エロゲーオブザデッド (仮) 作:にーと戦士
「いらっしゃいませー」
からんころん、とドアベルが鳴る音を聞きながら入店する。
お好きな席へどうぞー、と促され、お気に入りの窓際席が空いてあるか確認する。
今日は久々にあるモノを食べたくなったので、学校の帰り道に寄ることにした。
だが俺の知る限り、この店はリピーターが少ない。
理由は……まあ、色々とあるが……。
十中八九、席は空いてあるだろう。
今日も類に漏れず。
店員さんを除き誰一人として客がいなかった。
からっぽの空席が静寂さを際立たせているようだ。
そのまま立ち進み、お目当ての席へと座る。
よっこらせっと。
学校指定の鞄を隣に置いてメニュー表を眺める。
相も変わらずメニューには一体全体何を履き違えたのか、店主の気まぐれ〇〇、といった様に数ページに渡って全て“気まぐれ”が書き込まれている。
というか、ほぼ全部気まぐれメニューしかない。
ジュースですら頭にそう書き込まれているのだから筋金入りだ。
例えばシェフの気まぐれサラダ、という料理名があったとする。
実は“気まぐれ”と銘打っていても内容は決まっている事が多い。
提供されるサラダにはベースとなる野菜や品目を崩さず、時期によって旬な季節の味を取り入れる程度。
此方が想像するランダム要素なんてなく、お客さんに美味しく味わって貰うための完璧な工夫が施されている。
ーーだが、この店は違う(ギュッ)
この店の場合、本当に店主の直感で具材をポイポイと放り込んで完了といった悪辣さを醸し出している。
そこにお客さんに美味しく味わって貰おうという気概は感じ取れない。
まさに店主による店主の為の自己満料理。
飢えたアフリカの子供たちでも黙ってゴミ箱へ廃棄するレベル。
こんなの飲食店に有るまじきテロ行為だ、と咽び泣くに違いない。
かくいう俺も料理テロの被害者の一人だ。
随分悩んだが好奇心に負けて、店主の気まぐれチャーハンを注文した事がある。
まー、変な物が出されても最低限は店で保証されているものでしょ。と、楽観視していた過去の自分。
その余裕はお出しされた炒飯を一口食べただけでぶっ壊された。
提供されたのはチョコミント炒飯なる劇物。
チョコの甘味が舌を刺激し、ミントの清涼感がクソデカ違和感を抱かせ、炒飯の塩っぱさで脳にトドメを刺す悪魔のコンボ。
無理やり評するなら、大学生が深夜テンションの悪ノリで作ったとしか思えない闇鍋。
評価レビューがあるなら問答無用で星ゼロの悪魔的一品。
何度も通う内に仲良くなった女性バイト店員曰く、偶に“アタリ”が出るらしいが……。
その為に大量のハズレを引きたくないし……。
そんなこんなで、ほぼハズレ料理を出す店と巷で評判なのでほぼ誰も寄り付かない。
そりゃ寂れるわ。
しかし、メシマズ料理メニューしかないこの店だが、唯一の当たりがあるのだ。
相も変わらず、気まぐれが並んだメニュー表を閉じて目的の料理を店員さんに告げる。
「こちらゴルゴンゾーラチーズケーキとなりまーす」
来たきた。
他に客が居ないため、爆速で運ばれて来たデザート。
それがこのゴルゴンゾーラチーズケーキだ。
魔界にいる怪獣みたいな物騒な名前をしているが、キチンとしたブルーチーズの一種だ。
ゴルゴンゾーラ特有の塩味と青カビの風味がちとキツイが……慣れてしまえば癖になるもので。
今じゃあすっかり大好物になってしまっている。
勿論好き嫌いがハッキリ別れるので看板メニューにもなりづらい。
経営下手にも程がある。
店のメニューが全部ランダムかつ、安定した唯一の品も癖強デザート。
不人気店になる要素バッチリだ。
近いうちに店、潰れるんじゃなかろうか。
まー、ここ五年程、ほぼ客がいないのに経営が成り立ってるあたり道楽運営っぽいから大丈夫だろうけど。
そんなことよりデザートである。
運ばれて来たチーズケーキにフォークをさっくり入れて、口に運ぶ。
ウンマぁい! 俺はニッコリ笑顔になった。
そのまま食べ進めていると、静寂な店内に来客を示すドアベルが響く。
珍しいな。俺以外の客が来るなんて……。
気になって入口に視線を向けると、来訪者はいかにもな紳士、といった壮年の男性。
口の上を左右に流したカイゼル髭、片目に付けたモノクル。お洒落な黒ステッキ。
店員さんに席を案内された感謝の声は通りの良いバリトンボイス。
こんなコテコテの紳士が居るのかってくらい紳士っぽい男性だった。
この店に来る常連は基本人数が少ないこともあり、大半が顔見知りだ。
しかし、この紳士っぽい男性は初顔だな。
そのままなんとなしにその男性を見やる。
彼はたおやかな手でメニューを表を開くと、涼しげな眉を歪め困惑の表情をしていた。
そりゃそうだ。
だって気まぐれ過ぎるもん。
馬鹿が考えた馬鹿メニューだよ。
写真サンプルもないので、実際に注文することでしか中身を知ることはできない。
更には毎回気まぐれ(ガチ)で料理が変わるから内容も事前に分からないという罠っぷり。
紳士の人。
お腹が空いてるなら諦めて別の店行った方が良いよ。
あ、でもこのゴルゴンゾーラチーズケーキだけはマジでオススメ。
再びフォークで切り取り、チーズケーキを味わう用に咀嚼する。美味い。
だが意外にも紳士の人は臆せず、“店主の気まぐれチャーハン”を注文していた。
チャレンジ精神強いなこの人……。
絶対この店がヤベー部類に入るってのが分かりきっていたろうに。
普通の客ならメニューを開いた瞬間、離席しても仕方ないレベルだぜ。
だがまだ“アタリ”を引く可能性は十分にある。
前回の俺は失敗して尻込みしているが、“アタリ”の料理はそんじょそこらの三ツ星料理よりも上と聞く。
俺は未だに“アタリ”とやらを見たことは無いが……。
今回こそ、初見のお客さんにこそ当たって欲しい。
天に祈るような気持ちで黙祷するが、果たして。
またもや爆速で運ばれてきた炒飯。
色合い的に紫なので今回もまた普通のチャーハンでは無いことだけ確かだ。
紳士の人は女性店員さんに礼を言いつつも、頬をピクピクと引き攣らせた笑みを浮かべている。
うん。
無理しない方がいいと思うよ。
外観的に明らかにハズレの料理だし。
「ところでお嬢さん。コイツを見てくれないかな?」
彼は唐突に懐から紐にぶら下げた五円玉を取り出し、ぶらりと揺らし出す。
ぼやっとしていた店員さんと、俺は自然な流れでついつい最後まで注目してしまう。
ぷらぷら、ヒュンヒュンと、一定間隔で揺れ動く五円玉。
其れに俺たちは目が離せない。
ーーそして気付く。
これなんか催眠術っぽくね、と。
だが時すでに遅し。
催眠術師の五円玉は役目を果たした。
興味を持った獲物の聴覚を絡め取り、意識の全てを支配する。
「『女性は男性と出会ったら服をたくし上げ、パンツを見せるのがマナー』……だろう?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべ。
彼は相手の非常識を窘めるような口調で言い放った。
『藤村ユリカは常識変換催眠攻撃を受けた』
※精神耐性Lv:MAXにより完全レジスト
店員さんは言われるがまま、スカートをたくし上げ、黒のランジェリーを白日のもとにさらけ出す。
「ウッヒョぉ!! たまらんなぁ!」
先程の紳士っぷりは何処にいったのか。
血走った目で涎を垂らして奇声を上げる男。
……どーなってんだこの町はよぉ!
変態ばっかじゃねーか。
なんでこんなクソマズ不人気店にも催眠術師が出没するんだ。
女性がいっぱい居る場所は他にもあるだろ!
そうだよ。
今更だがコテコテの紳士なんて普通いるわけが無いじゃん。感覚が麻痺してたわ。
憩いの場として寛げる店に来たと思ったら地獄に早変わりだよ。畜生め。
「おっと、そういえば他にもお客さんがいたか……。お嬢さん、私の五円玉をよく見るんだ…………」
こちらが凝視している事に気付いたのか、慌てて涎を拭って取り繕い、再び五円玉を左右に揺らす。
いやもう今更取り繕うのは無理だろ。
まー当然俺に聞くはずもないのだが、無言でいると催眠術にかかったと誤認した彼は再び命令を下す。
「『男性に求められたら、がに股腰ヘコダンスをするのはマナー』だからね。……よろしく頼むよ」
なにもよろしくないが???
なんだよそのマナー。
野生動物ですらそんな求愛行動しねーよ。
改めて観察して分かったのだが、この男がかけてきた催眠術は“猿にも出来る。簡単催眠術! ”と同様のものだった。
この催眠術のキモは、如何にして特定の周波数の音域が出せるかだ。
特定の周波数が出せれば要はなんでもいい。
スマホを使おうが、指を鳴らそうが、五円玉を媒体にしようが音さえ出せれば手段は問わない。
まあ、自分の声でやらない場合、対策を取ってないと自分事催眠術にかかってしまう状態になる弱点はあるけれども。
しっかりと彼の耳にはノイズキャンセリングとしてイヤホンがさされているので、自滅することは無いだろう。
俺は仕方なしと席を立ち上がった。
スタスタと似非紳士がいる席へと近付く。
俺の美貌を間近で見た事により、似非紳士はゴクリと喉を鳴らす。
「ほう、中々美しいではないか。……ほらどうした。さっさとがに股になって腰ヘコダンスをしたまえ!」
バンバンとテーブルを叩き、猿のようにはしゃぐ。
自分が今この部屋を支配しているマスターだと疑いすらしていない。
なので、俺はその好色に歪んだ助平面をガシッと掴み取り。
「え、おい! 『顔を掴むな!』……なぜ私の催眠術が効かない!? ……ま、まて落ち着け、話せばわかりゅォッ!!」
劇物チャーハンに向かって顔面を叩き付けた。
ムォォォ、と苦しむ用に喘いでいるが、知ったことか。
グリグリと頭を押し込むようにしてチャーハンを味合わせる。
ほらほら、ちゃんと出された物は残さず食べなきゃなあ?
するとジタバタと暴れた彼はもんどりうって、盛大に米粒を撒き散らしつつ床に転がり落ちる。
勿論、その隙にイヤホンを回収するのも忘れない。
ゴロゴロと転がった男は、死んだような目でつぶやく。
「不味い……」
……やっぱり不味かったのね。あのチャーハン。
見た目からして毒々しいもんな。
だが、男の主張はそれだけでは終わらなかった。
「なんだ、何なんだこの炒飯は!? シソの葉を出汁にして色合いを紫にしているのはまだ良いッ。それ自体はアクセントとなり得るッ。だがナマコのぬめり取りを怠った事で磯臭さとエグ味がッ。ブラックバスの泥臭さが脳天を突き抜け、絶望的な不協和音を奏でているッ! 店主を呼べッ!! これを魚介類チャーハンと呼ぶなら魚介類に対する冒涜行為だ!!!」
目ん玉をかっぴらき、唾を飛ばして白熱する男。
中々に食通だったらしく、不満点の言語化が上手い。
……この状況下で言うことがそれかよ。
よっぽどクソマズチャーハンが許せなかったらしく、ベラベラと如何にこのチャーハンがダメか喚き立てている。
一種の現実逃避なのだろうが、まあ、それだけ舌に自信があるならこうするか。
「命令だ。『お出しされたチャーハンを自意識を保ったまま残さず食べろ』」
「何ッ。身体が勝手に動く……。ま、待てッ。頼む……。か、金か? 金なら幾らでも払う……。だから」
俺はニッコリ笑ってグッドサインを出して。
「!」
似非紳士の男が希望を見出した表情を見届けてから、首を掻っ切るジェスチャーを繰り出した。
誰が許すか馬鹿がよ。
そのまま腐海に沈め。
「あ、店員さん。この人にもう一つオカワリチャーハン一つね」
「これが、人間のすることかあぁぁぁーー!!」
怨嗟の声が響く。
そっちが先に攻撃してきたんだから自業自得だわ。