一話
冒険者に憧れていた少年が村を襲撃に来たゴブリンの群れを撃退していると旅人の圃人の老人がその場を通りがかっていて彼の助けもあって、ゴブリンを全滅させる事が出来た。
すると見込みがあると圃人の老人に鍛えてやるから弟子になれと言われ、少年は同意して弟子入りしたのだが、結局のところは常に罵倒されながらぼこすか痛めつけられたり、氷河の如き池の中に手を縛られた状態で投げ込まれたりして、そうした窮地の中で常に打開策を考えさせられるという滅茶苦茶な事をさせられた。
修行というかただ単にその場その場での思い付きで遊ばれたとしか思えない。一応、色々と物事を教えて貰ったり、色んな事を話してもらったりと世話をしてもらったのはある。
気まぐれのようなものであったが……まあ、それでもなんだかんだで面倒を見てもらえたので最低限の感謝はしている。糞爺と内心では思っていたりはするが……。
そうして圃人の老人の弟子になって五年後、『旅に出る』として圃人は少年の元から去った。なので十五歳という四方世界では成人として扱われる年齢になったので夢であった『冒険者』になるため、西の辺境へと向かう。
まずは自分の生まれ故郷で姉を残している『村』へと戻る。
「お帰りなさい、五年も経つと立派になったわね。修業はどうだった?」
「ただいま、姉さん。まあ、大変だったけど良かったよ」
姉に微笑まれながら温かく、出迎えられ話をしながら、他の村人たちにも出迎えられる。
「姉さん、俺は冒険者になるよ」
「そう。貴方の人生なんだから好きにしなさい。ただ、偶には顔を見せてね」
「勿論だよ」
そうして、姉に再度冒険者になる事を伝えると受け入れられる。そして、こういう時のために用意していた金貨が中身いっぱいに詰まった財布を渡される。
「これは流石に……」
「受け取りなさい。今までの誕生日プレゼントを含めてのものなんだから……それに冒険者は金がかかる仕事なんだから。特に最初の時は」
そうして、少年は財布を受け取り、見送られる中で辺境の街にある冒険者ギルドへと向かい始めた。
その道中、同じ目的を持って街へと向かう者達の群れに加わりながら、進んでいき……途中で牧場へと寄り道した。何故ならそこに五年前、伯父の手伝いのために村を旅立ったきり、会っていない幼馴染の少女が働いていると聞いたからだ。
「久しぶりだな、随分と綺麗になったじゃないか」
「ぇ……っ、馬鹿」
外で仕事をしていたすっかり長くなり、体も女性らしく成長していた幼馴染へと話しかけると彼女は戸惑い、少年の姿を見て取ると涙を流しながら少年へと向かっていく。
「急にいなくなるなんて酷いよっ!!」
少年へと抱き着きながら胸に顔を埋めた。
「ああ、そうだな……ごめん。でも冒険者になるために必要だと思ったからな」
少年は謝りながら、幼馴染を抱き締める。
「……ずっと、なりたいって言ってたもんね。それを叶えにいくんだね」
「そうだ、今日から一歩を踏み出しにいくんだ」
「じゃあ、応援してあげる。そのためにこうして牧場で働く事にしたんだから」
「それはありがとう……俺も手伝える時は手伝いに来るよ」
「ありがとう」
お互い、少し離れ合うと見つめ合いながら言葉を交わす。
「随分と遅くなったが、あの時は本当にすまなかった。お前が街に行く時は一緒に行きたかったが、姉さんを残したくなかったっていうのもあったり、羨ましくもあってあんな事を言ってしまったんだ。見送りも申し訳無くて出来なかった……情けなくてごめんな」
「ううん、私だってむきになり過ぎたから……私もひどい事を言ってごめんね」
五年前に喧嘩した時の事を少年と少女は謝り、仲直りをする。
「冒険者ではなく、まともな職業についてほしいものだがな」
牧場主で少女の伯父に挨拶に行くと部屋の中でそう苦言を呈された。
実際問題、冒険者は貴族の三男やらなんやらと悪く言えば立場の低い者たちや正職につかない、つく気のないごろつきやならず者がなる事が多いため、イメージが悪かったりもするのだ。
「伯父さんは軍人として戦に出て、今はこうして牧場主になりましたよね? そういう夢があって、それを叶えた。俺だって冒険者になる夢を叶えたいんですよ。やりたい事をやる権利はある筈です、成人なら……いや、人間なら誰にでも」
「まあ、それはそうだ……じゃあ、こう言おう。姪を泣かせるような事だけはするな」
「はい、もう金輪際彼女を泣かせるような事はしません。誓います」
「えへへ」
そうして、話を済ませると家賃を出し、仕事も手伝うなら牧場の納屋で宿泊しても良いと幼馴染が頼み込んだのもあって牧場主は承諾し、少年も頭を下げて宿泊させてもらう事を頼んだ。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
そうして幼馴染に見送られながら、少年は冒険者ギルドのある辺境の街へと向かい……。
「っていうか、お昼食べた?」
「時間がなくって……」
「良いからもうさっさと食べちゃいなよ。働くにはご飯大事!」
冒険者ギルドに昼近くに到着すると冒険者登録しようと受付で待っていたのだが、長い髪を三つ編みにし、容姿は美しくスタイルの良い受付嬢が、隣にいる長い髪でやはり容姿の優れた受付嬢とそんな話をしていた。
「(似ている……)」
少年は三つ編みの受付嬢の容姿が自分の姉と生き写しとも言えるレベルで似ている事に驚いた。
「あの、どうぞ?」
受付嬢は少年へと呼びかける。
「いや、話は聞いていたけど昼食は食べた方が良い。休憩は大事だからな」
「そうだよ、ありがとうね君……ほら、こう言ってくれてるんだから行った行った」
「えっと、じゃあその……ありがとうございます」
「どういたしまして。それと食事はゆっくり取った方が良い」
「気が利くねぇ、そういう事だからしっかり休憩するんだよ」
「すみません、ありがとうございます」
三つ編みの受付嬢は少年と同僚に勧められた事で頭を下げながら、奥の部屋へと向かっていくのだった。
「じゃあ、こっちで対応してあげるわ……それで用件は?」
「冒険者登録を」
「字の読み書きは?」
「出来る」
そうして、受付嬢は登録のための
「では、これで登録完了よ。認識票は無くさないように」
「分かった」
受付嬢が少年の冒険記録用紙の内容を書き写した新人冒険者の証となる第十位、白磁等級の認識票を渡し、新人冒険者はそれを受け取った。
「うん? ゴブリン退治……」
「ああ、それは……」
昼食を取りに行った受付嬢の席の方から紙が一枚、風によって新人冒険者の元へと滑り寄り、新人冒険者は反射的にそれを手に取ると内容はゴブリン退治の依頼書であった。
「じゃあ、初仕事はこれをやろう」
「いや、ゴブリン退治は
「だが、俺の元に来たってのは神からの試練かもしれない……だから、やってみせる」
「……そこまで言うなら」
そうしてゴブリン退治の依頼についての説明を受付嬢から聞く。
「それじゃあ、頑張って……あの子の事、ありがとうね」
「いや、気にするな」
受付嬢へと返答しつつ、新人冒険者はギルドを去ろうと翻りながら、『姉さんに似てたからな』と小声で呟いた。
「ふーん」
悪戯めいた笑みを受付嬢は浮かべる。ばっちり呟きは聞かれていたのだ。だが、冒険者ギルドを去ろうと歩いている新人冒険者は知る由も無かったが……。
二
冒険者登録を済ませた新人冒険者は工房へと行き……。
「堅い革の鎧と丸い盾、片手剣に兜を頼む」
「……予算はあんのか?」
冒険者になり立ての者は多くが伝説の武器やら魔法の武具やら、強い武器を求めたりする。しかし、今工房に来た新人冒険者は具体的な注文をしたのだ。
「ある。姉さんが餞別に用意してくれたんだ」
「良い姉を持ったな」
「ああ」
中身いっぱいの財布を新人冒険者が出したのでそれに返答しながら動く。
片手剣と両端に角のついたフルフェイスの兜を出しながら、革鎧と盾の方は置き場所を指示して新人冒険者にとらせる。
「……この兜の角は切り落としてくれ、それこの盾は持ち手を外してほしい」
「あいよ」
革鎧を身に着け、腰帯に差している鷲の頭を模した柄頭の短刀と隣り合うように鞘に納められた片手剣を差す。
小振りな丸い盾の腕を通す帯に左腕を通したり、兜を頭に被って具合を確かめると兜は重かったので角を両方、無くすように指示し盾は持ち手が邪魔になると判断したので外してもらうように指示する。
親方は感心したように頷くと新人冒険者の指示に従った。その間に新人冒険者に対し、先に工房にいた同じく冒険者となった若者の男がいて一緒に冒険へ行かないかと誘われたが、ゴブリン退治の依頼に行く事を告げる。
「ゴブリンって……」
「これも仕事だろ、俺は地味な事からコツコツとやるタイプでな……まあ、良ければ今度誘ってくれ」
「ああ、じゃあその時は……」
新人冒険者は若者と話を交わし、先に武具や防具を買っていた若者は新人冒険者の元を去る。
「ほら、出来たぞ」
「ありがとう」
一応、兜と盾の具合を確かめると頷き、礼を言うと必要な分の代金を払う。
「水薬は買えるか?」
「次から受付で買ってくれよ。ま、こっちにもあるけどな」
そうして、
冒険者セットを買う事を勧められたのでそれに応じると……。
「坊主、死ぬなよ。お前は見込みがあるからな」
「どうも」
親方から賛辞を送られ、それに頷くと工房を去るのであった……。