エロゲーオブザデッド (仮)   作:にーと戦士

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5話

 

 

 

 全世界の人を催眠にかける。

 

 そう決めたは良いが、流石に朝っぱらから学校をサボり動画撮影をする訳には行かないのだ。

 いやまあ、催眠術を学校中にかければ出席日数やら何やらは誤魔化せるだろうけど。

 

 直ぐ帰宅して催眠大作戦(適当ネーミング)を実行しないのは訳があった。

 

 

 なんか……こう、モヤモヤするんだ。

 

 

 特に理由はない感情論。

 

 

 前世でもそうだった。

 不必要なサボりをしようとする友達が居れば軽く注意する方だったし、病欠以外で休んだ事は無かった。

 

 

 こればかりは転生しても変えられない。

 自分の性分なのだ。

 

 

 それに、時間を遅らせると言ってもたかが一日である。それも厳密言うと登校し帰宅が終わるまでの約八時間程度。

 

 これくらいの時間を浪費した所で痛くも痒くもない。

 

 動画を撮影して催眠を仕込むのは帰宅してからでも遅くはない。

 

 

 そう決めた俺は我が心の友、井上遥香と共に学校へ登校することにした。

 

 

 

 この世界の酷さに絶望していたけれど。

 解決策が見つかった以上もはや迷いは無い。

 

 

 何気なしに大きく伸びをする。

 

 両手を上に伸ばし、空を見やると見事なまでの快晴である。

 

 からっと晴れた空の様に俺の心は希望で満ち溢れていた。

 

 

「今日も一日頑張ってくかぁ!」

「……あんたほんとにテンションの上下激しくない? 辛いことがあるなら何時でも相談してね?」

 

 

 その気遣いは心に染みるぜ。

 

 

 

 

 

 何事もなく、一日が終わる。

 そして明日からも代わり映えの無い、しかし居心地の良い日常が続いていく。

 

 

 この二日間、思い返せば不思議体験に触れたのは初めてだった。

 

 どこか非日常に憧れがあった。

 転生チートを獲得した以上、世界崩壊の危機に陥った所を難なく解決し、“俺、また何かやっちゃいました? ”とイキる妄想を何度したかは数え切れない。

 

 

 けれどようやく気付いたのだ。

 

 世界の秩序が無くなる様など、クソ喰らえだと。

 

 

 確かにこのまま放置していれば世間は大混乱に陥ることは間違いないだろう。

 

 何せ“猿にも出来る! 簡単催眠術”は題名通り、とはいくまいがちょいと機械に詳しい人物ならば簡単に催眠機械を作成してしまえる。

 

 

 そうなれば後は流れ作業。

 女は男に性奉仕するのが当たり前である、等というエロゲーに出てくる様な催眠術を国民全員にかけてしまえば順当に世界は終わる。

 

 女の人権なんて塵芥と化してしまう。

 

 

 そこからの逆転劇を目指そうと思えば出来なくは無いだろうが、普通に面倒かつ嫌である。

 

 誰が好き好んで自分を性的な意味で襲う輩が跋扈する世界を見逃すものか。

 

 

 だからこれで良いのだろう。

 世界を救う英雄とならずとも、家族や友達と一緒に過ごし笑い合える環境さえあればそれでいい。

 

 劇的な事件が起きるのは漫画やアニメの中で十分なのだ。

 

 

 かくして俺は動画をアップロードし催眠術を行使した。

 

 内容は以下のような文だ。

 

 

 

 ・動画を再生した者は最後まで視聴すること。

 

 ・この動画を再生したものは家族・友人・知人問わず動画を見せつけること。

 

 ・3日後に投稿する動画を必ず視聴すること。

 

 

 

 以上の3点を吹き込み、釣られやすいよう適当なAV女優の切り抜きをサムネとして用意。

 

 

 男の性として罠、そう分かっていてもつい開いてしまう。そんな動画を作成したのだ。

 

 

 そうして3日後に投稿する予定の動画も撮影し終わり、座して待つだけとなった。

 

 

 世界は幸せに包まれハッピーエンド。

 

 

 

 藤村ユリカ先生の次回作にご期待ください。

 

 

 そう思っていた時期もありました。

 

 

 

 

 

 

 ーー渾身の催眠動画、全く振るわず……! 

 

 

 効果ナシ……! 

 

 

 総再生回数、13回……! 

 

 

 控えめにいって成果ゼロッ……大爆死……! 

 

 

 少々釣られた男共の醜い欲望が垣間見える数字。

 催眠など関係なしに再生された回数が無情にも表示されている。

 

 

 ば、馬鹿な…………。

 俺の計算に狂いは無いはず。

 

 中村だって機械を通して催眠を行っていた。

 なのに何故俺には出来ない……!? 

 

 

 簡単に諦めれるはずがなく。

 原因を色々調べた結果。

 

 催眠は使用者の肉声、及び三次元上、つまり対面して話さなければ効果はない、という事が判明した。

 

 中村が機械を通して催眠を成功させた秘訣。

 それは中村恭弥自身のボイスをサンプルとして音域調整を施し、尚且つ対面上で命令したから、という至極単純なものだった。

 

 

 試しに自分の姿を撮影し、催眠音声も仕込んだ動画を母さんにみせて見たが反応無しだった。

 

 

 この猿にも出来る! 簡単催眠術はリアルでしか使えない。

 

 そんな限定的な催眠術だった訳だ。

 

 

 はー良かった良かった。

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 とはならないんだよなぁ。

 

 

 

 別に動画拡散が出来ないからと言って催眠術を防げる手段が見つかった、という訳ではない。

 

 むしろその逆。

 催眠術を拡散し世界を制する事が出来ないゆえに、いつ催眠の魔の手が届くかもしれない恐怖が残ることになった。

 

 救いの糸がもたらされた、と錯覚しただけに絶望は大きい。

 

 

 先んじて催眠をばらまいて行き、他の催眠術師に命令権を奪取されない方向で行くか、と考えたがそのリスクが大き過ぎる。

 

 動画発信は身元が特定出来ない上に、速攻で決められるウルトラCだからこそ採用したのだ。

 個人個人で催眠を仕掛けていたら他の催眠術師に悟られて刺客を差し向けられるかもしれない。

 

 

 実際に居るはずだ。一人くらい。

 特別な存在は己だけだと自惚れる馬鹿が。

 

 

 そんな馬鹿が自分以外の催眠術師が居ると知れば? 

 

 そうです同業者(催眠術師)の排除ですね。

 分かります。

 

 

 

 端的に言うと、俺はチキった。

 自分の家族のみ催眠にかけてあとは放置することにした。

 

 

 つまり、家族以外の連中は撒き餌なのだ。

 

 ホイホイと他の催眠術師を引っかける為の囮。

 いつでも異常を察知出来る為の生贄。

 

 心苦しいが、自分の身、それから家族が一番大事なのだ。

 

 転生チート持ちだと言うのに己の無力さが嘆かわしい。

 

 

 明確な序列を付け、切り捨ててしまった今世の友人達の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 許せ、八股している遥香……! 

 

 

 パパ十人持ちの有咲……! 

 

 

 童貞百人喰いの明子…………! 

 

 

 

 ーー正直、お前らなら催眠術師の餌食になってもあんまり可哀想とは思えないんだ……。

 

 

 友達だけども。

 幼稚園時代からの長い付き合いだけれども。

 

 

 ビッチだもん。

 超絶股がゆるゆるだもん。

 

 

 若干の後味の悪さが残るものの、囮にすることに躊躇いがない理由はお分かり頂けただろう。

 

 上記に加え、性癖のストライクゾーンが広すぎて全員が一回り上のおじさんと実戦した事のある猛者揃いだ。

 

 催眠なしでワンナイトラブしても不思議では無い。そんな奴らが今世で特に仲の良い友達だった。

 

 

 ……交友関係見直した方がいいかなぁ? 

 

 三人の男癖の悪さから実は藤村ユリカもビッチなのでは、と影でいわれの無いウワサが囁かれている事を知ってんだぞ。

 

 

 

 ……兎にも角にも。

 動画催眠術拡散作戦は失敗したのだった。

 

 

 後は地道な調査を行うくらいしか方法がない。

 田島も中村も古本屋で本を購入していた、と言っていたしな。

 

 今得ている手がかりはその古本屋という情報だけ。

 しかも二人とも別店舗だと言うものだから若干厳しい所はある。

 

 が、泣き言を言っていても始まらない。

 明日からこの街の古本屋を見回って行くか。

 

 

 くそ~! 

 せっかく解決法見付けたと思ったのになあ。

 振り出しに戻ったか。

 

 心が折れそうになりながらも奮起しようとした時。

 ぴろん、と部屋に通知音が響いた。

 

 

 おん? 誰かから連絡来たんかな? 

 

 スマホを引き寄せ確認してみると明子から『これから乱パするけど来る? イケメンめっちゃいるよ♡』とメッセージが来ていた。

 

 

 くたばれ。と返信してスマホの電源を切る。

 

 

 あーやる気出ねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ーー時間は変わり次の日。

 

 

 学校に登校してから3時限目の出来事。

 

 

 暖かな日差しでゆるやかな睡魔が襲ってくる時間帯。

 

 

 そんな最中、事件は起きた。

 

 

 

「えーここは余弦定理をーー」

 

 

 

 数学の先生♀(56)が解説している最中。

 

 

 突如、濡れた服を脱ぎ去った様な解放感を感じた。

 

 

 

 ぱちくり、と目を瞬きする。

 

 

 ……なんだ? これ。

 

 ほんの僅かな時間。

 一瞬、と言うにはあまりにも短い。

 

 だが確実に“ナニカ”の違和感を覚えていた。

 

 

 普段なら気のせいかな、とそのまま流していた事だろう。

 しかし最近は異常続きばかりだった為その違和感は無視できない。

 

 不安を覚え、システムログを確認してみると恐るべき情報が書かれていた。

 

 

 

『藤村ユリカは時間停止攻撃を受けた』

 

※時間停止耐性Lv:0によりレジスト自動失敗

 

 

 

 ゾワッと背筋に寒気が走った。

 

 

 

 時間停止……? 

 

 はァっ!? おま、はァっ!? 

 

 

 驚愕のあまり、言語化出来ない気持ち悪さを体験していた。

 

 

 慌ててボディチェックを行うも、自分の着衣には乱れた痕跡は無い。壁に掛けられている時計の進み具合も変わりない事から察するに全世界の時を止めていた様だ。

 

 

 ふう、と溜息を吐き。

 内心絶叫する。

 

 

 時間停止って、もろエロゲーとかに出てくる能力じゃねーか!! 

 

 何だよこの世界! 

 急にR18世界線に突入しちゃってるよ! 

 

 

 いや、それは催眠術もあるし元からか。

 

 

 クソ……こんなのにポイントを消費するのは癪だが。背に腹はかえられない。

 

 

 俺はステータス画面から時間停止耐性を習得し、レベルをMAXまで引き上げた。

 消費量は予想していた通りデカく、今まで貯めていたポイントの3分の2近くがぶっ飛んだ。

 

 

 俺が得たステータスという異能。

 それに付随していたのは何もシステムログだけでは無い。

 

 ポイント制も導入されていたのだ。

 主にポイントを獲得する方法は2種類。

 

 動植物の生命を奪うこと。

 スキルレベルを自力で上げること。

 

 現代社会では生命を奪うのは条件的に厳しく、また植物や虫を殺して得られるポイントは余りにも少額な為、スキルレベルを上げる方法でしかポイントを稼いでいなかった。

 

 ならそれで魔法とか習得して見れば? って? 

 

 

 残念な事に、自分が観察、または体験した技能しかスキルツリーは解放されないのだ。

 

 無論TVなどの画面越しでも観察した技能は解放されるのだが。今のところ自称超能力者達が披露したものを観察しても得られたのは手品スキルだけだった。

 

 

 それに比べ時間停止耐性は人の身に余るからか膨大なポイント量を要求されていた。

 

 時間停止というスキルも当然解放されているが、要求ポイントが多く習得出来ない状況だ。

 

 本来であれば時間をかけて耐性スキルを上げていくのが一番だが、いつ我が身に時間停止の毒牙が降りかかるか分からない以上そんな余裕はない。

 

 

 今日から古本屋巡りしようと思ってたのにさあ。

 幸先悪すぎだろ……。

 

 

 来るなら何時でも来い。

 時間停止能力者さんよお。

 

 俺が相手になってやるぜ。拳で! (ヤケクソ)

 

 

 

 

 

 

 

 

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