エロゲーオブザデッド (仮) 作:にーと戦士
前回のあらすじ。
真田達は無期限停学となった。
「古本屋に行くぞ!」
そんなこんなで。
俺は今日、田島や中村が購入した催眠本の出処を調査するため、古本屋巡りをしようと思います。
「どしたん急に?」
「気になる本があってさ。お前も一緒に行く?」
学校の帰り道。
下校中に一緒に帰ろうと誘った明子にそう言うが。
ニパッ、と輝くような笑顔で一言。
「私、二組の××君と筆下ろしする約束があるから時間ないや」
ファッキュービッチ。
誘った俺が馬鹿だった。
我が今世で最も仲が良い幼馴染三人衆。彼女らは何故か揃いも揃って性に奔放なのである。
その幼馴染の中の一人。
童貞キラー明子(俺命名)は比較的スケジュールが空いてるからよく一緒に遊ぶ方なのだが、今日は新たな獲物を捉えていたようだ。
実にご機嫌な様子で愛想を振りまいている。
用事あるから無理で良いだろうが。
お前の性事情なんて聞きたくねぇんだよ。
公衆の面前で言ったら絶対ダメな台詞をあけっぴろげに宣った彼女は、わざとらしく。
「あっ、いっけなーい! もうこんな時間!」
と、着用してもいないエア腕時計を気にする素振りをして「またね」と逃げ去っていった。
……あいつの家とは別方向の筈なんだけどなぁ。
目的地は十中八九、本日の獲物君の家だろう。
せめて一度家に帰ってからにすりゃあいいのに。
あのアホ女の破廉恥発言のせいで集まった視線を感じながら、俺もその場を足早に立ち去った。
アイツ、後日シバいとこう。
先ほどは古本屋巡り、と言ったが、訂正がある。
この町には古本屋は二つしか無かった。
どちらにするか悩んだが、俺が最初に訪れたのは近場であるこの本屋。
猿叫堂(えんきょうどう)である。
辿り着いた後、足を止めて外観をみやる。
……寂れてるなぁ。
建物全体を見ると、ボロっちいという感想が浮かぶ。
コンクリートの塗装は禿げているし、看板なんかは傾いた状態で直されていない。
なんなら良く分からん植物の蔦まで伸びて絡まっている。
オマケにカラスが何羽か屋根に止まり、カーカーと鳴き声を上げている。
これぞまさに古本屋って感じの古本屋だ。
物語にでも出てきそうな“いかにも”って風な佇まい。
こりゃあ確実に何かあるだろう。
なかったら詐欺だろってレベルの怪しさだ。
案外スパッと催眠本を広められた原因を解決出来るかもな。
というわけで。さっさと中に入ろう。
お邪魔しまーす。
ガラリと引き戸を開けて中に入ると、ムワッとした古書独特の匂いが鼻の奥に広がった。
壁にはよく分からないタペストリーやポスター等が飾り付けられており、お洒落というより雑多な印象を受ける。
客があまり入らないからだろうか。
棚には誰かが本を抜き取った形跡が無く、みっしりと棚に敷き詰められている。
ふむ……。
パッと見、あの催眠本と同じ表紙はないな。
キョロキョロと周りを眺めて見るが、お目当ての本は見つからない。
これは一人で探すより店員さんに聞いた方が早いか。
奥の方。勘定場の方を覗いてみれば、若いアルバイトらしき青年がこっくりと船を漕いで寝ていた。
「あのー、すみません」
「……すぅー。むにゃむにゃ」
目の前の男は俺の呼び声に応じ、うっすら瞼を開けた。……かと思えば再びスっと目を閉じて寝息を立て始めた。
なんだコイツ。
「あのー?」
更に追加で声掛けしても全くの無反応。
しまいには、ぷかぁっと鼻ちょうちんまで膨らませる始末。
誰だよこんなやる気のないアルバイト雇った採用者。
店舗の外観も接客態度も悪い店とかそら寂れるよ。
客取る気全くゼロじゃねーか。
この店のレビューで星一評価付けてやろうか。
ポケットからスマホを取り出し、この店のレビュー点数を改めて見ると星1.5だった。
俺が低評価するまでもなく評価低いな……。
大丈夫か? この店。
お、クチコミも一件ある。どれどれ?
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▼匿名男 投稿日:一ヶ月前
★☆☆☆☆
客のニーズに寄り添わず、滑舌も悪いのに声量だけは大きいご年輩の男性店主がキツイ。
頼んでもいないのに長々と話しかけてくる。
滅茶苦茶鬱陶しい。
一人で自由に選びたいのに、その意思を告げても耳が悪いと惚ける始末。そしてまた始まる長話。
星一評価すら付けたくない。
品揃えも悪いし二度とこの店には立ち寄らない。
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唯一のクチコミがこれだった。
とんだクソ店舗じゃねーか。
そら客が寄り付かない訳だよ!
目の前にいる青年はどう見てもご年輩には見えないので、新規で雇ったアルバイトと見て間違いないだろう。
店番居眠り男とお喋り難聴クソジジイ。
それならまだ前者の方がマシか……?
いやどっちがマシか考えた時点でダメなんだわ。
両方ともロクもんじゃねえよ。
でもお喋り難聴クソジジイじゃないだけ良かったと思っている自分がいるのが悔しい。
でもまあ、そっちがその態度ならこっちも考えがあるぞ。
とあるスキルをオンにしてうっそり笑う。
ふっふっふ。こいつは……“ 効く”ぜ?
指先を軽く擦り合わせ、再び船を漕いでる男の首筋付近を狙って肩を揺する。
「いぃっった!!」
強い刺激に襲われた男は涙目で首筋を抑え、苦悶の声を上げた。
ふはは。どうだ驚いたか。
これが静電気スキルの力よ。
今世での小学校時代、髪を逆立てて遊ぶ為に無駄に習得したスキル。
正直その場の勢いで習得したスキルだが、今みたいに微妙に役立つ場面もあるから案外侮れない。
「あー、お客さん? わりぃ。昨日徹麻しててさ。眠かったからつい」
めんごめんご、と片手を立てて謝る彼。
徹麻……徹夜麻雀か。
クソ、前世でやったことあるから気持ちはすんごい分かる。分かるけども。
仕事なんだから居眠りはするなよ。
だがそれを口にして臍を曲げられてしまえば堪らない。
いえ、と表向きは愛想笑いしつつ。
改めて質問を投げかける事にする。
「猿にも出来る。簡単催眠術! ……って本知りません?」
「ああ、それ? ならそこにあるじゃん」
彼が指差した先を見てみると、十円ワゴンセール品の中に探していた本が置いてあった。
それも十冊ほど纏めて。
「いや多すぎでしょ」
「それな。俺もそう思う」
「なんでこんなに在庫が??」
「知らないよ。逆にこっちが聞きたい」
あまりにも簡素な発言。
まあレビューの内容的に一ヶ月以内に新規雇用されたアルバイト君なら知らなくても当然だろうけど。
なんで十冊もこんな危険物があるんだよ。
絶対おかしいって!
あー、と首をぽりぽり掻いて、バイト青年が心当たりならあると言う。
「うちの爺ちゃんなら多分知ってる」
「えーと、なんで店員さんのお爺さんが知ってるんです?」
「爺ちゃんがこの店のオーナーなんだけど、この間ギックリ腰になっちゃって。代わりに暇な俺が店番やってんのよね」
なるほど。
その説明を聞いて合点がいった。
言い方は悪いが、客も来なくて儲けが薄そうなボロっちい古書店にバイト代を捻出する金があるのか疑問だったんだよな。
身内経営で成り立っているというのなら納得が行く。
大概この男も常識的に考えてバイトしながら寝るなんてヤベー奴だもんな。
普通採用されないか即刻クビになるかの二択でしょ。
「多分二、三週間くらいしたら復帰すると思う。気になるなら暫くしてから来なよ」
お、おう。
マトモなアドバイスどうも。
ぺこり、と頭を下げて感謝を告げる。
案外この男、良い奴なのかも。
折角呼び掛けたのにスヤスヤ二度寝かました時は少しムカついたが、いざ目が覚めたらキチンと対応してくれたし。
まあ労働中に寝るのは論外としても、無償で祖父の店舗の手伝いをしてくれる孫と考えたらわりかし評価は上がったかもしれん。
「それで、結局買うの」
「……?」
俺が意図を理解出来ずコテン、と首を傾げると
その本。と彼が指差した。
そこにあったのは十冊の“猿にも出来る。簡単催眠術! ”本だった。
ああ……。忘れてた……。
「……全部買います」
「全部買うの!?」
この女正気か? みたいな驚愕の目線で見られる。
普通買うにしても一冊か二冊程度でしょ、という青年の心の声が表に出さずとも聞こえてくる様だ。
うるせえなあ!
こっちも出来るなら買いたくないけど、こんな危険物放置したら不味いのが目に見えてんだよ。
不発爆弾を処理しなくちゃいけない身にもなれよ!
だがそれも事情が事情故に説明はできないので、恨みがましい目で青年を見詰めるだけである。
「えー、ま、まあいいか。眼鏡眼鏡……っと」
どうやら眠る際に眼鏡を外していたらしく、台の上に置いていた眼鏡を掛けると、彼はピシリ、と固まった。
「……? 会計、お願いします」
「アッ、ヒュッ、は、はい!!!」
急に顔を赤くした彼は、テキパキと十冊分のレジ打ちを終わらせてしまった。
十冊分の本を袋に入ながら、ちらちらと俺に目線を這わす彼。
……あっ、はい(察し
「あ、あのー。また、来るんですよね?」
「ええ、まあ、はい」
ギラギラと情熱と期待を込めた瞳が俺を射抜く。
来たくはないけど、来ないと情報が手に入らないからなあ。
誰が好き好んでレビュー星1.5の爺さんに合わなきゃならんのだ。
これから先の事を思うと憂鬱だ……。
「またのお越しをお待ちしてますッ!!」
青年の打って変わった熱苦しい声を後にして店を出る。
片手にずっしりとした十冊分の本の重みを感じながら、今日は帰路に着くことにした。
この本、どう処分しよう……。