エロゲーオブザデッド (仮)   作:にーと戦士

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4話

 

 

 

「恭弥さんを離しなさい!」

 

 

 取っ組み付きそうな勢いで接近して来る母さん。

 慌てて中村の背中から飛び退く。

 

 

 催眠術って重ねがけ出来ないのね。

 複数の人間が単一の対象に催眠を掛ける事が出来ない、と分かったのは収穫だ。

 

 今後も催眠術師が現れた際の対策になる。

 

 

 ……何で俺、また催眠術師が現れる前提で考えているんだろう。

 昨日まで俺の人生に現れた事なぞ一回もなかった。

 だのに二日連続でポップする異常事態が起きている。

 

 今後も絶対に現れないか、と言われたら否定出来ないのが恐ろしい所だ。

 

 

 ……て、そうじゃなくて。

 まずは母さんを止めなくちゃいけない。

 

 

「ああッ、恭弥さん大丈夫!?」

「…………」

 

 

 中村を助け起こしているが、奴は俺の催眠術が効いたままなので喋れない様子。

 母さんの膝枕を受けて心無しか喜悦の表情が浮かんでいる様に見える。

 

 げし、と思わず頭に蹴りを入れる。

 

 

 母さんに烈火のごとく怒られた。ぴえん。

 

 

 ダメだ。早く何とかしないと。

 こんなおっさんにラブラブゾッコンな母さんなんて見たくない。

 

 

 しかし、催眠術が効かないならどうすれば良いんだろうか。

 

 一旦気絶させる事は能力的に可能だ。

 だが母さんに手を挙げるなんて以ての外だ。

 心情的にやりたくない。

 

 

 そうすると現状なんの手出しも出来なくなるが、実の親相手に命の危険が無いにも関わらず暴力を振るうほど性根が腐ってはいないんだ。

 

 可能な限り暴力に頼らずに穏便に事を済ませられるならそれに越したことはない。

 

 

 どうしたものかと考え込んでいると。

 

 先程中村に腹パンした際手放したのか。

 床に落ちているスマートフォンが目に映った。

 

 

 ……あ。

 これ普通に中村に催眠を解かせれば良くない? 

 

 

 気付いてしまえばなんて無い。

 当たり前の事だった。

 催眠術を掛けられたのなら、当の本人に後始末して貰えば良い。

 

 学校中に仕掛けられていた催眠は自力で解除出来たから忘れていたけど、催眠術を掛けた本人から解かせるのが本来のやり口なんだよな。

 

 田島の場合は知人で声紋パターンを把握していたからこそ出来た荒業だ。

 

 今回も自分で解けるなら試してみたい所だが、生憎と機械での催眠は仕組みがよく分からんから無理だな。

 

 そりゃ時間をかければ出来なくは無いだろうが、今は一刻も早く解放して上げたい。

 自分のチンケなプライドより母さんの安全が優先だ。

 

 

「という訳で。『母さんへの催眠を解除しろ』」

 

 

 だが中村は一向に動こうとしない。

 母さんに介抱されているが、当初の命令通り黙って大人しくして居るだけ。

 

 俺の命令が遵守される様子は欠片も無い。

 何ら反応を返す事もせず最初に下された命令を忠実に熟している。

 

 

 ……どういう事だ。

 

 態々催眠術を解除する、という工程を挟まなくても普通なら命令通りに動く筈なんだ。

 

 だと言うのに中村は無反応を貫いている。

 

 

 ーーもしかして、だけど。これは。

 

 

 

「中村、『母さんを催眠術で眠らせろ』」

 

 

 

 むくり、と上半身を起こした中村。

 彼は床に落ちていたスマートフォンを拾い上げると母さんに向かって催眠アプリを起動させる。

 

 

 今度は命令通りに動く中村に確信を持った。

 ああ、面倒なことになったな。

 

 

 催眠アプリを見せられた母さんは抵抗もせずに崩れ落ちた。

 

 その事を予見していた俺は頭を床にぶつけないよう抱きとめ、ゆっくりと身体を横に降ろした。

 

 

 ふぅ、と溜息を吐く。

 

 

 

 ーーこの男、催眠術を解除出来る手段を持っていないんだ。

 

 

 だから俺の命令を実行せずにいた。

 なぜなら解除方法が分からないから。

 

 分からない事はやりようが無いし、最初に命令していた“黙って”と“大人しくしてろ”の前半部分の命令のお陰で口頭で伝えることも出来ない。

 

 つまりこの男は伝達手段がないから最初の命令を続行するしか無かった訳だ。

 

 

 ……まあ、それならそれで、やりようはある。

 

 

 とりあえず母さんも無事眠らせる事も出来たし、邪魔は入らない。これからは質問タイムだ。

 

 気になる事は沢山あるんだ。

 色々と情報を吐いて貰おう。

 

 

「『これからする質問に全て正直に答えろ』」

 

「はい」

 

 

「名前は?」

「中村恭弥です」

「年齢は?」

「三十六です」

「母さんとの関係は?」

「小中高の同級生です」

「他にも催眠術をかけた相手はいる?」

「居ません」

 

 

 矢継ぎ早に質問をして行く。

 まさか本当に母さんの知り合いだとは思わなかった分驚きだ。

 

 最初から正直に情報を漏らしていたらしい。

 催眠術を初めて掛ける相手が母さんなあたり、初恋でも拗らせていたのだろうか。

 

 若い頃の写真を見せて貰った事もあるが、普通に美少女だったもんな。

 それに加えてコミュ強で愛嬌抜群。

 そら惚れるわな。

 

 ……催眠術を掛けた理由とかは聞かないようにしよう。BSS(僕が先に好きだったのに……)話とか聞かされたら怒りが萎えそうで困る。

 

 

 それはそれとして。

 これからが本命だ。

 

 

「お前はどうやって催眠術を習得した?」

 

 

 今迄のは全て前座。

 ただ純粋に俺が気になった情報だ。

 

 だがこの情報だけは何としてでも聞き出さなければならない。

 催眠術をそうポンポンと生み出されるようであれば、日本崩壊RTAまったなし。

 

 

 田島の持っていた本、《猿でも出来る! 簡単催眠術》とは訳が違う。

 あれは一部の選ばれし天才のみが扱える本だ。

 

 放っておいても危険度は低い。

 

 

 だが目の前の此奴は違う。

 何せ催眠術に使用した機具がスマートフォンだ。

 

 誰もが持ちうる媒体を扱う以上、全世界の人々が催眠術師となって覚醒してもおかしくは無い。

 断固として拡散する事を阻止せねば日本が、いや地球が終わるぞ。

 

 

 ええ、と中村はこくんと頷き。

 

 

「猿でも出来る! 簡単催眠術という本がありましてね」

 

「またそれかよ!?」

 

 

 便利だなぁ! 

《猿でも出来る! 簡単催眠術》……! 

 

 ほんとに猿でも出来るんじゃねーかってぐらい使われまくってるぞ。

 

 

 

「先週、とある古本屋に赴いた時、直感で購入しました。その内容が面白くて実際に貴方の母親に試して見たところ上手く起動しました」

 

「いや、待て待て待て。先週だと」

 

 

 突っ込みどころ満載だがそれどころでは無い。

 先週に購入した、まではいい。

 

 田島が古本屋で購入した。と証言していた事から他でもこっそり売られているのは予測していた。

 

 しかし。

 

 

「一週間程度じゃあ催眠術なんて会得出来ない筈だ。一体全体どういうカラクリだよ」

 

「ええ、ですから催眠術を習得していません」

 

 

 どういうトンチだ? 

 だがこいつは確かに催眠術を使用している。

 システムログにも残っているから間違いない。

 

 だから混乱する。

 俺は中村に正直に答えろ、と命令してある。この命令に違反してないことから逆説的に真実を語っている事になる。

 

 

 

「簡単な事ですよ。肉声での実現は不可能と思いましたからね。手っ取り早く機械を使って再現しました」

 

 

 ーーそういう事か。

 確かに重要なのはあくまでも周波数だ。

 

 そこさえクリア出来れば後は楽々肉声操作だ。

 

 

 言われてみると、感嘆するしかない。

 本に特定の周波数を出すコツを延々と記載されているせいで視野狭窄に陥っていた様だ。

 

 あーあ何が天才のみが習得しうる催眠術だよ恥ずかしい。

 

 顔を無言でパタパタと扇ぐ。

 なんか今日は熱いなぁ! 

 顔が火照ってしょうがねえや。

 

 

「だがそれって外部端末に頼る以上、相手からの言葉で自分も催眠にかからねーか?」

 

「そこはほら、この通り。ワイヤレスイヤホンで音楽流してました。貴女に殴られた衝撃で片方は飛んでいっちゃいましたけど」

 

 

 ボサボサ髪をかき上げ、耳を晒してくる。

 

 機械式催眠術の欠点として肉声ではなく外部に頼る以上、自分もトランス状態になってしまう弱点がある。と思ったがそれも対策されていた。

 

 俺があっさり催眠をかけれたのも偶然によるものだったらしい。

 道理で上手く行き過ぎてる、と思った。

 

 というか。それなら催眠アプリっぽい演出は何だったんだろう。

 今の話を聞いてる限り全くの無意味だが。

 

 

 ……まあ、趣味なんだろうな。

 スマホカバーを見ると女児向けアニメのキャラクターがプリントされている。

 

 それなりに二次元作品を嗜んで居るのが分かってしまうチョイスだ。

 

 

 そういう“演出”をして楽しみたかったんだろう。

 

 

 これは聞かなくても良いか。

 

 

 

「その催眠術をバラ撒いたりしてないだろうな」

「してないです」

「もうそれだけ聞ければ十分だ。『催眠術に関しては自宅にある本と機械を処分した後忘却しろ。あと二度と家の敷居をまたぐな。ついでに一生EDになれ』」

 

「了解です」

 

 

 すくっと立ち上がり、中村は家から出ていく。

 

 

 ……今更だけど、やべぇな。

《猿でも出来る! 簡単催眠術》

 

 田島は正攻法で努力していたが。

 中村のやり方なら本を手にした人がお手軽に催眠術を得られる様になる。

 

 阿呆みたいな名前してとんでもない脅威だ。

 俺は少々事態を甘く見積もり過ぎていたようだ。

 

 機械を通しても催眠術が行使されると分かった以上、もしテレビをジャックされ、公共の電波にでも乗った暁には全国お祭り騒ぎだ。

 

 

 いいや、これ。動画投稿サイトでも不味い。

 思い付いた内容に、サーッと顔を青ざめる。

 

 

 まず一本動画を投稿したとしよう。

 

 例えチャンネル登録数がゼロの状態から始めるとしても問題ない。

 世の中には物好きがいるもので、どんな動画にも一人は視聴者がいる。

 その動画を見た人に友達や家族にこの動画を見せて、次に投稿する動画を見るように、と催眠を仕込む。

 

 そうすればねずみ算的に動画を見る人は膨れ上がり、次に投稿する動画の催眠次第であっという間に世界が終わる。

 

 

 はーー、どうしようも無くね? 

 

 ばたん、と大の字になって寝転がる。

 

 

 かち、こち、と時計の秒針が動く音がやけに響く。

 

 時計の針はいつの間にか七時半を指していた。

 

 

「学校、いかなきゃなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

「どしたん? 元気ないじゃん。話聞こか?」

 

 

 母さんの催眠を解き、学校に登校する途中、チャラい軟派風な発言をする女友達の井上遥香にあった。

 

 やけくそになった気持ちで話す。

 

 

「もしもYou〇ubeで世界征服されるってなったらどうする?」

「いやどんな状況よ。ウケる」

 

 

 軽く笑い飛ばす遥香。

 そんな戯言聞くに値しない、とばかりに笑い飛ばす様は通常であれば楽しい気分になる時間だ。

 

 

「そーだよね。ウケるよねぇハハッ」

 

 

 しかし朝の一件により気分はドン底だ。

 いきなり世界が明日終わるかも、という気持ちを味わうってこんな気分なのかな。

 

 

「マジどしたん? キャパいなら相談のるよ」

「いや大丈夫……うん、多分」

 

 

 こればかりはどうにもならないのだ。

 出来る事と言えばテレビや動画を見ない様知人に注意して回るくらいか? 

 

 それも大した効果は成さないだろう。

 どうしたもんかなぁ。

 

 

「まーそうだね。ウチなら逆に先んじて世界征服するわ。ヤラれるなら先にやっとけ、的な?」

 

「ぶはっ、何それ……そ、それだァーっ!」

 

 

 目からウロコが落ちた気分だった。

 

 持つべきものは友人だなぁ! 

 

 そうだよ。

 動画で催眠を仕込まれるかもしれないなら。

 先に動画を発信し催眠を仕込めば良いんだ……! 

 

 

「え、な、なに? 大丈夫? 情緒不安定か?」

 

 

 勝った! 第三部[完]! 

 

 藤村ユリカの奇妙な日常はこれにて終わりです! 

 

 これで枕を高くして眠れるぞ。がはは。

 

 

 

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