか怪しくなってきたな。だが死んだ瞬間の記憶なんてPTSDになっても不思議じゃないし、サービスで取っ払ってくれた可能性もあるのか?」
……それは、そうかもしれない。
それに転生なんてとっくのとうに過去の話。
今更蒸し返した所で、なにか分かるわけでもなし。
トラウマとなる記憶がない分、ヨシとしよう。
「そういえば聞いてなかったけど、花村はどうやって時間停止能力を使えるようになったんだよ」
「あー……、いつの間にか使えるようになっていたとしか言いようが無い」
「キッカケとかないのか? 催眠術本ならぬ、時間停止本を見たとか」
ない、と花村は答えて。
それから苦々しい表情で「薔薇売りの指示の後、毛むくじゃらの手で僕のケツを撫で回された悪夢は関係ないだろうし……」と、小声で呟いていた。
聞き耳スキルを使わなくても発言はシステムログで見えるんだが、本当に関係なさそうだった。
なんだその悪夢。
それから花村はうーん、と悩んで。
「あ、いやそうだ。神社でお参りした後か」
ポン、と手を打ち、思い出した思い出したと発言する花村。
「どこの神社なんだ?」
「下真白(シモマラ)町の神社と言ったら真白(マラ)神社しかないだろ」
何言ってるんだ、と首を傾げてくる。
相も変わらず、どっちも酷い名前だ。
そう。実は我が住む町の名前は下真白と書いてシモマラと呼ぶのだ。
そうはならんだろ。
と、突っ込むべきなのだが、実際そうなっているので……まあはい。
転生当初は変な地名だなー。で済ませて来たが、こうもエロゲーみたいな出来事が目白押しだと察するものがある。
シモマラって要するにシモ(下半身)+マラ(男の逸物)の組み合わせだからな。
最低に最低を重ね合わせてド最低の町名の出来上がりだ。
オマケに男根信仰の真白神社もある。
ストレートにスケベすぎる……。
そんな神社に参拝して手に入れた能力があるとか、更なる厄ネタの匂いがプンプンするぜ。
「うーん、まあ僕が祈祷した願いって真田のアレが不能になりますように……だから、やっぱり余り関係なかったかも」
復讐するにしても、願いが陰湿。
男根関係の神社で願う分には正しい願いっちゃ願いかもだが。
ちなみに、祈祷と祈願では全く違う。
祈願が普通の賽銭箱にチャリンって小銭を入れて願う簡素な参拝。
祈祷は神職や僧侶などの専門家が、自分の願いを代行して神仏へ取り次いで祈るガチな方法である。
良く不能の祈願を了承したなその人物……。
普通百人の神職に尋ねても百人が無理だと突っぱねる内容だぞ。
だがまあ、やはり。関係は無さそうだ。
逸物神で時間停止なんて権能的に別枠にも程があるしな。
催眠術師はポンポンリポップしてくるが、時間停止能力者は未だに花村一人だけ。
本当に突然変異で目覚めたんじゃなかろうか。
「とりあえず、今分かる情報はこんなモンかな」
んじゃ、と手を挙げてその場を立ち去ろうとして。
「待ってくれ。その催眠術を……僕の家族にもかけて貰うことは可能か?」
ーーやっぱりそうなるよな。
催眠術師が俺一人だけなら、その発想には至らなかっただろう。
だが他にも催眠術師がいるとなれば話は別。
己の大切な家族に危害が及ぶかもしれない。
そんな折、対策を取れるのに放置など、マトモな人間ならするハズも無かった。
けれど、俺の答えは初めから決まっている。
「無理だ」
「……そうか。……ちなみに、その催眠本を僕に譲って貰うことは?」
「結果的に同じことになるなら、尚更渡すわけないだろ」
その言葉に、花村は頷いて。
「僕が時間停止を数回しか実行しなかったのも、同じ能力者がいる危険性を考慮して、だ。必要最低限の復讐を済ませた後は、自ら封印する気でいた」
「それが分かるなら、俺の言いたいことも理解出来るよな」
「ああ。……ごめん、無理を言った」
頭を下げて謝罪して来た。
その姿に思うところがない訳じゃない。
俺だって意地悪したくて言っていないんだ。
際限なく保護してしまえば、真に大事な俺の家族すら守りきれるか怪しくなるのだ。
だから俺は敵対する人物以外、催眠術をかける気はない。
俺だって転生チートがあるとはいえ、ただの人間。うっかりで取り零したがあるかもしれない。
だからこそ、一番大事な家族が最優先なんだ。
改めて決心が俺の中で付いた所で。
「それはそうと田島とやらが性指導員の事を騒ぎ立てていたがアレは放置してて良いのか?」
田島ァ! そういやお前も催眠してたわ!
この後めちゃくちゃ催眠した。
ちなみに花村が体育館で動かなかった理由。
「時間停止十秒程度でどうしろと?」
「いやまあ、ほら……おっさんを気絶させるとか」
「僕が……まあ無理だが、仮に武術の達人で、数秒で気絶させて首尾よく元の座っていた位置に戻れたとしよう。何度も偶然、たまたま上手く行き。今後全ての行動を阻止出来たとしよう。……そしたら犯人探しが始まるだろ」
「確かに」
「藤村が催眠されていたら、その実行犯が僕だということが丸わかりだろうし詰み。そもそも、あの時点で男の配下となって時間停止中制圧される可能性が高い。僕も殺人までしたくないし、とっとと家族を連れてこの町から逃げ出すよ」