中野一花のお友達   作:五等分二次増えて欲しい。

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一花ちゃんが悪者になったことですごく引き込まれた五等分の花嫁。
彼女がいたから面白くなったと言っても過言ではない。

しかしながら、私は彼女が好きなので幸せにします。

つまりそういう話です。


中野一花の隣人くん

 

 

「中野一花です。どうぞよろしくお願いします」

 

 転校生が来た。

 しかもすごい美人だななんてありきたりなことを考える。

 できることなら僕の持てる語彙を余すことなく活用して転校生が美人である事を説明したいものであるが残念。男子生徒なんてそんなもんである。

 かわいいかわいくない。エロいエロくない。その程度でしか世界を見れない哀れな生き物なのだ。

 でも、ショートカットの女の子って…………いいよね。

 大好き(告白)結婚しよう(プロポーズ)

 

 などとふざけているかつ、ペラッペラな感想しか持ち合わせていない僕とは違いクラメイトはたくさん情報を持っているらしい。

 

「あの制服って黒薔薇女子じゃない?」

 

 黒薔薇……女子……。

 薔薇なのか百合なのかはっきりしてくれてもいいのではないか。

 いや別にどっちでもいい。いやよくない。非常に重要である。

 楽園は楽園でも楽園じゃない可能性が生まれてしまうのは如何ともし難い。

 

「マジかよ超金持ちじゃん。お嬢様かよやば」

 

 くだらないことを考えていると、クラスメイトたちによって情報が追加されていく。

 白百合女子はお嬢様学校らしい。

 

「めっちゃ可愛いんだけど」

 

 おう、見ればわかるよ。かわいいよね。

 

 …………あ、それだけ? 

 うっす。持ってる情報すっくな。僕と大して変わらねえじゃねえか。

 

「立花お前もそう思ってんだろコラ」

「何が?」

「一……中野さんかわいいなって話だよ」

「思う。でも僕は彼女はどちらかといえば美人系だと思うとだけ言っておこう」

「おお、やっぱお前さすがだな」

 

 何が流石なのか。

 

「というか、スカートで学校がわかる君に言われたくない」

「よせよ照れるだろコラ」

「褒めてるわけないだろコラ」

 

 前の席に座っている前田と話をしながら、彼の隣の女子生徒をチラリと盗み見る。鈍感なのかなんなのか、彼女の気持ちに一向に気が付く気配のない友人に心の中でため息をつく。

 彼女の恋路はまだ先が長そうである。

 ちなみに僕のロマンスは始まる気配すらない。悲しいね。

 

「じゃあ中野は……夏織の隣で」

 

 先生の言葉を信じるなら、転校生の席は僕の隣らしい。

 スッとクラス中の視線が僕に集まる。いや自意識過剰でおそらく中野さんの席に集まっているとは思うが、まるで僕に視線が集まっているようだぁ。

 

 …………まったくやれやれ、美人の転校生が席の隣になるなんてまるで僕が恋愛漫画の主人公みたいじゃないか! 

 いやよく考えたらそんな事ないわ。考えるまでもないわ。

 

 しかし、僕ももう少し個性を主張しなければクラスで埋もれてしまうのではないだろうか? 

 ただでさえ理事長の息子や前田などという個性の塊、属性のごった煮のような人間がいるのだ。そこに美少女転校生だと? 

 僕のような一般男子生徒は、多様性と個性を過度に尊ぶ時代の大波に飲み込まれて消えてしまいそうである。

 

 ちなみに今の僕の個性を表すなら、さしづめ美少女転校生の隣の席の男だろうか。

 なんだそれは。もっとこう魅力的なものが欲しい。外付けハードディスクで盛られても感。

 

「やべえぞこら俺の後ろに中野さんが来んぞコラ」

「前田、君が喋ると僕の個性が埋没するんだけど?」

 

 語尾が特徴的な人はキャラが立ってるのだ。

 僕もキャラのために語尾変えたほうがいいかな? 

 

 転校生はモデルのような堂々とした歩みで隣の席に座った。そして耳にかかった髪を小指で梳きながらにこりと笑う。

 

「私は中野一花、よろしくね」

 

 なるほど、こうして近くで見ると益々美人である。

 ショートカット──正式な名称は残念ながらそういったことに乏しい僕の知識ではわからない──に、短いスカートからすらりと伸びる色白な脚が純情男子の目には眩しい。胸元は見せつけているのかボタンが二つ三つ大胆に開かれている。腰に巻かれたセーター? カーディガンがトレードマークだろうか? 

 なんとも思春期男子には刺激の強い方である。

 

 そしてなぜ友人らはこの格好を見て黒薔薇女子という学校だとわかったのだろう。流石に気持ち悪い。特徴ってスカートくらいでは??? 

 

 だがしかしそんなことより何より、バッチリ決まったピアスが僕の目を引きつけて離さない。

 ピアス開けてかつ初日に着けてくるってマジかよ。転校デビューか? これがギャルってやつなのか? 

 僕の知らない世界なのか? これが陽キャラってやつなのか? 

 

「おいコラ、お前自己紹介しろコラ。せっかく話しかけてもらってんだぞ」

 

 キラキラしたものに、まるで己の世界を壊されていくような錯覚をしていた僕は、前田の語尾にハッとして耳元に注いでいたまま視線を転校生の顔の方へ、正確には目の方へやる。

 

「僕は夏織立花よろしくぽよ」

「よろしくね、立花くん…………ぽよ???」

 

 それにしてもピアスとイアリングの違いはなんなんだろうか。

 ピアスは貫通させて、イアリングは挟むのか? 

 いたそう(小並感)

 

 先生の話の続きを聞き流しながら、チラリと中野さんの耳たぶを見てみる。

 なんとなく自分の耳たぶを触って確かめる。

 ここに針を通すのか? 

 自らの手で? いや怖すぎる。人にやってもらうとかもっと怖い。

 開けたら開けたで、そこにずっと何か通しておくって怖い。

 せっかく綺麗で柔らかそうなたぶなのになんで穴あけちゃうんだ。余計なことをしなくても十分美しいというのに。いや、逆に傷をつけることでより良いものにするというなんかすごい芸術みたいな? 

 

 ……おかしい。ピアスについて考えているはずなのに、これでは少女の耳たぶへひどく執着する変態みたいではないか。

 変態にしてはアホみたいなことを考えている気がするが。

 

「あ」

「ん?」

 

 チラチラ見ていたせいで目があった。

 目があってしまえばそのままじっと見続けるわけにもいかないので視線を逸らす。なぜなら経験上、一度タイミングが合ってしまうとその後も会い続けることになるから。

 僕は愚か者なので自らの経験に学ぶのだ。

 

 授業が始まりしばらくして隣から肘を突かれたので、変態だとか気持ち悪だとかそういう罵倒が飛んでくるのではないかとびくびくしながらそちらを向く。

 そんな僕の被害妄想とはまったく異なり、いししっといたずらっ子のような笑みを浮かべている中野さん。

 

「なになに? お姉さんに見惚れちゃった?」

「いや別に耳たぶとか見てないです」

「え?」

「見惚れてないです」

「みみたぶ?」

「いやみとれる」

 

 半眼でこちらをじっと見てくる。そんな表情でも画になるのだからまったく……顔がいい人大好き。ルッキズムに侵されている僕の価値観。

 中野さんはピシッと人差し指を突きつけてにっこり笑う。

 

「女の子は視線に敏感なんだぞ」

 

 女の子は敏感…………。

 

「でも実は男の子も意外と視線に気がつくもんだよ」

「あれれ、バレてた?」

「まああれだけ見られれば」

 

 テヘヘと舌を出して誤魔化す中野さんにたいして気にしていないような態度で答える。

 

 …………いやいやいや。知らん知らん知らん。

 見られてたってマジ? 全く気がついてなかったけど??? 

 でもよく考えたら僕の身体とか顔とか見られても別になんの問題もなかった。

 女性が男性をガン見して視漢しても罪に問うことが出来ないっ! 

 これが男女格差……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ? 中野さん、五つ子なんだ」

「そうそう。私が長女でね? みんな可愛いの」

 

 中野さんが転校してきて早数日。

 どういう風の吹き回しか、食堂で昼食を一緒に摂ることになった。

 僕からのお誘いではなくお誘いされたのだ。

 やはり僕はラブコメ主人公だった? 

 

 いやよく考えたら他にも四人同じような美人がいるわけで。それの隣の席の人間が僕の他にも四人いるわけで。はたまた考えれば、中野さんと同じくらい綺麗な中野さんと食事をとっている人間が単純に四人いるわけである。

 やはり僕はラブコメ主人公じゃなかった? 

 

 僕が全く関係ないことを考えていると知って知らずか、中野さんもマシンガントークを繰り出している。

 しかしながら僕も脳内マシンガントークなのでトントンだ。

 

「ところで立花くんは兄弟いる?」

「妹が一人」

「じゃあ立花くんが長男?」

「一応長男させてもらってるね」

 

 なんだその言い方。会話能力が乏しいのか立花くん。

 もっとこう、あるだろう? 

 緊張しててダメらしいです。男の子だもんね仕方ないよね。

 

「仲良いの?」

「どうだろう? ごく一般的な兄妹仲だと思ってるけど」

「どれくらい?」

「どれくらい???」

 

 友好度を人に伝わるようにわかりやすく言語化する。まるで国語のテストみたいだぁ。

 持ってきた味噌汁を飲みながら少し考える。

 そんな目で見られて期待されるほど良い答えは出てこないけど? 

 

「だけど、まぁ、あえて例えるなら」

 

 うん、と相槌をうって豪華な天ぷらを口に入れる様子を眺めてから、僕は口を開く。

 

「二人でカラオケ行けるくらい」

 

 別にドヤる事でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日の放課後。僕は縁のあった個人経営の書店で、今日も今日とてアルバイト。

 両親はここで働いていたことがあり、その縁で結婚したとかなんとか。

 店長情報なので嘘か真かわからない。両親も否定はしてなかったので多分本当。だからなんだと言われれば別にどうということもない。

 人生何がきっかけになるのかわからないものであるということである。

 どうということもあったらしい。

 

「あれ、立花くんじゃん」

 

 一度何かのきっかけとなった場所はその後もそうなりやすいと聞くがその辺りはどうなんだろうか。

 少なくとも……

 

「おーい、もしかして私のこと無視してる? お客さんだぞ〜?」

「いらっしゃいませー」

 

 この書店は再び何かのきっかけになりそうな予感がある。

 

 

 

 なんてことを言ってみたものの、別にそんなことがそうそう起こることもなく。至って普通に中野さんが居座っているだけである。

 至って普通に居座るって何? 

 

 店長は親の顔まで知っているせいか僕のことを孫か何かかと思っているようで、誰か知り合いが来るとすぐに出てくるのであまりきて欲しくないというのが本音。

 

 わかりやすく言うならおばあちゃんに好きな子知られるのは恥ずかしいみたいな感覚。

 

 とはいえ今日は存在しないので問題はない。

 

「アルバイト?」

 

 ファッション雑誌を購入した中野さんは、質問とともにレジの前に椅子を持ってきて腰を下ろす。

 

「そうそう。おしゃれでいいでしょ?」

「それ自分で言っちゃうんだ」

「いや、下手なこと言えないだけ」

「あ、あはは」

 

 これには中野さんも苦笑い。

『金持ちの道楽だよ、ひゃっひゃっひゃっ!』と笑っていたので、多分ここの経営は趣味みたいなものなんだろうと思う。

 笑い方が完全にお化け。

 

「知ってる人が働いてるの見るの変な感じがするね」

「友達にバイト先知られるのもなんか変な感じがするよ」

 

 友達がバイト先に来るのってなんか恥ずかしいよね。うまく言葉にできないけど。

 知られてない面を見られている感じというか、その人に見せたい面とは違う面を見せてしまってるというか。

 まあ別になんでもいいけど。

 

「ともだち」

「そう、友達」

「友達かあ」

「友達じゃないみたいな反応はダメージが大きいんだけど」

「ううん! いいよね友だち!」

 

 どういう反応? 

 

「ま、何はともあれゆっくりしていきなよ。大体は閑古鳥が鳴いてるからさ」

「じゃあ……お言葉に甘えさせてもらおうかな〜」

 

 ページをめくる音と僕がペンを動かす音だけが室内に響く。

 

 

「立花君、お客さんがいるのに接客しないのはよくないぞ」

 

 それなりに時間が経った気がする。

 いつのまにかページをめくる音はなくなっており、部屋に響いているのは僕の鉛筆を動かす音と中野さんのかわいい声。

 その声に一理あると思いつつ、ペンを動かしながら返事をする。

 

「だけど店長も居なければお客様は誰一人としていない」

「あれれ、私お客さんだと思われてない?」

「友達だから接客する必要がない」

「あーあそういうこと言っちゃうんだ。せっかく同級生の女の子二人っきりなんだよ?」

 

 それを言ったら同級生の男と二人っきりなのに、そのガードのゆるさはなんなのか。

 そんなことを思いつつ顔を上げる。

 至近距離には整った顔。

 

「……なに?」

「やっとこっち見た。最近の男の子は女の子に興味がないのかなあ」

「どっちに答えても問題になる質問をしないで???」

 

 興味あるに決まってるだろ。

 

 …………まあ、勉強はしてたもんね? 人いないしいいよね? 

 息をついて開いていた教科書を閉じる。

 

「あれ、べんきょーやめちゃうの?」

「ふっ構って欲しそうな女の子を放っておくわけには行かないからね」

「わお! 私口説かれちゃってる」

「口説かれてくれるかい?」

「ごめんむり」

 

 …………。

 

「いつもは姉妹五人で仲良く帰ってるじゃん。今日はどうしてこんなとこに?」

「あ、拗ねた」

「別に拗ねてない」

 

 ただ二度とふざけたことはしないと誓っただけだ。

 

「ちょっと用事があってさ。人を待ってるんだ」

「ちなみにどんな?」

「あれあれ? 興味ないんじゃなかったのかな? りっかくん?」

「別に聞いたっていいだろ」

 

 興味ないわけないだろ。

 

「なになに、もしかして私のこと好きなの〜?」

 

 口元に細い指を持ってきてにんまりと笑いながら言う中野さん。

 対する僕は口を開けたまま固まっている。

 初めて女の子にそんなこと言われちゃった。

 

「授業中もチラチラお姉さんのこと見てたし? 目が合うとすぐ晒しちゃうし? さっきは口説かれちゃったし〜?」

「べ、別にそんなんじゃねーし!!」

「ほんとか〜? うりうり〜」

 

 ああ! お客様!! 近接攻撃は店内ルールで禁止となっております!!! 

 カウンターを挟んで対面する女子高校生のからかいを受ける男子高校生。

 こう表現すればなるほど確かに青春っぽいだろう。

 そんなもんじゃないけど。

 

「一花ちゃん」

 

 中野さんを呼ぶ声がした気がして、入り口のあたりを見る。車が止まっているはわかるが誰が読んでいるのかわからない。

 

「ちょ、ちょっとやめ!」

 

 その声は彼女には聞こえていなかったのか、僕をいじくり回す手が止まることはない。

 おい、誰だか知らないけど待ってる人だろ! そんな姿見せたら悲しむぞ! 

 

「一花ちゃん、迎えにきたよ」

「あ、もうそんな時間ですか?」

 

 男性が現れて中野さんに直接声をかけたことでようやく止まる。

 けろりとした表情の彼女とは違い、対するこちらは息も絶え絶え。もう立花ちゃんお嫁に行けないわ!! 

 

 

 気持ちと息を落ち着かせてしっかりと中野さんの待ち人さんを見てみる。

 ちょび髭のおじさんだ。

 その時点で既にキャラが濃い。

 そういう人まで出てきてしまうと僕が没個性となってしまうので(以下略)

 それはともかくどんな関係なんだろう。お嬢様らしいし、この人が執事さんだったりするんだろうか? 

 

「失礼だが、君と一花ちゃんの関係は?」

「客と店員です」

「ひどいわ! 私のこと口説いたのに!」

「……君?」

「誤解です」

 

 おい何笑ってるんだ。あらぬ誤解を受けてしまっ…………え? 後で話がある? いやぁちょっとそれは……また今度来る? あっ、はい。

 

「あ、立花くんも来る? 綺麗な顔してるし」

「もしかして僕口説かれてる?」

「あはは、冗談だよ」

 

 僕の方が口説かれてるぞ! 執事さん! 見てよ?! 

 既に執事さんは車に戻った後で、僕の主張が届くことはない。

 なんてこった。

 

「…………」

「どうかした?」

 

 荷物は一通り片付けてあるもののなかなか椅子から立ち上がらない。

 

「一花ちゃん早く」

 

 外からは少し急かすような声が聞こえる。

 中野さんは視線を彷徨わさせて口をぱくぱくとさせている。

 どうしたどうした? 

 

「えっと……また来てもいい?」

 

 なんだ、そんなことかい。

 僕は向かい合うようにして座っていた椅子から立ち上がり、なるべくいい笑顔を作る。

 

「またのご利用お待ちしております」

 

 

 

 

 

 

 中野さんが出て行ったことで再び静かになった店内。

 勉強をする気も起きなかったので別に乱れていない棚を整理してみる。

 もとより乱れていないので、別に整理しようと変わらない。

 あるのはなんとなく仕事をしてる感だけ。

 

 特に成果を上げることなくやった感を堪能していると、すりガラスの引き戸が勢いよく開けられる。

 

「いらっしゃいませー?」

 

 驚いて反射的に挨拶をしてしまった。

 まるで間違っているような言い方だが、挨拶するのがどう考えても正しい。

 

「協力して欲しいことがある」

「…………冷やかしは勘弁してくれよ?」

 

 今日は友人がよく来る日だなぁと、参考書を片手にもったガリ勉くんを店へと入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対面から参考書を閉じる音が聞こえると、ペンケースのチャックが勢いよく閉められる。

 

「もう勉強はいいから遊ぼうよ」

「僕は一応仕事中だし、奥には店長がいるの」

 

 人が来ない間はという条件で勉強する事を許してもらえてるのに、遊び出すのは流石にまずい。

 常連さんが来るくらいだから問題ないかもしれないけど。

 

「それは今更じゃない? さっきからすごい見られてるよ?」

「あの人下世話な話が好きだから僕らの関係を勘繰ってるんだよ」

 

 余計なお世話である。

 

「勘違い、させちゃおっか?」

「……勘弁してくれ」

「私はされてもいいよ」

「わかった。全面的に要求を飲む。だからこれ以上は」

「そんなにやなんだ」

「君はいつのまにか誤報が広がっている恐ろしさを知らない……」

「そう? じゃあ後で何かお願い聞いてもらおっと」

「はい……」

 

 中野さんが来るようになってから近所のおばさま方に『彼女できたんだって聞いたわよ〜! 大きくなったわねぇ』と感慨深げに言われるのだ。

 ちょっと勘弁してほしい。

 苦笑いしながら『彼女じゃないですよ〜。友達です』と返す身にもなって欲しい。

『あらあら照れちゃって』の一言の前にはどんな言葉も無力。

 

「じゃあね…………今度花火やるの知ってる?」

「そりゃあもちろん」

 

 一応僕とて地元の祭りくらい把握している。

 

「僕はなんで九月三十なんて時期にやるのかずっと疑問に思ってるよ」

「涼しくていいじゃん。納涼だよ納涼。涼を納めるって書いて納涼だよ?」

「中野さん漢字書けたんだ」

「私のことなんだと思ってるの?」

「とはいえ、いくら納涼祭といえども環境が忖度しすぎじゃない?」

 

 そもそも納涼は七、八月の暑い時期に、暑い日中を避けて涼しみましょうねというものである。

 九月の初週或いは半までなら納得できなくもないが、流石に末は外れすぎてる感がある。

 

「立花くんのうんちくはいいよ」

「あっ、はい」

 

 でも末も暑いからいいのかもしれないね! と誰にしているのかわからない言い訳を内心付け加えておくとする。

 

「誰かと行く約束してる?」

「一応」

「あー……そうなんだ。ちょっと意外かも」

「それどういう意味で言ってんだ」

「でも良く考えたら立花くん綺麗な顔してるもんね。女の子と遊んでても納得だよ」

「褒められてる???」

「べつにー?」

 

 べつにーとは。

 

「まあいいや。中野さんも行く予定あるの?」

「うん。私は姉妹で行くつもり」

「妹が四人ってどんな感じなのか想像もつかないな」

「みんなで屋台まわって、それで…………」

 

 少し間が生まれる。

 ひどく優しく儚げな微笑みを浮かべてゆっくりと続ける。

 

「五人で一緒に花火を見るんだ」

「楽しみなんだね」

「うん。私達にとって花火を見るのは特別なことなの」

 

 どこか遠い目をして言った中野さんに、どういうことだと尋ねようとしたが、僕の言葉を遮るようにしてもうこんな時間だと呟く。

 温度差で風邪を引きそうだ。

 

「私そろそろ帰るね」

 

 帰ると言われてしまえばそれまでで、どれだけ意味深なことを言われて気になろうとも、無理に引き止めて尋ねることは憚られる。

 何より雰囲気の切り替えについていけていない。

 

「また明日! お願いは考えとくから!」

 

 笑顔を貼り付けて手を振る彼女を見送り、僕は仕事へ戻った。

 

 まあ、戻ったところで仕事はない。勉強もする気も起きはしない。

 

 どうやら中野さんの勉強嫌いを移されたみたいだ。

 

 

 

 

 そういえば……なんで僕何も悪くないのにお願い聞くことになってるの??? 

 




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