エロゲーオブザデッド (仮)   作:にーと戦士

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6話

 

 

 

 

 ところ変わって昼休み。

 

 

 結局あれから一度も時間停止されることは無かった。

 

 

 ……一安心、と言っても良いのだろうか。

 

 ガヤガヤと周囲のクラスメイトが騒ぎ出すのを耳にし、張り詰めていた緊張の糸が途切れた。

 

 椅子の背もたれにぐったりと寄りかかり脱力する。

 

 妙に疲れた気分だ……。

 

 

 

「ユリカー。いっしょにご飯食べよぉ」

 

 

 そう言って惣菜パンを片手に近寄って来たのは我が友人の安元明子。

 

 ボブカットの髪型は丸顔の彼女によく似合っており、控えめに言ってかなりの美少女だ。

 

 

 だが外見に騙されること無かれ。

 明朗快活な性格と見せかけ、ひょっとして俺の事好きなんじゃね。と、勘違い男君を量産し美味しく頂くビッチなのである。

 

 

 通称、童貞キラー明子(俺の命名)

 昨日俺に乱交パーティへのお誘いをしたアホでもある。

 

 

「お前、いい加減ヘンな誘いかけてくるの辞めろよ」

 

 

 机と椅子を動かして対面上に座った明子。

 たははーと困ったように笑ってぽりぽりと人差し指で頬をかく。

 

 

「本当は私も誘う予定無かったんだけどぉ」

 

 

 

 嘘こけ。

 

 

 誘う予定は無かった。と言うのがいつもの常套句である。

 

 何しろことある事に乱交へ招待してくるのだ。

 両手の指では数え切れない程前科がある明子に対して、糾弾するのはとうの昔に辞めた。

 

 

 何度注意しても続けるなら連絡先をブロックしてしまえば良いのでは? 

 

 

 と、普通ならそうなるけども、案外明子が吐き出す言い訳とピロートークが面白かったりするので見逃している。

 

 明子も一種の話題を広げる前振り、として捉えているのか。

 最初の数回は申し訳無さそうな態度をしていたが、今じゃすっかり開き直っている。

 

 

「今度はどんな言い訳をするか聞かせて貰おうじゃないか」

「えーと、ほら。四組の真田敦くんっているじゃん?」

「あーバスケ部のイケメン君?」

「そうそう。彼がユリカの事好きみたいだったから、とりあえず呼ぶだけ呼んでよって」

 

 

 

 はーん。ふーん。なるほどね? 

 

 

 ……厄介な案件が来ちゃったかぁ。

 思わず両手で顔を覆う。

 

 

 真田敦と言えば学年で一番のイケメンだ。

 別段興味も無いが、他の女子が噂しているから良く耳にする名だ。

 

 噂ではやれ顔がいいだの、彼女になりたいだの、頭がいいだのとキャッキャと楽しそうに話題に上げられていた。

 

 前世の俺なんかとは比べ物にならないほどの上位カーストに存在する男だ。

 

 

 そんな男が俺に好意を持っている? 

 

 厄ネタが過ぎるぜ。おい。

 

 先週までなら特に何とも思わなかっただろうがエロゲーみたいな世界観に変貌した今だと、不穏に感じてしまう。

 

 

 一瞬、催眠を使ってしまおうか、とも考えて。

 頭を振る。

 

 

 催眠に関しては使えば使うだけ秘密が漏出する恐れがあるのだ。

 何かしら全体に催眠異変が起きた際の目印にもなるし、たかが恋愛云々で使用する訳にもいくまい。

 

 こんな事で一々催眠を使っていたらキリがないしな。

 

 

 ……しかし、真田敦か。

 特に接点も無かった筈なんだけどな。

 

 なんで俺を好きになったのかが良く分からない。

 

 いや嘘をついた。

 惚れた要因は分かるっちゃ分かるんだけども。

 

 

 おそらく俺の美少女ボディに一目惚れでもしたのだろう。

 

 俺は比喩抜きに芸能人でも滅多にいないレベルの美少女だ。

 

 性欲と情熱に満ち溢れた若人が誘蛾灯の如く俺の美貌に引き寄せられるのは仕方の無い事だ。

 

 

 でも普通乱交には誘わないでしょ。

 

 接点のない女をいきなり夜の大運動会に誘うように仕向けるのは頭チンパンジーなんよ。

 むしろ何でイけると勘違いしたのか小一時間問い詰めたい。

 

 段階すっ飛ばしていきなりドッキングするのはロボットアニメだけで十分だわ。

 

 

「モテる女は大変だねぇ~」

「ふざけろ。ヤリチンにモテてどうすんだ」

「そりゃこれだよ」

 

 

 明子は右手の親指と人差し指で輪っかを作り、左手の指で出入りするジェスチャーを繰り出した。

 

 ……こいつ、他人事だと思いやがって。

 

 

「……と、悪い。先にトイレ行ってくる」

「いてら~」

 

 

 実は時間停止をする輩について切れていた気の緩みと共に膀胱も緩んだようで、尿意が近かったのだ。

 

 俺は明子に声をかけて席を立ち上がると教室から出て女子トイレへと向かう。

 

 

 俺の所属するクラスは一組なので一番左端にある。

 右端にあるトイレに行く時さっと行けないのが少し不便だ。

 

 足早に進んでいると、突如として異変が起きる。

 

 

 ざわざわと、大量に響いていた雑音が、止まる。

 

 

 

 購買へと走っていた男子生徒は片足を上げたままとなり。

 

 

 談笑していた女子生徒たちはお腹を抱えて笑って。

 

 

 丁度風に吹き飛ばされた落葉は空中でひらりと舞った状態で停止している。

 

 

 

『藤村ユリカは時間停止攻撃を受けた』

 

※時間停止耐性Lv:MAXにより完全レジスト

 

 

 

 システムログを確認するとやはり時間停止を受けていた。

 

 

 くう、変な時間で止まっちまいやがって。

 

 こっちは早くトイレに行きたいっていうのに。

 

 

 周囲に人がいるしなあ。

 幸いこちらへ視線を向けてる人は誰も居ないが移動するのは不味いか。

 時間停止されていた側の人から見れば一瞬で眼前に現れたら驚愕所の騒ぎではない。

 

 

 そういや考え無しに時間停止耐性を取っちゃったけど、これいつ解除されるかわかんねえな……。

 

 どうしよう。

 

 

 危険だが時間停止耐性スキルを切る、という手もある。

 

 耐性系スキルは基本、オンオフが利く仕様になっている。

 

 

 時間停止耐性もその類に漏れず、スキルを切る事が出来るようになっている。

 

 

 だがそれは諸刃の剣。

 時間停止耐性を失うということは、その間何をされてもおかしくはない、という事。

 

 例え身体をまさぐられようが、男女の営みをされようが全く気づけない。

 

 そんな無防備な状態に自らを晒してしまうのだ。

 

 

 それでは膨大なポイントを消費してスキルを習得した意味が無い。

 

 

 ……まず、辺りを探ってみるか。

 

 

 

 別段、動かなくとも周囲を探ることは出来るのだ。

 

 

 俺はじっと耳をすませて音が聞こえるか判断する。

 聴覚スキルにより、半径三十kmまでなら落ちた小銭の音まで明確に聞き分けられる。

 

 時間停止されている現在。

 術者本人を除き動けるのは耐性スキルを持っている俺位のものだろう。

 

 だからなにも音が聞こえなければ、とりあえずこの学校は安全と言っても大丈夫な訳だ。

 

 

 

 しかし、俺の思いとは裏腹に、ゴソ、ガタ、と机を動かす音が響いた。

 

 

 ーー時間停止した奴がいる。それも近くに。

 

 

 

 音の出処的に、同学年、四組の方か。

 俺は少し考えて。意を決して向かうことに決めた。

 

 

 ずっと変なタイミングで時間停止を仕掛けられても困るしな。

 

 

 そろり、そろりと。

 気取られないように忍び足でゆっくり四組へ進んでいく。

 

 その間にも術者は何か作業をしているようで、ずっと物音が聞こえていた。

 

 

 すぐ乗り込もうとも考えたが一旦様子を伺うことにした。

 何しろ持っている超能力が時間停止だけとは限らない。

 

 色々な日常で獲得した耐性スキルは全てオンにしたが、それでもまだ不安が残る。

 

 

 ……お、物音が止んだ。

 

 何をやってたんだろうか。

 危険を承知で窓ガラスをのぞき込み四組内を見渡す。

 

 

 するとそこには一人の、見るからに陰キャっぽい眼鏡男子が机の上に裸にひん剥いた女生徒を載せていた。

 

 

 ーー何故か刺身パックを片手に持って。

 

 

 

 いやマジでなにやってんの? 

 

 

 

 眼鏡君が時間停止した術者本人なのは間違いない。

 この止まった時の中で動けるのは術者本人と耐性スキルを持っている俺だけ。

 

 

 だから眼鏡君が術者本人なのは疑いようもないのだ。

 

 

 でも、なんで刺身パック持ってんだろう。

 

 

 

「うーはっはっ。ざまぁみろ! このビッチめ……!」

 

 

 

 お、なんか語り出したぞ。

 もうちょい見守ってみるか。

 

 女生徒を裸にしたままなのは申し訳ないが、どうせ時間停止されていて羞恥の感情も湧くまい。

 

 もう少しだけ我慢してもらおう。

 

 

 

「あれは……つい先週だったかな。校舎裏で君が告白してくれた事。今でも鮮明に思い出せるよ」

 

 

 

 ……おや? なんか雲行きが怪しくなってきたな? 

 

 

「僕は愚かだった……。浅はかにも女体の魅力に抗えず、君の自宅にお呼ばれした時。天にも昇る気持ちだったさ」

 

 

 眼鏡君の独白は悔恨に満ちており。

 鬱々とした感情に溢れていた。

 

 

 そして刺身パックから中身を箸で摘みとり、女生徒の身体に乗せていく。

 

 

「『今夜は両親が帰ってこないの。だから、ね?』そう言われた時、僕はサンタ・マリアの如く無償の愛を捧げてくれたキリストの気分を味わったよ」

 

 

 女体の性的パーソナリティ部分に重点的に刺身を置き終わる。

 

 そして鞄から二つめの刺身パックを取り出した。

 

 

 

「ーーでも、それは偽りの愛だった」

 

 

 

 バリィっと眼鏡君は怒り任せにラップを剥ぎ取った。

 

 怒りに肩を震わせながらも、丁寧に刺身を全裸の女生徒に盛り付けを行う。

 

 

 

「……僕は自宅に呼ばれた後。君の部屋に入った。柑橘系の甘酸っぱい匂いがして、とても緊張した」

 

 

 顔を歪ませて。泣きそうな表情で。

 しかしながら作業は正確に。

 

 箸を休まず動かし続けている。

 

 

 

「いざ、行為に及ぼうとしたとき。僕の服だけを脱がせたよね。……それがあんな事をする為だったなんて。今でも信じられない」

 

 

 

 更にそれから二パック追加で盛り付けは完了した。

 眼鏡君は不敵に笑う。

 

 それは正しく女体盛りだった。

 

 

 

 ーーいやめちゃくちゃツッコミ所が多いんだけど。

 

 

 眼鏡君の行動を鑑賞していた俺は意識を取り戻した。

 

 眼鏡君の迫真の語り口調に引き込まれてたよ。

 何? 何があったんだ? 

 気になる。すんごい気になる。

 

 あの女生徒の家にお呼ばれしたあと、一体全体何をされたんだ。

 何故女体盛りをしてるんだ。

 

 

 クソ、焦らしやがって。

 

 

 もはや俺は女生徒を救おうとする気概を失っていた。

 逆恨みでもなく正当な復讐っぽい気配を眼鏡君から感じ取ったからだ。

 

 最後まで見守ろう。

 そしてあわよくばさっきの話の続きをしてくれる事を願う。

 

 

 

 そして眼鏡君は盛り付けた刺身を箸ですくいとり口へ運ぶ。

 

 モグモグと咀嚼して。ぶふぉっと吐き出した。

 

 

「刺身が体温で温まってマズイ……」

 

 

 そらそうだろ。

 女体盛りって純粋に魚の品質を落とす行為らしいし。

 

 一応本家本元の女体盛りは草を下敷きにして熱を防いでるっぽいが。

 こいつのは直に置いてるだけだしな。

 

 

 苛立たしげに机を蹴ったあと、ズカズカと他の場所へと歩いていく。

 

 そしてとある男子生徒の前でピタリ、と止まる。

 

 

 その男の名は、真田敦。

 俺を乱交パーティへと誘おうと企画した学年一のイケメンだった。

 

 

「……よくも。よくも。彼女を使って嘘告なんてしてくれたなあぁぁ!」

 

 

 

 

 ずどん、と腹へ向けて全力で眼鏡君が殴った。

 

 

 

 そして眼鏡君はあまり人を殴った経験が無いのだろう。

 

 突き出した右手を押さえて蹲った。

 

 

 ……見てられねぇなぁ。

 

 

 話の流れとしては大体分かった。

 

 女体盛りされた女生徒は嘘告白をして、まんまとあの眼鏡君を自宅におびき寄せたんだ。

 

 そして服を脱がすと同時に家に隠れていた真田が登場。

 

 後は写真でも撮るなりして脅迫でもしたんだろう。

 

 

 この写真をばら撒かれたくなければ、金を寄越せ、とかね。

 

 

 

 まあ、何にせよ。

 今がチャンスだろう。

 

 

 

 ガラリとドアをスライドさせて教室に乗り込む。

 

 いきなり現れた俺に驚いてる眼鏡君に対し、俺は催眠術を行使して無力化を行った。

 

 

 

 ……催眠術はあまり多用するべきでは無いが。

 流石にこの事件はちょっと可哀想だ。

 

 

 俺が一肌脱いでやるか。

 

 

 

 

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