『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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孤電の術師編
十二話


 

 朝日が昇ろうという時間帯、牧場の母屋から少し離れた場所に幾つかの藁が積まれた上に古びた兜が置かれていた。そして距離にして二百程離れた場所にいつもの武装姿に加えて背に矢筒、その中に幾本もの矢束、左手に長弓を持ち、右手に矢を持って弓に番えるゴブリンスレイヤーの姿があった。

 

「すう……ふっ!!」

 

 矢を番えた弓の弦を引き絞り、深呼吸しながら引き絞った弦を放せば矢は放たれ、兜の真ん中を貫いた。

 

「良し」

 

 ゴブリンスレイヤーは槍使いと魔女の二人と共に受けた闇人の討伐依頼の報酬と闇人のアジトで獲得した宝、三等分したとはいえ、結構稼げた事で新たに弓と矢を購入したのだ。

 

 元々、姉から弓を手解きしてもらっている事、投擲技術の基本、標的を狙うという能力に優れている事もあって、久しぶりに弓を使ったとはいえ、ゴブリンスレイヤーは直ぐに慣れる事が出来た。

 

 無論、ゴブリンスレイヤーは投擲の方が得意ではあるが、弓は当然ながら投擲よりも遠距離の相手を攻撃する事が出来る。

 

 なにより、冒険者として幾つも戦闘手段を持つのは無駄ではないし、むしろ出来る事があればあるほど、臨機応変に戦況に対応できるのだ。

 

 因みに長弓の他に短弓も購入している。長弓を使っているのは主に練習用であり、少なくとも単独行(ソロ)で使う時は短弓にすると決めていた。

 

 

 

「お見事……投擲も上手いけど、矢も上手いんだ」

 

 朝日が昇っても弓の練習をし、キリが良いと判断したところで止めれば牧場の仕事の関係上、早起きした牛飼娘が拍手をしながら、称賛する。

 

 彼女はゴブリンスレイヤーの練習が終わるまで様子を見ていたのである。

 

「元々、姉さんに習っていたからな。少し錆落としすれば、難しい事じゃない」

 

「うーん、放つ度に兜の真ん中を射抜くのは難しいと思うんだけど」

 

 彼女の言うようにゴブリンスレイヤーは矢を射る度に兜の真ん中を射抜き、いわゆる継ぎ矢をし続けていた。

 

「いや、練習し続ければ難しい事じゃない」

 

「そうなのかなぁ……」

 

 あくまで大した事の無いように言うゴブリンスレイヤーに苦笑しながら、牛飼娘は首を傾げた。

 

 ともかくとして、朝食を済ませたりして今日もゴブリンスレイヤーは牛飼娘の辺境の街への配達の仕事を手伝った後……。

 

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」

 

 冒険者として仕事を果たすべく、冒険者ギルドへと向かった。

 

「おはよう」

 

「はい、おはようございます」

 

 もう大体の冒険者達が依頼板から依頼書を剥がし、それぞれの冒険を果たすべく向かった時間帯にてゴブリンスレイヤーは三つ編みの受付嬢の元へと向かい、挨拶をすれば受付嬢も笑顔で挨拶をした。

 

 

 

「ゴブリン退治の依頼はあるか?」

 

「はい、ありますよ。すみません、いつもいつも」

 

「気にするな、俺はゴブリンスレイヤーだしな。ゴブリン退治を受けなきゃ嘘みたいになっちまう」

 

「……」

 

 苦笑を浮かべるゴブリンスレイヤーに受付嬢は何とも言えない表情を浮かべる。内心では彼に『ゴブリンスレイヤー』の異名を付けた槍使いに対して怒っていた。

 

 それを槍使いに対して出す事は無いが、彼女の槍使いに対する心証はかなり低くなってしまっているのが実情である。

 

 出会った時から気遣って貰ったり、冒険者ギルドとしては悩みの種となるゴブリン退治の依頼を率先的に引き受けて解決し続けている恩人、かつ心惹かれている人物に冒険者としては不名誉な方が大きい異名を付けたのだ。

 

 心証が低くなるのも当然ではあった。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「はい、気をつけて」

 

 背を向けるゴブリンスレイヤーに頭を下げて受付嬢は見送ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 とある場所に苔むした石造りの遺跡があり、天井の隙間から陽の光が差した。

 

 

「GROB……」

 

 一匹のゴブリンが鉄錆の浮いた手槍を持ちながら、不満げに歩いていた。

 

 

 「GROOB!!」

 

 「いぎっ、あ、ぎぃっ、あああっ!!」

 

 広間の方では彼の仲間がこの遺跡を漁りに来た冒険者の女性数人でお楽しみをしている。因みに男も数人いたがそれらはすべて食べていた。

 

 自分もお楽しみはしていたが、女性たちの反応は悪くなっていたのにまた反応が良くなったのは面白い事を新しくやっているのだと思い、見張りを命じられていたゴブリンはサボって混ざる事を決める。

 

 ゴブリンに仲間意識はないし、自分一人が全てという思考なので面倒な事はぜったいにしようとはしないのだ。つまりは勤勉な者は存在しないという事だ。

 

 そして、槍を放り出したゴブリンであったが、そんなゴブリンの頭部が粉砕した。

 

 超速で飛来した瓦礫が炸裂したからである。

 

 

「……」

 

 瓦礫を投擲し、ゴブリンを始末したゴブリンスレイヤーはゴブリンが落とした手槍を拾いながら、松明を床へと転がす。

 

 これから先は灯りは必要無かった。広間の方から灯りが漏れ出しているのだから……。

 

 ゆっくりと慎重に踵から足を下ろし、物音を立てずに這うようにして広間にいるゴブリンたちに気づかれないように進んだ。

 

「あっ、ぎゃああっ!!」

 

「GOROBOGO!!」

 

 そうして、物陰から様子を窺えば女性冒険者の一人に対し、広間の中央で焚かれた火で炙った鉄棒を肌に押し付ける事で悲鳴を上げながら、悶えている彼女の反応をゴブリンたちが楽しんでいた。

 

 その女性も他にも転がされている女性たちも全員、冒険者であったのが信じられない程に尊厳も身体もゴブリンによって蹂躙された事でぼろぼろにされ、濁って光を失った瞳、あるべきものが欠けているもの、うわ言を呟くばかりのものとなっていた。

 

 

 

「……」

 

 ゴブリンによる脅威は確かに世界から大した事は無い。だが、人からすれば、特に女性からすれば一番、性質が悪いだろう。

 

 他の怪物と違ってゴブリンは女性を孕み袋としたり、嗜虐的に甚振る事を愉しむのだから……。

 

 

 

「……」

 

 ゴブリンスレイヤーは兜で隠された中で口から血が出る程に噛み締め、槍を持った右手、何も持っていない左手を握り締めながら、内部で燃え上がる怒りの猛火と共に動き出そうとする体を抑えつけ、袋から石に瓦礫を三つほど出す。

 

 

 

 そして……。

 

 

 

 

「しっ!!」

 

 手槍を逆手に持ち、抱え上げながら四匹の中でゴブリンのリーダーであろう冒険者の認識票を数枚、首にかけているホブゴブリンに投擲。

 

「GRO!!」

 

超速の勢いで飛来した槍はホブゴブリンの側頭部を穿ちながら、千切るように体から離れさせて床に落とす。

 

「ふっ!!」

 

 他のゴブリンたちが反応するより早く、石と瓦礫を投擲。

 

 それは他の場所で女を凌辱する事に夢中になっていたゴブリンの後頭部から炸裂する事で破砕させ、ホブゴブリンの周囲にいた二匹のゴブリンも一匹は胴体を穿たれながら、倒れさせられ、もう一体は頭部を破砕される事で殺されたのであった。

 

 

 

「これ以上はもう、苦しめられる事も傷つけられることも無い。それだけは約束できる」

 

『……っ、ぅ、ひ……く』

 

 ゴブリンに蹂躙された女性冒険者達を集めると自分の荷物にゴブリンの収穫から比較的綺麗な毛布を集めて被せながら、言葉をかけた。

 

 

 

 

 大声で泣きだした冒険者達を背にゴブリンスレイヤーはゴブリンの子供や他に生き残りがいないかを探し、そして死んだ冒険者の認識票が無いかゴブリンの汚物の中に焚き火に使われていた棒を入れて探っていくと……。

 

「指輪……」

 

 魔法の指輪だろう、中で何かが燃え続けている宝石が付いた指輪を発見。ゴブリンの腰布で汚れを吹き、別の布で包んで雑嚢に入れた。

 

 

 

 そうして全てが終わると女性冒険者達を連れて遺跡から出て……。

 

「報酬を受け取ったら、直ぐにまた金を払いに来るから、彼女達に出来る限りの事をしてやってくれ」

 

 

 

「分かりました……貴方は素晴らしい慈悲をお持ちですね」

 

 辺境の街にある地母神を信仰する神殿まで女性冒険者達を連れて介護などの世話を頼み、金貨も幾つか払う。

 

 

 

そんなゴブリンスレイヤーに神官長は敬意を表した態度で言う。

 

「いや、そんな立派な物じゃない。ただ、しなければならない事をしているだけだ」

 

 ゴブリンスレイヤーはそう答えた。

 

これは遺跡でゴブリンの群れを相手に奮戦し、惜しくも敗れてしまったがそれでも大多数だったろうゴブリンの群れをほぼ壊滅させた彼女たちへの敬意なのだと……。

 

「信徒じゃないが、祈るくらいはさせてもらう。正しいやり方は知らないが……」

 

「いえ、貴方の祈りならばどうであれ、地母神様は応えて下さります」

 

「だと嬉しいな」

 

 ゴブリンスレイヤーは礼拝堂へと行き、そうして膝をついて両手を顔の前で組み、瞑目しながら少しでも自分の祈りが届き、ゴブリンに蹂躙された女性冒険者達に地母神から慈悲が与えられるよう深く祈る。

 

 

 

「……」

 

 そんなゴブリンスレイヤーの様子を礼拝堂を通りがかった十歳になるかならないかの幼い金髪の少女であり、 持祭(アコライト)が見つめ……そうして、彼の祈りが届くように祈ったのであった……。 

 

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