『ゴブリンスレイヤー』と呼ばれた投擲手   作:自堕落無力

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十四話

 

 ゴブリンスレイヤーは冒険者として活動する上での戦闘手段を増やすべく、孤電の術師に魔術を教えてもらうべく彼女の弟子となった。

 

 自分が手に入れた指輪を渡す対価として望む通りの金かあるいは望み自体を叶えると言われたので折角の機会を逃さないためである。

 

 すると孤電の術師はゴブリンスレイヤーが冒険者というのもあって、ギルドからそして彼女の恩師筋の頼みとして引き受けた怪物辞典の改訂を手伝う事となり、彼女が担当する事になった怪物のそれは何の因果か『ゴブリン』であった。

 

 そうして、ゴブリンスレイヤーは彼女と共にギルドへと向かい、辺境の農村の村外れに出たという『ゴブリン退治』の依頼を引き受け、二人で移動を開始した。

 

「……」

 

 ゴブリンスレイヤーは道中の休憩中などで孤電の術師がその一つ一つが魔術書の断片だという色とりどりで様々な絵と文が書かれた札を彼女が言う通りに札を束ねては一枚一枚、手にとっては札に書かれた文を読んでいき、色んな陣を組むように配置し、それをまた手元に積み、切ってはまた一枚一枚、札に書かれた文を読んでは配置していく。

 

 これは彼女流の魔術書の読み方なのだとか……ゴブリンスレイヤーは文句の一つ無く、それに没頭する。不思議とどこかの世界に繋がっているような感覚がしたからだ。

 

「ふふ、君は教えを受ける者としては最高だね。近道を教えろだとかそういう事を一切、言わないんだから」

 

「こっちから頼んで教えを受けているのにそんな無礼な事が出来るか、それにどの物事にも結局、近道なんてないだろう。それに着実に進んでいく方が最終的には物事を極める事においては確実だ」

 

「道理だね。それを分かっていない奴の多い事……参るよ」

 

 孤電の術師に促され、休憩を止めて移動を再開すると彼女との会話をする。

 

 ゴブリンスレイヤーの意見に頷きつつ、孤電の術師は溜息を吐き、首を振りながら言った。

 

「他にも弟子がいるのか?」

 

「いや、私の弟子は君だけだよ。ただ、弟子にしてもらえるだろうと勝手に思い込んでる者や何を言わなくても知識を教えてもらえると思っている者を多く見てきたからね」

 

「最低限の礼儀すら知らないとか問題だな」

 

「ああ、だから君は弟子として合格なのさ。ちゃんと頼んでそして、ちゃんと私からの教えに真面目に取り組んでくれるからね。教え甲斐があるというものだよ」

 

「光栄だ」

 

「ふふ、そうやってこっちの機嫌が良くなることを言ってくれるのも良い」

 

 そんな会話を交わし、二人はそうして今回のゴブリン退治を依頼した村の外れにある苔むして土と雑草に覆われた墳墓、塚山とも呼べるゴブリンの巣の前に辿り着いた。

 

 入り口には赤く錆びた槍を持ったゴブリンが一匹歩哨についていた。もっとも欠伸をしていて、まともに励んではいないが……。

 

 

 

 

 

「しっ!!」

 

 ゴブリンスレイヤーは石を投擲し、歩哨のゴブリンの頭部に炸裂させる事で破壊する。

 

「はは、この距離の投擲であれとか……君のそれは凄まじいね」

 

「子供のころから投擲は得意だったから、鍛えた」

 

「室内だろうとどこだろうと先手を取って遠距離から攻撃できるのは良い強みだね。弓と違って両手はふさがらないし」

 

「弓は弓でより遠くの敵を攻撃できるけどな」

 

「何事も一長一短はそうだけどね」

 

 そんな他愛ない話をしながら、ゴブリンスレイヤーは墳墓の入り口前まで近づいていき……。

 

 

 

「で、このままついてくるのか?」

 

「勿論、言ったろ? 生態観察も仕事だって……だから、守ってくれたまえよ」

 

「それは良いが……ただ、ゴブリンは匂いに敏感だ。特に女の匂いには」

 

 今まで受けたゴブリン退治の依頼の中での経験則としての意見をゴブリンスレイヤーは言った。

 

「そういう事なら、ちょっと待っていてくれたまえ」

 

 孤電の術師はローブを脱いでゴブリンスレイヤーへと放って、柔らかな線を浮かび上がらせる臍までの短衣と裾の短い穿き物を露にしながら、腰に差した奇妙に曲がったナイフを抜く。

 

 そして、ゴブリンの死体に一気に振り下ろし醜く太った小腸を切り裂き、内臓を引きずり出すと溢れ出たどす黒く濁った血を両手に掬い、水浴びするように全身へ塗りたくった。

 

「……大胆というか、なんというか。それだけ浴びれば自分の匂いは確かに消えるだろうが……」

 

 ゴブリンスレイヤーは孤電の術師がやった事に何とも言えない反応をした。

 

「同胞の匂いや普段使いの物の匂いってのは気にならない物だからね」

 

 孤電の術師はそう言うとゴブリンスレイヤーからローブを受け取り、彼女は全身の水気を払うように切ってからそれを羽織った。

 

 

 

「お気に入りのローブを汚す訳にはいかないんだ」

 

「十分、汚れると思うが……」

 

「洗う手間ならこっちのほうがましだよ」

 

 ともかく、ゴブリンスレイヤーは雑嚢から松明を取り出し、火打石を叩いて点火、盾を括った左手に握り締める。

 

 

 

 

「闇に乗じて進んだ方が良いんじゃないかい?」

 

「多少は利くようになったが、それでも真っ暗闇の中を見渡せる程じゃない。だが、ゴブリンは夜目が効くから面倒なんだ」

 

 右手には歩哨が持っていた槍を持ちながら移動を始める。

 

 

 

「ちっ、どうやら獣を飼っているようだ」

 

 慎重に周囲を探るとゴブリンの足跡と違うものを見つけたので舌打ちしながら言う。

 

「ゴブリンにそんな知恵があるなんて……五年前の戦で学んだかな?」

 

「学習能力はあるからな……こっちだ」

 

 足跡を探ると幾つか、変な方向にあるのを辿って行き……。

 

 

 

「斥候としても中々だね、君は」

 

「常にどんな異変でも見逃さないように備えているだけだ」

 

 裏口のようなものを発見した。

 

 まず、松明を入り口方面に放る。

 

 

 

「GROOBB!!」

 

直後、数匹の鳴き声と動く物音……。

 

 

 

「はっ!!」

 

 赤錆の槍を投擲する事で一体と偶然、その後ろにいた一匹の頭部を纏めて射抜いて地面に倒す。

 

 

 

「おおっ!!」

 

 そのまま肩帯に吊るしているナイフの一本を抜きながら突撃し、左の盾を鈍器のように振るい、ナイフを振るう事でゴブリンを粉砕、あるいは切り裂いていった。

 

 

 

「血の匂いがこれで漂っているだろうからな、ここで待つ」

 

 裏口となる場所の入り口手前でナイフを鞘に納めながら、袋から石と瓦礫を出して両手に持ち、待機するゴブリンスレイヤー。

 

 

 

『WOON!!』

 

すると狼が唸り声を上げながら、墳墓内を疾走する事でゴブリンスレイヤーに襲い掛かろうとし……。

 

 

 

「せいっ!!」

 

『WO!?』

 

 矢継ぎ早に投擲された石と瓦礫は狼の頭部を破壊して地面に倒す。

 

 

 

「戦士というよりは狩人だね。君の手際は」

 

「父は猟師だった。手解きは姉からだが……だが、まあここからは暴れる方が早そうだ」

 

 孤電の術師の言葉に答えながら松明を左手に拾い、右手には片手剣を持って進み出す。

 

 

 『GROB!!』

 

 狼が知らせたがゆえにゴブリンの群れが姿を現した。

 

 

 

 

「おおっ!!」

 

 まず、ゴブリンスレイヤーは弓使いへと松明を投擲する事でその頭部を燃やしながら粉砕すると共に突撃、左手の盾を鈍器の如く振るい、更に片手剣は鋭く早い刺突の連撃をもってゴブリンの群れを狩り尽くした。

 

 

 

「さて、村人の証言や遺跡入り口の足跡の数を鑑みるにそろそろ打ち止めだと思うけど……」

 

「どうやら、本腰のお出ましのようだ……っ、本当にふざけた奴らだ」

 

 通路を埋め尽くす巨体――その足元、隠れるように動く者がいた。

 

 ホブゴブリンとゴブリンシャーマンである。しかもホブゴブリンは手足をあり得ない方向へ折り曲げられた人形のようになっている女性を盾の如くもっていた。

 

 村娘が攫われた情報は無いので不幸な流れ者、旅人なのだろう。

 

 

 ゴブリンスレイヤーは呟くと片手剣を放り捨て、左腕に括りつけた盾を取り外す動きをする。

 

 降参かとホブゴブリンとゴブリンシャーマンは思って、嘲笑い……。

 

 

 

 

「ふんっ!!」

 

『GROOB!?』

 

 次の瞬間、強烈にして超速の勢いで投擲された盾がホブゴブリンの頭部を破壊しながら、めり込むようにして止まり、地面へと倒した。

 

 

 

「しっ!!」

 

 ゴブリンスレイヤーは続けて驚愕の事態に動きを止めたゴブリンシャーマンに対し、腰帯に吊るしたナイフの一つを素早く左手で抜きながら、投擲する事でその頭部を穿ち抜いた。

 

 

 

 

「本当に惚れ惚れするくらい、鮮やかだなぁ」

 

「もう、大丈夫……大丈夫だ」

 

「ぅ……ぁ……」

 

 孤電の術師が賞賛する中、身も心も傷ついている少女に近づきゴブリンスレイヤーは声をかけてやるのであった……。

 

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