『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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十話

 

 

 辺境の開拓村での『ゴブリン退治』の仕事を終わらせた投擲手の彼は冒険者ギルドの受付嬢に依頼達成を報告した。

 

「お一人で二十ものゴブリンのお相手を……本当にお疲れ様でした」

 

「どうも……むしろ、二十で済んで良かったと思っているくらいだ。ただ、今回は損の方がデカいな」

 

 そう、ゴブリンの群れがどれくらいのものか分からず、最悪の事を考えて多めに調達した水薬や武具に防具、それに村人に色々と払ったそれらも合わせて今回はかなりの金を浪費してしまった。この前の『ゴブリン退治』の依頼で別に退治する事になった盗賊団から宝を獲得していなければ、間違いなく大赤字でしばらく生活に苦労する事にはなっていただろう。

 

 必要経費なので仕方無いのだが……。

 

 

 

「本当、ゴブリン退治と言うのは割にあわない仕事だ。だからって受けるのを止めるつもりは無いけどな」

 

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

  受付嬢が投擲手に頭を下げた。

 

 

 

 その後、投擲手は……。

 

「それで……岩喰怪虫(ロックイーター)退治はどうだったんだ?」

 

 夕方、受付嬢に依頼達成するために冒険者ギルドに入った際に出会った若い戦士の一党から酒場で飲み交わさないかと誘われたのでそれに応じていた。

 

 若い戦士の一党は岩喰怪虫とは因縁があった。そもそも鉱山に岩喰怪虫が出現したことを報告した第一発見者は彼らなのだ。そして命からがら逃げだした雪辱を晴らすために冒険者総出と言っても良い岩喰怪虫退治に参加するのは当たり前の事である。

 

「それがよぉ……とんでもないくらいヤバかった。なんせ、ロックイーターとブロブが共存していたし、どっかの鉱山夫が掘り進めていた道を報告しやがらなかったせいで予定外の方向から奇襲を受ける事になったりな」

 

「悪い事は本当に重なるよな」

 

「勘弁してほしかったです」

 

「生きている事に改めて感謝しているほどです」

 

 若い戦士に鉱人、半森人の少女、知識神に仕える僧侶がそれぞれ、苦い顔をしながら語る。

 

「成程……それでロックイーターにリベンジは出来たのか?」

 

「いや、結局あいつを倒したのは……「この俺だよ」」

 

 若い戦士が投擲手に答えようとした時、槍使いが現れながら先んじて答えた。

 

「で、俺達がロックイーターと戦っている間、お前は何を相手にしていたんだよ?」

 

「いつも通りという奴だよ。ゴブリンだ……もっとも今回は巣穴をもっていなくてな。いわゆる渡りの群れで二十匹……それを野戦で迎える事になった。そのままだとあらゆる方向から囲まれる事になるし、逆に散らばられて、逃げられるのも問題だからそれを避けるために依頼を受けた村の周囲に柵を張り巡らせ、堀を作って杭を仕掛けながら、あえて一つの箇所だけゴブリンが通り抜けられるところを作って群れの進行方向を限定しながら誘き寄せて相手をした。雨に雷電竜の唸りがあって、面倒だったよ。隠れ潜みやすく、待ち伏せはやりやすいのは助かったが……」

 

「……お前、もうそろそろゴブリン退治は卒業して良いんじゃねえのか?」

 

「それは俺も同意だよ。こいつ、結構斥候の技能高いし、判断力に思考力も中々……戦士としても頼りになるんだ」

 

 投擲手の話を聞いた槍使いは二十のゴブリンを相手に一人で対応しきる対応力からもっと脅威性の高い依頼をこなした方が良いのではと思い、それには若い戦士の一党も賛同する。

 

 

「戦士としてねぇ……というか、お前予備にしたって武器多いな……どう使うんだよ?」

 

「まあ、普通に斬ったり、刺したり、後は投げたりだな」

 

「投げるって……それなら投擲用のナイフで良いだろ」

 

「あれは大きさの関係上、殺傷力が低いからな、だから、こういったもののほうが殺傷力が高いんだ。それに、重さなんかに慣れれば、投擲して当てるのは難しくない」

 

「それはお前の投擲が並外れているからだよ。本当に何、投げても命中させるんだもんな」

 

 槍使いに言う投擲手に対し、彼の投擲技術の片鱗を知っている若い戦士が突っ込んだ。

 

「まあ、ゴブリン退治を引き受けるのは止めるつもりはないし、それ以外の依頼も受けられるときには受ける……俺は一度、自分の村を滅ぼそうとしたゴブリンの群れを偶々、通りがかってくれた旅人と一緒に全滅させた事があるんだが、それが出来なかったらどうなっていたかを想像するだけで恐ろしいんだ。だから、ゴブリンの脅威に怯える村を放ってはおけない」

 

「そこまで固い決意があるなら、何も言えねぇじゃねえか……でも、偶にはこっちにも付き合えよ。お前の実力を確認したいのは変わらねぇんだからな」

 

「おっと、俺達の事も忘れんなよ」

 

「ああ、勿論だ。ともかく、今日は乾杯しよう」

 

 そうして、冒険者達はそれぞれの冒険を宴をもって讃えるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者には等級が十段階設けられている。

 

 一番上であり、規格外の者でしか辿り着けない『白金』、それより劣るが十分、並び立てる『金』、二つと比べて劣りはするがそれでも十分に優れた実力者の証明である『銀』、そうして後は『銅』、『紅玉』、『翠玉』、『青玉』、『鋼鉄』、『黒曜』、『白磁』という等級となるのだ。

 

 そして、この等級は実績と獲得報酬額、周辺地域への貢献度、人格などで査定される物でつまり、昇級に値するだけのものを積めば昇級するし、逆に降格するだけの失態などをすれば降格する。

 

 そんな等級だが、ロックイーター討伐に参加した冒険者達で特に白磁の者は黒曜に昇級した。

 

 更にロックイーター討伐には参加していないが、ゴブリン退治を通して多くの村を救い、村の滞在の時にはしっかり金を出し、後始末までしっかりとしている投擲手の貢献度と人格、勿論、新人向けのゴブリン退治とはいえしっかりとやり遂げる実績など含めて十分、昇級に値する者に達していた事から彼も昇級し、黒曜等級となった。

 

「昇級できたなんて、やったじゃん。おめでとう」

 

「……まあ、やりたい事をやって結果を出しているなら良い事だ。おめでとう」

 

 牛飼娘からは満面の笑みで祝われ、冒険者というものはどうしても苦手意識を持つ牧場主は複雑な心境ながらもしかし、投擲手がやりたい事をやって、結果を出せているならと祝った。

 

「ありがとう」

 

 そうして今日は豪華な食事で昇級の祝いをする。

 

 しかして投擲手の昇級を祝ったのは牛飼娘と牧場主だけではなく……。

 

 

 

「黒曜等級への昇級、おめでとうございます」

 

「ああ、ありがとう。もっとも普段からゴブリンばっか討伐してる俺が昇級するってのも気は引けるけどな」

 

 夜の時間帯、仕事を終えた受付嬢が紹介した店で彼女と投擲手は食事をする。

 

 投擲手の方から自分がいつもお世話になっている事もあって食事に誘おうとしたのだが、先んじて受付嬢から自分の仕事が終わったら、食事をしないかと言われたのである。

 

「何言ってるんですか……皆が受けるのを嫌がるゴブリン退治を率先して引き受けて解決するだけでなく、村の人たちにも誠心誠意、対応して……そんな貴方が評価されないのは間違っているし、昇級するのは当然の事ですよ」

 

「お褒めいただき、どうも」

 

 苦笑する投擲手に受付嬢は堂々と意見を言った。ともかくそうして二人は食事を楽しみ……。

 

 

 

 

「今回も楽しい食事だった」

 

「それは私もです……それに貴方は本当に優しいですね。こうして、家まで送り届けてくれて」

 

「女性を送り届けるのは男として当然の事だろ」

 

 店から出ると話しつつ、投擲手は受付嬢の側につきながら彼女の自宅まで送り届ける役割を担った。

 

 

 

「なら、これも当然の事ですよ……ん」

 

 受付嬢は笑いかけてきた投擲手に笑みを返すと近づき、彼の顔に両手を添えると深く口づけした。

 

「これからもよろしくお願いします」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 少しして離れると受付嬢は言い、投擲手も言う。

 

 

 

 そうして投擲手は受付嬢の元から去ると、冒険者ギルドに併設されている宿屋で前もって一日、部屋を借りているのでその部屋へと向かったのである。

 

 この日の後、またも自分が好意を抱いている受付嬢と食事……というより、彼女から昇級を祝われた事を悔しがった槍使いは「ちくしょう、お前なんか『ゴブリンスレイヤー』で十分だ。これからはそう呼んでやる」と冒険者の世界で言えば悪名にしかならないような異名をつけた。

 

 

 

「そうか……まぁ、ゴブリンを退治し続けているのは間違いないし、ゴブリンの脅威に怯える村人にとっては頼れる象徴にはなれるだろうし、そうあれるよう励むのも良いかもしれないな。ありがとうな、俺にぴったりな異名をくれて」

 

 投擲手は槍使いからの名付けに納得しつつ、受け入れてしまった。

 

 

 

「……は、はは……な、なんて奴だ。か、勝てねぇ……」

 

「器が、違う、わねぇ……」

 

 槍使いは凄まじい敗北感と共に惨めな気持ちとなりながら、項垂れる中……魔女は敬意を込めて投擲手を評する。

 

 そうして、この日より投擲手の彼は『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれるようになったのであった……。

 

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