あなたと一年戦争 作:ネムノキ
あなたはジオン軍人です。
ジオニック社の社長一族の傍系の女の子に転生したあなたは、政略結婚に使われる予定だったため必要最低限の教育しか受けさせてもらえませんでした。
そのため十五歳で暇を持て余していたあなたは、よく家を抜け出しては町工場に入り浸っていました。ズムシティの港近くにあるその町工場は、ロールアウトの始まったばかりの『ザクⅠ』の修理を委託される程度には技術と信用がありました。だからあなたの脱走は許されていたのです。
しかしあり余る暇と小遣いにモノを言わせて。ザクⅠの交換パーツとエレカや冷蔵庫等々民生品のパーツを組み合わせて『オッゴ』のプロトタイプを作ってしまったことで、脱走していたあなたはお縄になりました。
軍の備品を流用した訳ですから、あなたはとても怒られ、キシリア・ザビ直々に取り調べを受けました。
「ザクⅠは戦闘に優れるだろうが作業には向かない」
「ジオンには作業用のポッドかモビルスーツが別途必要」
「しかし今のジオンにそんなモノを開発する余力はない。だから私が造った」
「ザクⅠや民生品の部品を使ったのはそうすることで補給を容易にするため」
「またオッゴにザクⅠの手持ち武器を据え付けるだけで、警備艇の代わりにもなる」
テキトーなことを言って煙に巻こうとしたのですが、あなたの表情が必死なものだったせいでそうは受け取られませんでした。
「貴女の愛国心を認めよう」
宇宙世紀0076年10月1日付で、どういう訳かあなたは公王デギン・ソド・ザビ直下の組織『デギン記念研究所』の所長になっていました。ついでにジオン公国軍少佐の階級も与えられました。
わざわざ前所長を解雇してまでやらせたいこととは何なのか、あなたは戦々恐々としました。なお前所長は連邦のスパイだったため仕事とこの世から解雇されたのですが、そのことをあなたは知らされていません。
前世の記憶から来る恐怖と裏腹に、デギン記念研究所で研究されていたのは。
「外太陽系にて恒久的に暮らす方法」
なんとも平和なお題目のモノでした。
連邦との戦争を控えているせいか、予算は限られていましたが、それでも、
・チベ級戦艦『ヒンデンブルク』
・ガガウル級駆逐艦『ナーエ01』『ナーエ02』
・ヤップ級大型輸送艦『ヤップ13』
という四隻の艦艇を保有していました。なおお題目を叶えるために軍艦が必要になるシチュエーションが浮かばなかったあなたは、戦闘艦三隻の必要性をいまいち理解出来ませんでしたが、便利使い出来そうなので気にしないことにしました。
あなたの参加に伴い、デギン記念研究所には、ザクⅠの製造ライン一本とそれだけでは足りないオッゴの製造部品の生産機械諸々が増えています。しばらくはジオン軍からのオッゴの注文をこなしながらの業務になるでしょう。
とりあえずあなたは、残っていた予算を使って『ヒンデンブルク』の近代化改修を始めました。
エンジン周りをミノフスキー・イヨネスコ型核反応炉対応にして。主砲をメガ粒子砲に変えて。突撃艇格納庫をオッゴ・モビルスーツ対応に変えてカタパルトも設置しました。
なおそれだけで宇宙世紀0076年の余剰予算と時間は潰れました。
宇宙世紀0077年1月30日。
近代化改修を終えた『ヒンデンブルク』の各種試験と予算確保のため、『ヒンデンブルク』『ナーエ01』『ナーエ02』『ヤップ13』からなる『デギン艦隊』は、太陽・地球系ラグランジュ3目指して航海に出ました。そこにある金属資源の豊富な小惑星『ベルクヴェルク』をジオン公国に持ち帰る代わりに研究所の予算を得られるよう、デギン公王がギレン・ザビと交渉していたからです。あなたはその作業の責任者に据え付けられました。
「少佐でそれは無理です!」
とゴネたら、いきなり大佐まで昇進させられたので断れなかったのです。権力って怖いですね。
多少のトラブルはありつつも、デギン艦隊は同年5月10日に目標の小惑星上空に到着。移動用の核パルスエンジン設置のための前準備を始めました。
5月12日。デギン公王からあなたの下に秘匿通信が入りました。
「ベルクヴェルクを移動させるのではなく、その場でコロニーにせよ」
よく分かりませんが、この小惑星をこの場所から動かさず、この場所で人の住める基地にするのは、デギン記念研究所のお題目を実験するためだと、あなたは理解しました。
デギン公王的には、連邦との緊張感漂う中で金属の塊なベルクヴェルクをジオン公国に運び込んだ場合、経済制裁の回避と見られて開戦の口実になってしまう。しかしベルクヴェルクを放置するのは勿体ないから、所有権を宣言出来る程度に基地を造らせよう。そんな思惑でした。あなたはデギン公王の思考を理解出来ていませんでした。
そんなあなたは、こう通信を返します。
「実行するための労働者が必要。ド素人でも良いので準備して欲しい」
恒久的に暮らせる基地を造って維持するには、今の艦隊の人員だけでは足りません。しかしジオン公国にこんな辺境の基地を維持させるような人的資源はありません。仕方ないから、地球に残されている貧困層に来て働いてもらおう。あなたは軽く考えていました。
デギン公王は派遣しているデギン艦隊の人員だけで、領有権主張に足る基地の建設と維持は出来ると計算していました。そんなことぐらいあなたも理解出来るだろうとも。しかしあなたはド素人でも良いから労働者を必要と言う。
何故? そう深読みした時、デギン公王は理解し冷や汗をかきました。
太陽・地球系ラグランジュ3という地球から離れた場所で兵器を造ったところで、連邦は察知出来ない。だからベルクヴェルク基地を生産拠点にしたい。そのための人員は地球在住の技術者を引き抜いてやらせれば、地球連邦の生産・研究力を削りつつジオンの生産力向上に繋がる。何なら引き抜きにかこつけて政治工作も出来る。
恐ろしいことを考える女だと、デギン公王はあなたを恐れ。また自分の下に引き抜けたことに感謝しました。
あなたとデギン公王の思惑はズレているのですが、誰も気付かなかったため指摘はありませんでした。