中野一花のお友達   作:五等分二次増えて欲しい。

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おそらく前後編になります。


花火大会 前編

 本日は、9月30日日曜日。

 時計を見れば時刻は18時を少々過ぎたところ。

 

 僕は一人、人混みに溺れていた。

 どうしてこうなった。

 なぜなら妹と逸れたからです。

 やったね自己解決できてるよ!

 

 とはいえ花火が始まるのは19時からだと聞いている。つまりあと一時間弱は捜索する余裕があるというわけであるが、残念なことに電話は繋がらなければメッセージを読んだ気配もない。

 そうなってしまうと探す手段が無いから非常に困った。

 

 役に立たないスマホくんである。

 

 しかしせっかく一緒に来ていたというのに僕を置いていくとはどういう了見なのか。

 既に中学生なので特別心配することはないが、それはそうとして連絡くらいして欲しいところだ。心配になるから。

 

 おかげで無駄にお面が余っている。

 故に現在の装備は、お顔に一つ、お腰に一つである。

 これではお面大好きな人になってしまってる。

 お面をせがむから買いにいったのに。兄の尋常ならざるセンスに期待とか、ふざけたこと言うから気合を入れて考えたというのに。

 

 まあいい。よくはないけどいい。

 

 別に一人でも寂しくない。ないったらないのだ。

 

 

 

 

 喧騒から離れて少々。

 通りから距離のある公園で祭りの煌びやかな灯りをぼんやりと眺めている。あれだけ人が沢山いると知り合いの一人でもいそうなものであるが、よく考えたら通りから外れているこんなところで会うわけがない。

 こんなところでこんばんはしたら逆に怖い。

 僕はコミュニュケーションを取ることを苦手だとは考えないが、公私を分別するタイプなのでこういう時に話しかけられると意外と辿々しくなってしまったりしまわなかったりする。

 要するにあんまり会いたくはないってこと。

 

 

 さてこれからどうしようかというところで、一つ隣のベンチに誰かが腰掛けたのがわかった。

 どうやらお祭りでは迷子やぼっちは生まれてしまうものらしい。

 電話で話をしている声が聞こえる。もしかしたら一人でぶつぶついうタイプのやべえ奴という可能性も捨て切れないが、そうではないことを祈ることしかできない。

 もしかすると、本当のお化けの可能性だってある。お祭りならそういうのが居てもおかしくない。

 お祭りに一人でいるやつこそ真の化け物かもしれない。そんなことあるわけないだろいい加減にしろ!

 口には出さずそんなことを考えていると、気がつけば会話は終わったらしく既に隣は静かになっている。しかし、立ち去るような気配はまったくない。

 他にも幾つか空いているベンチがあるにも関わらず、態々隣にいるままみたいだ。

 僕のこれまでの人生経験からすると、人が座っているベンチの隣のベンチに座る人はなかなかいない。なんとなく一つくらい空けない?

 同じベンチに座られたら完全にヤバいやつだが、隣のベンチならセーフか?

 いやでも今から動かれて距離を離されるのもそれはそれでなんか嫌だな。

 

 このまま大人しくしているのもいいけれど、残念ながら僕は大人しくすることができる高校生ではないのである。

 誰に伝えるわけでもない言い訳を完了した後、意を決して隣を見てみると───

 

「きやぁ?!」

「わっ?!」

 

 急におっきい声出されて声出…………ん?この声は?

 

「あれ?中野さんじゃん。びっくりさせないでよおっかないなぁ」

「え…………あ、ああ、立花くん?」

「ん、まさかこんなところで会うとはねえ」

「ぜ、全然気づかなかった」

 

 それにびっくりしたのはこっちの方だよ〜と言いながら僕の方のベンチに移ってくる。

 ま、まあ?友達NGって言ったけど?中野さんなら別にいいかなぁって思います。

 僕だって男子高校生だもんね。可愛い子と会えて嬉しくないわけないよね?現代っ子はルッキズムに支配されてるから仕方ないよね(現代っ子に対する風評被害)

 

「浴衣だ、似合ってるね」

「だろ?僕ってば和装が似合う男なんだ」

「ほんと似合ってるよ。私が見たことある中で一番かっこいいかも!私が見たことある中で!」

「それ褒めてんの???」

 

 褒めるならしっかり褒めてくれるとお兄さん嬉しい。

 まあいい。似合ってるってところだけを受け取れば問題ないのだ。『大事なことなので2度言いました』の部分を忘れてしまえば何も問題ないのだ。

 

 そんな僕の頭の中など関係ない。隣に座った彼女はそうだ、と何か思いついたかのように悪い顔をして更に僕の方に寄ってくる。

 顔が近い。ツラが良い。パーソナルスペースが狭すぎる。僕のはもうちょっと広いんです。

 

 半ば密着するような距離になると中野さんは襟の部分を少し摘んで上目遣いをした。普段と少し格好が違うだけで雰囲気が変わったように感じるのは僕が祭りに呑まれているからだろうか。

 

「ねね、浴衣は本当に下着を着ないのか気ににならない?」

「別に」

「そんなこと言っちゃって〜本当はドキドキしてるんでしょ?」

「断じてしてない」

「もうもう照れちゃってぇ!」

 

 なんだこのノリ。

 彼女も僕と同じく祭りに酔ってるのか、それとも普段通りなのかわからない。僕はそれを判別できるほど彼女との関係が深いわけでも長いわけではないのだ。

 

「うーん、最近の男の子はやっぱり女の子に興味ないのかな?」

「その話は前も聞いた」

 

 勘違いする人はいないと思うけれど、一応万が一に備えて断っておくが、僕は決してホモセクシュアリティではない。

 ヘテロセクシュアルである。異性愛者である。つまり僕は女の子が好きだ。結婚したい。

 

「ちょっとはさ、期待とかしない?可愛い女の子がこんなこと聞いてきたら」

「着慣れてない浴衣は()()がついてて固いし、裸だとかぶれるから普通の人はそんなことしない」

「え?そうなの?」

「とはいえ肌が弱くなければ大丈夫だけどね」

 

 というか、そもそもこんな時期に裸に浴衣は感覚神経壊れてる。

 いくら人が多いとはいえ、流石に九月は肌寒いじゃん。

 しかし、こうして晒されている肌を見ると絶妙に申し訳ない気持ちになるのはなんなんだろうか。全然関係ないけど。

 

「というか、いつも胸元開けてる人が何言ってんの?」

「え?」

「あ」

 

 そんなことを考えていたからだろうか、僕は失言した。

 

「うんまあ、ともあれ別に浴衣の下には興味ない。どうせ着てるから」

「いや、誤魔化せないから。というか着てない可能性があるなら興味あるみたいな言い方じゃん」

「何を言ってるんだか」

「ふーん、いつも私の身体見てたんだぁ〜?」

 

 ちがう。

 いや、違わないけど。

 そんなに大胆に見せられてたら嫌でも視線がそっちへ行ってしまうのは仕方ないと思う。それで急に身体のことなんて言われたら誰でもつっこみたくなる。いやつっこみたくなるていうのはそういう意味じゃなくて。

 

「……ごめん、不快にさせた」

「でも仕方ないよね、立花くんも男の子だもん」

「ちなみにクラスの友達は女子も含めてすごい見てた」

 

 これでよし。僕の醜態よりも他のインパクトのある情報で上書きすることで僕のことはなかったことになり、さらに告発した僕をまるで仲間のように感じてしまうという天才的なトリックに君は翻弄されるしかないのだ。

 

「でも立花くんも見てたんだよね?」

 

 なんてことはなく、情けなさ倍増である。

 男の子だもん仕方ないよね。逆に見ない人とかいるの?

 無様な開き直りは口に出さない。情けなさすぎるから。思うだけで情けないと言うツッコミは受け付けない。

 

「完全に反省してます」

「ほんとかなぁ〜?」

「ほんとほんと。次からは胸元見ないから」

「立花くんもそう言うところがあるなんてねー。お姉さん驚いちゃった。襲われないように気をつけないと」

「おい、僕を犯罪者にしようとするのはやめるんだ」

 

 ひとしきり笑われた後、ジュース一本詫び入れる事で許してもらった。

 この程度で許されるなら安いものである。

 並んでベンチに腰掛けながらペットボトルを呷る。

 

「一人なの?」

「うーん、まぁね。そういう立花くんも一人じゃん。約束あるって言ってたけどフラれちゃった?もしかしてぼっち花火?」

「フラれてない。妹と来てたけどはぐれた」

「あれ妹ちゃんとの約束って事だったの?見栄張ったんだ」

「見栄じゃない。事実だ」

「あはは、じゃあ高校生にもなって立花くんが迷子になったのも事実?」

「僕が迷子になったんじゃなくて妹が迷子!」

「ふふん、迷子はみんなそういうんだよ」

「断じて迷子じゃない」

「立花くん、さみしいよね?お姉さんが一緒に探してあげよっか?手繋ぐ?」

「僕のことをなんだと思ってるんだ」

「ほらほら、いいからいいから」

 

 座っている僕の手を取って立ち上がらせ、さっさと歩き出す中野さん。

 妹の顔すら知らないというのにあてはあるのだろうか。そう思ったところで、浴衣の袖に振動があった。

 

「ちょっと待って、連絡来たかも」

「ん、いいよ」

「…………学校の友達と会ったらしい」

「それで置いていかれたの?」

「まあ……そういうことになるね」

 

 うちの兄妹関係なんてそんなもんである。

 兄弟が一緒にいたらみんな気まずいから仕方がない。

 問題は鍵を持っているのが妹なので、残念ながら僕は今から家に帰っても入れないという事である。

 

「じゃあせっかくだし一緒にま─────」

「あ、私も電話来たみたい。ちょっと待ってね」

 

 僕の次は中野さんの電話が鳴った。僕にとっての世紀の大勝負の可能性が微粒子レベルで存在したかもしれないお誘いは、電話のコール音によってあえなく遮られてしまった。

 当然返事をするよりも早く離れてしまった。

 

 どう考えても電話の方が大切だから当然の結果である。悲しいけどこれが現実なのよね。悲しいけど。

 

「はい……また、あとでかけ直します」

 

 誘おうとしてから思い出したけれど、彼女は妹さん達と花火を見るとか、花火は特別だとか言っていた気がする。そんな彼女がどうして一人で?五人でいるのではないのだろうか。

 …………もしかして本当にこの中野さんは中野さんじゃない可能性が出てきたな。

 

「お待たせ」

 

 耳元から声がかかった。思考をやめて振り返る。

 少しズレたら触れてしまいそうな距離だ。端正な顔立ちは健康にいいが急に現れると心臓に悪い。

 

「ぼーっとして、どうかした?」

「ん、いやなんでもないよ」

「立花くんって普段から上の空なこと多いもんね」

「そんなことはないと思うけど」

 

 突然の美声ASMRと綺麗な顔にひゃあっと声をあげそうになったが、流石に気持ち悪がられたい特殊な性癖は持ち合わせてないのだ。びくりと肩を震わすに留めて平然と会話を試みる。

 留まってるのか……これ?

 

「そう言えばさっき私に何か言おうとしてたよね?何言おうとしてたの?」

「別になんでもない」

 

 僕の返事にふーんと相槌を打つ中野さん。

 おそらくこれから五人でまわるのだろうし、僕がでしゃばるのはよろしくない気がした。まして五人の中に混ざるわけにもいかないし、四人とは面識がない。

 

 誘うの失敗したから誤魔化したみたいな感じではあるが、僕が誘おうとしたのに気がついていないようなので問題ないのだ。

 

「じゃあ、ちょっとだけお姉さんと一緒に回ろうか」

「え?」

「ほらほら行くよー?」

 

 スッと僕の手を引き、進み出す中野さんに若干よろけた。

 

「中野さん五人で花火を見るって言ってたじゃんか」

「いいから、一緒に行こう!」

 

 中野さんがいいというならいいのか?そう納得させて、僕は先へ進んでいく彼女の横へと並んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく二人で屋台をまわって人混みに揉まれ流されていたわけであるが、どうにも彼女の様子が普段とは違う気がした。空元気というかなんというか。楽しんでいないわけではないのだろうが、後ろ髪を引かれているような感じ。

 やはり、妹さん方と逸れたのか。だとすれば連絡を取ればいいだけだし、わからない。

 

「…………あの、立花くん」

「どうかした?」

「ちょっとここ移動しない?」

「ん、まあ移動することは全然構わないけど……そう自由に動けるスペースはないよ」

「どうしよう、見つかっちゃう」

「見つかるってそりゃまた誰に───あの人?」

 

 中野さんの視線の先にはちょこちょこ店に中野さんを迎えにくるちょび髭のキャラ濃いおじさん。

 よくわからないけれど、どうやらただ事ではなさそうな反応に僕はいまいち状況が飲み込めない。しかし、取り敢えず差し当たってバレなければいいなら簡単である。

 

「取り敢えずこのお面あげるから付けな」

「でも立花くんがいるとバレちゃう!」

「もう一つあるから大丈夫だよ」

「なら、大丈夫かな……というかなんで二つ持ってるの?」

「そんなことはいいじゃん。ほら、さっさと付けて」

 

 案外こんなものでもこの人混みでは識別するのは難しいのではないだろうか。お面付けてる人なんて沢山いるし、男女二人組もこんな日故に沢山いる。

 

「じゃあ、ちょっと人が少ないところ行こっか」

 

 握っている手を引いて、人波から離れた路地へと移動する。途中でおじさんの横を通ることとなったが、僕らに反応する事なくすれ違うことができた。

 

「まあここまでくれば大丈夫でしょう」

「そうだね。ありがとう」

「…………」

「…………」

 

 移動できたのはいいものの、それっきり会話がない。

 彼女の中では何かこう、あるのかもしれないが、僕には未だ何も理解できていないし、材料がない。いざこざがあって逃げているということなら、僕も一善良な国民として警察に届け出る、そういうこともあり得るのだ。

 だからこうしていても仕方がないので僕から彼女に話しかける。

 

「前さ、僕のバイト先にあの人が迎えにきてたじゃん」

「…………話の切り出し方が下手なんだね」

 

 うるさい。僕だってそれくらいわかってる。

 

「……それが今日君が一人な理由に関係あるのかなって」

 

 そう言いながら彼女とお面越しに視線を交わせば、この一言で少し空気が重くなったように感じた。

 はたから見ればお面を付けた男女がお面のまま向かい合っているという意味不明な状況だろう。でも仮面で向き合うのが必要なのだ。

 何だか顔怖いよ。見えないけど!とでも言って場を和ませたいところだけど、そんな事をしても好転しないことくらいはわかる。こんな僕でも多少のデリカシーはあるのだ。

 いや踏み込んでしまった時点でデリカシーもなかったかもしれない。

 ノンデリの徽章を胸につけるべきか。

 

 中野さんは僕から視線を外すことなく口を開いた。

 

「そうだよ……って言ったらどうする?」

「特に何も。そうなんだってなる」

「それちょっとひどくない?」

「いやよくわかんないけど込み入った話なら別にいいかなって」

「ここまで聞いておいてそうなっちゃうか〜」

「僕が聞いていいかわかんないし」

「うわ」

「うわ????」

「乙女の気持ち踏み込んでおいて立花くんサイテー」

 

 話したくないなら聞かないという僕の気遣いなんだ一応。

 踏み込んでから言うの遅い気もするけど。

 

「まあいいや。じゃあ、僕が聞いたら答えてくれるの?」

「え?あーうん……ね?なんというか、ほら別に答えないこともないけど」

「とてつもなく微妙な反応に僕は困惑を隠せない」

「だって立花くん、はっきりしないんだもん。信じていいのか不安になっちゃう」

 

 それを言われてしまうと弱い。

 優柔不断な態度だと自覚はある。

 

「あはは!うそうそ。そんな顔しないでよ……ま、立花くんにならいいかな」

 

 おそらく変な顔をしている僕を笑うと、そうポツリと呟き普段通りの声に戻った。

 中野さんは面を取って手慰みにするようにくるくると遊ばせている。

 僕もそれに倣って面を外す。

 

「私さ、カメラで撮るお仕事しててね。それで、あの人がカメラマンさんなんだ」

「……何というか、気持ちの悪い言い方するなぁ。つまり君はモデルをやってるってこと?」

「うーん、ちょっと違うかな。正しくは女優だね。女優。スカウトされて始めたばっかりだけどなんだけどね」

「女優ねえ……そう変な言いまわしをする必要もないと思うけど」

「そう、女優…………あのさ、さっきまであんなこと言ってたのに、そんなこと言うためらいはないんだ」

「僕なら教えてもいいっていってくれたから。だから僕も繕うことはしないよ」

「それはそうなんなけどお姉さん、なんだか釈然としないなあ」

 

 お面をまわすのを止めると、お面を帯に付けて手を開けた。

 

「あーあ、初めて身近な人に知られちゃったよ」

「ん?」

「ん?」

「え?いや、え?僕以外知らないの?」

「そうだよ。お父さんは知ってるけど、二乃───妹達は知らないし、もちろん学校の先生も知らない」

「僕と君の二人だけの隠し事ができちゃったね」

「もしかして私のこと口説いてる?嬉しいけどまだ五つ子好感度が足りないかな」

 

 なんだそれ。

 

「さておき、本当に僕に話していいの?妹さん達に話す前に」

「いいのいいの。そんなにすごい秘密ってわけでもないし、話す機会なかっただけ」

「それは……ただのアルバイトと考えればそうかもしれないけど」

 

 でも言わなかった。

 ならばそれには相応の理由はあるはずなのだ。

 短い付き合いであるが、僕にだって彼女がどういう人間かということについて多少はわかってくる。少なくともこれに関して考えなしに黙っているという事はない。

 

 少しはにかむように笑うと中野さんは、実はさと、言って話し始める。

 

 

 

 

「お仕事抜けてきてるの」

 

 

 

 

 

 

 





お読みくださりありがとうございました。
明日か明後日には後編の投稿をする予定です。
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